緑黄色社会アルバム「Actor」インタビュー|4人が思い描くハッピーエンドとは

緑黄色社会が新アルバム「Actor」をリリースする。

2020年4月に配信リリース、9月にCDリリースされた前作「SINGALONG」の収録曲「Mela!」が大きな反響を呼び、幅広い層からのポピュラリティを獲得した緑黄色社会。そんな4人が1年9カ月ぶりにリリースするアルバム「Actor」には、「結証」「ずっとずっとずっと」「LITMUS」といったタイアップ曲や、「Mela!」同様4人が作詞および作曲に携わったリード曲「キャラクター」など、バラエティ豊かな14曲が収録される。今回のインタビューでは、前作から「Actor」発売までの1年9カ月を振り返ってもらいつつ、今作に込めた思いをたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 梁瀬玉実

それぞれの1年9カ月

──このたびリリースされるアルバム「Actor」は、前作「SINGALONG」から1年9カ月ぶりのフルアルバムとなります。この1年9カ月は、皆さんにとってどのような期間でしたか?

穴見真吾(B) まず、僕ら史上一番多くの人に届いた「Mela!」という曲が、いろんな景色がある場所に連れて行ってくれた1年9カ月であり、それを塗り替えたいという欲求が生まれた1年9カ月でもあったと思います。その両方の思いが混ざり合っていました。

長屋晴子(Vo, G) 私は、いろんなことがつながったように思えた期間でしたね。伏線回収がちゃんとできた期間だったというか。「Mela!」にしても、これまで作ってきた音楽があるからこそできた曲だと思うし、それが伝わったのも、これまでやってきたことがあったからだと思うし。それに、コロナでライブができない期間があって、そのうえでのライブを経験したことで、より伝えることの意味がわかったし。あと、最近になって明確な結成記念日を設けたんですけど、そこで改めて「やってきてよかったな」と思いました。続けてきた意味を感じたというか。夢が叶う瞬間もたくさんあったし、全部が意味を持つようになった気がします。

peppe(Key) 私はコロナ禍で制限がある暮らしをしたことで、普段以上に喜怒哀楽がハッキリした期間だったなと思います。しかもそれを1人で感じるんじゃなくて、誰かと共有することによって、どんどん感情が濃くなったというか。ファンの人に会えない期間はすごく寂しかったけど、ツアーで会えたときの喜びはそのぶんすごく大きくて。感情の起伏がハッキリしていたし、振り幅が大きかった。そんな1年9カ月だったなと思います。

小林壱誓(G) 僕は、「音楽を好きな人がこんなにたくさんいるんだ」というのを実感した1年9カ月でしたね。例えば、コロナ禍でキャパシティも制限されている中、もし僕がお客さんだったら、この状況でライブに行くという選択を取らなかったかもしれないと思うんですよ。僕らは演者なので、常にライブを人に届けたいという気持ちがあって、だから「少しでも観に来てくれる人がいるなら」という気持ちでライブをするんですけど、お客さんの立場になってみると、この状況でライブに行くという決断をすることは、すごく大変なことだったと思うんです。それでもライブに来てくれるお客さんたちがいて。音楽を愛して、日々の糧にして、生の音楽を聴きたいと思ってくれる人がこんなにもいるんだということに感銘を受けた期間でした。

絶対にみんな「何者か」ではある

──新作の「Actor」というタイトルは、どういった経緯で付けられたんですか?

小林 このタイトルは、長屋が発案したんです。

長屋 アルバムのために曲を並べ始めたときに、やっぱり今までやらせていただいたタイアップの曲がすごく多かったんです。当たり前ですけど、タイアップの曲ってさまざまで。私たちだけじゃできない、いろんなフィルターを通してでき上がった曲たちで、1曲1曲のキャラクターがすごく強いんです。「そういう曲たちをまとめ上げる言葉ってなんだろう」というところから考えていきました。私たち、アルバムのタイトルを決めるのはだいたい最後なんですけど、今回に関しては先にタイトルを決めたんですよね。「いろんなキャラクターがいる」というところから「Actor」という単語が出て、その場で満場一致で決まりました。このタイトルができてから、アルバムにもっといろんなキャラクターを出していくために、残りのパーツを当てはめていくように曲を作っていったんです。あと、このタイトルは今の世の中的にもマッチするタイトルだと思っていて。

──それは、どういった部分で?

長屋 「Actor」という言葉が、「何者にでもなれるよ」という意味合いで伝わってほしいなと思ったんです。もちろん「何者にでもなれる」と言っても、「なんでもいい」というわけじゃないし、ポジティブに捉えてほしいなと思いますけど。絶対にみんな「何者か」ではあるんですよ。自分のことを「しょうもない人間だ」と思っていたとしても、何者でもない人はいないから。

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G)

──1曲目「Actor」は歌詞のない、いわばアルバムのオープニングトラック用の楽曲ですが、前作「SINGALONG」にも、アルバムと同タイトルの扉となる曲がありましたよね。ここにはどういった意図がありますか?

長屋 やっぱり、アルバムはシングルとは違う面を見せたいという気持ちがあるんです。「SINGALONG」も、1曲目に「Actor」があることでよりアルバムとしての意味を成した気がしていて。

小林 「SINGALONG」で、ああいう形でアルバムをまとめるオーバーチュアの完成像が見えていなかったら、今回はこの形になっていなかったと思います。そのくらい、今回のオーバーチュアである「Actor」は、「SINGALONG」の印象を引き継いでいる部分もあって。2020年に「SINAGLONG」というアルバムを出したけど、いまだにお客さんと一緒にシンガロングできていない。心では通じ合っていると思うけど、物理的に声を出すことができているわけではないんですよね。だからこそ、「Actor」にもシンガロングの要素を入れることで、なんだったら「SINGALONG」のときよりも一層、「一緒に歌うぞ」という気迫を伝えられるものになればいいなという思いもありました。

長屋 あと、「Actor」という1曲目があることによって、幕が開いていくようなイメージをアルバムに持たせたいという意図もありましたね。これがあることによって、この先のいろんなキャラクターたちもまた違ったように聞こえればいいなと思って。

1人ひとりが輝けるように

──2曲目のタイトルは、まさに「キャラクター」ですね。クレジットは、作曲がpeppeさんと穴見さん、作詞が長屋さんと小林さん。これは、「Mela!」のときと同じ編成ですよね。

長屋 そうですね。「Mela!」で「楽曲を全員で作る」という挑戦をしたんですけど、それによってこれまでの緑黄色社会になかった曲を作ることができたという手応えがあって。なので、今回のアルバムにも全員で作った曲を1曲は入れたい、という話になって。あと、この曲はできあがる前から「説得力」というテーマがあったんです。というのも、私たちの年齢的にもバンドの年齢的にも、そういうことに向き合いながら曲を作っていく必要があるんじゃないかという話になって。それもあって、制作にかけた時間自体は短いけど、アルバムの中で一番試行錯誤しましたね。作り方は「Mela!」と一緒で、壱誓が大まかなプロットを書いて、それを私が歌詞に起こしていくスタイルだったんですけど、それが「Mela!」のときほどスムーズにいかなかったんですよ。

小林 「Mela!」よりもメロディのリズム感がハッキリしていたから、言葉選びが難しかったんだよね。「本当はここでこういうことを歌いたいのに、ハマらない」という。だからけっこう、僕と長屋でプレゼンし合いながら書きました(笑)。

小林壱誓(G)

小林壱誓(G)

長屋 「ここはこういう意味で書いたんだけど」とか、お互い説明し合って。

小林 「それだと、この部分と辻褄が合わないじゃん」とか(笑)。

長屋 そもそも、最初は全然“Actor感”のない仮タイトルで歌詞を書き始めたんですよ。

小林 「タイムトラベル」みたいなイメージがあったよね。

長屋 そうそう、仮タイトルは「Departure」で、ちょっと“旅感”のある曲にしようかと思っていたんです。でも、それだとありふれたテーマになっちゃうし、自分たちが伝えたいメッセージも出てこなくて。なので、「Actor」というアルバムのテーマに立ち返ってメッセージを膨らませていきました。今は時代的にも「自由になりたい」と思う人が増えていると思うんです。私自身、何事にも縛られず、囚われずに生きていける人がカッコいいと思うし。みんなの素晴らしいところを肯定できるような曲になればいいなと思ったし、それがアルバム全体のメッセージとしても伝わればいいなと思って。「1人ひとりが輝けるように」という思いを込めて、歌詞を書きましたね。