偉くなることがすべてじゃない
──皆さんは、ミュージシャンという生き方を選んだ自分を見つめ直すことはありますか?
長屋 私は「この仕事をしていなかったら何をしていたんだろう」と思うことはたくさんあるんですけど、本当に別の道が思い浮かばないんですよね。もしミュージシャンになれていなかったら、就職して、きっと壱誓の友人のようなことを言っていたかもしれないなって思う。
穴見 俺も今同じこと思ってた。
長屋 そう考えると、「自分はいい選択をしたな」と思えるんですけど……でも、それは今自分が好きなことで生活できているから思えるんですよね。私がこういう話をするのを見て、「簡単に言うけどさ」って思う人もいるかもしれない。頭でわかっていても、実際に動くのは本当に難しいことだから。
──そうですね。
長屋 好きなことって、実際に見つけるにも勇気がいるんですよね。年齢を重ねると特に。私の周りにも今の仕事がつらくて転職を考えている人がいるし、いろんな人を見てきたんですけど……。でも、私が人に伝えたいと思うのは、仕事が続く・続かないとかではなくて、「一生のうちに、好きなことが見つかればいいよね」ということで。私たちの親世代は「ちゃんと仕事を続けなさい」と言ったりもするんですけど、私自身はそうは思えないんですよね。私は好きなことを仕事にできている立場だからこそ、「好きなことが見つかるといいね」と伝えたいと思います。人生ってそういうことがゴールなのかもしれないなって思うんです。長く続けること、出世すること、そういうことももちろん大事だと思うけど、自分の好きなことを見つけることがすごく大事なのかなって。
──その「見つける」ということに、年齢は関係ないと。
長屋 うん、そう思います。
──peppeさんはどうですか?
peppe 私は今ミュージシャンをやっていて、「こんなにマルチにいろんなことを叶えられる職業ってほかにないな」と思えているんですけど、「音楽の道を選ばないと人生終わってしまう!」みたいな感覚があったわけでもなくて。そのときの直感による決断を繰り返してきたなと思うんです、私は。でも、直感で何かを選ぶ、その時点で何かが見えているなっていう感覚もあって。
小林 本能型の武将っていう感じだよね、peppeは(笑)。
──(笑)。
長屋 そもそも、仕事を仕事と思うかどうかというのも難しいところですよね。お金を稼ぐことは悪いことではないし、それが生き甲斐の人もいるし、仕事をするっていうこと自体を楽しめる人もいるし。答えはわからない。ただ、偉くなることがすべてじゃないし、大きい会社に就職することがすべてじゃないなって私は思います。今を生きる人間たちみんなが、“生きる”ということを前提に考えて、“働く”ということに対して、もっといろんな考え方ができてもいいのかなと思う。
──あくまでも“生きる”が前提にあるというのは、意外と見落としてしまう部分でもありますもんね。
長屋 “糊口をしのぐ”ための仕事ではなくて、“生活をする”ためのものとして仕事を選んでいけるようになったらいいですよね。そのために、やりたいことが見つけやすくなればいいなと思うし。わかってはいるけど、周りの目が怖くて行動に移せない人もいると思うから。“フリーター”とか“ニート”っていう言葉も、もっと自由や可能性のある言葉として認知されていいと思うし。そういう部分がもっとクリアになっていけばいいなと思う。
穴見 そうだね。そこに向かうための勇気も大事だと思うし。きっと助けてくれる人もいるから。
「夢」という言葉を押し付けてはいけないな
──シングル3曲目の「これからのこと、それからのこと」は長屋さんの作詞作曲ですけど、聴いたときに、“生きる”ということをもっとシンプルに考えていきたい気持ちを感じたんです。それは、今の労働の話にもつながるのかなと思いました。
長屋 この曲は「SEA BREEZE」さんのCM曲なんですけど、CMのお話をいただく前から、自分の中に原型があった曲で。この曲が生まれた頃は、いろんなものを脱ぎ捨てたかったんだと思います。着飾るのに疲れたというか。特に今は“素”であることが素敵に見えるし、等身大であればあるほど素敵に見える時代だなと思うんです。自分をありのままに表現できている人たちがたくさんいるし、そういう人たちを見ると、私も素敵だなって思う。そういう時代の中でも着飾ってしまう自分に疲れちゃったなっていう時期だったんだと思います。そういうときに「SEA BREEZE」さんからお話をいただいて曲を完成させていったんです。ただ、「SEA BREEZE」ということを考えたときに、ターゲットは高校生くらいの世代の人たちなのかなって思ったんですよね。そういう世代の人たちに向けたメッセージなら、もっと明るい方がいいんじゃないかっていうことを周りから言われたんです。でも、それだと私の中ではしっくりこなくて。というのも、「自分が高校生の頃に何を言われたかっただろう」と考えると、別に明るい言葉だけを求めてはいなかったんですよね。
──わかります。
長屋 高校生っていろいろ悩む時期だと思うんですけど、だからこそ、自分と同じ目線の言葉を聞きたかったなと思う。明るいばかりの言葉をもらっても説得力がないなと。そういうことを思い返して、「このままでいかせてください」って押し切らせてもらいました。なのでサビも、「失うものなんてもうないし」っていう否定的な文章から始まるんですけど。それが結果として前向きなものになっていけばいいなと思って。
──否定的で、でもすごく次につながっていく歌詞ですよね。
長屋 さっき「アーユーレディー」の話で壱誓が言っていたように、今の10代の子たちって、みんな大人だと思うんです。早くからスマホも持っていて、いろんな情報に接してきているから。そう考えたときに、自分の中から素であふれてきているものを伝えられればいいのかなって思いました。
──「流れるだけ流れたらいい どんな自分も受け入れていく 生まれたての私でいればいい」というラインも、ありのままの、素手で人生に触れていくような言葉の連なりですよね。
長屋 願望もあると思います。私はまださらけ出せてはいないし、まだ着飾ってしまっているとも思うので。
──今回のシングルで、「アーユーレディー」で歌われる“夢”の在りようと、「夢だとか大げさに一括りするから 浮かばないことが恥ずかしくなるのです」と歌う「これからのこと、それからのこと」での“夢”の在りようって、ちょっと違うものだと思うんです。でも、そのアプローチが違うものが並んでいるという点でも、リアルなシングルだと思いますね。
長屋 「夢はありますか?」と聞かれると、思っていないことでも、とりあえず答えちゃうことがたくさんあって。夢がないと馬鹿にされてしまうような気もしてしまうんです。でも、夢がないことって普通だと思うんですよね、私は。だから、「夢」という言葉を押し付けてはいけないなと思っているんです。でも、「アーユーレディー」で歌うように、夢があることはとても素晴らしいことでもあると思う。「これからのこと、それからのこと」は……「これ、それ」って私たちは呼んでいるんですけど(笑)、「これ、それ」は、夢がない人に聴いてほしいなって思います。それは全然悪いことじゃないし、それこそ「生きている間に見つけられたらいいんじゃない?」っていうくらいのものだと思うから。だから、私にとってはどっちも正解かなって思う。
小林 うん。「アーユーレディー」と「これ、それ」が歌ってる夢の在り方はそれぞれ違うんだけど、矛盾はしていないんだよね。
- 緑黄色社会(リョクオウショクシャカイ)
- 高校の同級生だった長屋晴子(Vo, G)、小林壱誓(G, Cho)、peppe(Key, Cho)、小林の幼なじみの穴見真吾(B, Cho)によって結成された愛知県出身の4人組バンド。2018年11月にミニアルバム「溢れた水の行方」でメジャーデビュー。2019年11月にはいくえみ綾原作のTBS系ドラマ「G線上のあなたと私」の主題歌として書き下ろした「sabotage」、2020年2月にはテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」第4期文化祭編エンディングテーマ「Shout Baby」を発表した。また同年4月にはフルアルバム「SINGALONG」を配信し、7月に新曲「夏を生きる」を発表。9月に「SINGALONG」をCDリリース。12月には有観客・配信ライブ「SINGALONG tour 2020 -last piece-」を開催した。2021年2月にはテレビアニメ「半妖の夜叉姫」1月クールエンディングテーマ「結証」を表題曲としたシングルをリリース。その後「たとえたとえ」「ずっとずっとずっと」「アーユーレディー」と配信シングルを立て続けに発表し、同年8月にはドラマ「緊急取調室」の主題歌を収録したシングル「LITMUS」をリリースした。