ナタリー PowerPush - ryo(supercell) feat.初音ミク /じん feat.初音ミク

ryo&じんが語る「ボーカロイド論」

初音ミクの声は、カタコト感が最大の魅力

──それだけ以前から使ってきたボーカリストとして改めて考えると、初音ミクの魅力はどこにあると思いますか?

やっぱりその声質にあると思うんです。すごくカタコト感があって(笑)。それがちょっとイケてるふうにも愛嬌にも聞こえるじゃないですか。その感じは、ほかでなかなか手に入れられないんですよね。初音ミクは、そういう意味でほかのボーカロイドに比べても際立ってると思います。唯一無二の特徴を持ったボーカリストだと思うんですけどね。

──ということは、その魅力は「人間に似ている」ことよりも、「人間じゃない」ことだと言ってもいいでしょうか?

インタビュー写真

まあ曲を作るときに、人だとか人じゃないとか気にしてる人はあんまりいないと思うんですよ。聴く側としてはたしかに「人かボカロか」みたいな違いはあるとは思いますけど。でも曲を作るときって、まずメロディを作るじゃないですか。作り方は人によると思うんですけど、ピアノで弾くとか、打ち込みするとか、あるいは自分で鼻歌を歌うとか、その選択肢のひとつとしてボーカロイドがあるんですよ。ただ、最初にメロディを入力したときのものが、そのまま最終形までいくっていうだけのことなんです。

──なるほど。でもたとえば生ボーカルの場合は、ボーカロイドと違って歌唱指導をしたりするわけじゃないですか。

いや、自分はそれがないんですよね。「すげーいいっす」とか、そんな感じで(笑)。

──そうですか(笑)。ということはボーカロイドのほうが、自分でパラメーターを細かくいじったりするぶん、手間がかかるということですか?

というか、いわば初音ミクが、イコール自分の歌唱力になるんですよ。自分自身が、メロディの節回しとかフェイクのラインのパターンをいろいろ知ってないと入力できないんです。節回しがダウンビートで全部バーンと押すようなメロディを作る人は、「あああんまり洋楽とか聴いてないんだな」とか(笑)。なんかエラそうですみません。でも歌のうまい人って、放っておくと節回しがどんどんおしりに付くんです。それを知っていれば、例えば2音しかないメロディラインでも5音ぐらいに変わるはずなんです。

──なるほど。ちなみに「Project DIVA」用に曲を作るときは、supercellや楽曲提供の活動と、曲作りの感覚が違いますか?

あんまり変わらないですね。曲作りの上では、別にsupercell用とかミク用とかじゃなく、全部「新しい曲」っていう感覚で作るんですよ。ただ、ミク用に作るときは「超いい曲を作ろう」というよりは、自分が楽しく作れるかどうかみたいな意識のほうが強いかもしれないですね。特に今回の曲に関しては、すごく自分にとっての楽しさが強いかもしれないですね。

更新されていく初音ミクの技法

──実際の作業としてではどうでしょうか。たとえばsupercellの1stアルバムでやったときと比べて、自分自身の初音ミクの使い方は変わりましたか?

それもあんまり変わらないです。ただ、最近のボーカロイド曲はすごくレベルが高くなっているので、打ち込みのやり方はやっぱり超勉強しましたね(笑)。例えば164さんは、歌の感じとかがめちゃめちゃうまいんですよ。「どうやってるんだろう?」と思ってブログを見たらやり方が載ってて「おお、すげー!」「こうやったら、こうなるんだ!」みたいな。もう本当にただの素人、初心者かってくらい(笑)。あとは、人間を使うやり方ですよね。実際人に歌ってもらって、ブレスと頭の、たとえば「かきくけこ」とかの「K」の発音の部分だけ人の音を使うという。

──え! そんなことやってるんですか?

やってます。「さ」の「S」とかもそうですけど、人を使って子音の部分を差し替えるんですよ。そうすると自然に聞こえるし、リバーブの乗りが良くなったりするんです。あとは語尾にもやりますね。歌い終わりの部分って、息がちょっとシュッと出るんですけど、そういうところもうまくフェードを書いて、人間のブレスと差し替えてます。ただ、やり過ぎるとそれはそれで違和感を感じるんですよね。だから1回作って2、3日寝かしてからもう1回聴いて、やり過ぎのところは元に直したりして。そういう手法は、2年前のシングルからやらせてもらっているんですが、今回は特にそれを強化したというか。IA(2012年に発売された、ボーカロイド3エンジン用の音声ライブラリ。最近は人気が高い)に対抗するわけじゃないですけど、初音ミクはエンジンがボーカロイド2なんで、うまくやるための手法ということで。

──初音ミク以外の、IAなどのボーカロイドを使って曲を作りたいと思うことはありますか?

こないだIAと結月ゆかり(IAと同じボーカロイド3用の音声ライブラリ)を買ったんですよ。結月ゆかりは喋りがすごくリアルなんですよね。だから何か喋らせつつ歌を歌わせつつっていうのをやりたいなあと思っていたりします。あと最近は、喋らせた上で1回Auto-Tuneをかけて平坦にして、それをHarmony Engineっていうソフトで鍵盤に当ててボコーダーみたいに音程をつけるのをやってみたりしたいなと。そうするとジェイムス・ブレイクみたいで、ちょっといい感じになる(笑)。そういうのもやってみたいなと思っていますね。IAとか、ボーカロイド3エンジンのものは素の状態で打ち込みもしやすくなっていますし成立しやすい感があります。

ニューシングル「ODDS & ENDS / Sky of Beginning」/ 2012年8月29日発売 / Sony Music Direct

CD収録曲
  1. ODDS & ENDS
  2. Sky of Beginning
  3. ODDS & ENDS(Instrumental)
  4. Sky of Beginning(Instrumental)
初回限定盤A・B 特典ディスク収録内容
  1. ODDS & ENDS(Music Video)
  2. Sky of Beginning(Music Video~Edit Version)
プレゼント情報

シングル「ODDS & ENDS / Sky of Beginning」、ゲーム「初音ミク -Project DIVA- f」のダブル購入者の応募特典として、「初音ミク -Project DIVA- f / ODDS & ENDS」スペシャルカードを応募者の中から抽選で1万名にプレゼント!

ryo(りょう)

クリエイターユニット、supercellの中心人物として活躍するコンポーザー。2007年秋よりニコニコ動画にて初音ミクを使った楽曲の投稿を開始し、同年12月に発表したオリジナル曲「メルト」が約300万再生を超える人気ナンバーとなり一挙に注目を集める。このニコニコ動画での活動を通じて2008年にsupercellを結成。2009年3月にはアルバム「supercell」でメジャーデビューを果たす。supercellとしての活動のほか中川翔子、らっぷびと、KOTOKO、ClariSらへの楽曲提供やテレビアニメ「ギルティクラウン」劇中に登場するアーティストEGOISTのプロデュース、BOOM BOOM SATELLITESのリミックスアルバムへの参加など、さまざまな方面で精力的な活動を展開している。