ナタリー PowerPush - ryo(supercell) feat.初音ミク /じん feat.初音ミク
ryo&じんが語る「ボーカロイド論」
今年はボーカロイド「初音ミク」が誕生してから5周年。各種イベントや関連商品が目白押しになっている。今やコンビニの棚にすら初音ミクのイラストが描かれた商品が並び、ボーカロイドは音楽シーン全体にとって無視できない規模になりつつある。そんな中supercellのryoは、2007年にニコニコ動画やボーカロイドシーンから登場し、まさに初音ミクと併走するようにしながら音楽活動を続けて人気を拡大してきた。その彼が初音ミク5周年にあたって、セガのゲーム「初音ミク- Project DIVA-」シリーズのテーマソングとして生み出した新曲は、まさに「ボーカロイドで曲を作ること」の意味を問い直す、実に真摯で胸を打つ内容だ。彼は今、ボーカロイドや初音ミクに何を思うのか。その胸の内を語ってもらった。
取材・文 / さやわか
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初めてじんさんの曲を聴いて、単純にファンになった
──今回のシングル収録曲「ODDS & ENDS」はゲーム「初音ミク -Project DIVA-」シリーズのテーマソングとしては3作目です。そもそも、過去2作のシングルはどういう経緯で担当したんですか?
最初は「主題歌みたいな感じの曲を」って言われたんです。それで当時、自分の作る曲調があんまりふざけてないのが多かったというか、ちょっと真面目に作ってたみたいなものが多かったので、もう脳天気に楽しい明るい曲を作ろうと思って、ちょっとロックンロールな感じの、ライブとかでやっても踊れて楽しそうな曲を作りました。それが1作目の「こっち向いてBaby」ですね。そして、その次の年に作らせていただいたのが「積乱雲グラフィティ」です。この当時はバンド系の曲がボカロシーンを席巻してて、4つ打ちの曲がそれに比べてあんまりなかったので、だったら自分は4つ打ちやったらいいんじゃないのかなって思って、やってみました(笑)。でもせっかくだからということで、R&B系が得意なDixieさんと一緒に作っていったという感じですね。
──なるほど。そして今回ですが、スプリットシングルとして、じんさんの楽曲が一緒に収録されることになりましたね。
元々、じんさんは好きだったんですよ。 基本はギターのリフからバーッと入ってきて、予想外な感じでサビが入ってくるみたいな一連の流れがすごい。アグレッシブなインディーロックみたいな印象があって。
──ロック的というか、ハードコアな部分がありますよね。
そうそうそう。そういうものを作る人って、バンドをやる場合が多いと思うんですよ。でもじんさんのおかげで、そういうものをボカロで聴ける。すごくいいなあって思ってます。しかもこれを1人でやってるんですよね。作詞能力の高さとか、ストーリー性とかも含めて、初めて聴いたとき単純に、もう普通にファンになってしまいました。それで、今回お願いしてみたんです。やってくれることになって「マジっすか!」って、すごくうれしかったですね。実際、曲もすごく良かったです。
自分たちは、作りたいものを作っててここまで来ただけ
──では次にryoさん自身の曲「ODDS & ENDS」ですが、これはどういう方向性で作られたのでしょうか?
過去の2曲はゲームで使う制限上、「3分半以内の曲でお願いします」って言われてたんです。でも、今回は依頼が来た瞬間に「3分半、超えてもいいですか?」とお願いしました。そういう意味では、ゲーム用というよりは自分の作りたいように作りましたね。3分半だとやっぱり歌詞がそんなに書けないので。それなりの量を書きたかったんですよ。
──ということは、歌詞のメッセージ性を大事にした曲だということですね。内容的にはかなりストレートに「ボーカロイドを使って曲を作る」こと自体を歌ったものになっています。ryoさんの作る曲では結構珍しいと思うのですが、なぜこういう内容にしたのですか?
最近、ニコ動でボーカロイドを使っていた人たちがどんどんCDデビューしたりして、すごく人気になってるんですよね。昨日も「ボカロP音楽界を席巻」みたいな新聞記事がありましたし(笑)。ただそうやって世に出ていった人たちは、一方で「ボカロを踏み台にしてメジャーになった」みたいなことも言われるんですよ。でも実際そんなドライな気持ちを持ってボカロに関わったりはしてないんですけどね。みんな、ちゃんと音楽が好きで、ボカロが好きで、キャラクターが好きで、真剣なんです。だけどそれをうまく口で説明できなかったりして、説明不足によってファンと齟齬が起きることもある。そうやってメジャーになった人たちでも、それに悩んでしまったり、葛藤することもあるんです。そういうことを曲にしようと思ったんです。
──かなりシリアスにボーカロイドシーンについて考えた曲ですよね。そういうメッセージを伝えるのにいい時期だと思ったのですか?
そうですね。ちょうどこの曲を作るタイミングで、livetuneのkzさんが久しぶりに新曲を切るっていうので、聴いてみたらその曲がすごく良かったんです。それを聴いてて昔の雰囲気を思い出したんですね。初音ミクとかボーカロイドは文化としてそれなりに成熟した感じもありますし、社会からもさんざんいろんなことを言われてきましたけど、だけどそういうことじゃなくて、単に自分らは作りたいものを作っててここまで来ただけなんですよ。そういうことをkzさんは曲で提示してて、だから自分も自分なりに提示しようと思ったんです。それが結果として初音ミク5周年と同じタイミングで、多分区切りが良かったんでしょうね。自分としてもボカロPでデビューさせていただいてから結構経ちましたし。5年も経てば、さすがにいろいろ言えることもあるんですよ(笑)。例えば昔はこういう「私は存在しないけど、みんなの歌姫だよ」みたいな悲哀を歌うボーカロイドの曲はすごく多かったですよね。だけど自分はその頃、こういう曲は作らなかったし作れなかったんですよ。それもやっぱり、時間が経ったからできるんでしょうね。
ニューシングル「ODDS & ENDS / Sky of Beginning」/ 2012年8月29日発売 / Sony Music Direct
CD収録曲
- ODDS & ENDS
- Sky of Beginning
- ODDS & ENDS(Instrumental)
- Sky of Beginning(Instrumental)
初回限定盤A・B 特典ディスク収録内容
- ODDS & ENDS(Music Video)
- Sky of Beginning(Music Video~Edit Version)
プレゼント情報
シングル「ODDS & ENDS / Sky of Beginning」、ゲーム「初音ミク -Project DIVA- f」のダブル購入者の応募特典として、「初音ミク -Project DIVA- f / ODDS & ENDS」スペシャルカードを応募者の中から抽選で1万名にプレゼント!
ryo(りょう)
クリエイターユニット、supercellの中心人物として活躍するコンポーザー。2007年秋よりニコニコ動画にて初音ミクを使った楽曲の投稿を開始し、同年12月に発表したオリジナル曲「メルト」が約300万再生を超える人気ナンバーとなり一挙に注目を集める。このニコニコ動画での活動を通じて2008年にsupercellを結成。2009年3月にはアルバム「supercell」でメジャーデビューを果たす。supercellとしての活動のほか中川翔子、らっぷびと、KOTOKO、ClariSらへの楽曲提供やテレビアニメ「ギルティクラウン」劇中に登場するアーティストEGOISTのプロデュース、BOOM BOOM SATELLITESのリミックスアルバムへの参加など、さまざまな方面で精力的な活動を展開している。