自分らしくいてほしいな
──11月にリリースした「東京少女」は、もともと高校生のときに「20歳の自分」をテーマで書いたものだったそうですね。
本当は「青春日記」を出した頃に、「東京少女」を出す予定だったんですよ。チームとしても「『東京少女』でいこう」という感じでミックスまでやってたんですけど、あのタイミングでは「青春日記」を出したほうがいいと思ったんです。高校時代の等身大の日記だったので。今度は20歳になったタイミングで「東京少女」の番っていうことで、再アレンジして出すことにしたんです。
──どういう部分が変わってるんですか?
2番以降ですね。「ああこのままではダメじゃなくて このままで良いと言おう」のところは歌詞を書き換えました。
──そこはさっきのスランプの話にも通じる歌詞ですね。
そう、自分に言い聞かせているんです。あとはほぼ18歳の頃に書いたままですね。
──リュクソの歌詞は“少女”が主人公になることが多いのも特徴ですね。
普段僕らの曲に出てくる少女は人物像がはっきりとあることが多いんですけど、「東京少女」の少女は匿名性を意識しました。人っていうよりも概念的、将来の自分というか。最後に「僕は東京少女さ」とか「君に会えるかな」と歌ってるんですけど、それも将来の自分に歌ってるイメージなんです。「“東京少女”という概念が誰にでもあてはまるように」という思いも込めています。
──松本さんは東京出身ですか?
はい。
──この曲で、あえて東京という具体的な地名を出したのは何か意味がありますか?
東京って、一般的なイメージの故郷とはちょっと違うというか。せわしいですし、人が多いから1人の時間があんまりない。それに、東京という文字だけで連想するものがあるんじゃないかってくらい強い言葉ですよね。上京してきた人たちからすると東京のせわしなさに滅入っちゃったり、不安になったりすることもあるんですけど、「自分らしくいてほしいな」という思いを込めたいなと思ったんです。
「home」で見せるリュクソの二面性
──「くだらないまま」も「東京少女」もそうですけど、「neo neo」以降にリリースされたリュックと添い寝ごはんの曲は研ぎ澄まされていて、どんどん本質的になっているように感じるんですね。そのあたりのことで考えていたことはありますか?
ああ、本質的になってきているのは自分でも感じるんですよ。透明だった自分たちに色が付いてきたというか。それは、「リュックと添い寝ごはんってこういうバンドだよね」というのではなく、透明なまま……なんて言うんだろう、ちょっと言葉にするのが難しいんですけど。
──リュクソは高校生のときから注目されてきたバンドだし、透明であるとか、10代であるとか、青春性みたいなものが求められるところもあったと思うんです。そういう中で自分たちの本質は変わらないまま新しい色を見つけようとしていた、という感じですか?
自分たちの中にある二面性を出していきたいというのは考えていました。「青春日記」みたいな疾走感のあるロックな曲だけじゃなくて、「home」みたいなポップな曲もあるという二面性を意識的に出していきたい。それは「くだらないまま」の制作あたりから思うようになっていて。「東京少女」は自分たちが求められる「青春日記」のような楽曲に近いと思うんですけど、次に「home」みたいな楽曲をリリースすることで、リュックと添い寝ごはんというバンドの輪郭がはっきりとしてきたというか。自分たちは何者でどういうバンドなのか、今までぼんやりしていたけど、徐々に鮮明になってきた、そんな感じがしています。
──サウンドの二面性を打ち出しているけど、根っこにある本質的なものは変わらないというか。それがくっきりと浮上してきたんでしょうね。
ああ、確かに。根底にあったものが浮き上がってきた感じはありますね。
「おかえり」と言いたかった
──最新シングル「home」は鈴の音とかクリスマスソングっぽいサウンドを取り入れていて、また新しいリュクソの曲になったのかなと思います。
自分の中で安心できる温かい曲というか、「おかえり」と言える曲を作りたかったんですよ。僕は幼いときにそういう曲を聴いて安心したんです。今でもそういう曲を聴くと、実家にいるみたいな温かい気持ちになるので。そういう曲を作ってみたかったんです。
──幼いときに聴いていた温かい曲というのは、どういうものだったんですか?
羊毛とおはなさんの「ピカピカ」という曲があるんです。姉が羊毛とおはなさんのファンで、僕も小学生のときに聴いてたんですよ。それが自分の中で安心できる温かい曲の最初の思い出かも。僕が「home」を書いているときにイメージしたのは、母との幼稚園からの帰り道でした。家まで20分くらいなんですけど、母と手をつなぎながら商店街とかを歩いて帰っていて。「home」の最後のほうで「今日の話を聞かせて」と歌ってるんですけど、これは母がいつも僕に言っていた言葉なんですよ。そのときの5時のチャイムと夕焼けの色、母の手の感覚が今でも思い出として残ってるんです。
──松本さんは温かい家庭で育ってきたんですね。
ははは、そうですね(笑)。思春期で「ただいま」と素直に言えない時期もあったんですけど、こういうことも歌だから表現できるんです。
──この曲は「忘れ難き故郷 僕が僕であるために」というフレーズが肝かなと思いました。帰る場所があることで自分を強くなるというか、自分のアイデンティティになるということですよね。
そうですね。やっぱりふるさとは自分が自分であるため必要な場所だと思うんです。これは「東京少女」ともつながるんですけど、せわしない時間を過ごす中で、自分が自分でいるためにふるさとに帰っていく。さっき東京は「故郷っぽくない」と言いましたけど、僕の好きな積水ハウスのCMの歌に「都会の空でもふるさと」という歌詞があって。その曲がすごく沁みたんですよ。そういう意味で僕にとっての“忘れ難き故郷”は、やっぱり東京なんですよね。
生活に寄り添う音楽を
──曲作りは、どんなふうに進めていったんですか?
今年の3月くらいに合宿して作りました。メンバーにも「おかえり」というテーマで作りたいと伝えて、最初はタイトルも「おかえり」だったんです。だから2人とも「おかえり」という言葉が持つ温かみを意識して演奏してくれたのかなと思いますね。ヒデはベースのトーンや丸み具合を意識してくれて、Bメロの「うたた寝をして 夢かうつつか」のところはエレキコントラバスを弾いてるので太いふくよかな音になっています。宮さんにも「ハイハットの使い方を意識してほしい」と伝えたら、今までのリュクソにはなかったドラムを叩いてくれて。
──クリスマスっぽい雰囲気にしたのはあとからだったんですか?
終盤ですね。メロディにクリスマスの雰囲気があったので、じゃあ寄せてみようかって。この曲自体が秋冬のことを歌っているので、外は寒いけど、体の中はポカポカするような曲にしたかったんです。「home」を聴いた人の帰り道が華やかになってほしいし、帰りの電車でこの曲を聴くのが楽しみって思ってもらえたらいいですよね。「home」で暖をとってほしいな(笑)。
──音楽が生活に寄り添うものであってほしいという思いは、松本さんの中で一貫していますよね。
そうですね。自分が音楽で大事にしているのはこういうことかなと思います。
──青春、東京、故郷と、結果的に今年リリースした楽曲はそれぞれ強いテーマを持った楽曲になったんじゃないかなと思います。振り返ってご自身ではどう感じていますか?
こういう曲をこれからも作っていきたいなと思いました。今年はあんまり数多くは出せなかったんですけど、自分が納得できない曲は出したくないというのもあったんです。その中で「くだらないまま」「東京少女」「home」の3作は、すべて胸を張って届けられる仕上がりになったと思います。この1年は本当にいろいろな節目があったんですよ。20歳になったし。そういう中でこの3曲を出せてよかったし、意味のある1年だったと思いますね。
プロフィール
リュックと添い寝ごはん(リュックトソイネゴハン)
2017年11月に結成された、松本ユウ(Vo, G)、堂免英敬(B)、宮澤あかり(Dr)からなる3ピースバンド。インディーズアーティストの音楽配信サイト「Eggs」の再生アーティストランキングで1位を獲得し、ロッキング・オンが主催するオーディション「RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」では優勝アーティストに選出されるなど注目を浴びる。2020年3月に初の全国流通盤となる1stミニアルバム「青春日記」をタワーレコード限定でリリース。12月にSPEEDSTAR RECORDSから1stアルバム「neo neo」を発表し、メジャーデビューを果たした。2021年は「くだらないまま」「東京少女」「home」の3作をリリースした。
リュックと添い寝ごはん (@sleeping_rices) | Twitter