日本語での言葉遊びの究極形を目指して
──「BULLET」のあとに公開された楽曲が「ワンダーランドインアリス」です。
奏音69 「ワンダーランドインアリス」はRoyal Scandalの“Episode12”に当たる曲です。「12」はトランプで言うところのクイーン。Royal Scandalにとって12=クイーンはかなり重要な意味を持つ数字なので、この曲はけっこう前から12番目に公開することを決めていました。
──この曲は歌詞の書かれ方がかなり特殊であることに加えて、映像を観て初めてわかる要素もたくさんありますよね。どのように楽曲とMVを作り上げていきましたか?
奏音69 ストーリーのプロットはすべて私が書いているんですが、この曲のプロットは力が入りすぎてとんでもない文字量になってしまって。論文のようなプロットをRAHWIAに読んでもらうところから始まっていて。
RAHWIA プロットが送られてきて「また始まったな」と思いました(笑)。
奏音69 描いてもらいたいものはたくさんありますが、MVというのは基本的に楽曲の尺に合わせて作るものなので、この情報量は入らないんじゃないか……と思っていましたが、そこを見事にRAHWIAが形にしてくれて。luzにも難しいことをお願いしてしまったし。
luz 最初にデモを聴いたときは、本当に歌えるのか不安でした。パズルのような構成で、曲の完成形が見えなくて、どう歌うのが正解なのかも探り探りだったので。
奏音69 この曲に関しては私のわがままに付き合ってもらったような感覚があるので、2人は感謝しかないですね。
──歌詞カードに書かれている歌詞はかなり特殊なルールに基づいて書かれていますよね。
奏音69 ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」には、英語であるから意味がわかる、英語だから成立している言葉遊びがたくさんあって。日本語訳だと本当の意味では楽しめない作品なんですよね。私はそれが悔しいと感じていたので、日本語ベースの言葉遊びの究極形を目指して「ワンダーランドインアリス」の歌詞を作っています。英訳すると本来の表現が消えてしまうし、そもそも日本語として読むだけでも何通りもの解釈がある。「不思議の国のアリス」には自分の常識を疑うようなことがたくさん出てくる。そこから私が学び取ったのは、常識に囚われてしまうのはもったいないということ。上から下に読まないといけないとか、左から右に読まないといけないとか、そういうルールすら撤廃して、表現はすべて自由であるということを、この曲では表現しようとしています。アルバムのブックレットにはテキストだけじゃわからない要素を補足しているので、動画で歌詞を読み込んだファンにはブックレットにも向き合ってほしいですね。
カジノ要素という“スパイス”
──アルバムにはインスト曲「Casinojack」が収録されています。インスト曲を挟むのもこれまでのRoyal Scandalにはなかったことですよね。
奏音69 “チャレンジの1枚”なので、どういう曲を作ってもいいかなと思いまして(笑)。luzというボーカルを立てている以上、動画でRoyal Scandalの新曲としてインストを発表することが難しくて。アルバムだったらインストというアプローチもアリだよなと気付き、今回入れてみました。インストと言ってはいますが、実際にはluzのボーカルが入っているし、記号ではありますがブックレットに一応歌詞も載せていて。実はこの記号にもちゃんと意味があるんですよ。
──luzさんが歌っているのは「レイズ」や「コール」といったポーカーの用語ですよね。
奏音69 はい。トランプや賭けごとはRoyal Scandalの世界観にマッチしていると考えていましたが、これまで意外とテーマに設定したことがなくて。トランプがよく出てくるのに、それをカジノにまで落とし込んだことがなかったので、今回はカジノ要素という“スパイス”をアルバムにまぶしてみました。
──前回のインタビューでRAHWIAさんが「『チェリーハント』の頃はどちらかというとロサンゼルスのカジノをイメージしたビジュアル」と話していて。
RAHWIA はい。まだRoyal Scandalというユニットが存在していないときに、私とluzさんと奏音69さんがコラボした「チェリーハント」は、ロスのカジノをモチーフにしていました。
奏音69 確かにそうでしたね。その頃はまだユニットが結成されていなかったから、MVの制作に深く携わっていなかったんですよ。もっと言えばluzが歌う前にボカロ曲として発表した「チェリーハント」のMVにはけっこうカジノの要素を強めに入れていて、Royal Scandalの発足前から私の音楽性にはカジノを彷彿とさせる要素が強かったのかもしれないですね。それが巡り巡って、今回のアルバムコンセプトになった。なんだか感慨深いです。
──収録曲のうち「PLAY」もRoyal Scandalにとって挑戦の1曲ですよね。このようなluzさんと奏音69さんのデュエット曲はこれまで存在しなかったので。
奏音69 私がボーカルをすべきかどうか、けっこう迷ったんですよ。
luz 奏音69さんには「Royal Scandalのボーカルはluz」というこだわりがあって、なかなかこういう曲が生まれてこなくて。でもライブでは奏音69さんがゲストボーカルとして歌うひと幕もあったので、アルバムだったらデュエット曲があってもよくないかな?と思い、提案してみました。
奏音69 luzに言われたのはもちろん、アレンジをお願いしている岸(利至)さんにも「デュエットやらないの?」と言われたんですよね。2人が言ってくれるならやらせていただきたいなと思い、作ったのが「PLAY」です。luzのソロツアーを観させてもらって、彼のボーカリストとしての力量が上がっているのがわかっていたので、自分が肩を並べて歌うことにはプレッシャーを感じていました。それに、今思うと「BULLET」や「ワンダーランドインアリス」に比べたら難しくなくて、無意識のうちに置きにいってしまったのかも……。
luz なるほど(笑)。でも「難しい」の受け取り方の違いというか、奏音69さんはジャジーな曲が得意だから裏拍でリズムを取る曲が多くて。僕はロック調の曲が体に染み付いているから、裏拍でリズムを取ったり、スウィングさせて歌ったりするのが難しくて、この曲はそういう方面で苦労した曲でもあります。奏音69さんにとっては難しくなかったかもしれないけど、僕にとってはけっこう苦労した曲ですね。
奏音69 知らず知らずのうちにluzを私の得意な曲に巻き込んだ曲だったんですね。今さら気付きました(笑)。
映画を見終わったときのような余韻
──アルバムの最後を飾る楽曲「魔法」は、これまでのRoyal Scandalとはちょっと視点が異なる楽曲ですよね。メタ的な視点が入っているというか、明確に物語を俯瞰して見ている語り手が存在していることが示唆されています。
奏音69 なるほど。この語り手は“あるキャラクター”ですが、その素性は今のところは謎のままにしておきましょう。ファンタジーと現実の境界線について、ここ最近考えることが多くて。「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるように、現実で起こっていることのほうが残酷だし、説明のできない不思議なこともある。Royal Scandalで描かれていることはもちろんファンタジーですが、その枠組みの中で現実感とファンタジーの境目が描けないか挑戦したのがこの楽曲です。そこに「魔法」というタイトルを付けたのは私なりの皮肉でもあります。
luz Royal Scandalとしては「光」以来のバラード曲ですね。Royal Scandalっぽくない楽曲ではありますが、アルバムの最後に置くことで美しさが際立っているような気がして。単発の動画で表現するのではなくて、アルバムの中でこそ存在感を発揮する楽曲だと感じました。アルバムだけではなくて、ライブでもきっといい響きを持った曲になると思います。今はまだ自由に声出しできないかもしれないけど、奏音69さんがシンガロングするお客さんの姿を思い浮かべながら書いたであろう部分もあって、いろんな思いを込めて僕もレコーディングに臨みました。
奏音69 目指したのは映画を観終わったときのような余韻を残すこと。エンドロールの最後に黒背景に白い文字が浮かび上がって映画の最後を告げるような、少し寂しさを感じさせる空気感を表現したくて、アルバムの最後にバラード調の曲を置いてみました。
2ndアルバムは“決意の表れ”
──アルバム発売後には全国ツアーが控えています。どんなツアーになりそうですか?
奏音69 実を言うと、本来今回のアルバムはミニアルバムとしてリリースするつもりで、それを携えてツアーを回る予定だったんですよ。でも楽曲を作っているうちにミニアルバムだと物足りない気がしてきて。
luz 僕らにとって節目の作品になる感覚は早いうちからあって、奏音69さんも「ここまで本気で作った作品をミニアルバムと言いたくない」という気持ちになったみたいで。曲を書くのは奏音69さんの役割なので、急なスケジュールの中で曲数をグッと増やしてくれて、無事フルアルバムとして完成させることができました。
奏音69 ミニアルバムだと“1.5章”みたいに見えてしまう懸念があって。それってリスナーとしてもわかりにくいじゃないですか。「新章開幕」と謳うからにはと思って、ちょっとがんばってアルバムにまで持っていきました(笑)。
──前回のツアーと同じく、ツアーの最後は奏音69さんの地元である北海道で開催されるんですね。
奏音69 冬の北海道なので、遠くから来る方は本当に気を付けていらっしゃってほしいです。私としてはここ数年地元に帰れてなかったので、本当に楽しみなツアーですね。北海道の寒さを味わうのもひさしぶりなので、そこはちょっと不安です。
──最後にRoyal Scandalの今後の展望について聞かせてください。
luz これまでのRoyal Scandalは、各自のソロ活動が中心にあって、タイミングが合えば楽曲を発表する、みたいなイメージだったと思いますが、ここから先は僕ら3人でちゃんとRoyal Scandalとして定期的に動いていこうと思っています。その決意の表れが今回の2ndアルバムなので。
奏音69 そのためにRoyal ScandalのYouTube公式チェンネルも作りましたし、最近はTikTokでもMVの一部を公開したり、ユニットだからこそ届けられることを模索しているところです。最近はRAHWIAに描いてもらっているキャラクターに焦点を当てたアプローチを考えていて、動画なのかイラストなのか、キャラクターコンテンツとしても展開させたいですね。
──それこそ、アルバムのQUEEN盤にはRAHWIAさんが各キャラクターを描いた画集が付属するわけですし。
luz 画集、めっちゃよかった。
RAHWIA ありがとうございます。Royal Scandalの作品は音楽であり、動画であり、さらにイラストでもあるので、私は私なりのやり方でもっとキャラクターの魅力を伝えたいと思っています。
奏音69 謎解きイベントでは声優の斉藤壮馬さんに参加してもらって、斉藤さんを入り口にRoyal Scandalのことを知ってくれた人もいるんですよ。まだまだいろんな見せ方ができるコンテンツだと思うので、もっとRoyal Scandalを世の中に広げられるように新たな表現を模索していきたいですね。
ライブ情報
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
- 2022年12月23日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
OPEN 17:30 / START 18:30 - 2022年12月24日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
OPEN 17:00 / START 18:00 - 2022年12月26日(月)愛知県 Zepp Nagoya
OPEN 17:00 / START 18:00 - 2022年12月28日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
[昼の部]OPEN 13:30 / START 14:30
[夜の部]OPEN 17:30 / START 18:30 - 2023年1月5日(木)宮城県 SENDAI GIGS
OPEN 17:00 / START 18:00 - 2023年1月7日(土)北海道 Zepp Sapporo
OPEN 17:00 / START 18:00
プロフィール
Royal Scandal(ロイヤルスキャンダル)
luz、奏音69、RAHWIAの3人によるクリエイターユニット。2014年に奏音69の楽曲「チェリーハント」をluzがカバーし、そのミュージックビデオをRAHWIAが手がけたことをきっかけに結成された。童話をモチーフにした世界観を軸にした音楽と映像によるシリーズ作品が注目を集め、2018年11月には彼ら楽曲を原案とした舞台「LIVE THEATER『Royal Scandal~秘恋の歌姫[ディーヴァ]~』」が上演された。2019年12月に1stアルバム「Q&A -Queen and Alice-」を発表。2022年12月には2ndアルバム「777 -Three Seven-」をリリースし、12月から2023年1月にかけて全国ツアー「Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-」を開催する。
Royal Scandal Official Website
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