音楽ナタリー PowerPush - SHEENA & THE ROKKETS
ロックンロールを愛し続けた家族の35年間
「今の瞬間すごくいい!」を録音したのが今回のアルバム
──シナロケを結成した当時、35年続くバンドになると思ってました?
そうね、続けることが目標ではなかったけど。いずれにしろロックは続けると思ってた。The Rolling Stonesのビル・ワイマンが80年代に来日したとき、「ベストヒットUSA」という番組で同じ質問を受けて、「クラシックの音楽家はみんな90歳になっても演奏してるのに、なんで僕らはそういうこと聞かれるんだろう」って答えたんです。ロックにとって「若者のための反逆的で反抗的な音楽」というのは大切な要素だけど、だからといって年をとって続けられんわけがない。
──新しいアルバムを聴くと、それはよくわかります。すごくロックでした。
何がロックなのかは自分の問題だからね。今回のアルバムの「電撃BOP」で菊さんも「飼いならされて標本だらけ」って歌詞を書いてくれてるけど、今の世の中はみんな自分をどっかのパターンに当てはめんと生きていけんぐらい自信がなくなってる。ホントは好かんのにほかの人と仲良くするために趣味を合わせるとか、話題を揃えるために観たくもない流行りのテレビドラマを観るとか。そんなものはね、ロック聴きよった人たちにはとても無駄なことやと思う。
──確かに。
違う人間が同じパターンの人生を送って、誰かが経験したことが共有されて、そんなんばっかりの世界でみんな萎えてしまってるんじゃないかと思う。そういう人が聴くと、僕らの「ROKKET RIDE」はエンディングにビックリするかもしらんね。間違い続けながら最後にバンって終わる、こんな曲があっていいのかっちゅうげな。
──ロックはそれでいいんですね。
うん。正解を一生懸命練って見せるものじゃない。自分が気持ちいい音をせーので鳴らして、どんどん息が合ってきて、「うわ、今の瞬間すごくいい!」っていう、その瞬間をレコードにしたのが今回のアルバムなんですよ。
自分の曲が好きなアーティストの曲にそっくりなのは誇らしいこと
──アルバム「ROKKET RIDE」にはそういうロックの初期衝動みたいなものを強く感じましたし、RamonesやNew York Dollsなどをオマージュした楽曲があったりして、全体的に原点回帰というイメージをすごく感じました。
うん、ありがとう。オマージュに関しては、1曲目からRamonesに捧げてるからね。「ジョーイありがとう」っちゅうて。俺たちは好きなアーティストの遺伝子を100%ピュアに受け継いでいるつもりなので、似てくるのはしょうがないと思ってる。「コードなんて借りもんだ」くらい開き直ってるし。だから「これはRamonesみたいになったね。じゃあ違う感じにしよう」とはとてもやないけど思えない。誇らしいし、うれしい。
──ああ、なるほど。
その考え方が嫌いな人もすごいたくさんいると思うよ。でも俺たちはそれが好きなんだからしょうがない。誰も止められん。そもそもロックのルーツであるブルースは上の世代から受け継いだメロディに、自分の経験や思いを言葉にして加える音楽だから。それがダメってことになったら自分らがやりたいことと違ってくる。
──とはいっても、シナロケの音楽には一聴してわかる強いオリジナリティがありますからね。
うん。僕のギターの音は世界中で僕しか出せんし、シーナの歌声はシーナにしか出せない。
──「太陽のバカンス」はGSのオマージュですけど、皆さんの音楽的なルーツにGSもあったんですか?
そうそう。特にテンプターズが好きでね。タイガーズも、スパイダーズも、日本のGSっちゅうのは超リスペクトしとる。菊さんがこの詞を書いてきたときに、「燃え盛る炎の中はダンスの季節」っていうフレーズが昭和歌謡みたいなレトロさで、「GSっぽい曲を作ったらどうかな、みんなびっくりするよね」って思ってコードを付けてみたわけ。そしたら頭の中ぐるぐる回り始めて、この曲がすごく好きになって。ホントにいいチャレンジやったと思う。
──それを考えると、柴山さんが書いた歌詞の影響で、今回のアルバムがこういう内容になったというのもありそうですね。「電撃BOP」ってタイトルでRamones風の曲にならないわけがない(笑)。
「電撃BOP」もそうだけど、「Baby Love」もタイトルだけやったらThe Supremesの曲かと思うよね。菊さんはそういうイタズラが好きなの。ちなみに「Baby Love」はジョニー・サンダースの「So Alone」っていうアルバムを思い浮かべながら、The Animalsのエリック・バードンだったらこれをどう歌うやろうかって想像しながら作った。「素敵な仲間」はNew York Dollsだし、イメージの使い回し、コードの使い回しっちゅうのはすごいたくさんあるね。
阿久悠さんに書いてもらった詞で、1曲だけどうしても作れなかった
──ラストの「ロックンロールの夜」は今は亡き阿久悠さんの未発表の詞に曲を付けたものですね。シナロケは1994年のアルバム「ROCK ON BABY」も阿久悠さんと共作していますが、今回はどういう経緯でこの曲が作られたんですか?
92年にロンドンで憧れのウィルコ・ジョンソンと一緒にレコーディングをしたときに「願い続けたら夢は叶うんだ」って思って、「次のターゲットは阿久悠さんや」って、すぐにシーナと2人で会いに行ったんですよ。八代亜紀さんがテレビで歌ってるの観て、阿久悠さんの詞がホントに素晴らしいと思った。映画やったら2時間観らんと終わらんもんを3分で描ききるし。時代背景を入れ込みつつ、日本人にしか表現できん感性を美しい言葉で綴ってた。
──演歌や歌謡曲のイメージが強いので、シナロケとアルバムを作ったのはちょっと意外な感じもしました。
でも、阿久悠さんがロックを好きでないはずがない、きっと僕らの音楽に耳を貸してくれる、って思っとったんです。で、ビクターレコードを通じて彼に会わせてもらったら、ものすごくうれしそうな顔をして雑談してくれて。「阿久さんが僕らを見て感じたもんを書いてください。俺らはその言葉を得意なロックで歌います」ってお願いしたら、4~5日後に、歌詞が書かれたとんでもない量の紙がFAXから出てきて、部屋中でとぐろを巻いてたんですよ。僕はそれを読みながら巻物みたいにぐるぐる巻いて、作りたての神棚にお供えしました。阿久悠さんは「ROCK ON BABY」を作ったあともすぐに次の詞を送ってくれて、その歌詞で細野さんと一緒に「NOBODY LOVES ME」って曲を作って次のアルバムにも入れました。で、阿久さんは2007年に亡くなってしまったんですけど、どうしても作れん曲がまだ1曲あって。
──あー、それが「ロックンロールの夜」なんですね。
俺はけっこう「ここにサビがあって、ソロが来て、また1番を繰り返してリフレインで終わる」みたいな自分の型に合わせて曲を作るんですよ。好きなことやるのがロックやと思うし、小細工なんかしとうないからね。でも、この詞は言葉の配置がすごく幾何学的なんです。阿久さんはあえてパターンを壊した詞を書いたんですね。だから、面白いんだけどどうやって音楽にしようってすごく悩んだ。なかなか手ごわくて、何年もずっと「あー、今日もできんやった」って頭ん中から離れなかったね。あるときジョン・リー・フッカーみたいにブギーを弾きながらブルースマンっぽく即興の詞で歌ったら「あー、俺が一番やりたいことってこれやったな」って思って、それで1コードのブギーで「ロックンロールの夜」を作ったわけです。
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- ニューアルバム「ROKKET RIDE」 / 2014年7月23日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- ニューアルバム「ROKKET RIDE」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / VIZL-697
- 通常盤 [CD] / 3024円 / VICL-64191
CD収録曲
- ROKKET RIDE
- Ride the Lightning
- 太陽のバカンス
- Baby Love
- ROCK FOX
- 電撃BOP
- Madness City
- I'm So Glad
- 夢にしか出てこない街
- 素敵な仲間
- 風を味方に
- ロックンロールの夜
初回限定盤DVD収録内容
初となるレコーディング・ドキュメントが収録される他、2014年5月2日鮎川誠生誕66年祭ライブ「GOLDEN66」から厳選された最新のライブ映像も収録予定。
- 鮎川誠ソロアルバムBOX「AYUKAWA SIZE」 / 2014年7月23日発売 / SPEEDSTAR RECORDS / [CD3枚組+DVD] 6518円 / VIZL-704
- 鮎川誠ソロアルバムBOX「AYUKAWA SIZE」
パッケージ内容
- 「LONDON SESSION#1」
- 「LONDON SESSION#2」
- 「ROKKET SIZE」
- 限定DVD
SHEENA & THE ROKKETS「シーナ&ロケッツ 35th ANNIVERSARY“ROKKET RIDE TOUR @野音”」
- 2014年9月13日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
SHEENA & THE ROKKETS(シーナアンドザロケッツ)
元サンハウスの鮎川誠(G, Vo)が妻のシーナ(Vo)とともに結成したバンド。1978年10月にシングル「涙のハイウェイ」でデビュー。その後、YMOのメンバーの協力のもと、1979年10月に2ndアルバム「真空パック」をリリースし、その後も「ユー・メイ・ドリーム」「ピンナップ・ベイビー・ブルース」など数々の名曲を発表する。デビューから30年以上が経った現在も、シーナのパワフルでコケティッシュなボーカルと鮎川誠の熱いギターパフォーマンスは、多くのファンの支持を集めている。現在は鮎川、シーナ、奈良敏博(B)、川嶋一秀(Dr)の4人で活動中。2014年7月に6年ぶりのニューアルバム「ROKKET RIDE」をリリースし、同年9月には21年ぶりの日比谷野外大音楽堂ワンマンライブを予定している。