平井大が語る「ロケットマン」|本当の自分を見つけるまでの物語

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小西康陽インタビュー
平井大インタビュー

音楽を作るときはみんな孤独

平井大

──平井大さんは子供の頃から、お父さんが好きだった洋楽を聴いて育ったそうですね。エルトン・ジョンの楽曲も聴かれていたのでしょうか。

子供の頃はまだ聴いていなかったです。当時はアメリカの音楽が多かったんですよね。ブルースとかカントリーとか。自然と音楽に囲まれて暮らしていました。

──少年時代のエルトンは両親の理解を得られない中で音楽にのめり込んでいきますが、平井さんのご両親は理解があったんですね、

そうですね。でも音楽を作るときはみんな孤独ですから、自分自身との対話が大切になってくる。そういう意味で「ロケットマン」を観て共感できる部分はたくさんありました。例えば音楽を作るときに「こういう曲を書かないと売れない」とか、固定概念を押し付けてくる人たちが、この業界にはたくさんいるんです。

──エルトンはレコード会社と契約するときに「曲が暗い」とか「派手な格好をしろ」とか、いろいろと言われていましたね。

そういう意見に折れると、どんどん自分を見失ってしまうんです。僕もデビューした頃は周りの意見がすごく気になってしまって。レーベルとかマネージャーの意見が絶対だと思い込んでいたんです。

映画「ロケットマン」より

──エルトンと同じような苦しみを感じていたんですね。どうやってそこから抜け出すことができたんですか?

今のパートナーに出会ったことが大きかったですね。音楽に向き合うときも、ステージに立つときも、常に素直でいることの重要性を彼女から学んだんです。その出会いが僕の音楽人生最大の転機でした。

──エルトンには、バーニー・トーピンという作詞家のパートナーがいました。映画ではバーニーとの関係が重要なものとして描かれていましたが、2人の関係をどう思われました?

彼らの場合、仲がよくても利害関係があるので、エルトンさんも100%心を許すことはできなかったんじゃないかな。エルトンさんには、ずっと甘えられるパートナーがいなかった。本当の自分でいられるような環境がなかったんじゃないでしょうか。たぶんそれは彼がLGBTだというところが大きかったと思います。当時は多様性を認める時代ではなかったし、エルトンさんはすごくつらかったと思いますね。それでドラッグやアルコールに逃げたんじゃないでしょうか。

──そういうエルトンの心の葛藤が映画から伝わってきますね。

特に「ロケットマン」を歌うシーンでは、エルトンさんの葛藤や悩みがすごく伝わってきました。実は僕、ミュージカルが好きじゃないんですよ。普通に演技をしているのに、突然歌い出したりするとシラけてしまって。

映画「ロケットマン」より

──この映画は大丈夫でしたか?

この映画では、エルトンさんが頭の中で考えていることがミュージカルシーンになっていて、現実ではなくファンタジーみたいに描かれているじゃないですか。だから全然違和感を感じませんでした。それに音楽と映像がマッチしていて、ミュージックビデオみたいな感じだったのもよかったです。ミュージカルに対して壁を作ってしまっているような僕みたいな人間でも、自然に物語に入っていける作品だと思いました。

──楽しんでいただけたようでよかったです。今回すべての歌のパートを主演のタロン・エガートンが歌っていることも話題の1つです。タロンの歌声についてはどんな印象を持ちましたか?

すごくよかったと思います。味がありますし、歌い方のニュアンスをエルトンさんに近付けていましたよね。歌とピアノを5カ月間練習されたみたいですが、その成果が現れていると思いました。歌だけではなく、ピアノを弾いているシーンもよかった。手の使い方とか体の支え方とかもすごくリアルで、ほんとにキーボーディストに見えました。そういう普通の人だとわからないようなところも入念に演出されていることで、作品のクオリティが高くなっているんでしょうね。

愛を追求するのが人生の目標

──平井さんはエルトンの「愛を感じて」(映画「ライオン・キング」の主題歌)をカバーされていますが、この曲を選ばれたのはどうしてですか?

小さい頃から「ライオン・キング」が好きだったからです。カバーして感じたのですが、エルトンさんはみんなが好きなメロディやコード進行を作るのがすごくうまい。複雑な曲のほうがカッコいいと思われがちですが、僕はあまりそういう曲は好きじゃなくて、生活に自然になじむような曲のほうが好きなんです。だからエルトンさんの曲はとても親しみが持てました。

映画「ロケットマン」より

──ミュージシャンとして通じ合うものがあるんですね。今回、映画をご覧になって、エルトンの音楽人生については、どんな感想を持ちましたか?

仕事を続けていると、自分がどんな音楽がやりたかったのか、どんどんわからなくなってくるんです。エルトンさんが自分を見失っていく感覚や、その葛藤にすごく共感できましたね。そういう感覚って、誰もが感じていることだと思うんですよ。自分の気持ちを素直に口にできずに、周りに流されてしまう。そうしている内に、どんどん苦しくなっていくんです。そういうときは、1回立ち止まって周りを見渡して、今自分が誰を愛して誰に愛されているかを見直す時間が必要なんです。これまで僕はそういうことをテーマにして歌を作ってきました。

──この映画のテーマも「愛」でしたね。

人それぞれに求めている愛の形は違いますが、愛を追求するのが人生の目標なんじゃないかと思います。エルトンさんの場合は、本当に自分を愛してくれる人を探すのが人生の目的だったんでしょうね。人って愛を表現するのが下手で、本当は愛を求めているのに強がって大丈夫なふりをしてしまう。愛は人生で一番重要なものであると同時に、一番厄介で難しいものなんです。

映画「ロケットマン」より

──「ロケットマン」は愛の大切さや難しさが描かれていた作品でもありましたね。では最後に、これから映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。

この映画は本当の自分を見つけるまでの物語だと思うので、まずは子供みたいに素直な気持ちで観てもらいたいですね。それで気に入ったら、2回目は自分が興味を持ったところを発見していくといいかもしれません。例えば音楽だったり、ファッションだったり。

──いろんな要素が詰まった作品ですよね。

そうですね。エルトンさんの衣装もファンタジックだし、パフォーマンスも面白いし、映画の演出も凝ってたし、壮大なライブを観ているような感覚で楽しめました。僕があんなすごい衣装を着ることはないと思いますけどね(笑)。

平井大
「ロケットマン」
2019年8月23日(金)全国公開
ストーリー

家に寄りつかない厳格な父親と、子供に無関心な母親の間で孤独を感じて育った少年レジナルド・ドワイト。彼は天才的な音楽センスを見出され、国立音楽院に入学する。寂しさを紛らわすかのようにロックに傾倒していくレジナルドは、自らを「エルトン・ジョン」と改名し、ミュージシャンを夢見るように。レコード会社の広告で出会ったバーニー・トーピンの詩に惚れ込んだエルトンは、バーニーの歌詞に曲を付ける共作活動を始める。2人が生んだ楽曲「Your Song」でデビューが決まり、LAの伝説的なライブハウス「トルバドール」でのパフォーマンスをきっかけに一気にスターダムへと駆け上がるエルトン。しかし真に求める愛情を得られないまま日々プレッシャーにさらされる彼は、次第に依存や過剰摂取に陥り、心身共に追い詰められていく。

スタッフ

監督:デクスター・フレッチャー

脚本:リー・ホール

製作総指揮:エルトン・ジョン / クローディア・ヴォーン / ブライアン・オリヴァー / スティーブ・ハミルトン・ショウ / マイケル・グレイシー

配給:東和ピクチャーズ

キャスト

エルトン・ジョン:タロン・エガートン

バーニー・トーピン:ジェイミー・ベル

ジョン・リード:リチャード・マッデン

アイヴィー:ジェマ・ジョーンズ

シーラ・フェアブラザー:ブライス・ダラス・ハワード

ディック・ジェイムス:ステファン・グラハム

ダグ・ウェストン:テイト・ドノヴァン

レイ・ウィリアムズ:チャーリー・ロウ

ロケットマン オリジナル・サウンドトラック
2019年8月7日発売 / UNIVERSAL MUSIC
ロケットマン オリジナル・サウンドトラック

[CD] 2700円
UICR-1146

Amazon.co.jp

収録曲
  1. あばずれさんのお帰り(イントロダクション)
  2. アイ・ウォント・ラヴ
  3. 土曜の夜は僕の生きがい
  4. サンキュー・フォー・オール・ユア・ラヴィング
  5. 人生の壁
  6. ロックン・ロール・マドンナ(インタールード)
  7. ユア・ソング(僕の歌は君の歌)
  8. 過ぎし日のアモリーナ
  9. クロコダイル・ロック
  10. 可愛いダンサー(マキシンに捧ぐ)
  11. パイロットにつれていって
  12. ハーキュリーズ(ヘラクレス)
  13. 恋のデュエット(インタールード)
  14. ホンキー・キャット
  15. ピンボールの魔術師(インタールード)
  16. ロケット・マン
  17. ベニーとジェッツ(やつらの演奏は最高)(インタールード)
  18. 僕の瞳に小さな太陽
  19. 悲しみのバラード
  20. グッバイ・イエロー・ブリック・ロード
  21. アイム・スティル・スタンディング
  22. (アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン
  23. 僕の瞳に小さな太陽(タロン・オンリー・ヴァージョン)※日本盤ボーナストラック
  24. ブレイキン・ダウン・ザ・ウォールズ・オブ・ハートエイク ※日本盤ボーナストラック
平井大「THE GIFT」
2019年7月31日発売 / avex trax
平井大「THE GIFT」初回限定盤

CD+DVD盤
4860円 / AVCD-96314/B

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平井大「THE GIFT」通常盤

CD盤
3000円 / AVCD-96315

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CD収録曲
  1. Beautiful Journey
  2. Tokyo Love in the Air
  3. me+you
  4. THE GIFT
  5. SUN DAY
  6. Seize the Sky
  7. Road to You
  8. To Say Goodbye

ボーナストラック

  1. FAMILY SONG -Live at Makuhari Messe Event Hall Dec. 15, 2018-
  2. Summer Queen -Live at Makuhari Messe Event Hall Dec. 15, 2018-
DVD収録曲

HIRAIDAI Concert Tour 2018 WAVE on WAVES at Makuhari Messe Event Hall Special Cut

  1. Kiss Me Baby
  2. A Good Day
  3. 祈り花
  4. Slow & Easy
  5. Perfect
  6. Can't Help Falling In Love
  7. FAMILY SONG
  8. Story of Our Life
  9. Life is Beautiful
  10. Three Two, One
  11. MyLove
  12. Life Song
  13. BEAUTIFUL LANE
  14. Summer Queen
  15. THE GIFT
  16. はじまりの歌
平井大(ヒライダイ)
平井大
1991年5月3日東京都生まれのシガーソングライター。3歳のときに祖母からもらったウクレレがきっかけで音楽に興味を持つ。2011年にオリジナル楽曲「ONE LOVE ~Pacific Harmony~」がイベント「ホノルルフェスティバル」の公式イメージソングに採用され、注目を集める。2011年5月にデビューミニアルバム「OHANA」を発表。2013年にはミニアルバム「Dream」でメジャーデビューを果たし、翌2014年にメジャー移籍後初のフルアルバム「ALOOOOHANA!!」をリリース。また同年6月にはディズニーのカバーアルバム第1弾「ディズニー・アイランド・ミュージック」、2017年11月には第2弾「HIRAIDAI plays DISNEY」を発表した。2019年2月には映画「映画ドラえもん のび太の月面探査記」の主題歌となった「THE GIFT」をシングルリリース。7月には同曲を収録したオリジナルアルバム「THE GIFT」を発売する。

2019年8月22日更新