音楽ナタリー Power Push - RIP SLYME
10thアルバムに見るリップの現在形
SUの推し曲
「メトロポリス」
SU 「メトロポリス」かな、今は。
RYO-Z ずっとそうじゃないですか。
SU ううん、転々としてる。「時のひとひら」のときもあったし、「Vibeman」もあったし。
ILMARI けっこう都会的なの好きなんだね、SUさんって。
SU うん。それって「コイツ田舎者のくせに」が頭に付いてるように聞こえるんだけど!?
PES あはは(笑)。
RYO-Z SUさんはずっとこの曲がシングル候補だって言ってたよね。
SU そうそう。
──え、ホントですか! 「メトロポリス」は曲の輪郭をつかむのが難しいなと感じたので意外です。
PES 俺らもつかめなかったですよ。
ILMARI うん。
──視点がコロコロ変わる上、対の意見が交互に来るというわけでもないので、この曲の構造やメッセージを理解するのに時間がかかりました。
PES この曲、うしろシティの上京をテーマにしたコントがもとになってるんで、2人組なんですよね、視点が。上京してひと旗上げるみたいなこと言ってる人がいて、もう1人が「止めないけど、気を付けてね」っていう。
RYO-Z ていうか「気を付けてね」と言いつつ「現実に気付かないでね」って。むしろ「そのまんまいって! 冷めないで! 熱いままいってください!」っていう。すごい角度からの応援歌みたいになってる。
PES はははは(笑)。
RYO-Z 一応、応援してるんですよ(笑)。角度的にすごく尖った方向から。
PES だからそりゃあ混乱しますよ。俺だって書いてるとき、難しいなーと思って。
RYO-Z この曲で僕は、能動的に演じるっていうことを初めてしました。役に入って架空のキャラクターを演じてるんです。野望を抱いて上京し、新宿の区役所通りに佇むホストっていう設定でラップしてるわけですよ。だからフックに「オイッ! オイッ!」っていうシャンパンコールみたいなPESくんの合いの手が入ってるんですけど。
PES ちょっとシリアスな表現になってるところがまた癖があって。一聴すると真面目っぽい曲に思えるんだけど……。
RYO-Z そうそう。すごく難しい曲になってますね。
SU とは言え、昔はホントにこう思ってたところがあるんじゃないかって。
──え、自分も「大都会でサバイブしてやるぞ」と思っていたってことですか?
SU 「夢は夢のままの方がいい」のとこですね。ここがなんともね……うん。ふざけて言ってるとは思えない俺たち。……だからわかんないですこの曲。本当はなんて答えればいいか。
ILMARIの推し曲
「Happy Hour」
ILMARI 最後まで作って「Happy Hour」がいいなと思った。日常のすごくちょっとしたことを切り取ってる感じがいいですよね。
──居酒屋でよくやっている早い時間の割引サービス=ハッピーアワーを題材にしたポップチューンですね。
ILMARI 落ちる夕陽を眺めながら17時ぐらいに飲む1杯。“Happy Hour”なんですよそれこそ。俺のバースで「子どもにゃ早い」って言ってるんですけど、俺とRYO-Zくんの行ったハッピーアワーの店には若い子は少なくて、おじさん、おばさん、いろんな人がいて。こんなところでこんなゆったり時間を使ってる人が世の中にいたんだなって新発見だったんですよね。
──等身大の自分たちの幸せな時間が描かれてるんですね。
ILMARI そうですね。
RYO-Z ハッピーアワーに飲むのは、この制作期間の僕の日課でしたから。
ILMARI でも、SUさんのバースはテイストが変わって昔を思い出してるみたいな歌詞じゃないですか。
──ハッピーアワーを“幸せな時間”と直訳して、「最近君とすれ違う時間が増えた あの時のハッピーアワー 全て水の泡?」と。
ILMARI それはそれで、あそこにそういう人もいるんだなって思うんです。みんながハッピーな気持ちで飲んでるばかりじゃなくて、感傷的になってる人もいるっていう。そんな曲なんじゃないかな。
RYO-Z いいと思います。
いしわたり淳治プロデュースで学んだこと
──私からも1曲挙げて質問させてください。「気持ちいい for Men」はいしわたり淳治さんが詞のプロデュースで参加されていますが、制作を共にしたことで学んだことはありますか?
PES 真面目さ。
RYO-Z・ILMARI・SU うん。
ILMARI ちゃんと曲としての整合性とかストーリーとか、意味がちゃんと通ってるかをものすごい考えていて。
RYO-Z 丁寧だよね。
──「いしわたり淳治のプロフェッショナル作詞講座」という講義を開催するくらい、詞の作り方にはメソッドを持ってる方ですからね。
RYO-Z 俺とかSUさんのバースは歌詞がしりとりになってるんですよ。
ILMARI そのしりとり、ものすごい時間かけてみんなで考えたの。
RYO-Z しりとりはできるんだけど、言葉に対してのいしわたりくんのジャッジがあってね。「もっとこうじゃない? ああじゃない?」っていろいろ言ってきて、それに俺たちが応える、試行錯誤がすごかったよね。あんなに8バースに時間かけたことはない。
ILMARI すごかった。いろいろダメだったのに、SUさんのときに「突起」って言ったらOKだったんだよね。
RYO-Z はははは(笑)。「うなじ、女教師、素人、突起、KISS…」のところね。
SU 「面白い!(笑)」ってね。
ILMARI タイトルは「全然違う言葉をくっつけたい」っていしわたりくんが言って。最初は「東京タワー洗濯機」だっけ? なんか全然違う言葉をくっつけるのが面白いって。
RYO-Z 「その言葉と言葉の間にドラマができる」とかね。
ILMARI みんなで紙に単語を1個ずつ書いて、「せーの」で合わせていって。その中で一番面白かったのが「気持ちいい」と「for Men」だったんです。あれはいしわたりくんならではの方法でしたね。
そんなに上目指さなくていいんだなって
──前回のアルバムリリース時のインタビューで(参照:RIP SLYME「GOLDEN TIME」特集)、皆さんが年齢を重ねていくにつれて楽曲のスタイルや活動の仕方は変わってくるのかという質問に、PESさんは「RIP SLYMEのライブに行かないと観られない、RIP SLYMEのアルバムでないと聴けないものを、これからは自分たちで把握してやっていかなきゃいけないと思う」と答えていましたね。あれから2年弱経って、今のグループのあり方はどうですか?
PES この「10」も、それを探る一環ではありましたね。今までだったら周りから意見をもらっても、時間もないし「僕らでやります」ってなっちゃってたり、「わかりました!」って答えてやらなかったりしたところを、まあ時間もあったし、Namiやいしわたりさんや在日ファンク、いろんな方と曲を作ってみたり、詞を書いてもらったり。そうやってみてるのも、僕にとってはRIP SLYMEをいろんな方向から見るための1つの実験と言いますか。
──なるほど。
PES それでできた今回のアルバムを聴いてみても、ちゃんとRIP SLYMEっぽさはあるし、「なんか違うものができちゃったな」とはまったく思わないんです。ってことはRIP SLYMEって内から出てきてるもの、あんまりないのかな(笑)。俺たちのキャラクターを世の中に伝えたい!みたいな気持ちって1ミリもないんだなと思って。
──逆に言うと、だから多種多様なタイアップの依頼が舞い込み、それにちゃんと対応できてるのかもしれないですね。
ILMARI 5人いるからね。ちゃんとした調和っていうのは絶対に取れないですよ。だからスタンスとしてはやっぱり“なんでも来い”なんじゃない?
PES あとまあ、1人ひとりが実力をもっと磨いていくみたいなことは正直諦めました。
──ええ(苦笑)。
PES それはもうそれぞれに任すしかないなと。気が向いたときに、やる気になったときにお手伝いできればっていうことで。だってほかの人に携わってもらったとしてもRIP SLYMEの色って出るから、そんなに上目指さなくていいんだなと思ったんですよ。普通にやってればいいんだなって。
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- 10thアルバム「10」2015年9月30日発売 / unBORDE
- 3240円 / WPCL-12240 / Amazon.co.jp
- 初回プレス盤
- 通常盤
収録曲
- Powers of Ten
- ピース
- POPCORN NANCY(Album ver.)
- KINGDOM
- だいたいQuantize
- いつまでも
- 青空
- 気持ちいい for Men
- TIDE
- Happy Hour
- JUMP with chay
- Vibeman feat.在日ファンク
- メトロポリス
- この道を行こう
- 時のひとひら
RIP SLYME(リップスライム)
RYO-Z、ILMARI、PES、SU、DJ FUMIYAからなる4MC&1DJヒップホップユニット。1994年に結成され、2001年3月にシングル「STEPPER'S DELIGHT」でメジャーデビュー。その後2ndアルバム「TOKYO CLASSIC」がミリオンヒットを記録する。さらに国内のヒップホップユニットとして初めての日本武道館ワンマンライブを行い、日本にヒップホップ文化を広く浸透させた。2010年には、メジャーデビュー10年目を記念しベストアルバム「GOOD TIMES」とカップリングベストアルバム「BAD TIMES」を発表。2015年9月には通算10枚目のオリジナルアルバム「10」をリリースした。