“人をダメにするソファ”のような音楽になればいい
──参考にするようなものは?
恋愛映画はよく観ますね。ハッピーエンドで終わるタイプの。気が重くなるような映画よりも、心軽やかになるような映画が観たいタイプだから、自分の音楽もそういう、安心感が得られるものとして聴いてほしいです。
──それはすごく今回のアルバムを象徴してますね。少なくとも誰かを攻撃したり、不快にさせるような表現はないと思うし。
“人をダメにするソファ”ってあるじゃないですか。ああいう感じの音楽になればいいなって(笑)。
──トラックメイカーとはどのようにつながったんですか?
Shun Marunoのようにもともと自分の周りにいたトラックメイカーもいるんですが、YouTubeとかSoundCloudに上がってる音源を聴いて、カッコいいなと思ったらDMで連絡して、っていうパターンも多いですね。福岡に住んでるっていうこともあって、DMで連絡が取れる時代はありがたいなと思います(笑)。
──「Summer Film's feat. クボタカイ, 空音」のように、コラボ曲でラブソングを歌うというのはすごく面白かったですね。こういった3人以上のマイクリレー曲だと、「自分が何者か」とか「コラボメンバー同士の関係性」という内容になることが多いし、それによってキャラが明確になるという部分もあると思うんです。でもこの曲は、恋愛という土俵の上で3人がそれぞれの恋愛のイメージや物語を提示することで、1人ひとりのキャラ立ちにつながっている。
この曲はShun Marunoからトラックが届いたのをきっかけに作り始めたんですけど、制作過程をTwitterに上げたら「そのトラックいいですね!」って空音が反応してくれて、「それなら一緒に作ろうよ」っていう話になったんですよね。それでせっかくならクボタカイも呼んで3人で作ろうという流れになって。このテーマを提示したのは自分ですね。恋愛曲なんだけど「奥手な男の子の夏休み」みたいな話にしたいなって。そのテーマを2人に振ったら、クボタカイが緻密なプロットを送ってきて、空音はもっとノリでっていう感じの内容が届いて。だから、僕はその中間を書こうと思ったんです。実際の制作は、ライブで3人が一緒になることがあって、その翌日にスタジオに入って一緒にやりました。だからワイワイした感じもありつつ、内容的にもちゃんと噛み合ったものになったと思いますね。
同じ感覚を持った人たちはこれから増えてくると思う
──「Sweet Melon feat. ICARUS」に参加したICARUSさんやクボタカイさんも福岡のアーティストですが、よく会うんですか?
ICARUSは家も近いんでよく会うんですけど、クボタカイとはライブで一緒になったときに話したり、インスタのストーリーでやりとりしたり……って感じですね。そもそも僕がそんなに外に出ない人なんで(笑)。ただ、会ったら音楽の話はけっこうじっくりします。
──そういったアーティストたちによる、“シーン”のようなものが成り立ってるようにも外側からは見えるんですが。
もちろんみんな大好きな存在で、だからこそフィーチャリングをしたわけだし、セットにして扱われることが嫌だっていうのは特にないですね。ただ「シーンを作ってる」って言われると、そういうつもりはなくて。それよりも「今の若者の感覚をそのまま歌詞に書いてる、感性が似てる人間たちが自然につながってる」っていうほうが正しいと思う。同じ感覚を持った人たちはこれから増えてくると思うんですよね。そういうラップが盛り上がって、それによってヒップホップシーンにいい影響が与えられれば、個人的にもうれしいし、楽しくなるんじゃないかなって。
──「Sleepy Wonder」は「昭和」というキーワードが印象的ですが、この曲を作った理由は?
僕は平成生まれなんですけども、昭和の世界にあこがれがあるんですよね。最近はスマホじゃなくて「写ルンです」で写真を撮ったり、当時のファッションを取り入れたりすることが流行ってますけど、きっと僕と同じように昭和にあこがれてる人が多いんじゃないかなって。それで昭和をテーマに曲を作りたいなと思ったんです。この曲の制作に入ったのは、平成から令和に変わるタイミングだったんですが、昭和の記憶がちょっと薄くなるような感じがして。それで「新しい恋愛によって、過去の恋愛の記憶が薄らいでしまうような感覚」を、時代の変化を織り込んで曲にしようと思ったんですよね。
──では1stアルバムを完成させて見えたものはありますか?
このアルバムで“自分の好きなスタンス”が形になったと思うし、これからやりたいことやチャレンジしたいことが増えました。「自分の実力はどうやったら磨くことができるのかな」って考える時間が増えたし、次の段階に進みたいなって。もっと具体的なことでは、音楽に対して動画やミュージックビデオが与える影響はすごく大きいなって改めて実感しましたね。音楽に対してどれだけ映像に合う音楽が作れるか、どういう映像を当てはめるかの重要性をより考えるようになったというか。単純にそれを考えるのは楽しいし、「この音楽にこういう映像を合わせると、こう受け取ってくれるんじゃないかな」「コンテンツ同士をぶつけたときに、どう面白いものができるんだろう」ということにより興味が湧いて。
──重層的な作り方になっていったというか。
それが今後のテーマになりそうですね。もちろん、自分の好きな音楽を作りたいという気持ちは変わらないし、もっと上の段階の音楽を作りたいという意欲もさらに高まってますね。そのためにはもっと知識を増やしたいし、自分を磨かなくちゃなって思いました。