何かを否定するのは好きじゃないし、
自分の主張を強く押し出すのもちょっと違う
──楽曲はラブソングが中心になっていますが、その方向性になった理由は?
普段の生活の中で、やっぱり恋愛っていうのは1つの大きなテーマになるんです。それは自分だけの話じゃなくて、友達との会話の中でも、その話題になることが多くて。
──Rin音さんの世代だと特にそうでしょうね。
そういう経験や体験を作品に落とし込んでいったら、この内容になったって感じですね。
──基本的には身の周りにあることがテーマになりやすいんでしょうし、それが歌詞にも表れていますね。「earth meal feat. asmi」も設定はSFっぽいですが、内容的には恋愛の光景の普遍性が中心になっていて。その意味でも、Rin音さんの今作でのリリックは景色や風景、状況と、それに対しての自分の感受や心の内が、表現の中心になっていますね。
確かに「こういうシチュエーションだったら自分はどう思うんだろう」みたいなことがサブジェクトになりやすいし、そのほうがリスナーにも伝わると思うんですよ。「僕はこう思うんだよね」っていう。
──その描き方もすごく独特だと思うんですよね。例えば「桜がきれい」という設定があるとしたら、「桜はきれいなんだ!」と訴えるわけではまったくないし、「桜はきれいだと思うんだけど、あなたはどう思います?」っていう問いかけでもない。「桜はきれいだと思う」で止まっているというか。
独り言のような曲を書こうと思ってるんですよね。それに共感してくれる人がいればうれしいし、「あんまりわかんないな」って人は別に伝わらなくてもいいやって。最初からそうだったし、それが自分のリリックのスタンスなんだと思いますね。それに、何かを否定するのは好きじゃないし、自分の主張を強く押し出すっていうのも、ちょっと違うのかなって。だから「Rin音のやってることはヒップホップじゃない」って言われても、「そう思うんだね」っていう感じなんですよね(笑)。相手の意見も受け入れるし、自分も意見を言うけど、それをぶつけ合うんじゃなくて、認め合うというか。
ハードコアなゴリゴリしたリリックよりも、
等身大でありのままなリリックのほうがリアル
──そこで聞きたいんですが、今回のアルバム「swipe sheep」の楽曲も含めて、Rin音さんの楽曲では、いわゆる“ヒップホップ的な実存性”がそこまで強く押し出されませんね。例えば「僕のイズムはこうだ」といった、ヒップホップ的な“自分をレペゼンする”という姿勢は、ほぼないと言っても過言でない。それはなぜなんでしょうか?
たぶん、自分自身がそういう部分と距離があるからじゃないかなって。僕はそういうキャラクターや性格でもないし、っていう。
──Rin音さんやクボタカイさん、空音さんたちのリリックには、自己主張するよりも、チルアウトしながら日常を肯定する言葉を紡ぐというムードがあるんだと思うけど、逆に「オレ語り」のラップってどう感じてますか?
単純に自分ではできない、絶対に書けない内容だと思うんですけど、聴いたら響いてはきますね。自分の生活とはすごく距離のあるヤンキー的なリリックであっても、その人が本当に経験したんだろうなっていうリアルなリリックは響くし、そういう曲はバトル前とかにメチャクチャ聴きます。
──Rin音さんは抽象的なことだけを言うでもないし、オレ語りでもない、でも自分の内面で思ったことが歌詞の真ん中にはあるから“Rin音の歌詞”になっているのが興味深いなと。
僕も含めて、最近ラップを始めた人って普通の人が多いと思うんですよね。僕自身、普通に学生として暮らし、普通に育ってるから、自分がハードコアなゴリゴリしたリリックを書いてもリアルじゃないし、伝わんないかなと思って。等身大でありのままのリリックを書いたほうがリアルだと思うし、そうなると僕のリリックは、今僕が書いてるような内容になると思うんですよね。
──ハードコアにはハードコアのリアルが、サグにはサグのリアルがあるように、それぞれの人間にそれぞれのリアルがあるわけで、それに誠実に向き合うことが正解だし、Rin音さんは自分のリアルに向き合っていると。
そうですね、まさに。
──「微睡むミカン」では、Rin音さんの主張や願望が押し出されていますね。
その曲は「自分の友達や仲間、家族、リスナーみたいな自分に関わってくれるみんなに、ちゃんと近付いて感謝の言葉を伝えたい」っていうことがテーマだったんですよね。ちゃんと感謝して、自分は味方なんですってことを伝えたくて。そういう言葉を普段よりストレートに表現した曲ですね。
──でも大声で「ありがとう!」っていう感じでもないのが面白いなって。リリックを書くうえで参考にしたり、影響を受けたものはありますか?
これっていうのはないですね。ラッパーで言えば唾奇さんやJinmenusagiさん、電波少女さんをよく聴いていたんですけど、そういうラップを書こうと思っても「僕はちょっと違うよな」って。だから、自分の好きなトラックに自分の言葉を当てはめるということを続けてきたら、今の自分のスタイルになったという感じです。
次のページ »
“人をダメにするソファ”のような音楽になればいい