愛にあふれた日常を、詩情豊かなリリックと、メロウかつポップな音像で構成した「snow jam」がYouTubeで550万再生を超え(※2020年6月現在)、Spotifyのバイラルチャートでも1位を獲得するなど、大きな注目を集めるRin音。日常の光景を柔らかな声質のラップと、ポエジーな構成で表現する彼の音楽世界は、現役の大学生である彼の同世代から絶大な支持を集め、空音やクボタカイらと共に、強引に枠を作れば“チルアウトしながらポップに日常を肯定する音楽”という、1つのムーブメントを形成している。
その彼が待望の1stアルバム「swipe sheep」をリリースしたことを受け、音楽ナタリーでは初のインタビューを実施した。「自分の主軸になっているのは、スマホと睡眠。タイトルの『Swipe』はスマホのことで、『Sheep』は睡眠を表してるんですね。だからこのアルバムは『自分自身』なんです」と語るRin音の、等身大の世界をこの記事から感じ取ってほしい。
取材・文 / 高木"JET"晋一郎
音楽に興味を持ったのはMCバトルがきっかけ
──まずRin音さんの音楽的な入り口から伺いたいのですが、音楽を始めたキッカケは?
原点はMCバトルですね。楽器や歌の経験は全然なくて、音楽も流行りの曲を聴く程度だったんですよ。
──ヘビーな音楽リスナーというわけではなかった?
全然。本当にライト層って感じでしたね。それが高校1、2年生のときにYouTubeかニコニコ動画でMCバトルを観て「なにこれ!?」って。確か「UMB」の2010年のGrand Championship「R-指定VS晋平太」の試合だったと思いますね。そこからまずバトルに興味を持って、それでいろんなバトルを観るうちに、自分でもやってみたいなと思ったのが、自分で音楽をやるってことへの入り口だったと思います。
──バトルのどんな部分に興味を持ったんですか?
とにかく新鮮だったんですよね。まず音楽で戦ってるというのが面白かったし、しかも即興でラップして戦うっていうのがメチャクチャ面白くて。そういう部分にとにかく惹かれて、「もっと観たい!」ってどんどんハマっていったんですね。
──例えば友達とサイファーなどはしてたんですか?
いや、周りにラップ好きがそんなにいなかったんで、全然そういう経験はなかったですね。高校3年になって、やっと何人か引き込めたぐらいで。
──実際にバトルに出たのは?
大学に入る直前ぐらいですね。まず「戦極MC BATTLE」に出たんですけど、1回戦負けで(笑)。それで「もう出るのやめよう」ってくらい落ち込んだんですけど、「U-20 MC BATTLE」に出たらベスト8まで行けて、「あれ? いけんじゃね!?」って(笑)。それで実際、次の「U-20 MC BATTLE」では優勝することができて。
──そこでほかのラッパーとコミュニケーションを取るようになったんですか?
そうですね。それこそ「U20」で当たった同世代の人たちとかと、コミュニティ的にはつながってますね。
──では、バトルでなく音源の制作に進んだきっかけは?
「戦極」主催者のMC正社員さんから「バトルイベント内のライブショーケースに出ないか」という話をもらったんですけど、曲作りの経験はなかったんで、一旦は断ろうかと思ったんですよね。でも、曲がないからってライブを断ってバトルにだけ出ると、絶対「曲もないくせに」ってディスられるなと思って(笑)。それは絶対に嫌だったから、曲を作り始めたんですよね。
──それまで、例えばありもののビートに即興やバトル以外のラップを乗せたり、リリックを書いたりした経験は?
なかったですね。少なくともリリックを書くっていうことはしてこなかったんで、そこで書いたのが初めてのリリックでした。
──そのリリックってどんな内容でした?
今の感じと基本的には変わってないですね、“恋愛み”が深い感じで。一応、周りのラッパーに感化されて尖った内容のリリックも書いてみたんですけど、内容も声もフロウも全然ハマらなくて、「あ、この方向はダメだ」って(笑)。だからそのバトルイベントでのライブも、僕と、同じようにショーケースに呼ばれてたクボタカイは、ほかの人とまったくアプローチが違いましたね。
どんなスタイルをやろうとも、その真ん中にRin音がいればいい
──ほかと違うスタイルで、しかも少数派だと、「あいつらはヒップホップじゃねえ」みたいなそしりを受けがちだと思うんですが、そういった部分はどうでしたか?
たぶんですけど、若い世代でバトルに出てた連中にとって、バトルで優勝するっていうのが、1つの大きなハードルだと思うんですよ。だからU20で優勝したことで、第一関門が突破できたんだと思うし……。
──つまり実力主義だからこそ、そのハードルを超えさえすれば、“イメージ”で叩かれることはないと。
あと、「ヒップホップはこうあるべき!」っていうイズムを抜きに、純粋に音楽としてみんなに聴いてもらえた感じがありますね。今のシーンはブーンバップもトラップも混在してる状況なんで、僕とかクボタカイが毛嫌いされるっていうこともないのかなって。
──多様性が広がってるからこそ、Rin音さんたちのスタイルも比較的受け入れられやすかったと。今回のアルバム「swipe sheep」に話を移すと、アルバムのトップを飾る「snow jam」は、YouTubeやサブスクなどで大きなアクションを起こしました。その意味でも、注目度は上がってきていると思いますが、それによるマインドの変化は?
「ああ! 人気になっちゃった!」って(笑)。でも、そんなにプレッシャーはないですね。
──「snow jam」が注目されたから、「その路線をやらなきゃな」みたいな義務感は感じていない?
それはないですね。もともと、同じこととか同じスタイルをやるのが好きじゃないし、転々と変わっていくのが自分のスタイルという意識があって。
──その意味でも、今のメロウでポップなサウンドは、現状においての選択という感じですか?
そうですね。今はそういうサウンドやアプローチが好きなので、今回もそのトーンのアルバムになってますが、もしトラップがやりたくなったらトラップをやるだろうし、ブーンバップがやりたくなったらブーンバップをやると思う。確かにそれがリスナーに受け入れられるかどうかはわからないですけど、それでも自分のやることは、その都度で変化させたい。どんなスタイルをやろうとも、その真ん中にRin音っていう自分がいればいいと思うし、それによって“僕のブーンバップ”“僕のトラップ”“僕の音楽”になると思うんですよね。それを聴いて好きになってくれたらうれしいなって。