自分の歌に励まされた
──いろいろなことを乗り越えてきた10年だと思いますが、一番大きな壁は失声症を患ったことですか?
そうですね。あのときは本当にしんどかったので。朝起きたら、声がまったく出なくなってたんです。病院で診察してもらったら、「声帯にはまったく異常がない。心因性によるものでしょう」と言われて。あとは言語療法士さんとリハビリを続けて、回復するのを待つしかなくて。スーッという息しか出ない状態だし、タクシーに乗るときも筆談で行き先を伝えなくちゃいけなくて……凛としてデビューしたあとだったし、私の歌を聴いて「いいね」と言ってくれる人が増えてきた中で、「このまま続けられるかもしれない」と思っていた時期にそういう病気になったので、IDを奪われた感じだったんです。「私、何もなくなっちゃったな」と思って、喪失感と絶望感、焦りでいっぱいになって。「そういう気持ちが治りづらくさせる」とも言われていたから、うわべだけは楽しくしてたんですけどね。
──本当に辛い状況だったんですね。
声が出て、きちんと歌えるようになるまでに1年くらいかかりました。ただ、音楽から離れることはなかったんです。声は出せなかったけど、音楽を聴くことはできるし、作詞も続けていたので。ずっと音楽には魅力を感じていたし、「病気を乗り越えれば、いままで以上によい歌が歌えるんじゃないか」という気持ちと「もう治らないかもしれない」という不安との戦いと言うか。その頃、自分の曲を聴いてみたんですよ。もともと私は自分のCDをあまり聴かないタイプだったんですけど、声が出なくなって「もしかしたら、客観的に聴けるかもしれない」と思って。そうしたら、自分の歌に励まされたんですよね。レコーディングしたときは100%必死にやっていただけで、「これでいいのかな? もっといい歌が歌えるんじゃないかな?」という気持ちだったんですけど、改めて聴いてみると「ちゃんと歌えてるじゃん!」と思ったし、十代の頃、いろんなアーティストの方の歌から勇気をもらっていた感覚に戻れて。そのときに自分自身を認めてあげられたのかもしれないですね。
──そのときの経験も、現在の凛さんの歌詞やボーカルの糧になってるんでしょうね。
そう思います。言葉も強くなったし、伝えたいという気持ちもさらに強くなりました。どんなにつらいこと、よくないことがあったとしても、それを生かせる職業に就けたんだなと実感したんです。どんな経験も作品として昇華できるはずだし、それを歌にして伝えることができるって。そう思えたことも大きいし、そのすべてが今回のアルバムにつながっていると思います。まさに10年分の思いを込めたアルバムになりました。本当はもっと早く出す予定で、ずっと制作は続けていたんですけど、体調を崩すこともあって、予定よりかなり伸びてしまったんです。イメージは明確にあったのでデザイナーさんと何度もやり取りをさせてもらい、スタイリングは自分で担当して、時間がかかってしまった分、細かいところまでこだわって作りました。私はCDというフォーマットから音楽に入ったので、ブックレットの印刷の匂いだったり、文字のデザイン、レイアウト、触った感触にまでこだわりたくて。ジャケットのアートワークも「CDの上に乗りたいです」ってお願いしたんです(笑)。五感すべてで楽しんでもらいたいですね。
──アルバム「凛イズム」から、また新しい未来が始まりますね。
そうですね! すぐに裏に引っ込もうとする私を皆さんが引っ張り出してくれて、ここまでやってきて。ちょっとうまくいかない時期が続くと、地上波のテレビに取り上げていただいたり、タイアップが決まったりして、そのたびに「だったら、もう少しがんばってみよう」と思えたんですよね。そうやって生きさせてもらった10年だったし、これからもワクワクしながら進めたらいいなと思ってます。
- 凛「凛イズム」
- 2018年1月31日発売 / MUSiC GARDEN
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[CD]
3000円 / MGCD-1001
- 収録曲
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- 夢×現
- 華燈-HANABI-(Version.2017)
- FREEDOM(Version.2017)
- 情熱イズム
- イカロス
- 片翼-ツバサ-の行方
- 孤独なマニフェスト
- 浸食アルゴリズム
- LiLiA
- ULTIMATE SOUL-幾千の岐路-(Version.2017)
- LOOP(Version.2017)
- Xana-シャナ-
- SPIDER GIRL(Version.2017)
- Dear DESTINY
- 人生ゲーム(Version.2017)
- TRUTH
- 凛(リン)
- 宮城県仙台市出身の女性ボーカリスト。末永茉己名義で作詞家としても活動しており、柿原徹也、井上和彦といった声優アーティストに作詞の提供も行っている。ハロー!プロジェクトのグループ・シェキドルのメンバーとして活動したほか、AKB48や乃木坂46をはじめとした数多くのアーティストの仮歌やコーラスを務めるなど、“仮歌シンガー”としても活躍。2007年に島崎貴光のプロデュースのもと、凛としてソロデビューを果たした。2011年11月にはアニメ「クロスファイト ビーダマン」のテーマ曲を収録したシングル「TRUTH / 片翼-ツバサ-の行方」を、2012年5月にはアニメ「カードファイト!! ヴァンガード アジアサーキット編」のエンディング主題歌を収めたシングル「情熱イズム」をリリース。2018年1月には凛名義の活動10周年を記念したアルバム「凛イズム」を発表した。