楽曲と一体になれる感覚
──ハロー!プロジェクトから離れたあとは仮歌、コーラスなどの活動をしてきたわけですが、そのときもやりがいを感じていた?
もちろんです! いろいろな作曲家の方と仕事をさせてもらってるんですが、それぞれ楽曲のアプローチが違うんですよ。私が歌うことで、その曲をさらに輝かせると言うか「歌が入ったことでさらによくなった」と喜んでもらえることが本当にうれしくて。人の役に立ってるという実感があるし、自分自身の勉強にもなるので、「次も使ってもらえるようにがんばろう」と思えるんですよね。コーラスの仕事も楽しいです。いろいろなアーティストさん、アイドルグループなどのコーラスをやらせてもらうんですけど、ハモりのパートをそのまま歌うだけではダメで、その方の歌い方のクセに合わせる必要があるんですよ。どこでシャクってるか、どこで力を入れて、どれだけ伸ばしているのか。そういうことを汲み取りながらコーラスを歌うことで、メインのボーカルを引き立てる。それも本当にやりがいがあります。だからこそ、デビュー後も仮歌とコーラスのお仕事は続けさせてもらっています。
──そして2007年には凛としてソロデビューを果たします。
島崎貴光さん(SMAP「はじまりのうた」、SKE48「青空片想い」、w-inds.「ブギウギ66」など多数のヒット曲を手がける音楽プロデューサー)がプロデュースをしてくれることになって。もちろんうれしい気持ちはあったんですが、そこでも自分の裏方気質が出てしまって、皆さんにご迷惑をかけてしまい……。
──(笑)。ソロデビューが決まれば、普通は喜びますよね?
そうですよね。でもそのときは「誰が歌っているかわからなくても、音楽に関われたらそれでいい」という気持ちもあって。スタッフの皆さんから「人前に出て、スポットライトを浴びよう。君が目立つんだ」みたいなことを言われても、「もうちょっと地味にいきませんか?」みたいな感じで(笑)。そういう性格はずっと変わってないかもしれないです。こういう仕事をやろうと思ったら、調子に乗ることも必要なんですけど、私は生まれてから一度も調子に乗ったことがないので。それがいいことなのか、悪いことなのか……悪いことなんでしょうね、きっと(笑)。
──そんな凛さんがソロデビューに踏み切れた理由はなんだったんですか?
まず島崎さんがメンバーを集めてくれて、スタジオでセッションをさせてもらったんです。私はもともと打ち込みが好きだったし、生バンドと一緒に歌うのはそのときが初めてで。それを2回、3回と重ねながら、島崎さんから「こうやってみんなと爆音の中で歌うのは楽しいでしょ?」みたいに言われるうちに、少しずつ音楽を身体で感じることができるようになってきたと言うか。ずっと引きこもりみたいな感じだったから(笑)、ジャムセッションがすごく新鮮だったんですよね。
──ソロとしての音楽性も、そのセッションの中で探っていたんですか?
そうかもしれないですね。島崎さんとは仮歌の仕事でご一緒していて、激しいロックからさわやかなポップスまで、いろんな歌を歌わせてもらっていたんですよ。「どういう音楽が好きなの?」という話もしていたし、私の引き出しを探ってもらっていたんだと思います。島崎さんご自身の得意とされていたジャンル、バキバキの打ち込みやロックテイストの楽曲が好きというところで意見が合ったのも大きいですね。相川七瀬さん、久宝留理子さん、大黒摩季さんみたいに、ソロでガッツリ歌ってカッコいい女性シンガーを目指そうっていう。デビューした当初は“女版T.M.Revolution”と言っていただけることもありました。デジタルとロックの要素があって、パワーボーカルで歌う女性シンガーと言うか、きっと見た目と歌声のギャップが面白かったのかもしれません。
──音楽性が定まったことで、ソロアーティストとしてのスタイルも見えてきた?
凛という名前が付いたことで、自分の世界観を出しやすくなったんです。それまではカメレオンみたいに楽曲によって歌い方を変えていたんですけど、凛として活動するようになったときに島崎さんから「100%好きなように歌っていいよ」と言ってもらって。自分が好きなように解釈して、好きなように歌うことは初めてだったし、楽曲と一体になれる感覚もすごくあったので。そのときに解き放たれた感じがありましたね。
──「好きに歌っていい」と言われても戸惑うことなく、自分の表現ができるということは、凛さんの中にアーティストとしての資質があったということですね。
そうかもしれないです。私は声も楽器の1つだと考えているんですよ。声という楽器に心とか感情みたいなものがしっかり乗って届いたときに、やっと「歌」と呼んでもらえるのかなって思っています。
食事もしないで、書き終わるまでやめない
──作詞に関してはどうですか? ほかのアーティストのために書くときと、凛の曲として書くときはやはり違うと思いますが。
完全に分けて考えてますね。作詞家として仕事をさせてもらうときは、歌う方のイメージに合った言葉を選ぶし、「私は一生歌わないだろうな」という歌詞も書けるんです。例えばかわいらしいラブソングとか、極悪非道な武将についての歌とか。でも凛の曲で作詞する場合、凛のアーティストイメージもありますが、そこに自分自身のエッセンスを注ぎ込めるし、言葉の選び方がさらに自由になる感覚があるんです。島崎さんからも「なにかがちょっとでも伝わればそれでいい」「キレイじゃなくても、聴き手に残る言葉がひと言でもあればいい」と言ってもらってるし、時には「もっと強烈な言葉をくれ。もっと出せるでしょ?」と高い要求をされることも多く、戦いながらも本当に好きなようにやらせてもらってます。歌詞で悩むこともあまりないですね。デモ楽曲をいただいて、シンセのメロを聴いた瞬間に「こういう時代、こういう色、こういう匂い」という感じで歌詞のイメージがパン!と湧いてくるんですよ。言葉もとめどなく出てくるし、そこから一気に書き上げることが多いです。食事もしないで、書き終わるまでやめないっていう(笑)。
──特に「孤独なマニフェスト」の「聴け! 命削ってく音すんだ」、「ULTIMATE SOUL-幾千の岐路-」の「この容れ物-カラダ-の役目はドコだ? あるんだろう?意味ってのが」など、凛さんの曲の歌詞は強い言葉が並んでいる印象があります。
曲を聴いてくださった方から「凛さんの歌詞は心に突き刺さる」と言われたこともあります(笑)。人間的にはまろやかなほうだと思うんですけど、実生活でできない分、歌でガッツリと強い言葉が出てくるのかなって。「何があっても進んでいくぞ!」みたいな勢いだったり、ネガティブをポジティブに変えてしまうくらいの前向きさもあるので。ヘビーなフレーズを選ぶ傾向はあるみたいですね。先ほども言いましたけど、私は“目立ちたい”とか“チヤホヤされたい”から歌うようになったのではなくて、音楽で救われたという経験が根底にあって。音楽によって自分の暗いところだったり、トラウマみたいなものを癒してもらったと言うか……今も「音楽を通して、少しでも元気になってほしい」という気持ちは変わらないし、それが自分の歌詞や歌の基盤になっていると思います。愛をテーマにした歌詞も、悲恋と言いますか、“現世では結ばれない”みたいな切ないストーリーばかりなんですよ(笑)。ドキドキ、キュンキュンするようなラブソングを聴くのは好きだし、作詞家としてはそういうタイプの歌詞も書けるんですけど、自分で歌おうとはまったく思わない。そういう曲を上手に歌える方はたくさんいらっしゃるので、私はそっちじゃなくてもいいかなと。高校のときに「あなたは侍みたいな人だね」と言われたこともあるので(笑)、かわいいラブソングが似合わないだけなんですけど。
──「人生ゲーム」のようにサウンドがポップな曲も、歌詞はシリアスですからね。
ご機嫌でポップなサウンドにこそ、そういう歌詞を乗せたくなるんです。ピチカート・ファイヴの「あなたのいない世界で」の中にある「ふたりは恋におちてそして死ぬ」という歌詞が大好きなんですよ。曲はすごくポップでオシャレなのに「そして死ぬ」という言葉を乗せる小西康陽さんはすごいなって。「人生ゲーム」の「足踏みだって全力だろ」という歌詞は、島崎さんにもすごく褒めてもらえたんです。人間は前に進まなくちゃいけないし、誰もが進もうとしているはずなんですけど、どうしても動けないことだってある。足踏みが続いていても、全力で今を生きていることには変わりがないし、そこにはすごく価値がある。自分自身も「いくらがんばっても前に進めない。このままでいいのかな?」という時期があったし、それを含めて肯定したかったんですよね。仙台の田舎で、毎日のように自転車でレンタルショップを回っていた自分も認めてあげたいですから(笑)。
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自分の歌に励まされた
- 凛「凛イズム」
- 2018年1月31日発売 / MUSiC GARDEN
-
[CD]
3000円 / MGCD-1001
- 収録曲
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- 夢×現
- 華燈-HANABI-(Version.2017)
- FREEDOM(Version.2017)
- 情熱イズム
- イカロス
- 片翼-ツバサ-の行方
- 孤独なマニフェスト
- 浸食アルゴリズム
- LiLiA
- ULTIMATE SOUL-幾千の岐路-(Version.2017)
- LOOP(Version.2017)
- Xana-シャナ-
- SPIDER GIRL(Version.2017)
- Dear DESTINY
- 人生ゲーム(Version.2017)
- TRUTH
- 凛(リン)
- 宮城県仙台市出身の女性ボーカリスト。末永茉己名義で作詞家としても活動しており、柿原徹也、井上和彦といった声優アーティストに作詞の提供も行っている。ハロー!プロジェクトのグループ・シェキドルのメンバーとして活動したほか、AKB48や乃木坂46をはじめとした数多くのアーティストの仮歌やコーラスを務めるなど、“仮歌シンガー”としても活躍。2007年に島崎貴光のプロデュースのもと、凛としてソロデビューを果たした。2011年11月にはアニメ「クロスファイト ビーダマン」のテーマ曲を収録したシングル「TRUTH / 片翼-ツバサ-の行方」を、2012年5月にはアニメ「カードファイト!! ヴァンガード アジアサーキット編」のエンディング主題歌を収めたシングル「情熱イズム」をリリース。2018年1月には凛名義の活動10周年を記念したアルバム「凛イズム」を発表した。