ナタリー PowerPush - りぶ
40mP&みきとPと語る歌い手とボカロPの関係性
2009年から2010年に切り替わったシーン
──最初は興味本位、遊び半分で始めて、それが広がったおかげでクリエイターやミュージシャンとして活動しているという流れはボカロPも同じだと思うんですけれど。40mPさんはどうですか?
40mP まったく同じです。僕はさっき名前が出たゆずが大好きで、高校生のときは路上でライブもやっていたりしたんです。でも、なかなか届く範囲が狭くて。というか、基本的に立ち止まってくれなかったんですよね。路上だとどうしても歌や演奏がうまい人のところに人が集まって。でも、初音ミクとかGUMIを使えば、曲のよさだけで伝えることができる。そういうところは動画を投稿してみて初めて挑戦できたところですね。
みきとP 僕の場合は興味本位とか遊び半分というのとは、ちょっと違うかもしれないですね。確かに最初は腕試しみたいな感じだったんですけれど、3作目くらいからはもう「ちゃんとやろう」って思ってたというか。
──なるほど。これ、実はひょっとしたら時期の違いかも知れないですね。40mPさん、みきとPさん、それぞれ初投稿はいつでしょう?
40mP 僕は2008年の夏ですね。
みきとP 俺はもうちょっと後ですね。2010年の3月だったかな。
──なるほど。僕としては2009年から2010年にかけてが、まさにボカロとニコニコ動画のシーンが切り替わったときだと思ってて。
みきとP そうですね。だんだん俺みたいなやつが出てきた(笑)。
40mP 急にクオリティがガーンと上がってる年ですよね。
──そうそう。つまり、40mPさんが初投稿した2008年の頃と違って、2010年の頃にはそこで成功して人気になったクリエイターがいた。だから、みきとPさんが初投稿した頃には、クリエイターの目線の先に「あいつらが成功できるんだったら俺も」みたいな、憧れとライバル心の入り混じったようなものも生じてきたんじゃないかと。
みきとP そうかもしれないですね。だから、「俺の曲ってどう見られるんだろう?」みたいな、まさに腕試しという感じだった。
みんな、機材の値段が上がってるような気がする
──りぶさんはどうでしょう? 「歌ってみた」もニコニコ動画においては初期の頃からあった分野だと思うんですけれど、そこからの変化ってあります?
りぶ ボカロ曲と同じように、「歌ってみた」にも転換期のような時期はある感じがします。2007年とか2008年の頃って、「ランティス組曲」みたいに、ゴムさんとか、いさじさんとかが、しっちゃかめっちゃか楽しくやっている雰囲気があって。そういうのが好きで聴いていたんですけれど、2010年に自分が投稿するときは、まさに今おっしゃったような憧れとライバル心みたいなものもあって。もともとバンドで歌を歌っていたのですが、「どこまで通用するんだろう?」みたいな気持ちとか、試行錯誤して段階を踏んでやっていこうという感じもありました。
みきとP ボカロや「歌ってみた」に限らず、どのカテゴリーでもそうだよね。「踊ってみた」もそうだし。「料理作ってみた」とかでも、みんな機材の値段が上がってるような気がする(笑)。編集のテクニックも向上してるし。
40mP 確かに。最近は映像も綺麗だし、テロップもバンバン出てきたりしますよね。
みきとP ニコニコ全体がそんな感じになったのかな。
──ですよね。実はこれ、大きな流れだと思うんですよ。なぜ2009年や2010年が転換期になったかというと、それ以前のニコニコ動画は「嫌儲」と言われるムードが支配的だった。アマチュアであることが大事で、お金を稼ぐことへのネガティブイメージがあったんです。でもドワンゴ会長の川上量生さんがJASRACなどの権利団体と著作権の問題を語り合ったりすることで、「ネットにコンテンツを投稿することでクリエイターが対価を得る仕組みは必要だ」という考え方に流れが変わってきた。そういう転換期があったのがその頃だったんです。
りぶ そうなんですね。その話は知らなかったですけど、僕らも意識せずそういう影響を受けて、クオリティを求めていくのはいいことなんだっていう雰囲気を感じ取っていたのかもしれないですね。
40mP ただ、僕は5~6年くらいずっとやってきましたけど、体感的には「この時期にがらっと意識が変わった」というのはないんですよ。どっちかと言うと、緩やかに変わってきている感じで。5年前とか、僕がボーマスで初めてCDを出したときも、「本当にCDなんて作っていいのかな」っていう気持ちがありましたし。その時点で商業でCDを出しているボカロPはsupercellさんとかkzさんとかくらいで、それすら大変な過程で実現した時期だったんで。そこから徐々にボーカロイドっていうものが世間に浸透してきたのとあわせて、一般的にも受け入れられるようになってきたような。ゆっくり変化してきた気はしますね。
──そして今や完全にアマチュアだけの場所ではなくなっている。
りぶ そうですよね。こないだとかも9mm Parabellum Bulletの滝さんがボカロ曲を上げてたり、小林幸子さんが「歌ってみた」を上げたりとか、すごいことになってるなと感じます。「歌ってみたの本」という雑誌があるんですけれど、そこで自分と小林幸子さんが同じ雑誌内で紹介されるみたいな状況になってるんですよ。自分が小林幸子さんと同じ雑誌に出てるっていうのが、とにかく不思議で(笑)。
みきとP でも、小林幸子さんも絶対楽しんでやってそうですよね。自分よりも若い世代と同じシーンで音楽を一緒にやるわけですからね。俺がもし何十年後にまだ音楽をやってたら、そういうのってきっと刺激になるだろうなって思ったりするし。
自分のいいところを引き出してくれそうな作家さん
──アルバム「Riboot」の話に戻りますが、今回、楽曲をオファーするにあたってコンセプトはありましたか?
りぶ やっぱり自分が好きな作家さんというのを大前提に置きつつ自分のいいところを引き出してくれそうな方、魅力的な歌を歌える曲を作ってくれる方を念頭に置いて、選ばせていただいてる感じです。で、最終的に見たら、今のニコ動ってガチャガチャした感じの曲が流行っているところがあると思うんですけど、その中でソングライターとして自分の道を貫いている方、いろんな意味で良曲を量産されている方々になったという気はします。
──なるほど。では逆に曲の作り手としては、今回提供した曲を通して歌い手の声の魅力というのをどう捉えているんでしょうか?
40mP 僕が曲を作るときって、だいたい頭の中で何かしらの声が再生されているんです。その声は自分の好きなアーティストだったりもするんですけど、歌い手さんのために書くときはやっぱりその人の声で再生されるわけで。だから今回はりぶさんの声に一番合うメロディ、一番合う歌詞の世界観を念頭に置いて作っていきました。で、実際にレコーディングに臨ませていただいて、そのイメージをはるかに超えるものができた気はしますね。作品作りの中で理想型ができたなって思います。
りぶ ありがとうございます。
40mP りぶさんは、本当に美しい声なので、メロディもそんなにひねったものじゃなくて、声がちゃんと聞こえる、わかりやすいメロディがいいなっていうことは考えながら作りました。歌詞もストレートに届いていくもの、っていうのが僕も得意としているところなので。そこに正直に応えていきたいなと思いながら作りました。
──みきとPさんはどうですか?
みきとP りぶさんの歌は好きです。なんだけど、歌い手さんに一番合う楽曲とか、そういうふうに作れないんです。そんなに器用じゃないので。なのでシンプルに「俺の曲を提供します」っていう感じですね。「サリシノハラ」のときもそうだし、今回の曲もその関連の曲だったので、わりと自由に作って、あとは話し合って作り上げていこうって感じでした。
- ニューアルバム「Riboot」 / 2014年1月8日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+グッズ] / 2520円 / VICL-64093
- 通常盤 [CD] / 2205円 / VICL-64094
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CD収録曲
- ヨンジュウナナ
[作詞・作曲:みきとP] - 聖槍爆裂ボーイ
[作詞・作曲:れるりり&大柴広己(もじゃ)] - しわ
[作詞・作曲:buzzG] - ロベリア / Lobelia
[作曲:sequel / 作詞:ユミソラ] - スタートアウト・リピートショー
[作曲:TOKOTOKO / 作詞:りぶ、TOKOTOKO] - 如月アテンション
[作詞・作曲:じん] - ワンルーム・オール・ザット・ジャズ
[作詞・作曲:DATEKEN] - ジッタードール
[作詞・作曲:niki] - トビウオの夢
[作詞・作曲:40mP] - 秘密遊戯
[作詞・作曲:Task] - Whiter Than Snow
[作詞・作曲:halyosy] - 東京レトロ
[作詞・作曲:すこっぷ] - Afterglow
[作詞・作曲:ジミーサムP] - 人生は吠える
[作詞・作曲:Neru] - 夜を超えろ
[作詞・作曲:ラムネ] - さよなら告げた
[作詞・作曲:渡和久 / 編曲:風味堂]
- ヨンジュウナナ
りぶ
動画共有サイトを中心に活躍する男性シンガー。音域の広い透明感のある歌声が特徴で、2013年11月時点で歌唱動画の総再生回数が1200万回以上を誇るなど高い人気を誇る。2012年9月に1stアルバム「Rib on」を発表。ライブやイベントにも積極的に出演しながら、ネットシーン以外でも着実に知名度を獲得する。2014年1月に2ndアルバム「Riboot」をリリースした。
40mP(よんじゅうめーとるぴー)
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。2008年からニコニコ動画にオリジナル曲の投稿を開始し、同年公開された2作目「Melody in the sky」で早くもネットユーザーから多くの注目を集める。2012年に東京、2013年に神戸と埼玉で、7人の歌い手と生バンド、ストリングス、ブラス、コーラス隊を率いたホールコンサート「虹色オーケストラ」を開催。2013年夏にはNHK「みんなのうた」に「少年と魔法のロボット」が選ばれ、ボカロ曲の採用が番組史上初ということもあって大きな話題になる。同年9月には自身のボーカロイド曲をリメイクしたベストアルバム「少年と魔法のロボット VOCALOID BEST, NEW RECORDINGS」をリリースした。
虹色オーケストラ 追加公演
2014年3月1日(土)
神奈川県 よこすか芸術劇場
みきとP(みきとぴー)
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。「小夜子」のような心を揺さぶるシリアスなギターロックから「いーあるふぁんくらぶ」のようなアッパーなディスコポップまで、幅広いタイプの作品を発表している。またボカロPとしての活動のほか自身が歌った動画の投稿も行っている。2013年4月には初音ミクをフィーチャーした初のオリジナルフルアルバム「僕は初音ミクとキスをした」をリリースした。