生バンドでヒップホップをやる醍醐味
──リハはどれくらい重ねたんですか?
Mummy-D ストリングス抜きでバンドと3、4回入ってから、ストリングスを入れてさらに3回くらい入った。普段の僕らは基本的には2ミックスでオリジナル音源をかければライブとしては成立するから。つまり、普段のツアーではアレンジ作業はほとんど必要なくて。それよりも見せ方を詰めるほうに時間をかけるんだけど、今回はとにかくアレンジをよくしていかないといけなかったから。特にストリングスとのすり合わせはすっごい大変だった。やっぱり僕らとは通ってきた音楽文化が違うんだもん、全然。バンドのプレイヤーたちとカルテットの子たちの共通言語も違うし、カズタケはヴィオラ担当でカルテットのリーダーであるトモちゃん(島岡智子)に相当怒られてたね(笑)。
宇多丸 採譜が間違ってたとか?
Mummy-D そう、譜面がめちゃくちゃらしくて。でも、その前にそもそも俺らの曲が譜面や楽典で捉えるとめちゃくちゃだったりするから。そのすり合わせはちょっと気が遠くなるような作業だった。でも、そのうえでやっぱり面白いサウンドになるようにとことん考えて。オリジナル音源のフレーズを生に差し替えるのは意外と簡単だし、「まあ、そうなるよね」という感想で終わりかねないけど、それじゃ面白くないし、生楽器を大胆に導入しつつもやっぱりヒップホップを匂わせたいというところにすごく時間をかけたよね。
──まさにそれが今回のライブの真髄の部分ですよね。
Mummy-D そうだね。演奏がうまい人は本当にいっぱいいるし、ただゴージャスなだけのセッションみたいなライブはいっぱい観てきたから。これはこっちが通ってきた文化によるところが大きいけど、譜面台を見ながら演奏されると冷めちゃうんだよね。こっちは一緒にグルーヴしたいから。それもあって、今回の「MTV Unplugged」ですごいのは、みんなクリックを聞かないでやり切ったこと。
宇多丸 それがヤバすぎる。
Mummy-D とにかくみんなでグルーヴしたかったから。ヒップホップなんだけど、ロックしてほしいというかね。
宇多丸 しかもノリに任せてホットになっていく一方だとヒップホップ感が損なわれるから、一定のクオンタイズ感も必要なんだよね。だから、その生身の揺らぎとクオンタイズ感の狭間で起こってる何かが生バンドでヒップホップをやる醍醐味、もしくはヒップホップ以降のグルーヴミュージックを生バンドでやる意義で。そして、おそらくそれは現代的なポップミュージックを作っている人たちが生バンドでライブをやるときの普遍的なテーマでもあると思う。
Mummy-D カルテットのみんなも僕らと一緒にリハを続けてる中でそのグルーヴの感覚をつかんでくれて。
──つまり、今回の「MTV Unplugged」はRHYMESTERのグルーヴ論の提示でもあると思います。
Mummy-D そうだね。カルテットのみんなもヒップホップならではのループ感の気持ちよさを味わってくれていると感じることができて、うれしかった。
無観客でも満たされた
──ベタな質問ではありますが、今回の企画だからこそ3人それぞれが印象深った曲をピックアップしてもらえたらと思いまして。
宇多丸 僕は「ザ・サウナ」ですね。この曲のアレンジは「New Acoustic Camp 2018」の時点でできていたんだけど、本番ではやらなくて。最初は歌ってる内容と音像のコントラストが、僕からすると赤いペンで「青」って書かれてるような違和感があって。でも、今回いざやってみたら、歌っていくうちにどんどん気持ちよくなって。今はサウナ好きな人も多いし、「これめっちゃキャッチーな曲じゃん!」と思えたんですよね。結果的に今回の「MTV Unplugged」でしか聴けない会心のバージョンになりましたね。
──「梯子酒」からの流れも最高です。
宇多丸 ね。「何が始まるんだ!?」みたいな。
──JINさんはどうですか?
DJ JIN 俺は「耳ヲ貸スベキ」かな。さっきクリックなしのカチッとしてない部分のリズム感とクオンタイズ性のあるリズム感の狭間が肝だという話が出ていたけど、やっぱりヒップホップの肝はリズムだし、AKAI MPCやe-mu SP1200の打ち込みのビート感がものすごく重要で。ドラムというよりもビートを作るという意味で、今回はドラマーのこーちゃんこと脇山広介くんくんの仕事ぶりは素晴らしかったと感謝してます。「耳ヲ貸スベキ」はハイハットの感じがちょっとスウィングしているような気持ちよさもあって、生演奏なんだけどブレイクビーツ感のあるビートを叩いてくれた。カズタケも「彼はブレイクビーツ的なドラムを叩けるんです」と言ってたけど、その通りだなと。あと、「It's A New Day」でもオリジナルのSP1200っぽいちょっとヨレたノリをちゃんと再現してくれてすごくよかった。
──Dさん、いかがでしょうか?
Mummy-D 俺はね、やっぱり「Future Is Born」かな。この曲はもともとストリングス入ってないんだよね。入ってないものをカズタケがアレンジして作り出してくれた。原曲に入ってないラインとか、オブリ(オブリガード)とかもいっぱい入ってる。めちゃくちゃ気持ちよく、すごく高いクオリティのアレンジができたなと。原曲はmabanuaが作ったブギーと呼ばれるようなサウンドなんだけど、それって80年代っぽいんだよね。でも、ストリングスが入るとディスコはディスコでも、70年代後半な感じがするなと思って。それで、「ディスコっぽいストリングスの使い方ってなんだ?」と考えたときにChicとかを想起する「ヒュンッ!」というフレーズだと思って。そういうフレーズを多めに入れてって俺からカズタケに提案したんだよね。そういう意味でも、このバンドでやれることがあの曲の中にすごく詰まってるなって思う。セットリスト的には序盤にある曲だけど、俺的にはクライマックスに近い感覚がある。「ああ、いいアレンジを作れたな」って思える瞬間だった。
──史上初の無観客の「MTV Unplugged」でこういうライブをできたことがRHYMESTERにとっても記念碑的なことだったと思います。
宇多丸 無観客の「MTV Unplugged」という特殊な機会だったけど、ステージに立ってる僕らはすごく満たされた状態になれた。お客さんが1人もいないということは、ゼロという無限というか、そこにお客さんが見えるし、いるということでもあるとごく自然に実感できたので。それはこのライブのコンセプトとしても完璧だったなと。
Mummy-D そうだね。それは実際にやってみないとわからないもんね。
──ここからのRHYMESTERの動きを本当に楽しみにしています。
宇多丸 まずは「こてつくん」が始まったので。最初にDが言っていたエンタテインメントの話じゃないけど、Eテレの子供向け作品の中で、僕らの主題歌の位置付けが、この分断の時代における未来であり希望になっていくような役割も担っていて。この時期に出すべき曲として成立してるかなとも思う。そういう意味でも俺ら的には47都道府県ツアーを終えて、本を作って、「MTV Unplugged」があって、「こてつ」くんの主題歌が来る、という順番は悪くないなと思ってます。