RHYMESTERが出演し、MTVで放送されたアコースティックライブ企画「MTV Unplugged: RHYMESTER」の映像と音源が4月28日にリリースされた。
1989年にニューヨークで初めて実施されて以来、「MTV Unplugged」に刻まれてきた名演は枚挙にいとまがなく、海外ではエリック・クラプトンやOasis、Nirvana、ここ日本でも宇多田ヒカルやKREVAなどがエクスクルーシブなライブを披露してきた。ヒップホップグループが「MTV Unplugged」の歴史に名を連ねるのは国内では初、世界的に見ても1993年のArrested Development以来で28年ぶりとなったが、ストリングスカルテットを含む総勢10名からなる編成でRHYMESTERが見せたのは、ヒップホップのダイナミズムを浮き彫りにすると同時に、クラシカルなメソッドをも昇華した1つのグルーヴ論の提示とも言えるパフォーマンスだった。2019年3月から2020年1月にかけて行った47都道府県ツアーを経て、RHYMESTERが「MTV Unplugged」のステージに立つまでの軌跡、そしてこのライブの真髄をメンバーにたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 三宅正一 撮影 / cherry chill will.
やらないことにも理由がある
──時にそれは相殺されかねないポイントでもあると思うのですが、この「MTV Unplugged: RHYMESTER」は、ストリートから生まれたジャンルであるヒップホップとしての強度を浮き彫りにすることと、クラシカルな意味において音楽的であることをRHYMESTERならではの手つきで矛盾することなく融合させ、昇華してみせた記録でもあると思います。
宇多丸 ありがとうございます。
DJ JIN うれしいですね。
Mummy-D うれしい。まさに肝はそこだと思います。
──このライブについて話す前に、まずは2019年3月から、追加・振替公演を含め2020年1月まで実施した47都道府県ツアーを終えてからのRHYMESTERの動きを振り返っていただけたら。
宇多丸 まずは本を作ってましたね(2020年12月23日に刊行されたRHYMESTER初のオフィシャルブック「KING OF STAGE~ライムスターのライブ哲学~」。参照:RHYMESTERのライブ哲学に迫る、初のオフィシャルブック発売決定)。9月に47都道府県ツアーの映像作品もリリースしたけど、本を作りながらツアーを締めくくる作業ができてよかったなと。コロナ禍でも制作できて、発売できるものでもあったから。
Mummy-D でも、2020年のイベントの予定はやっぱり一度全滅したよね。3月28日にTOKYO DOME CITY HALLで開催予定だった31周年ライブ(「R31 ライムスタークラシックス総選挙」)も中止になって。スチャダラパーとライブするとか、2020年の秋に向けての動きをスタッフもいろいろ考えていたらしいんだけど、それも白紙になり。「クラシックス総選挙」は結局、開催予定日に配信イベントに切り替えてやったんだけど、あの頃は翌日に志村けんさんが亡くなられたり、世の中が一番緊迫してる時期でもあって。今考えるとすごい空気だったし、今も引き続き手探りでやってる感覚はある。
宇多丸 今後の話もなかなかしづらいし、決めづらいからね。
Mummy-D それで、配信飲み会(「配信飲ミーティング2020」)をやったりして(笑)。
宇多丸 「飲ミーティング」も状況に応じた発信ではあるんだけど、俺らはわりとこういうときはとりあえずふて寝して、酒を飲むというね(笑)。
Mummy-D 星野源くんが「うちで踊ろう」を発信したり、それをいろんな人が数珠つなぎ形成でアレンジしたりしているのを見て「すげえ!」とも思ったんだけど、自分たちは結果的に何もしなかった。飲み会だけ(笑)。モタモタしてました。
宇多丸 そういうときにパッと行動できるのはもちろん素晴らしいことだけど、その一方でただ戸惑うばかりというのが正直な心情という人もいっぱいいるから。だから、「いやあ、引きこもって酒飲んでましたよ!」という行動が勇気をもたらすこともあるのかなと(笑)。「それでもいいんだ! やらないことにも理由がある!」っていうね。
一同 (笑)。
この状況を消化して何かを歌うのはもっと先
──2020年から現在にかけて楽曲制作はしてないですか?
Mummy-D そうだね。あまりにまだ渦中すぎてコロナを受けて何か、みたいなテーマでは書きにくいよねという話はしていて。例えば2011年の東日本大震災のあとにあったいろんなことを受けて「The Choice Is Yours」という歌を作ったのは2013年だから。
宇多丸 それもまたフットワークがいいタイプのアーティストと、そうではなくて消化してから出すアーティストがいるというね。俺らは後者なんだよね。モタモタしてるタイプなの。「ご存知でしょ?」っていう。ただ、その一方でNHK Eテレの「宇宙なんちゃら こてつくん」の主題歌を作るというお題はあったから(参照:RHYMESTER、Eテレのキッズアニメ主題歌を担当)。そこは普段とは違う工夫が必要な作業でもあって。それをバタバタの時期にやるよりはよかった。
──そのほかに新曲のビートを集めたり、そういうこともなく?
Mummy-D 「こてつくん」の主題歌以外の、いわゆるRHYMESTERの次のアルバムに向けての制作は全然やってない。だから、本当にこの「MTV Unplugged」が決まってからは、そこにすべてを懸けるみたいな感じでした。次のアルバムに向けた話もZoom会議とかでチョロっと話したけど、Zoom会議ってタイムラグもあったりするからあんまり盛り上がらないんだよね。あれはクリエイティブなことを話すのは向いてないと思った。
──チョロっと話したのはどんな内容なんですか?
Mummy-D いや、別にそんなたいしたアイデアじゃないよ。ただほら、俺が言ったんだけど、「こういうご時世だと楽しくなるような曲を聴きたいよね」みたいな話はして。震災のときとは違って、今回はエンタテインメントが必要だなと思ってるし。震災のときは自分たちがやってることは虚業なんじゃないかと思うくらい打ちひしがれて、なんも言えねえみたいな感じになっちゃったんだけど。今回みたいに巣ごもりとかしてると、「逆にこれってエンタテインメントが大事じゃん!」って感覚があったので。「エンタテインメントというキーワードはどう?」くらいの話はした。だから、今の時点では次のアルバムはそういうものになるんじゃないかとは思ってるんだけど。
──宇多丸さんはメインパーソナリティを務めているTBSラジオ「アフター6ジャンクション」でも日々いろんなエンタテインメントの動きをキャッチしていると思いますが、エンタテインメントの重要性という面に関してはどう捉えてますか?
宇多丸 とはいえ、エンタテインメントを発信してる人たちもこれからどうなるかわかってないし。東日本大震災のときは人災性も強くあったわけで……今回もある種の人災性を帯びているとは思うけどね。とにかくみんなこの状況に対して答えを出して動いてるわけではなくて。それも当たり前だよねという感じがありますけどね。俺はいつも言ってるんだけど、「過渡期じゃないときなんてない」って。常に宙ぶらりんだし、常に先のことなんてわからない。だからいつだって「この曲を今歌っていてもいつか古くなるのかな?」という懸念もある。例えば映画にしたって、この誰もがマスクをしてる状況をどう捉えて描写するかということに対して答えが出切ってないと思うし。
──観客の受け取り方も千差万別だろうし。
宇多丸 だし、マスクをしている状況を描く作品はそういうコンセプトの作品になるわけで、ポストコロナのモードとはちょっと違うよねという見方もあるだろうし。例えば「実際のところ東京オリンピックはどうすんの?」といったことも含めて、みんな先が見えてなくて、ここまで宙ぶらりんになっていることに対しては何かを言いづらいよね。僕も常に過渡期とは思ってるんだけど、あまりにも先が見えないから。だからこの状況を消化して何かを歌うというのはもうちょっと先のような気もするかな……ごめんなさい、あんまりちゃんと質問の答えになってないな。でも、この「MTV Unplugged」はコロナ禍の1つの回答として機能する作品になったとは思います。
──この「MTV Unplugged」の中でも、宇多丸さんは震災後の事象と向き合った2013年リリースのアルバム「ダーティーサイエンス」収録の「It's A New Day」と「The Choice Is Yours」を披露する前のMCで、「今のご時世にこの曲たちが残念ながらハマってしまう」と言っていましたけど、それは時代を跨いでも強度のある曲を作ってきたと換言できる証左でもあるわけで。
宇多丸 それは、ある時期からのRHYMESTERは特定の事象に対して何かを歌うというよりは、そこから普遍性を抽出するということを意識的にやってるから、ということだと思うんですよね。
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今はみんな見ている景色が違う