音楽ナタリー Power Push - RHYMESTER
小出祐介(Base Ball Bear)がライムスに問う“美しさ”の秘密
ウェーイ文化
──RHYMESTERの皆さんがこちら側の畑に対して「ああいうのいいな」と思うみたいに、僕はむしろヒップホップ的な考え方っていうのがギターロックに必要なんじゃないかなってちょっと思ってるんですよね。
Mummy-D それ、前にアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のゴッチ(後藤正文)も同じこと言ってた。
──スタイルが先行してる、あえて悪い言い方をするならば形骸化が進んでいる僕らのシーンは、もっとイズムを大事にしていくべきというか、意義や大義や意味をみんなもう1回考えようよって思ってます。「自分は何をどうして誰に歌うのか」って。
宇多丸 なぜこの表現なのかってことを、もう1回考えろと。
──そうですそうです。たぶん今の若い世代の人たちは、バンド始めたときにBPM180くらいの「四つ打ち」と言われるような曲がすでに広まっていたからあまり違和感なくやってると思うんですけど、僕らは当時周りを見渡して誰もやっていないことを求めて実行したんです。その手法が広まった結果、このウェーイ文化になっちゃった(笑)。
Mummy-D はははは(笑)。ウェーイ。
宇多丸 ウェーイ、ウェーイ、またウェーイかみたいなことだよね。コイちゃん、ウェーイに対してちょっと抵抗しようとしてたもんね。
──そうなんですよ。確かにライブのワンシーンとして、「盛り上がってますよ / 盛り上がっていいですよ」という記号としてのウェーイは必要だとは思うんです。でも、今ウェーイばっかりじゃねえかと。
宇多丸 まあまあウェーイもたまにはね。
Mummy-D ウェーイ、大事よ。マイウェイ(WAY)だよ、マイウェーイ。
──マイウェイ(笑)。
宇多丸 マイウェーイになってればいいんだけど、お前のそれマイウェイじゃなくて誰かのウェーイだろと。
──ははは(笑)。誰かのウェーイじゃなくて自分のウェーイを見つけろよっていう。
一同 あははは!(笑)
宇多丸 確かにさ、ジャンルに限らず毎回「なんでこれ、この形なの?」を考えてやったほうがいいよね。考えずにやってるヤツ見てると、だんだんイライラしてくるじゃん。なんか今流行ってるからとか雰囲気でやってんだろと。そういう感じかな。
窮屈な世界でせめて美しくあろう
──僕は初めに言ったように、どうして“Beautiful”っていう言葉を選んだのかがすごく気になるんです。なぜ“Beautiful”がいいなと思ったんですか?
Mummy-D うーんとね……今、何が正しいかはすごくわかりにくくなってるじゃん。いろんな人のいろんな“正しい”があって、正しさには幅があって、幅があることにすら気付いてない人たちがお互いを罵り合って、不寛容になっていく。どんどん窮屈な世界になってる感じがするし、俺らも大人になったのに、例えば日本の歴史を見てもあのときの選択が正しかったかどうかとか全然わかんなくてさ。そういう中でどうやって生きていったらいいのか考えたときに、少なくとも美しくあろうとすることは間違ってないだろうって。すごく消極的なメッセージではあるんだけど、やっぱり間違ってるものはどこか醜いんじゃないかなとか、そういう答えに落ち着いたの。「せめて」とか枕詞が必ず付くんだけど、美しくなろうとすることはたぶん間違いじゃないだろう、そういう意味なんだけど。
──うんうん。その「せめて」とか「それでも」っていうスタンスがRHYMESTERの一番好きなところなんですよね、僕。先ほども言いましたけど、「ビタースイート」は二元論的表現ですが、今回そこに加えられた「美しさ」はハッキリしているようでとても曖昧な言葉ですよね。
Mummy-D そうだね。
──その曖昧さっていうところにメッセージがある。このアルバムは幅のあるメッセージを提示してると思うんです。僕は「ビターとスイートの間の幅」について考えさせられたんですが、実は、これはヒップホップの手法だと表現しにくいことなんじゃないかなって。
Mummy-D そうだよそうだよ。みんな、もっと「白です!」「黒です!」って言ってほしい。そんなときに「The Choice Is Yours!(選ぶのはキミだ)」とか言われるよりは「原発反対!」とか「戦争反対!」のほうが絶対スカッとするんだよ。でもそれはちょっと違うって俺らは考えるから、このモヤモヤした感じを歌に落とし込んで「どうですか?」って聴いてもらう手法(笑)。
宇多丸 俺はアルバムのこの曲順がすごい重要だと思ってて。「Beautiful」単体だとモヤモヤしたまんまだけど、次に「人間交差点」が来ることで急に人数が増えるっていうか、それまで1人が悩んでたのが「っていう人がいっぱいいます」って立ち上がってくる流れだと思うのね。
DJ JIN うんうん。
宇多丸 カタルシスを生みづらいことを言ってるんだけど、なんとかカタルシスを感じる構成にできたんじゃないかと思う。まあ、そもそも「Beautiful」は「人間交差点」の前に来る曲として作ったから、若干いやらしい計算はあるわけだけど(笑)。
──本当にアルバム全体の流れが素晴らしいですよね。「フットステップス・イン・ザ・ダーク」から中盤まではテーマがガーッと表現されていって、中盤から視点が俯瞰になっていくのかなって思うんです。カメラがグーッと引いていく。8曲目の「ガラパゴス」あたりから「The X-Day」「Beautiful」……「人間交差点」はかなり俯瞰で歌ってて、そこから「サイレント・ナイト」「マイクロフォン」で今度は自分に返ってくるというか。外に放った矢印が最終的に自分に戻ってきて深く刺さって終わるという構成になってるかと思います。最後に“個”に戻り、己の矜持を示すというこの構成を取られたらもう反論しようがないというか、実に隙のない構造だと思いました。まさに、美しい。
DJ JIN さすがでございます。
宇多丸 素晴らしい。
──そしてその隙のない構造っぷりが、この「Bitter, Sweet & Beautiful」っていうタイトルに集約されてるというか。タイトルの時点でもう間違いないと思っていたわけですが、これがアルバムを聴き終わる頃には、「よし、勝った!」になってました(笑)。
Mummy-D はははは(笑)。
宇多丸 誰のアルバムだよっていう(笑)。
──ははは(笑)。
宇多丸 でもうれしいなー。ラストの「マイクロフォン」はさ、セルフボースト(自己賛美)でもあるけど「みんなそれぞれやってけばいいじゃん」「みんな意見言えばいいじゃん」みたいなメッセージでもあるから。「フットステップス・イン・ザ・ダーク」の孤独な主観から始まって、次第に視点が俯瞰になって、最後はやっぱりそれぞれの個人の立ち位置に帰っていく。そう意図した流れだからうれしいですよ。
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- ニューアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」2015年7月29日発売 / starplayers Records
- 「Bitter, Sweet & Beautiful」
- 初回限定盤A [CD+Blu-ray] 4104円 / VIZL-846 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤B [CD+DVD] 3780円 / VIZL-847 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64371 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- Beautiful - Intro(DJ JIN and SWING-O Produce)
- フットステップス・イン・ザ・ダーク(PUNPEE Produce)
- Still Changing(BACHLOGIC Produce)
- Kids In The Park feat. PUNPEE(PUNPEE Produce)
- ペインキラー(KREVA Produce)
- SOMINSAI feat. PUNPEE(PUNPEE Produce)
- モノンクル(PUNPEE Produce)
- ガラパゴス(BACHLOGIC Produce)
- The X-Day(Mr. Drunk Produce)
- Beautiful(DJ JIN and SWING-O Produce)
- 人間交差点(DJ JIN Produce)
- サイレント・ナイト(PUNPEE Produce)
- マイクロフォン(BACHLOGIC Produce)
初回限定盤A Blu-ray / 初回限定盤B DVD収録内容
- 「6 minutes of #nkfes」(人間交差点 2015ダイジェスト映像)
- 「SOMINSAI feat. PUNPEE」(人間交差点 2015)
- 「Still Changing」ミュージックビデオ
- 「人間交差点」ミュージックビデオ
副音声:宇多丸・Mummy-D・DJ JINによる元祖・生(ビール)コメンタリー
KING OF STAGE VOL. 12 Bitter, Sweet & Beautiful Release Tour 2015
- 2015年9月24日(木)神奈川県 CLUB CITTA'(※公開リハーサル)
- 2015年9月27日(日)大阪府 Zepp Namba
- 2015年10月4日(日)高知県 X-pt.
- 2015年10月9日(金)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2015年10月12日(月・祝)愛知県 Zepp Nagoya
- 2015年10月18日(日)青森県 LIVE HOUSE SUNSHINE
- 2015年10月20日(火)宮城県 space Zero
- 2015年10月25日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2015年11月1日(日)静岡県 SOUND SHOWER ark
- 2015年11月3日(火・祝)茨城県 VOICE
- 2015年11月8日(日)沖縄県 桜坂セントラル
- 2015年11月10日(火)鹿児島県 SR HALL
- 2015年11月15日(日)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2015年11月22日(日)富山県 MAIRO
- 2015年11月29日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
RHYMESTER(ライムスター)
宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。
なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。
小出祐介(コイデユウスケ)
ロックバンド・Base Ball Bearのボーカル&ギター。2001年、同じ高校に通っていた関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)と学園祭に出演するためにバンドを結成。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たし、2010年1月には初の日本武道館単独公演を実施。近年は他アーティストとのコラボレーションも盛んになり、2012年に7月に発表したミニアルバム「初恋」でヒャダインや岡村靖幸と、2013年6月リリースのミニアルバム「THE CUT」では、RHYMESTERや花澤香菜と、それぞれ共演している。2015年8月から「シリーズ“三十一”」と題し、3カ月連続で“エクストリームシングル”をリリースする。