音楽ナタリー Power Push - RHYMESTER

小出祐介(Base Ball Bear)がライムスに問う“美しさ”の秘密

こんにちは、Base Ball Bearの小出祐介です。このたびリリースとなるRHYMESTERのニューアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」。アルバムのリリース決定ニュースとともにタイトルを知った僕は、音を聴いてもいないのに、「これは間違いないアルバムだ!」「このアルバムを一番好きなのはぜってーオレだ!」といても立ってもいられなくなり、知人のライターさんを通じて「インタビューをやらせてください!」と、ナタリーおよびRHYMESTERサイドへの逆オファーをしました。RHYMESTERのいちファンであり、コラボ楽曲制作やライブ共演を経験している僕だからこそ聞ける話があるはずだと思ったのと、何より、フィールドは違えど、同じ音楽シーンの中で今RHYMESTERと僕(らBase Ball Bear)は“同じような感覚”を抱いているのではないか、と思ったからです。実際、取材決定後にアルバム音源を聴かせてもらい、自分の直感は間違っていなかったと確信しました。

こうして、取材当日。質問や構想をしたためたノートとPCを持つ僕を見たRHYMESTERの3人から、「ライターさんっぽい!」と言われて、「ナタリーの小出です!」と返したところから取材は始まりました。いささかインタビュアーがしゃべりすぎですが(笑)、このアルバムの持つ“美しさ”に迫ります。

取材・文 / 小出祐介(Base Ball Bear) 撮影 / 小原啓樹

タイトルを見た瞬間に「間違いない」と思った

──このアルバムのニュース出しの日、まさにナタリーでアルバムの情報を知ったのですが(参照:RHYMESTER「美しく生きること」表現したアルバム発売、KREVAの初参加曲も)、タイトルを見た瞬間に、「これはもう間違いない」と思いまして。

宇多丸 お。タイトルから想像するのと、実際の内容に違いはあった?

──今回のインタビューは音源を聴く前に「僕にやらせてください!」ってお願いしたんですけど、音源聴いて「やっぱり間違いなかった」と。本当に素晴らしいアルバムでした。

Mummy-D ホントにライターさんみたい(笑)。

左からMummy-D、DJ JIN、宇多丸、小出祐介(Base Ball Bear)。

──(笑)。まず、タイトルが「Bitter, Sweet」だけだったら僕はここまで反応しなかったんじゃないかと思うんです。でもそこに、「& Beautiful」を付けたところに今のRHYMESTERの視座を感じたんですね。「Bitter, Sweet」という二元論、苦いか甘いか、白か黒か、敵か味方か、というところに、まったく違う第3の視点の「Beautiful」っていう形容詞。それによって、言ってしまえば、「Bitter, Sweet」の部分がボヤけて意味が曖昧になっちゃいますよね。でもそのボヤかしたところこそが、このアルバムの本質的な部分だなって僕は思ったんです。

RHYMESTER一同 おおおー。

宇多丸 俺らも「焦点がボケるか?」みたいな迷いはあって。でもまさにもう1個違う視野っていうか、「え、それってどういうこと?」っていうのは入れたかったんだよね。もともとビタースイートっていう言葉もあるし、これだけでもどういう作品かはなんとなく伝わるだろうけど、そこに第3の要素でちょっと謎かけを入れることで、タイトルを見た人がこのアルバムの深みにハマろうかなって気持ちになるんじゃないかって。「『Bitter, Sweet & Beautiful』って、この文字式はどういうことなんだ?」と。

──僕らが一緒にやった「The Cut -feat. RHYMESTER-」(Base Ball Bear「THE CUT」収録曲)はまさに、白か黒か決めるんじゃなく、曖昧な中で自分の主観を切り取れ、という曲でしたよね。

Mummy-D ああー確かにそうだね。

──「Bitter, Sweet & Beautiful」はリリックの中にもそういうフレーズが印象的に出てきます。例えば宇多さんのリリックは、人生や世界をドキュメンタリー的に俯瞰したフレーズや、映像的というより撮影手法そのものを羅列することでメタ的な深みを感じさせるものがあったりもしますよね。

宇多丸 「フットステップス・イン・ザ・ダーク」の歌詞とかはそうだよね。

──そのあたりが今回のアルバム全体における視座を象徴するものなのかなと思っていて。それが「Beautiful」という曲にどうつながっていくのか、なぜ“Beautiful”というワードに至ったのかというところなどなどを、今日はお聞きしたいと思っております。

RHYMESTER一同 はははは(笑)。

Mummy-D 長い前フリだったね(笑)。

──一応僕のスタンスを伝えておこうと思いまして(笑)。

左から宇多丸、小出祐介(Base Ball Bear)。

宇多丸 でも面白いなあ。

Mummy-D うれしいです。面白い。

宇多丸 やっぱタイトル付けは命賭けるからね。

──そうですよね。

Mummy-D でも、今のだけで、もう正解だったんだなって。よかったよね。

宇多丸 よかったー。

DJ JIN よかった。

──僕もよかったです。

宇多丸 さすがコイちゃん。

最初のミーティングは2013年1月

──今回、制作には時間がかかってましたよね。いつ頃から始まったんですか?

宇多丸 「ダーティーサイエンス」の制作が終わった直後から始まって、アルバムに向けての最初のミーティングはなんと2013年1月です。

──え、じゃあ僕らが初めてちゃんと話したあの頃から?

Mummy-D そうそうそう。

──マジ!? めっちゃ昔じゃないですか!

Mummy-D めっちゃ昔だよね。

──最初のすり合わせはどんな感じだったんですか?

左からMummy-D、DJ JIN、宇多丸、小出祐介(Base Ball Bear)。

Mummy-D 前作は音像的にもけっこうノイジーというかラフな感じだったから、そのカウンターではないけど、次のアルバムはメロウネスみたいなものを追求する感じで……とか言ってたのね。アゲ曲がないくらいの。あと、「どっちかっていうと音楽的に正しいほうのアルバムにしようか」みたいなことも。ヒップホップって音楽的に間違ってるところをグイグイ出してったりすんだけど、素直に「いい曲だね」って思われるみたいな。「次はグッドミュージック感が出ちゃっていいかもね」みたいなこと言ってたの。具体的に言うと「“アダルトオリエンテッドラップ”で“AOR”ってどうかな」とか。

──AOR、はははは(笑)。

宇多丸 いやそれが、全然冗談抜きで。大人な感じ。アダルトオリエンテッドですよ。

──なるほどなるほど。

Mummy-D だけど、その間に(レーベル)移籍とかがあったから、あんまりイレギュラーなアルバムもちょっと違うかなとか、いろいろ葛藤があって。

──移籍云々とか実務的なところでテーマが揺れ始めちゃったんですかね?

宇多丸 揺れ……たんだけど、今年の頭に「Still Changing」を映像で出したら(参照:RHYMESTER、お年玉代わりに新曲「Still Changing」PV公開)けっこう評判がよくて、“再出発”とか“仕切り直し”みたいなイメージの曲はこれでもういいじゃんって。だからやっぱアルバムはコンセプト作でいいんじゃないかっていうことになったの。「やっぱり間違ってなかった」と。だから、意外と最初に話した通りのアルバムになってる気もする。

──なるほど、最終的にはやっぱりここだったなと。

宇多丸 アゲ曲ゼロとは言わないけど、アダルトオリエンテットなアルバムじゃないかなと。言ってることもトラックも。

──不思議なもんで、歌詞書くにしろなんにしろ、ファーストインプレッションからってなかなか逃れられないんですよね。最初に決めた方向から変わっていくことはあるけど、やっぱり最初に「こうしよう」って思ったことを1回やっとかないと次に行けない。死産にできないというか。だから、紆余曲折あって、検証もした上で、最初の構想に戻ってくるっていうのはすごく賢明な判断だと僕は思います。

宇多丸 うんうん。そうなんだよね。

Mummy-D 一度吐き出さないと次に行けないっていうのはすげえわかる。

ニューアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」2015年7月29日発売 / starplayers Records
「Bitter, Sweet & Beautiful」
初回限定盤A [CD+Blu-ray] 4104円 / VIZL-846 / Amazon.co.jp
初回限定盤B [CD+DVD] 3780円 / VIZL-847 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64371 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. Beautiful - Intro(DJ JIN and SWING-O Produce)
  2. フットステップス・イン・ザ・ダーク(PUNPEE Produce)
  3. Still Changing(BACHLOGIC Produce)
  4. Kids In The Park feat. PUNPEE(PUNPEE Produce)
  5. ペインキラー(KREVA Produce)
  6. SOMINSAI feat. PUNPEE(PUNPEE Produce)
  7. モノンクル(PUNPEE Produce)
  8. ガラパゴス(BACHLOGIC Produce)
  9. The X-Day(Mr. Drunk Produce)
  10. Beautiful(DJ JIN and SWING-O Produce)
  11. 人間交差点(DJ JIN Produce)
  12. サイレント・ナイト(PUNPEE Produce)
  13. マイクロフォン(BACHLOGIC Produce)
初回限定盤A Blu-ray / 初回限定盤B DVD収録内容
  • 「6 minutes of #nkfes」(人間交差点 2015ダイジェスト映像)
  • 「SOMINSAI feat. PUNPEE」(人間交差点 2015)
  • 「Still Changing」ミュージックビデオ
  • 「人間交差点」ミュージックビデオ

副音声:宇多丸・Mummy-D・DJ JINによる元祖・生(ビール)コメンタリー

KING OF STAGE VOL. 12 Bitter, Sweet & Beautiful Release Tour 2015
  • 2015年9月24日(木)神奈川県 CLUB CITTA'(※公開リハーサル)
  • 2015年9月27日(日)大阪府 Zepp Namba
  • 2015年10月4日(日)高知県 X-pt.
  • 2015年10月9日(金)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
  • 2015年10月12日(月・祝)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2015年10月18日(日)青森県 LIVE HOUSE SUNSHINE
  • 2015年10月20日(火)宮城県 space Zero
  • 2015年10月25日(日)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2015年11月1日(日)静岡県 SOUND SHOWER ark
  • 2015年11月3日(火・祝)茨城県 VOICE
  • 2015年11月8日(日)沖縄県 桜坂セントラル
  • 2015年11月10日(火)鹿児島県 SR HALL
  • 2015年11月15日(日)岡山県 YEBISU YA PRO
  • 2015年11月22日(日)富山県 MAIRO
  • 2015年11月29日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
RHYMESTER(ライムスター)

RHYMESTER宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。
なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。

小出祐介(コイデユウスケ)

ロックバンド・Base Ball Bearのボーカル&ギター。2001年、同じ高校に通っていた関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)と学園祭に出演するためにバンドを結成。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たし、2010年1月には初の日本武道館単独公演を実施。近年は他アーティストとのコラボレーションも盛んになり、2012年に7月に発表したミニアルバム「初恋」でヒャダインや岡村靖幸と、2013年6月リリースのミニアルバム「THE CUT」では、RHYMESTERや花澤香菜と、それぞれ共演している。2015年8月から「シリーズ“三十一”」と題し、3カ月連続で“エクストリームシングル”をリリースする。