音楽ナタリー PowerPush - RHYMESTER

進化し続ける3人の新たな一歩

RHYMESTERのヒップホップ感

──そのRHYMESTERのバランス感とは具体的にどういうことなんですか? 前回のインタビューで、ヒップホップに演歌的要素を取り入れることについて「『芸のためなら女も泣かす』くらいならヒップホップの美学に反しない」(参照:RHYMESTER「The R ~The Best of RHYMESTER 2009-2014~」インタビュー)と話していましたよね。

宇多丸

宇多丸 ……普段は意識してないけど、俺はヒップホップとはすごく広い意味で“強さ”を与えてくれるものだと思ってるんだよね。KREVAがAKLOの曲のカッコよさを説明するとき、「昔キングギドラを聴いてたときもそうだったんだけど」って前置きして「聴いてて自分が強くなったような気がする」って言ったんですよ。それって「なぜヒップホップを聴くのか?」という自分たちへの問いかけに対する答えとして、かなりいい線いってるかもって思ったんです。

──RHYMESTER的なヒップホップ感とは広義の“強さ”である、と。

宇多丸 そう。「俺はこの世の中でちゃんと強く生きているんだ」と感じられるもの。それがヒップホップか否かを分ける、俺たちにとっての線引きになってるんですよ。だから「芸のためなら女も泣かす」くらいならありだけど、泣きながら歌ったりするのはなしかな、と。

──RHYMESTERはそのヒップホップ感を、さまざまなスタイルで翻訳して曲にしているわけですね。

宇多丸 たぶんその翻訳の仕方がそれぞれのアーティストの色になってると思うんだ。KREVAはその「強くなった感じ」から「前向き」「ポジティブ」っていう要素を抽出しているんですよ。それなら日本の若者の感覚にも合うし、ヒップホップとしてもいけると彼が感じたから。俺らは彼みたいな前向き人間ではないから(笑)、こういう感じになってるっていう。

日本語のラップは聞き取れるべきなのか?

──今回はいつにも増して、ラップが聞き取りやすいですね。

Mummy-D 俺らがJ-POP市場に自分たちのヒップホップを投入する際に重視しているのは、日本人離れしないということでさ。RHYMESTERというグループのキャラクターから考えて、俺らが日本人離れしたカッコよさを追求するのは無理だと思うんだよね。だとすると、俺らが勝つには日本人であることを思いっきり出さないと。そのためには言葉にこだわらなければならない。それが俺らの武器だから。

──なるほど。

Mummy-D

Mummy-D もしも歌詞を聴き取れないことで生まれるラップのカッコよさがあるんだったら、俺らはそれを捨てる勇気を持っているよ。その代わり自分たちの武器を強くするための努力は惜しまない。例えば自分の歌ったものをデモの段階で聴いて、歌詞カードがないとなんて言ってるかわかんないとか、聞き取れないと思ったら、文言を直して録り直すし。

宇多丸 うっかり日本語本来のイントネーションとは違う感じで言ってしまったところを直したりね。

──ラップでJ-POP市場に勝負を挑む場合、そのくらい日本語にこだわらなければいけないのでしょうか?

Mummy-D いやいや。これはあくまで俺たちのやり方というだけ。若い子たちにはこのやり方は勧められないよ。

──なぜですか?

Mummy-D この方法論を突き詰めていくと、最終的には“RHYMESTERっぽく”なっちゃうから。最近はあえて日本語が聴き取れないようなフロウでラップのカッコよさを追求してる若い子も多くてさ。そんなときに俺らが「日本語が聞き取れないっ!」なんて言ってしまうのは野暮だと思うんだ。だって、その若い子たちから俺らも思い付かなかったような新しい表現が生まれるかもしれないじゃない?

ニューシングル「人間交差点 / Still Changing」 / 2015年4月29日発売 / starplayers Records
初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 4500円 / VIZL-837
初回限定盤B [CD+DVD] / 3700円 / VIZL-828
通常盤 [CD] 1188円 / VICL-3705
CD収録曲
  1. 人間交差点
  2. Still Changing
  3. 人間交差点(Instrumental)
  4. Still Changing(Instrumental)
  5. 人間交差点(Acapella)
  6. Still Changing(Acapella)
初回限定盤A Blu-ray / 初回限定盤B DVD収録内容
  1. The R~Walk This Way
  2. 午前零時~Once Again
  3. The Choice Is Yours
  4. K.U.F.U.
  5. サバイバー
  6. ちょうどいい(Piano Session With Kan Sano)
  7. It's A New Day(Piano Session With Kan Sano)
  8. Pop Life(Piano Session With Kan Sano)
  9. After The Last~そしてまた歌い出す
  10. Just Do It!
  11. 付和Ride On
  12. Hands
  13. ザ・グレート・アマチュアリズム(Piano Session With Kan Sano)
  14. ゆめのしま(Piano Session With Kan Sano)
  15. ラストヴァース
  16. This Y'all, That Y'all(Session With SCOOBIE DO)
  17. 余計なお世話だバカヤロウ

副音声:宇多丸・Mummy-D・DJ JINによる元祖・生(ビール)コメンタリー

RHYMESTER Presents
野外音楽フェスティバル 人間交差点 2015
2015年5月10日(日)東京都 お台場野外特設会場
<出演者>
RHYMESTER / スガシカオ / KGDR(ex. キングギドラ) / 10-FEET / MIGHTY CROWN / SOIL & "PIMP" SESSIONS / スチャダラパー / SUMMIT(PUNPEE、GAPPER、SIMI LAB、THE OTOGIBANASHI'S)/ SUPER SONICS / レキシ / DJ JIN
「RHYMESTER Presents 野外音楽フェスティバル 人間交差点 2015」特集 / 宇多丸×Zeebra対談
RHYMESTER(ライムスター)

RHYMESTER

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。

2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。フェスなどにも積極的に出演し、ヒップホップシーンを飛び越えてさまざまなシーンから支持されるアーティストへと成長した。

2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立した。4月29日にシングル「人間交差点 / Still Changing」をリリースし、5月10日に東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催する。

なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。