音楽ナタリー PowerPush - RHYMESTER

3人の“ちょうどいい”バランス感

ヒップホップグループとバンドの違い

──RHYMESTERがフェスなどでバンドの肉体性と互角以上に戦えているのはなぜですか?

Mummy-D それは「ONCE AGAIN」以降の曲作りの話と共通しているけど、「ヒップホップだからこれでいいんだ」って考え方は捨てたからだよね。俺らはDJとラッパーだけだけど、バンドはギター、ベース、ドラム、キーボード、ホーン……、それぞれがその場でしか出せない音を出してる。ステージ上で起きていることはバンドのほうが圧倒的に多いんだよ。だってバンドは、後ろ向いてチューニングしてるだけでサマになるんだぜ(笑)。そうなると、お客さんは俺らのライブはつまんないんじゃないか、って思うようになってさ。

──そこでRHYMESTERはどういう工夫をしたんですか?

Mummy-D 俺たちはその場で起きてることが少ないぶん、常に何をすればいいのか3人がそれぞれ考えながらライブしてる。バンドの人よりも動いて躍動したり、チューニングしないぶんMCで面白い話したり。あとはイントロの長さをあえて決めないで、その場で何かアクシデントが起こるようにしたりね。

DJ JIN 確かにバンドの肉体性や圧力はすごいものがあってそれもまた最高なんですが、俺はRun-DMCとかPublic EnemyとかのライブでDJが2枚使いやスクラッチをガシガシしてるところにラップが絡んでものすごいエナジーを生んでいくのに衝撃を受けたんですよ。いままでの音楽にあり得ない感じで。それを観てヒップホップにやられたというか。そういう気持ちを忘れないようにしたいんですよね。

──9月21日に東京・Billboard Live TOKYOで行ったライブ「RHYMESTER presents J20」(参照:ライムス、“2枚使い”追求した初ビルボード公演)なんかは、まさにそういうライブでしたね。DJ JINさんの2枚使いのスクラッチにラッパーが絡んでいくという。

DJ JIN 2002年に「ウワサの伴奏-And The Band Played On-」ってアルバムを出したんだけど、あれが俺らのキャリアにおけるキーになってるんだよね。俺はヒップホップスタイルのカッコよさも間違いないという思いがあるけど、あのタイミングでバンドの人たちのミュージシャンシップみたいなものを知ることができた。だから、今の俺らはバンドとヒップホップのいいところを吸収できてるんだと思いますよ。

RHYMESTERのバランス感

──先ほどから話を伺っていると、RHYMESTERは絶妙なバランスの上で成り立っているような気がします。

DJ JIN いつ見ても一筋縄ではいかない感があるんじゃないかな。

──それは具体的にどんなところが?

DJ JIN(Photo by cherry chill will)

DJ JIN 例えば、歌詞だったらトピックの1側面を歌ったら、必ず逆に感じられることも言うとか。音にしても今っぽいハイファイなのもやれば、ビンテージっぽいファンクサウンドとかもやるし。ライブでもターンテーブルライブをストイックにやることもあれば、ミュージシャンとセッションすることもある。そういったものが何重にも入り組んでいるのが俺らの強みだし、ファンの人もそういうところを楽しみにしてくれてると思うよ。

宇多丸 ライブでやってることはマッチョだけど俺ら自身は全然そう見えないし、じゃあ文系ラップかと聞かれれば全然そんなこともなくて。ヒップホップの王道ではないはずなんだけど、オルタナティブかと聞かれれば、むしろ王道寄りだし。メジャーど真ん中というには特異な存在感なんだけど、アンダーグラウンドではないっていう(笑)。

DJ JIN 特殊ですよね。

──そういう一筋縄でないものをポップにアウトプットするのはすごく難しいと思います。

宇多丸 まあね、毎回アルバム制作なんて「なんでこんな苦労しなくちゃいけないんだ!?」「もう無理、作れない!」って思いながらやってるから(笑)。俺らのバランス感って、口で説明するのは難しいし、端からは気付かれにくい。でも、その微細なバランスを無意識にでも違いとして受け取ってもらえればってとこだよね。

──若手アーティストで自分たちに近いスタンスだと思うグループやラッパー、トラックメーカーはいますか?

宇多丸 THE OTOGIBANASHI'Sとか、いい意味で、ライブ観たらいい意味でFG(FUNKY GRAMMAR UNIT)っぽい感じもあるなーって思いましたね。

Mummy-D あいつら、売れちゃうんじゃない?

宇多丸 売れたら、舌打ちですよ(笑)。

今後は若手アーティストとも絡みたい

──THE OTOGIBANASHI'Sもそうですが、昨今さまざまなラッパーたちが出現していますね。

宇多丸 うん。みんなカッコいいんだけど、周りにディレクションしてあげる人がいたほうがいいと思うんだよね。これは(高木)完ちゃんも言ってたことなんだけど。

──どういうことでしょう?

宇多丸 今、アメリカのラップのテクニックが高度化してるから、それを日本語に置き換える作業が俺らの頃よりもっと難しくなってるんですよ。

Mummy-D アメリカではヒップホップのリズムがどんどん複雑になってきてて、昔みたいに普通にしゃべる早さでラップを乗せるような感じじゃなくなってきてて。すごく遅いテンポの中に早口で言葉を詰め込んだり、逆に早いテンポであえて言葉を詰め込まなかったり。で、今の子っていうのはそういう複雑なラップやリズムが頭の中で鳴ってるから、その頭の中の音を再現しようとすると、英語の密度がどうしても必要になってきちゃうんだよ。

──日本語ではダメなんですか?

Mummy-D なんか日本語でやるともっさりしちゃってカッコ悪いんだよね。若い子はそのもっさり感が嫌だから英語っぽいラップになっちゃうんだと思うんだ。ただこっちとしては「やっぱり日本語の響きとかは大事にしないといけないのにな」っていうのもあって。

──そういった部分でディレクションできる人がいたほうがいい、と。

宇多丸 うん。でもそこらへんは難しいよね。おじさんとしては今はそういう縛りを付ける時期じゃないのかな、とも思うし。

Mummy-D 作る側は真理とか構わずに、新しいことにチャレンジしてるほうが楽しいんだよ。余計な入れ知恵したら、かえってちっちゃいものになってしまうかもしれない。若い子たちは自分たちのやり方で、前の世代を否定していかなければならない。それはどのジャンルも一緒。日本語ラップを日本語として違和感なく日本人がやってみせるっていうベーシックな部分は俺たちが完璧に作っちゃったから、そこにはもう開拓の余地がないんだよ。

──今後、RHYMESTERが若手ヒップホップアーティストをディレクションしていく、なんて計画はないんですか?

Mummy-D これからはちょっと若手と絡んでいきたいなって気持ちがすごくあって。実際そういうプロジェクトというか、曲も進んでるし。フェスとかも企画してて。ちょっと人のためにも、シーンのためにもがんばろうと思ってるよ。

9月21日に東京・Billboard Live TOKYOで行われたRHYMESTER「RHYMESTER presents J20」の様子。(Photo by cherry chill will)
ベストアルバム「The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~」2014年9月24日発売 / Ki/oon Music
「The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~」
初回限定盤 [CD+Blu-ray] 5184円 / KSCL-2478~9 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [CD+DVD] 4104円 / KSCL-2476~7 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3024円 / KSCL-2480 / Amazon.co.jp
完全限定生産盤 [アナログ3枚組] 4104円 / KSJL-6175~7 / Amazon.co.jp
CD / アナログ盤収録曲
  1. ONCE AGAIN
  2. K.U.F.U.
  3. Come On!!!!!!!!
  4. ラストヴァース
  5. ちょうどいい Piano session with SWING-O
  6. Walk This Way
  7. そしてまた歌い出す
  8. Hands
  9. POP LIFE
  10. 余計なお世話だバカヤロウ
  11. トーキョー・ショック feat. COMA-CHI
  12. フラッシュバック、夏。
  13. サマー・アンセム feat. 小野瀬雅生(CRAZY KEN BAND)
  14. The Choice Is Yours
  15. ゆめのしま
  16. It's A New Day Piano session with SWING-O
  17. This Y'all, That Y'all session with SCOOBIE DO
初回限定盤 Blu-ray / DVD収録内容
<RHYMESTER Best & Rare Live Selection>
  1. キング オブ ステージ at Shibuya AX 2002(KING OF STAGE Vol. 4 ~ウワサの真相 Release Tour~)
  2. 10 balls+2 feat. KICK THE CAN CREW、竹内朋康(SUPER BUTTER DOG)、TOMOHIKO(SUPER BUTTER DOG)at 日比谷野外大音楽堂 2004(KING OF STAGE Vol. 5 ~グレイゾーン Release Tour~)
  3. ウワサの真相 feat. ゴスペラーズ at Shibuya AX 2004(Sony Music Fes. 2004)
  4. ウィークエンド・シャッフル feat. MCU、KREVA、CUEZERO、CHANNEL、KOHEI JAPAN、LITTLE、GAKU-MC、SONOMI、K.I.N.、童子-T + Romancrew at 日比谷野外大音楽堂 2006(KING OF STAGE Vol. 6 ~HEAT ISLAND Release Tour~)
  5. I Say Yeah! - PUSHIM、RHYMESTER、HOME MADE 家族、マボロシ、May J. at Shibuya AX 2006(NeOSITE 10th. Anniversary Party)
  6. リスペクト feat. ラッパ我リヤ at 日本武道館 2007(KING OF STAGE Vol. 7~メイドインジャパン at 日本武道館~)
  7. ONCE AGAIN Remix feat. DABO、TWIGY、ZEEBRA at JCB HALL 2009(R20 RHYMESTER 20th Anniversary)
  8. ラストヴァース at ZEPP TOKYO 2010(KING OF STAGE Vol. 8 ~マニフェスト Release Tour~)
  9. オイ! at Shibuya AX 2011(R10 ~POP LIFE Release Event~)
  10. ザ・ネイバーズ at ZEPP TOKYO 2011(KING OF STAGE Vol. 9 ~POP LIFE Release Tour~)
  11. into the night session with ねごと at LIQUIDROOM 2012(キューン20)
  12. Come On!!!!!!!! at パシフィコ横浜国立大ホール 2013(KING OF STAGE Vol. 10 ~ダーティーサイエンス Release Tour~)
RHYMESTER(ライムスター)

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成となる。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」をリリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるもグループは活動休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動を再開する。宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとして活動中。2014年9月24日に活動再開後の音源をまとめたベストアルバム「The R ~The Best of RHYMESTER 2009-2014~」を発表した。