音楽ナタリー PowerPush - RHYMESTER

3人の“ちょうどいい”バランス感

チェケラッチョーくん

──「The R」のブックレットでDさんが「マボロシでの活動期に“日本語ラップ”がどう見られているのかを思い知った」という旨の発言をされていましたね。

Mummy-D マボロシはヒップホップシーンの外で活動していたから、“日本語ラップ”がシーン以外の人たちからどう見られているかってことを知ったというか。簡単に言っちゃえば、俺はただの“チェケラッチョーくん”だったっていう。

──どういうことですか?

Mummy-D ヒップホップには、いわゆるヒップホップゲームというものや、守らなくてはいけないルールというものがあって。俺はその中で自分が何にも縛られていない、自分の中から出てきた“マイミュージック”を作ってるつもりだったんだよ。でも俺がロックシーンの人とコラボしたりして、その反応をネットで見てみたら「クソラップ、イラネ」「シネ」とかすごくてさ(笑)。それで傷付いたりはしなかったんだけど、世間から見たら俺はただの“チェケラッチョーくん”だったんだなーってことに気付かされて、それがショックだったんですよ。

──なるほど。

Mummy-D でも俺らもヒップホップという縛りを言い訳にして音楽を作ってた部分があったんじゃないかとも考えたりして。俺が見たロックの人たちは、曲をよくするためにものすごい覚悟をもってたし、信じられないような努力もしてたからさ。

──「ONCE AGAIN」以降、RHYMESTERが外部プロデューサーと仕事をするようになったのもそれが関係しているんですか?

DJ JIN 外部プロデューサーを導入しようって話は、前からあったんですよ。全面的とは言わないまでも。

Mummy-D (「ONCE AGAIN」以前のRHYMESTERは)ラップもサウンドも自分たちで作った“RHYMESTERサウンド”を売りにしてたこともあって、結局実現しなかったんだよね。でも俺がRHYMESTER休止期間に出会った人たちはもっと大きな視点から楽曲制作というものを捉えてて、完璧な分業体制を敷いてた。それを目の当たりにしたら、もう俺らも甘えてらんないなって。

宇多丸 それで「ONCE AGAIN」を作る前に決起集会みたいなのをやったんですよ。「ONCE AGAIN」は復帰一発目だったから今までと同じことをしてもしょうがないし、意表を突く出方じゃないといけないよねってことは言ってて。そこでDの話もあって「じゃあ誰とやろうか?」ってなったら「BL(BACHLOGIC)しかないっしょ」って。今でこそライムスとBLはよく一緒にやってるけど、当時は「えっ、BLとやるんですか? 合わなくないですか?」とか平気で言われましたからね。

ヒップホップの美学と演歌の心

──宇多丸さんはブックレットで「ラストヴァース」を“演歌的”と評していましたね。

Mummy-D 演歌は日本の心だから(笑)。

宇多丸(Photo by cherry chill will)

宇多丸 (笑)。「ラストヴァース」のトラックはすごく大仰じゃない? 俺、最初に聴いたとき笑っちゃったもん。このトラックではあえて振り切った表現をしたほうがポップになると思ったから、それまでの俺らだったらしなかったような表現に挑戦してみたんだよ。だいたいのリスナーは微妙な感情の機微よりも、情緒とかエモーションのほうをキャッチする。だから「ラストヴァース」はああいう表現になったんだよね。それはさっきDが言った、曲をよくするための覚悟みたいな部分が関係してるかな。

Mummy-D 情緒を表現するには、どうしたって演歌的な要素が入ってきちゃう。俺らはそれをどのレベルで出すかというか、どうやって表現するかって話だよね。

宇多丸 もちろん俺ら自身は聴いてる人を微妙な気持ちにさせるような曲のほうが好きだし(笑)、それが俺ららしさでもあると思うんだけど。

──“RHYMESTERらしさ”とのバランスをとりながら、状況に応じて演歌的要素をアウトプットしているということですね。

宇多丸 そうそう。あと1曲1曲では振り切った表現をしていても、アルバムとして僕ららしいバランスになっていればいいという部分もあるよ。Nasの曲で最後泣いちゃってるみたいな曲があってさ。あれなんだっけ?

Mummy-D 「One Mic」じゃない? 俺、大っ嫌いだったもん(笑)。

宇多丸 歌いながら泣いちゃうのは、いくらなんでも振り切りすぎじゃないかとか(笑)。そういうバランスだよね。それに演歌にもいろいろあって、歌い手が泣いちゃうようなやつもあれば、「男はグッと堪えて日本酒を飲む」とか「芸のためなら女房も泣かす」とかくらいならヒップホップ的な美学にも反しないでしょ。「メソメソすんじゃねえよ」っていうのはどうしてもあるよね。

──「マニフェスト」というアルバムは、RHYMESTERの中ではかなりエモーショナルな作品ですよね。

宇多丸 「マニフェスト」というアルバムはあえてエモーショナルな方向、情緒的な方向に舵を切ってみようという実験だったわけですよ。あとライブではキャパが大きくなればなるほど、色がはっきりした表現じゃないと伝わっていかないというのがあって。そうすると泣きたいときは泣く、ポジティブな気持ちになりたいときは100%ポジティブ、っていう曲のほうがその場では機能しやすいわけ。お客さんだってせっかくお金払ってライブに来てるんだから、楽しんで帰りたいじゃない? 「ちょうどいい」はライブですごく人気があるんだけど、あの曲はライブしているその場を全肯定する歌なんだよね。だから、どの会場でやってもウケるんじゃないかな。

──場を全肯定する曲といえば「Walk This Way」もそうですよね。

宇多丸 あの曲はライブ観て納得する人も多いみたい。俺ら自身も、あの曲をライブでやると「この瞬間のために作ってた」って思えるし。エンタテインメントの世界には全肯定の曲って多いけど、結局全肯定って嘘じゃん。逆に不安になる(笑)。だから歌詞の中の表現のバランスにはすごく気を使いました。エンタテインメントと心ある表現を両立するのは難しいよね。だってさ、よくライブで「みんな忘れないよー!」とか言ってるの観ると、「大胆な嘘つくよねー」って思っちゃうし。

Mummy-D 忘れないっていうか、記憶すらしてないのにね(笑)。

ベストアルバム「The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~」2014年9月24日発売 / Ki/oon Music
「The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~」
初回限定盤 [CD+Blu-ray] 5184円 / KSCL-2478~9 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [CD+DVD] 4104円 / KSCL-2476~7 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3024円 / KSCL-2480 / Amazon.co.jp
完全限定生産盤 [アナログ3枚組] 4104円 / KSJL-6175~7 / Amazon.co.jp
CD / アナログ盤収録曲
  1. ONCE AGAIN
  2. K.U.F.U.
  3. Come On!!!!!!!!
  4. ラストヴァース
  5. ちょうどいい Piano session with SWING-O
  6. Walk This Way
  7. そしてまた歌い出す
  8. Hands
  9. POP LIFE
  10. 余計なお世話だバカヤロウ
  11. トーキョー・ショック feat. COMA-CHI
  12. フラッシュバック、夏。
  13. サマー・アンセム feat. 小野瀬雅生(CRAZY KEN BAND)
  14. The Choice Is Yours
  15. ゆめのしま
  16. It's A New Day Piano session with SWING-O
  17. This Y'all, That Y'all session with SCOOBIE DO
初回限定盤 Blu-ray / DVD収録内容
<RHYMESTER Best & Rare Live Selection>
  1. キング オブ ステージ at Shibuya AX 2002(KING OF STAGE Vol. 4 ~ウワサの真相 Release Tour~)
  2. 10 balls+2 feat. KICK THE CAN CREW、竹内朋康(SUPER BUTTER DOG)、TOMOHIKO(SUPER BUTTER DOG)at 日比谷野外大音楽堂 2004(KING OF STAGE Vol. 5 ~グレイゾーン Release Tour~)
  3. ウワサの真相 feat. ゴスペラーズ at Shibuya AX 2004(Sony Music Fes. 2004)
  4. ウィークエンド・シャッフル feat. MCU、KREVA、CUEZERO、CHANNEL、KOHEI JAPAN、LITTLE、GAKU-MC、SONOMI、K.I.N.、童子-T + Romancrew at 日比谷野外大音楽堂 2006(KING OF STAGE Vol. 6 ~HEAT ISLAND Release Tour~)
  5. I Say Yeah! - PUSHIM、RHYMESTER、HOME MADE 家族、マボロシ、May J. at Shibuya AX 2006(NeOSITE 10th. Anniversary Party)
  6. リスペクト feat. ラッパ我リヤ at 日本武道館 2007(KING OF STAGE Vol. 7~メイドインジャパン at 日本武道館~)
  7. ONCE AGAIN Remix feat. DABO、TWIGY、ZEEBRA at JCB HALL 2009(R20 RHYMESTER 20th Anniversary)
  8. ラストヴァース at ZEPP TOKYO 2010(KING OF STAGE Vol. 8 ~マニフェスト Release Tour~)
  9. オイ! at Shibuya AX 2011(R10 ~POP LIFE Release Event~)
  10. ザ・ネイバーズ at ZEPP TOKYO 2011(KING OF STAGE Vol. 9 ~POP LIFE Release Tour~)
  11. into the night session with ねごと at LIQUIDROOM 2012(キューン20)
  12. Come On!!!!!!!! at パシフィコ横浜国立大ホール 2013(KING OF STAGE Vol. 10 ~ダーティーサイエンス Release Tour~)
RHYMESTER(ライムスター)

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成となる。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」をリリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるもグループは活動休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動を再開する。宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとして活動中。2014年9月24日に活動再開後の音源をまとめたベストアルバム「The R ~The Best of RHYMESTER 2009-2014~」を発表した。