音楽ナタリー PowerPush - RHYMESTER
3人の“ちょうどいい”バランス感
RHYMESTERが活動を再開した2009年から2014年までの音源をまとめたベストアルバム「The R ~The Best of RHYMESTER 2009-2014~」をリリースした。彼らは活動休止以前とは明らかに違うスタンスで、今も日本のヒップホップシーンを牽引し続けている。彼らがこの5年間で何を思い、これから何をしようとしているのかを聞いた。
取材・文 / 宮崎敬太
「The R」はライムス入門編
──今回のベスト盤「The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~」の選曲は、どういう基準で?
宇多丸 この作品をきっかけに僕らのことを知ってほしいっていう。ベスト盤だから、やっぱり入門編という感じだよね。
──「Come On!!!!!!!!」が入ってるのは意外でした。
宇多丸 確かに「Come On!!!!!!!!」は比較的ハードな曲ではあるからね。
Mummy-D 俺はもっとわかりやすい内容にしたほうがいいと思ってたから、最初は「(「Come On!!!!!!!!」を)入れなくていいんじゃない?」って言ってたんだよ。そしたらみんなにすげー怒られた(笑)。
宇多丸 「The R」のもう1つの選曲テーマとして、最近のライブでよくやる曲というのがあって。僕らのことをよく知らなくても、これさえ聴いておけばみんなと一緒にライブを楽しめる、みたいなさ。「Come On!!!!!!!!」「K.U.F.U.」「余計なお世話だバカヤロウ」なんかはライブですごく盛り上がるんですよ。
──「This Y'all, That Y'all」もライブの定番曲ですよね。オリジナルはSUPER BUTTER DOGとの共演曲でしたが、今回はSCOOBIE DOとのセッションですね。
宇多丸 まあこれはおまけみたいなもんなんだけどね。
──おまけとは思えないほどのクオリティでしたよ。
宇多丸 これは前のベスト盤(「メイドインジャパン~THE BEST OF RHYMESTER~」)に入ってる「けしからん session with SCOOBIE DO」のついでに録ったやつで。
DJ JIN ライブではスクービーと「This Y'all, That Y'all」をよくやってたんですよ。で、「けしからん」を録るときにノリで一応録ったんです。
──なぜこのタイミングで蔵出しになったんですか?
宇多丸 単純にこないだ思い出したっていう(笑)。今年の3月にスクービーのイベント「Root & United SPECIAL」に出て(参照:SCOOBIE DO×怒髪天×ライムス、夢を叶えたコラボステージ)、ひさしぶりにこの曲をスクービーと一緒にやったんですよ。そのとき、彼らに「士郎(宇多丸)さん、『This Y'all, That Y'all』録ったの覚えてます?」って聞かれて……。
──そこで思い出した、と。
宇多丸 うん。レコーディングしたこと自体を完全に忘れてた。で、いろいろ探しまわったら見つかって。俺らってあんまり未発表曲がないんです。だから未発表で、しかも忘れてたくらいだから使い物にならない音源かも……、とか思ってたらすごい完成度で。ちょうどベスト盤の話があったから、じゃあこのタイミングで発表しようということになったんです。
──これって一発録りなんですよね?
宇多丸 うん。でも普通の一発録りみたいに俺らとスクービーが一緒の部屋にいて「せーの」で演奏するんじゃなくて、それぞれが巨大なスタジオの別々のブースに入ってお互いの顔が見えない状態でやってるんです。音しか聴いてない状態でこの出来だから、あの当時俺らとスクービーがいかにこの曲を演奏しまくってたかってことだよね。
むき出しになってしまう難しさ
──あと今回はSWING-Oさんとセッションした新バージョンの「ちょうどいい」「It's A New Day」が収められています。
Mummy-D 俺がソロでSWING-O主催の「45 Fes」(参照:45 a.k.a. SWING-O、45歳の誕生日に“45”づくしイベント)に出たとき、SWING-Oから「ピアノだけでラップしてみない?」って提案されて。
DJ JIN Dからその話を聞かされたときは「おー、新しい!」って感じでしたね。そんな弾き語りみたいなやり方は想像したこともなかったから。
Mummy-D でもちょっと怖い部分もあったんだけど。
──どんなところが怖かったんですか?
Mummy-D むき出しになっちゃうとこだよね。
宇多丸 ラップってキーが合いすぎてたりすると、逆にカッコ悪くなったりする場合があるんですよ。アバウトさがよかったりするというか。
Mummy-D そうそう。ビートが入ってる曲だと細かいピッチがどうこうというよりも“ヴァイブス”が重要で。「イエー!」ってなれればいいというか(笑)。それがいろんなものをはぎ取って真っ裸に近い状態になると、また違うよさを届けなくてはいけない。そしたら今まであんまり気にならなかったようなちょっとしたピッチや声の揺れ、タイミングとかがいろいろ気になってきちゃって。そういったものを自分の納得できるレベルまで持っていくのがすごい大変だった。
──レコーディングは難航したとか。
Mummy-D うん。最初は新曲じゃないし、2曲ともライブの定番曲で歌い慣れてるから簡単にいけるかと思ってたんだけど(笑)。「弾き語りってのは、こんなに大変なの!?」って思い知らされましたね。
宇多丸 「ちょうどいい」なんて本当にやり慣れてるんだけど、そこに驕りが生まれてましたね。「あれ、ここどうやって歌うんだっけ?」みたいな。何も考えずにやってた部分もあったから、レコーディングでDに「そこ違うよ」って指摘されても、「えっ!? 俺、ずっとこうやって歌ってたわ」みたいな(笑)。結局、そのときは俺の歌い方で正解だったんだけど、2人とも何が正しいのかわかんなくなるくらい大変だった。
──今回の未発表曲や新録曲が、これからのRHYMESTERサウンドの方向性なんですか?
宇多丸 ベスト盤の企画を考えてるタイミングで音源が発掘されたり、SWING-OさんからDが提案をもらったりって感じだから今後の方向性みたいなことではないかな。
Mummy-D 俺らがこれからビートレスを追求して、どんどんアンビエントな方向に行くことはないと思うよ(笑)。
次のページ » チェケラッチョーくん
- ベストアルバム「The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~」2014年9月24日発売 / Ki/oon Music
- 「The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~」
- 初回限定盤 [CD+Blu-ray] 5184円 / KSCL-2478~9 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4104円 / KSCL-2476~7 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3024円 / KSCL-2480 / Amazon.co.jp
- 完全限定生産盤 [アナログ3枚組] 4104円 / KSJL-6175~7 / Amazon.co.jp
CD / アナログ盤収録曲
- ONCE AGAIN
- K.U.F.U.
- Come On!!!!!!!!
- ラストヴァース
- ちょうどいい Piano session with SWING-O
- Walk This Way
- そしてまた歌い出す
- Hands
- POP LIFE
- 余計なお世話だバカヤロウ
- トーキョー・ショック feat. COMA-CHI
- フラッシュバック、夏。
- サマー・アンセム feat. 小野瀬雅生(CRAZY KEN BAND)
- The Choice Is Yours
- ゆめのしま
- It's A New Day Piano session with SWING-O
- This Y'all, That Y'all session with SCOOBIE DO
初回限定盤 Blu-ray / DVD収録内容
<RHYMESTER Best & Rare Live Selection>
- キング オブ ステージ at Shibuya AX 2002(KING OF STAGE Vol. 4 ~ウワサの真相 Release Tour~)
- 10 balls+2 feat. KICK THE CAN CREW、竹内朋康(SUPER BUTTER DOG)、TOMOHIKO(SUPER BUTTER DOG)at 日比谷野外大音楽堂 2004(KING OF STAGE Vol. 5 ~グレイゾーン Release Tour~)
- ウワサの真相 feat. ゴスペラーズ at Shibuya AX 2004(Sony Music Fes. 2004)
- ウィークエンド・シャッフル feat. MCU、KREVA、CUEZERO、CHANNEL、KOHEI JAPAN、LITTLE、GAKU-MC、SONOMI、K.I.N.、童子-T + Romancrew at 日比谷野外大音楽堂 2006(KING OF STAGE Vol. 6 ~HEAT ISLAND Release Tour~)
- I Say Yeah! - PUSHIM、RHYMESTER、HOME MADE 家族、マボロシ、May J. at Shibuya AX 2006(NeOSITE 10th. Anniversary Party)
- リスペクト feat. ラッパ我リヤ at 日本武道館 2007(KING OF STAGE Vol. 7~メイドインジャパン at 日本武道館~)
- ONCE AGAIN Remix feat. DABO、TWIGY、ZEEBRA at JCB HALL 2009(R20 RHYMESTER 20th Anniversary)
- ラストヴァース at ZEPP TOKYO 2010(KING OF STAGE Vol. 8 ~マニフェスト Release Tour~)
- オイ! at Shibuya AX 2011(R10 ~POP LIFE Release Event~)
- ザ・ネイバーズ at ZEPP TOKYO 2011(KING OF STAGE Vol. 9 ~POP LIFE Release Tour~)
- into the night session with ねごと at LIQUIDROOM 2012(キューン20)
- Come On!!!!!!!! at パシフィコ横浜国立大ホール 2013(KING OF STAGE Vol. 10 ~ダーティーサイエンス Release Tour~)
RHYMESTER(ライムスター)
宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成となる。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」をリリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるもグループは活動休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動を再開する。宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとして活動中。2014年9月24日に活動再開後の音源をまとめたベストアルバム「The R ~The Best of RHYMESTER 2009-2014~」を発表した。