ナタリー PowerPush - RHYMESTER

混迷の日本に告ぐ「選ぶのはキミだ」

「オッサンたち、夢あるね」って言われるくらいがうれしい

──ところで今、ヒップホップシーンの中でRHYMESTERの立ち位置はどのあたりだと思いますか?

Mummy-D どうなんですか、JINさん。

DJ JIN 末席くらいですよ。

──あはは(笑)。

DJ JIN

DJ JIN いや、まあキャリアも長いし、シーン自体も細分化してたりして……なんか、ボンヤリ大きいというか。

Mummy-D あれだ、木星みたいな感じだ(笑)。

宇多丸 ヒップホップシーンという意味では、若手にもっと「中心」と言える第一線の人たちがいるわけでしょ。例えばそれはSALUくんたちかもしれないし、HOOLIGANZ一派とか、もうちょい上でもANARCHYとか、とにかくいろんなメンツがどんどん作品出して、メキメキクオリティ上げていて。そこからするとRHYMESTERは、今言ったようにボンヤリと大きいっていう感じなんじゃない? 中心にドーンといるってわけじゃないけど、常にいて、あれはあれで結構でけえよな、大したものですよね、みたいな感じじゃない?

DJ JIN シーンの真ん中にいるわけじゃないし、スタイルも違うけど、ずっと細々と続けていて。

宇多丸 いや、「細々」って言うと嫌味だなっていう程度には、まだ太くやってる、むしろ規模は大きくなっててって感じですね(笑)。

──なるほど。

宇多丸 願望としてはね、「オッサンたち、ラップ続けてて、前より売れてるなんて話も聞くし、夢あるね」って言われるくらいだとうれしい。若手たちよりラップがうまいですよ、なんて言うつもりはないですけども「ラップやり続けられるんだ! お金儲かるんだ!」っていう。

──現在シーンの真ん中にいる人たちに対してはどんな思いを持っていますか?

宇多丸 優しくしてほしい。

Mummy-D リスペクトしてることを、口に出して言ってほしい。

宇多丸 直接言ってくれてもうれしいし、できれば人目に触れる場所で。メディアを通して、外に向かって。

──自分が影響を受けたのはRHYMESTERだと(笑)。

一同 わははははは!(笑)

宇多丸 自分たちからは言わないけど、「この人が結構な熱量でリスペクトを示してますよ?」みたいな。

Mummy-D みっともな!(笑)

DJ JIN あはは(笑)。でも今のRHYMESTERのファンは特に、日本語ラップに限らず柔軟に音楽に接してくれてるっていうか。だからその中でRHYMESTERが好きって言ってくれることはやっぱり光栄ですね。俺らの立ち位置をオリジナルなものにしてくれる、そういうファンがいることで、侮れないオッサンになれてるような気がします(笑)。

“信頼のブランド・RHYMESTER”を構築する

──RHYMESTERのように長く活動を続けて、言わば生き残るにはどうしたらいいんでしょうか?

宇多丸 これはですね、真面目にやることですね。真面目です!

Mummy-D うん。

──具体的にはどんなことを真面目に?

宇多丸 例えば、時間に遅れないとか。

DJ JIN ライブの練習もいまだにしっかりやるしね。

──ごく基本的なことですね。

宇多丸 だって「この人と二度と一緒に仕事したくない」っていう仕事っぷりを10回とか100回とか続けたら、そりゃあ仕事減るよね。ヒップホップはそれでいいんだみたいな時代も確かにあったけどさ。でもやっぱ、ヒップホップの美学として、ちゃんとビジネスにしていくっていう面もあるわけじゃないですか。特にアメリカのヒップホップ界から学べばさ。そのために、真面目にちゃんと構築していこうよって僕は思います。

──なるほど。

宇多丸 それを繰り返してると「なんかあのグループ、毎回同じことじゃなくて面白いコメント言ってくれるよ」って広がっていって、「じゃあまた番組呼ぼうか」になるし、ライブも「あいつら呼ぶとそこそこ盛り上げっからな」って声がかかる。つまり売れてなくても“信頼のブランド・RHYMESTER”になるわけですよ。そういう積み重ねが、長くやってると意外と効いてくるなって。

Mummy-D あと、あんまりすぐ上手にならないことじゃないかな。「もう俺やり切ったな」って思えたら興味なくなっちゃうだろうし。ちょっとずつうまくなると、次の課題が見えて「まだあれやってない、これやってない」って思う。それをやってくと、まあ長くやっちゃうよね。俺らはそういうゆっくりゆっくりなタイプだから。

宇多丸 それから、外に向く意識。外に目を向ければ届いてないところっていうのは無限にあるわけで。それこそ「なんで俺たちサザンより売れてねえんだよ」っていうさ。

Mummy-D なんでだろうねえ。

──あははは(笑)。

宇多丸 てなことを考えてたら永久に課題は尽きないですよ。

──じゃあ到達していないゾーンはまだまだあると。

DJ JIN いやー足りてないところだらけですよ。生臭く聞こえるかもしれないけど、もうちょっと知名度上がってもいいんじゃないかなー。

──そのためにはどうすればいいでしょうね。

DJ JIN まあひとつひとつ仕事をちゃんとやりながら、いいものを作っていくしかないですね。あとこの前の「CDTV」の生放送(※2012年7月14日(土)深夜に放送された「CDTVスペシャル! 夏フェス2012」。RHYMESTERは「ONCE AGAIN」「付和Ride on」「ライムスターイズインザハウス」「The Choice Is Yours」を披露)もそうだけど、ときどきああいうチャンスボールが来たりするから、そこはできるだけ正確にヒットを打ち返す、みたいな。

宇多丸 あれなんか本当、僕たちのやり方で勝ちに行ってちゃんと勝てたという良い例ですよ。初めて観た人ほど「おおー」ってなったし、譲らないどころか、普通よりぶんどってきたっていう。

Mummy-D 数字上がったしね!

一同 あはははは!

DJ JIN 地道にやってればチャンスボールが来るし、来たらそれをできるだけモノにする。まあできなくても、コツコツやってれば必ずまた機会は来ると信じてます。

宇多丸 仮に失敗してもね、全部あとから面白話のネタになりますから。

RHYMESTER

ニューシングル「The Choice Is Yours」 / 2012年8月22日発売 / Ki/oon Music

CD収録曲
  1. The Choice Is Yours
  2. The Choice Is Yours -Instrumental-
  3. The Choice Is Yours -Acapella-
通常盤DVD収録内容
  • The Choice Is Yours -Music Video-(副音声付き)
RHYMESTER(らいむすたー)

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」リリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるも、これを最後にグループ活動を休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動再開を果たして以降、精力的に作品リリースおよびライブ活動を行っている。