音楽ナタリー Power Push - れるりり
インタビューと対談で追う超気鋭クリエイターの素顔
非ピアニストが考えるピアノリフの有効性
──「厨病激発ボーイ」って正直自信作ですよね?
まったく不満がないわけではないけど、我ながらいいアルバムだなと思ってます。
──不満って?
特に最近「ピアノのリフをもっと印象的なものにしたいな」みたいなことを意識しているので、そこは今後また研究しなきゃな、とは思ってます。ピアノを全然弾けないだけに余計に(笑)。
──あっ、そうなんですか。今回のアルバム収録曲しかり、「脳漿炸裂ガール」しかり、ピアノ使いがすごくうまいし、それがれるりり楽曲の黒っぽさを担保しているように感じたから、スゲー弾ける人なんだと思ってました。思い付いたアイデアを全部弾きこなせるからこそ、多彩なフレーズが出てくるんだろうなって。
コード感は全部ギターで勉強したんですよ。ピアノはほとんど弾けないです。でも最近だとゲスの極み乙女。みたいなピアノがカッコいいバンドがいるじゃないですか。彼らの曲ってイントロやAメロにスゲー強烈なピアノのリフがあったりして、しかもそのリフがどこかおしゃれで。自分の曲もそうしたいなと思っていて。さっきの話じゃないですけど、今の時代、みんな音楽を聴くのはYouTubeやニコ動が中心。音楽を聴くツールはブラウザなんですよね。そういうときに曲の序盤、イントロやAメロがダサかったら「聴くのやーめた」って……。
──ブラウザを閉じるか、動画サイトの右側に表示されている関連動画に飛んじゃうか。
だから下手したらサビよりもイントロやAメロのほうが大事なんじゃないかって思ってるんです。イントロやAメロに「何これ!」ってなってくれたら、俺、リスナーに勝てんじゃね?みたいな(笑)。
──だから「厨病激発ボーイ」のイントロのようにピアノリフにはこだわりたいけど、実は弾けないからどうしよう、という感じ?
まあそうですね。ただ弾けないことがアドバンテージにもなっていて。弾き方を知らないから、逆に制約のないフレーズを作れたりもするんです。「これ弾くには指が11本必要じゃね?」みたいなフレーズを(笑)。
弦を張り替えたくないからピアノを愛する
──そしてそういうフレーズ作りを2012年の「脳漿炸裂ガール」の頃から実践していたということは、実はゲス乙女に注目する以前からピアノ使いには気を配っていた、と。
ああ、そうなるのかもしれないですね。ピアノの音作りとか、フレーズ作りに最初にハマったのはDTMをやり始めたばかりの頃ですから。もともとギタリストだし、山崎まさよしさんにハマった頃はすごくギターを練習してたんですけど、あるとき「あれ、オレギター嫌いなのかも」と気付いちゃいまして。世の中にはすごい速弾きができたりとか、うまいギタリストがいっぱいいるじゃないですか。ある日あれには勝てないなあ、って気付いちゃったんですよ。あと実は練習が嫌いなことにも(笑)。
──あはははは(笑)。でもアルバム収録曲のギターカッティングって、すごく安定してるしファンキーですよね。
あれは波形編集の力です。
──身もフタもない(笑)。
あと、ギターが嫌いになった最大の理由は弦が錆びたり切れたりしちゃうってことで……。
──張り替えてください!(笑)
それが面倒くさくて(笑)。でもピアノ……僕の場合は電子ピアノなんですけど、弦を替えるのはもちろん、調律の必要もないし、お手軽なんですよ。しかもギターと違って打ち込みでも生演奏に近付けやすいし。
──作曲もピアノで?
最近はもっぱらピアノですね。
──本当に弦を替えるのがイヤなんですね(笑)。
はい(笑)。まずは適当にピアノを弾きながらメロディとコード進行を作って、ほかのパートもピアノで弾いてって感じでデモを作っておいて、あとから音色を差し替えたり、フレーズを編集してます。
それが面白いのであればなんでもアリ!
──では最後に。先ほどこのアルバムは名刺代わりになるんじゃないかとおっしゃっていましたけど、その名刺を配り歩くことになるだろう2016年はどういう年にしましょう?
いろんな人とコラボしたいですね。今の時代、音楽って+αが必要というか、いろんな状況と融合していくべきだと思うんです。映像作品の中の音楽であったり、ごはんを食べに行ったときのBGMとしての音楽であったり、そういう作品や場の中でどう機能するかを考えなきゃいけないというか。ニコ動に自分の曲をアップするとき、動画を作ってもらっていることもそうだし、「脳漿炸裂ガール」が小説化されたり映画化されたりしたこともそうなんですけど、僕の音楽が何かと融合していくのが本当に素敵だし、何かと融合させて音楽を聴いてもらう機会を増やすことって本当に大切なことだと思うんです。
──さっきの「単体のCDというパッケージは果たしてコンテンツとして成立するのか」っていうお話ですよね。
ええ。だからまた「厨病激発ボーイ」という名刺を見て「映画を作りたい」みたいなことを思ってくれる人がいるなら、どんどんやりましょうよって気持ちがあるんです。
──楽曲版の「脳漿炸裂ガール」が映画版の主演女優・柏木ひなたさんのいる私立恵比寿中学にカバーされたように、音楽畑の中で、誰かとコラボレーションしたい、っていう思いは?
ありますね。ボカロを使ってる人間には2種類いると思ってて。声はもちろんビジュアルも含めて初音ミクというキャラクターが好きだから使ってる人と、シンセサイザー的に使ってる人と。僕はどちらかと言えば後者なんですよ。
──絶対的なアイコン視はしていない、と。
ただエビ中のカバーがそうであったように、それが面白いのであれば生身の人間に歌ってもらうのも全然アリなんです。実際、VOCALOIDに限界を感じることがないわけでもないですから。例えばライブをやるならボーカリストの生の歌を聴けたほうがきっと楽しいですよね。あと10代の終わり頃から音楽でメシを食っているだけに、ちゃんと後身を育てていかないといけないな、とは考えてます。で、作詞家・作曲家である僕がどうやって若い人材と絡むか?って考えたら、歌える人と組むことなんだろうな、と思っていて。それはボーカリストでもいいし、アイドルでもいいし、バンドでもいいんですけど、歌える人と一緒に何かを作ってみたい気持ちもありますね。
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- ニューアルバム「厨病激発ボーイ」 / 2015年12月16日発売 / ウルトラシープ
- 初回限定盤 [CD+コミック] / 3078円 / ZMCL-1039~40
- 通常盤 [CD] / 2592円 / ZMCL-1041
収録曲
- 厨病激発ボーイ
- Invitation
- クエスト
- ヘリオライト
- World juncture
- 九十九ノ刃
- 君のとなりに
- HOME
- 美少女嫌疑
- DICE
- 月光潤色ガール
- 脳漿炸裂ガール 2015 ver.
れるりり
音楽プロデューサー。バンド活動ののち、2009年にニコニコ動画に投稿したVOCALOID曲「いつもより泣き虫な空」が、処女作ながら10万再生を超える“殿堂入り”を果たす。以来、人気曲を連発し、2012年制作の「脳漿炸裂ガール」では初の100万再生を突破。その後も再生数を重ねると同時に、同曲をモチーフにした吉田恵里香によるノベライズ版が刊行され、2015年夏には私立恵比寿中学・柏木ひなた主演でVOCALOIDナンバーを原案に持つ作品としては初めて実写映画化される。また2013年には全国流通のコンセプトアルバム「地獄型人間動物園」を発表し、2015年12月にはオリジナルフルアルバム「厨病激発ボーイ」をリリース。2016年1月1日にはこのアルバムを原案に持つ藤並みなとの同名小説が刊行され、スマートフォンアプリ・ウルトラ!プレイヤーで私立恵比寿中学・真山りからが出演するサウンドドラマが配信される。