音楽ナタリー Power Push - れるりり

インタビューと対談で追う超気鋭クリエイターの素顔

投稿者の思いが伝わるのがニコ動の面白さ

──そしてバンド解散後にDTMでソロ活動を?

はい。「バンドも解散しちゃったし、1人でどうやって音楽を続けていこうか」となったとき、作曲やアレンジに興味もあったし、ということで本格的にDTMを始めてみようと思って。で、しばらくは「とりあえず作ってみようか」みたいな感じで、どこに発表するわけでもなく曲を作ってたんですけど、それから1、2年ぐらい経って、ニコ動をたまたま観てたらVOCALOIDを使ってオリジナル曲を作る人たちが出始めていて。それで「こんな面白いツールがあるんだ」とトライしてみたら運よく1作目(「いつもより泣き虫な空」)で注目されたんです。

──そうですね。

5日ぐらいで殿堂入りして。ただ僕自身は殿堂入りの何がすごいのかも全然わかってなかったんですよ。周りの人たちや曲を聴いてくれた人たちに「すごいね」って言われて「パソコンの世界でなんかすごいことが起きてる」って感じで(笑)。

──はははは(笑)。

そのあと、ボカロPがCDを手売りする「ボーマス」(「THE VOC@LOiD M@STER」)っていう即売会イベントに参加するまですごいことだって実感できてなかったですね。そこで「れるりり」って名札を付けて会場内を歩いてたら、知らない人がいっぱい声をかけてくれるんですよ。「あの曲作ってる、れるりりさんですよね?」って。それでようやく……。

──リアルな現場での実体験を機にやっと実感できた(笑)。

はい。ホントにリスナーがいるんだな、って。あとそれでパソコンの世界やニコ動の雰囲気もわかった感じですね。ニコ動を観ていて面白いなと思うのは、投稿者が楽しんでるのが伝わってくることなんです。くだらないことを本気でやってる感じとか。で、僕も最初に曲をアップしたときから「この曲、本当にいいんだぜ」って自信があったんですよ。そういう僕のワクワクや情熱がリスナーの人たちに伝わったのかもしれない。それをみんなが面白がってくれたから殿堂入りできたんじゃないか? 今はそう思ってます。

ニコ動で愛される曲を模索する

──そして2012年発表の「脳漿炸裂ガール」で大ブレイクを果たすことになる、と。あの曲ってニコ動デビューから何作目だったんですか?

何作目かな……。たぶん20作目ぐらいだったと思います。

──ニコ動デビュー当時から活動は順調だったし、あの曲がのちに関連動画も含めて5000万再生されるほどの評価を集めたことには、そんなに衝撃はなかった?

いや、衝撃はありました。ただ「脳漿~」を作るときにはちょっと作戦を練ってはいて。ニコ動って人気のボカロPであっても、どんな曲でも再生数が伸びるわけではなくて。伸びない曲は1万回も再生されずに終わりみたいなことも珍しくないんです。それでどうやったら数字を獲れるか?……っていうと身もフタもですけど(笑)、どうすればたくさんの人に聴いてもらえるんだろう?って考え始めていて。

──答えは出ました?

例えば「歌ってみた」とかで、みんなが歌ってる曲……要するに二次創作されやすい曲って再生回数が増える傾向があるんですよね。

──リスナーに「歌いたい」とすら思わせる曲は、それだけ引きがある、と。

あと、歌詞についてもいろいろ考えて。ボカロ曲を聴いてるのって10代の女の子が中心だったりするんですよね。そういう子たちに大人が説教くさいことを書いても全然響かないだろうし、むしろ「音楽を聴いてるときくらい、ツマんない人生とか落ちてる自分とかから解放されたい」みたいな気持ちがあるんだろうな、とか。

──確かに思春期特有のモヤモヤに寄り添ったり、それを救済したりする曲って人気ですよね。

ええ。そんなことを「脳漿炸裂ガール」を作る前に研究してたんです。あと、あの曲を作った当時はある意味やかましくて早口のロックが流行ってたんですね。実は僕はそういう音楽がけっこう苦手なんですけど(笑)。

──ははは(笑)。

「何歌ってるんだかわかんないよ」みたいな(笑)。でも「みんなが受け入れてる曲を僕だけ受け入れない」みたいなのってクリエイターとして終わってるよな、と思って。それで作ってみたのが「脳漿炸裂ガール」だったんです。

まだまだニコ動で愛される理由を模索する

──だからか、すごく面白いバランスの曲ですよね。確かにやかましくて速いロックなんだけど、ベースはバキバキとスラップしてるし、ピアノも跳ねまくるし。ちゃんとれるりりさんらしく、黒っぽくもある。

正直、ブラックミュージックみたいな泥臭い音楽って、みんなが好きかっていったら、そうでもないと思うんですよ。女子中学生がブルースとか聴くかっていったら、聴かないじゃないですか(笑)。

──まあ、そうでしょうね(笑)。

でも「背伸びしたい」みたいなところは絶対にあると思うんですよ。「おしゃれな音楽を聴いてる私はちょっとおしゃれ」みたいな(笑)。だったら僕の大好きなファンクとかジャズとかブルースというカッコいい音楽を、みんなと共有したいなと思って。でも、泥臭い音楽をストレートにやってもダメだからいろんな音楽をカットアップする、ジェットコースターみたいなイメージの曲を作ってみようかなって。

──突然笛が入って和モノっぽくなったり、チップチューンっぽくなったり、4ビートっぽくリズムチェンジしたり、4拍子から3拍子になったりしますね。

和風な音とかチップチューンみたいな音ってみんな好きだし、だったらどんどん採り入れていこうと思って。

──とはいえ「脳漿炸裂ガール」が5000万再生されたり、ノベライズされたり、映画化されたりというほどバズるとは……。

思ってなかったですね。

──どこらへんで「あれ? いつもと様子が違うぞ」って思うように?

100万再生を超えたあたりから「なんかおかしいな」と思い始めた感じですね。普通ニコ動のVOCALOIDのランキングって1位なりを獲ったら、そのあとすぐに順位が下がっていくんですけど、100万再生を超えた頃からずっと20~30位を行ったり来たりしていて。それで「あれ?」みたいな。あと僕が分析した通りというか、あの曲ってリスナーがただ聴くだけのものじゃなかったんですよね。「歌ってみた」「踊ってみた」動画を投稿する人や、あの曲をイメージしたイラストを描く人とか、PVを作る人がたくさん出てきて。僕の曲をベースにいろんな二次創作が生まれたんです。それがロングヒットの理由だったんじゃないかなって思ってます。

ニューアルバム「厨病激発ボーイ」 / 2015年12月16日発売 / ウルトラシープ
初回限定盤 [CD+コミック] / 3078円 / ZMCL-1039~40
通常盤 [CD] / 2592円 / ZMCL-1041
収録曲
  1. 厨病激発ボーイ
  2. Invitation
  3. クエスト
  4. ヘリオライト
  5. World juncture
  6. 九十九ノ刃
  7. 君のとなりに
  8. HOME
  9. 美少女嫌疑
  10. DICE
  11. 月光潤色ガール
  12. 脳漿炸裂ガール 2015 ver.
れるりり
れるりり

音楽プロデューサー。バンド活動ののち、2009年にニコニコ動画に投稿したVOCALOID曲「いつもより泣き虫な空」が、処女作ながら10万再生を超える“殿堂入り”を果たす。以来、人気曲を連発し、2012年制作の「脳漿炸裂ガール」では初の100万再生を突破。その後も再生数を重ねると同時に、同曲をモチーフにした吉田恵里香によるノベライズ版が刊行され、2015年夏には私立恵比寿中学・柏木ひなた主演でVOCALOIDナンバーを原案に持つ作品としては初めて実写映画化される。また2013年には全国流通のコンセプトアルバム「地獄型人間動物園」を発表し、2015年12月にはオリジナルフルアルバム「厨病激発ボーイ」をリリース。2016年1月1日にはこのアルバムを原案に持つ藤並みなとの同名小説が刊行され、スマートフォンアプリ・ウルトラ!プレイヤーで私立恵比寿中学・真山りからが出演するサウンドドラマが配信される。