ReoNa「R.I.P.」インタビュー|絶望系アニソンシンガーがたどり着いた、“怒り”に寄り添う歌 (3/3)

なりたい自分になれなかった歌

──そして期間生産限定盤に収録されているのが「原作者」です。「原作者」って、曲名にはならなそうというか、リリース資料を二度見しました。「次の曲は『原作者』か……え? 原作者? これ曲名なの?」って。

「本当に?」と思いますよね。本来ならクレジットに書かれる単語じゃないかって。

──「原作者」の作詞、作曲、編曲は毛蟹さんですが……毛蟹さん、どうかされたんですか?

私もまったく同じ感想を抱きました。これは私の勝手な想像なんですが、「原作者」は毛蟹さんの夢の話だなって。毛蟹さんは音楽だけでなく映像も作れる方で、そんな毛蟹さんには、物語も映像も楽曲も全部自分で作る原作者になりたいという思いがあったんじゃないか。だから「原作者」は、なりたい自分になれなかった自分の話を、ReoNaという存在は一旦横に置いて、“毛蟹”という軸だけで構築し尽くして、託してくださった楽曲だと私は思っていて。もちろん私にもなりたい自分、なれない自分があるので、特に「なれない自分を認めようとして」「できない自分を許そうとして」という歌詞は、私が毎日のように感じていることとも重なっているんです。

──端的に言って、しんどい歌詞ですよね。ひたすら「原作者になれなかった」ことを悔いて、思い残すことしかないみたいな。

冒頭2行の「『自分の人生』という作品の筆を折る時」「罪も憎しみも後悔も形に残らないのさ」で「あ、たぶんこの人、もう人生の幕を引いたんだな」と思いました。ただ、人によっては本当に救いがないように感じる楽曲かもしれないけれど、自分の理想とする自分というのは、自分自身の中にしかないということに改めて気付かせてくれる楽曲でもあって。というのも、外からはすごく幸せそうに、自分に満足しているように見える人でも、その人にしかわからない不幸や不満、叶わなかった夢があるんじゃないかと私はよく想像するんです。逆に、毛蟹さんは「原作者になれなかった」と言っているけど、「私にとって毛蟹さんはReoNa楽曲の原作者なんだけどな」と思ったりもして。

──僕も毛蟹さんは優れた作家だと思っているので「何をそんなに残念がっているんだろう?」と首を傾げてしまうのですが、その理由は当人にしかわからないと。

わからないし、わからないからこそ、それに対して周りが「贅沢な悩みだな」みたいに言うのも違うと思うんです。

──「原作者」のバックの演奏は、ピアノのみで。「虹の彼方に」(2019年2月発売の2ndシングル「forget-me-not」カップリング曲)や「生きてるだけでえらいよ」、「一番星」(「Alive」カップリング曲)もそうでしたが、声とピアノだけというスタイルもとてもいいですね。

ありがとうございます。今回はピアノも毛蟹さんが弾いてくださっていて。

──あ、そうなんですか。ReoNaバンドのバンマス兼キーボーディストの荒幡亮平さんではなく。

オール毛蟹さんで、ボーカルディレクションも仮歌の段階から毛蟹さんにやっていただきました。「原作者」のメロディは音として低いわけではないので、ちょっと気を抜くと、歌詞の内容に反して声が朗らかなほうに寄ってしまったり、軽くなってしまったりする場面が多々あったんです。なので、私はいつもボーカルRECのときは部屋を暗くしてもらうんですが、今回は過去最高を更新したんじゃないかというぐらい真っ暗にして。歌詞もほぼ見えないような状況で、椅子の上で体育座りをしたりあぐらをかいたりしながら、言葉を書き留めるような、書き残すようなイメージで歌っていました。

ReoNa

ReoNa

ReoNaのお歌の、もう一歩先が見え始めている

──ミックスも関係しているかもしれませんが、「原作者」はReoNaさんのボーカルが生々しいというか、声がめちゃくちゃ近く聞こえます。

ミックスダウンのときに、今までにないぐらいドライにしてもらっていて。もう、しゃべり声をそのまま録るような感じでした。

──その声のトーン、あるいは声量のコントロールも見事ですね。感情面においても「R.I.P.」が怒りに満ちているとしたら、「原作者」には悔しさがにじんでいて。

うれしいです。私は声のダイナミクスを考えるとき、声を張ったり歌い上げたり、声量をプラスするほうに意識が向いてしまいがちだったんです。でも「原作者」では、抑えるべきところは抑えて、マイナスを作ることによってダイナミクスの幅を広げるという考え方で歌うことができたと思います。

──ピアノ伴奏だけだから、自由度の高い歌い方ができるみたいな部分は?

それは、すごくあります。クリックのありなしやBPM、なんなら発する言葉が母音か子音かでも自由度は変わるんじゃないかと思います。今まさに「ReoNa Acoustic Live Tour “ふあんぷらぐど2023”」を回っている最中なんですが、自分の声とピアノとギターの音しかない世界だからこそ拾ってもらえるニュアンスがあったりして。もちろんバンドサウンドの中でもできる限りの表現を試みますし、楽器の音色に支えられることで声の響きがプラスされたりする部分もあるんです。でも、すごく細かい、マイナスのニュアンスに関して言えば、音数が少ないほうがより伝わりやすいのは間違いありません。

──その「ふあんぷらぐど」ツアーの、現時点での手応えなどを伺ってもいいですか?(※取材は10月下旬に実施)

このツアーは年をまたいで来年の1月にKT Zepp Yokohamaでファイナルを迎えるので、年内いっぱいはアコースティックモードになると思うんですが、その中で、これまで意識していなかったことが意識できるようになってきたというか。例えばクリックやBPM、タイミングにしばられずに、自分の感情が準備できてから順番に言葉を置いていけることや、自分がそのとき紡いだニュアンスに楽器が呼応してくれることを、改めて体感できていて。その中で、ReoNaの声やお歌、あるいはそれを“1対1”でお届けすることの、もう一歩先が見え始めているような気がするんです。それをなんとかしてつかんで、形にして、来年のリリースや5月から始まる全国ツアー「ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”」で、また一歩進んだReoNaをお見せしたいです。

──頼もしいですね。楽しみにしています。

実は、今回のアコースティックツアーでは新曲も披露しているんです。傘村トータ氏の作詞作曲なんですけど、これがまたすごくしんどい楽曲で。それもあって、高い集中力を保ちながらライブができていると思いますし、この新曲の音源化はまだこれからなので、そこに向けてスロープを作っていきたいなと。

──アルバム「HUMAN」のインタビューでも、タイトルトラックのボーカルを録るにあたり、約2カ月間にわたる全16公演の全国ツアー「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 “De:TOUR STANDING -歪-”」「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 “De:TOUR SEATING -響-”」を回る必要があったというお話がありました。ライブでやったことが血肉になっている感じ、すごくいいと思います。

この新曲もツアーリハでキーが変わったりしたので、まさにライブで作り上げながら血肉化しています。そのうえで音源に落とし込めるという環境にも恵まれていますし、繰り返しになりますが本当にしんどい楽曲なので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

ツアー情報

ReoNa Acoustic Live Tour “ふあんぷらぐど2023” 追加公演

  • 2024年1月19日(金)神奈川県 KT Zepp Yokohama

ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”

  • 2024年5月18日(土)埼玉県 戸田市文化会館
  • 2024年5月19日(日)埼玉県 戸田市文化会館
  • 2024年6月8日(土)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2024年6月9日(日)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2024年6月15日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2024年6月16日(日)香川県 高松festhalle
  • 2024年6月21日(金)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2024年6月23日(日)北海道 サッポロファクトリーホール
  • 2024年7月6日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2024年7月14日(日)福岡県 福岡国際会議場
  • 2024年7月15日(月・祝)鹿児島県 CAPARVO HALL

プロフィール

ReoNa(レオナ)

10月20日生まれ、“絶望系アニソンシンガー”を掲げる女性アーティスト。テレビアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて劇中歌アーティスト・神崎エルザの歌唱を担当し、“神崎エルザ starring ReoNa”として2018年7月にミニアルバム「ELZA」をリリース。2018年8月にReoNa名義でテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のエンディングテーマを表題曲とした1stシングル「SWEET HURT」をリリースしてソロデビューした。2023年3月に初の日本武道館公演「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」を開催し、アルバム「HUMAN」を発表。5月から7月にかけてライブツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」を実施した。10月よりアコースティックツアー「ふあんぷらぐど2023」を行い、11月にテレビアニメ「アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】」のエンディングテーマを表題曲としたシングル「R.I.P.」をリリース。2024年5月よりホールツアー「ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”」を開催する。