ReoNa特集|絶望系アニソンシンガーの道のりと未来──デビュー5周年に語る、5つのターニングポイント (2/2)

④2023年3月6日:「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at 日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」開催

──今年の3月、ReoNaさんは初めて武道館でワンマンライブを行ったわけですが、率直に言っていかがでした?(参照:ReoNa、たどり着いた日本武道館のステージで伝えた思い「逃げて、逢えたね」

私は「武道館を目指しています」と言ってこなかったし、そう思ってもいなかったんです。というのも、1つ目指す場所を決めてしまうと、それを達成したときに燃え尽きたり、それ以上先に行けなかったりするんじゃないかという恐れを勝手に抱いていて。でも、武道館公演は誰がなんと言おうと自身最大規模のワンマンライブであり、時世柄、大きな会場でのワンマンライブであってもキャパの半分しかお客さんを入れられなかったりした中で、平日にもかかわらず8000人もの人がこの場所にいてくれている。場所そのものの神聖さとともに、規模としての大きさもすごく噛み締めていました。

──去年の冬にインタビューした時点で、武道館で必ずやりたい曲を並べただけで予定曲数からあふれているとおっしゃっていましたが、やはりセットリストを決めるのは大変でした?(参照:ReoNa「Alive」インタビュー

大変でした。そもそもReoNaの楽曲は1曲ごとに固有の成り立ちというか、生まれ育ちがあるので、アニメやゲームの主題歌だから、カップリング曲だから、アルバム曲だからというのは関係なく、どの楽曲にも等しく思い入れがあるんです。だからライブのセットリストを決めるときは毎回、チームのみんなで半ばケンカするような感じで。「私はこれをやりたい」「僕はあれをやってほしい」「この曲は最近やってなくない?」みたいな思いがそれぞれにあって、例えば「ミミック」(「ANIMA」カップリング曲)が好きな人もいれば「トウシンダイ」(「forget-me-not」カップリング曲)が好きな人もいれば「カナリア」が好きな人もいれば「まっさら」(2021年5月発売の5thシングル「ないない」カップリング曲)が好きな人もいれば……。

──僕は「Let it Die」(「unknown」収録曲)が好きです。

ありがとうございます。だからいつかB面集じゃないですけど、カップリング曲やアルバム曲に光を当てたライブもできたらいいなって。

──それ、ぜひ観たいです。

少し話が逸れましたが、ツアーであれば日替わり曲を入れられたりするけれども、今回は1日限りの武道館公演という決められた枠組みがあって。その中できっと現時点でのベスト盤的な見え方になるだろうとは思いつつ、絶対にやりたい楽曲を書き出したリストとにらめっこしながら、どの曲を外してどの曲を残すのか最後の最後まで悩みました。

──ベスト盤的なセットリストの中で、僕の個人的なハイライトは「虹の彼方に」(「forget-me-not」カップリング曲)でした。

「虹の彼方に」は、キーボード兼バンマスの荒幡亮平さんのピアノとReoNaの声だけでお届けする楽曲なので、お互いの呼吸を読み合いながら、かつお歌を届ける人のことも思いながら言葉を紡がなければならなくて。ものすごい集中力が必要なので、実はリハーサルで通して歌いたくない楽曲なんです。通して歌ってしまうとその日の“「虹の彼方に」ゲージ”みたいなものが減ってしまう気がして、サウンドチェックのときも、歌えることさえわかれば「本番まで取っておこう」「歌い慣れないようにしよう」みたいな。

ReoNa

──ReoNaさんにとって武道館公演は全編どこを切っても大事な瞬間ばかりだと思いますが、特に印象に残っている楽曲を1曲挙げるとしたら?

本当に印象に残っている場面だらけではあるんですけど……「Till the End」(2020年2月発表の配信限定シングル)でしょうか。120人ものクワイアの皆さんにステージに上がっていただいて、この楽曲の持つセレブレーション感というのか讃美歌感というのか、そんなものと相まって、あの場にいてくださった“あなた”と一緒にReoNaとして過ごせているんだなっていうのをすごく感じました。

──単純にステージ上に人がいっぱいいるだけでアガりますし、あれは「Till the End」のあるべき姿だったのでは。

本当に、人間の声がちゃんとそこにありました。実はあの場にいらっしゃったクワイアの方々全員がプロというわけじゃなくて、「シャル・ウィ・ダンス?」(2022年7月発売の6thシングル表題曲)のミュージックビデオがきっかけで出会ったTSM高等課程の生徒さんも参加してもらっているんです。あと「ないない」や「シャル・ウィ・ダンス?」でもコーラスに立ってくださっていたお三方のうちの1人は、私がデビュー前からずっとお世話になっているボイトレの先生だったりして。だから、ここに来るまでの間に出会ってきた方々と一緒にステージに立てたという意味合いもあったんです。

──「Till the End」の音源を初めて聴いたとき、ちょっと笑っちゃったんですよ。「こんなにアレンジ盛っていいんだ?」って。いや、名曲なんですけど。

「Till the End」は「ソードアート・オンライン」の原作小説刊行10周年の節目に寄り添った楽曲で、ある種、「ソードアート・オンライン」に対する毛蟹さんの呪いにも近い愛情を感じます。

──TSM高等課程の学生を武道館まで連れてきたというのも最高ですね。本物あるいは実物に触れる体験といいますか……例えば美術や建築も、写真で見るのと実物を見るのとではまったく違う体験になるので、武道館のステージでパフォーマンスできたことは将来的に大きな財産になると思います。

MV撮影で初めて会ったとき、みんなのフレッシュな熱意と気合が尋常じゃなくて。よくよく話を聞くと、いわゆるステイホーム期間に高校生活がスタートして、実習的な現場はこれが初めてという子が意外といて。もしかしたら本来経験すべき現場を経験できないまま高校を卒業していたかもしれない子たちが、溜めに溜めた熱量を「シャル・ウィ・ダンス?」のMVにぶつけてくれて、その結果、あのMVは国内外問わずいろんな人に届いてくれた。そんな子たちと一緒に武道館に立ちたかったんです。

──素晴らしい。

実はそれ以前も、ツアー(2022年10月から11月にかけて開催された「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 “De:TOUR STANDING -歪-”」および「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 “De:TOUR SEATING -響-”」)を一緒に回ってもらったり、いろんなイベントにも出てもらったりして。「シャル・ウィ・ダンス?」がくれた出会いのおかげで、若者たちと一緒に人生を歩ませてもらっています。ちなみに武道館で披露した「シャル・ウィ・ダンス?」では、MV撮影中はカメラの後ろで指導してくださっていた振付師の方もステージに引っ張り上げちゃいました。「一緒に踊りましょう」って。

⑤2023年3月8日:ReoNa 2ndアルバム「HUMAN」リリース

──そんな武道館公演の2日後に次なるターニングポイントが。アルバムの内容に関してはリリース時にじっくりお話を伺いましたが、やはり特別な作品になりましたか(参照:ReoNa「HUMAN」インタビュー)。

「ANIMA」がアニソンシンガーとしてのターニングポイントだとすると、「HUMAN」は絶望への向き合い方におけるターニングポイントと言えるかもしれません。“人間”という大きなテーマを掲げたこともあり、言葉を伝えることに対して一層踏み込んで作った1枚でしたし、タイトルトラックの「HUMAN」という楽曲自体、作詞作曲のハヤシケイさんが示してくれた、“絶望系”の1つの到達点のようなものだと思っています。

──武道館では、「HUMAN」で泣いている人もいましたね。

泣いている人を見ると、私も泣きそうになっちゃって。リリースに先駆けて披露した形でしたが、武道館ではReoNaの今までを振り返る映像と一緒にお届けしたので、あの日だけの特別な「HUMAN」でした。

──先日行われた「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」のファイナル公演も拝見しまして(参照:ReoNa、人の弱さも優しさもまっすぐに歌い上げた「HUMAN」ツアー閉幕)。改めてライブでアルバム収録曲を聴いて、明るい曲、あるいは朗らかなボーカルの曲が増えたのはすごくいいことだったんじゃないかなと、個人的には思いました。

うれしいです。並べてみると楽曲の幅も、絶望の捉え方の幅も広がったと思います。ただ、「HUMAN」ツアーは今までのライブで当たり前のようにやり続けてきた楽曲がほぼ入っていないセットリストだったので、始まる前はドキドキしていました。「SWEET HURT」も「forget-me-not」も「怪物の詩」も「ANIMA」も「unknown」もやらないと思ったときに、どんな曲順で、どんな言葉と一緒に「HUMAN」のお歌たちを届ければいいのか……やっぱり「『unknown』やらなくていいのかな?」というのが最後まで引っかかって。何者でもない存在として、名前の付かない絶望を歌った「unknown」から、1人の人間を歌うようになった「HUMAN」に至るストーリーみたいなものをライブで示したかったという思いも正直あったんです。でも結果的に、あのセットリストでよかったとすごく満足しています。

──僕は「SACRA」を楽しみにしていたところがあったので「いつやるのかな?」と思って観ていたら「最後かよ!?」みたいな。でも、ラストナンバーとしてものすごくきれいに収まっていました。

ライブって、始まり方と終わり方にけっこう悩むんです。逆に言うとそこが決まれば自ずとほかのブロックも埋まっていったりして。「この曲で終わるんだったら、1つ前の曲はこれだよね。じゃあ、その前はこれかな?」みたいな。私は終わり方をすごく大事にしているんですけど、今回の「HUMAN」→「ALONE」(2019年6月発売の神崎エルザ starring ReoNaのシングル「Prologue」収録曲)→「SACRA」という流れは、我ながら素敵だったんじゃないかなと思います。

──さて、ReoNaさんはこのたびデビュー5周年という節目を迎えましたが、これは1つの通過点に過ぎないという言い方もできます。この先のことって、もう考えています?

まず2ndアルバム「HUMAN」ができたときに、果たして3rdアルバムはどうなるんだろうという、戸惑いにも似た気持ちも実はあって。「ピルグリム」をスタート地点に、4年半かけて到達した場所が「HUMAN」であるならば、この先みんなと一緒にどこへ向かうのか。それを今まさに考えている最中で、明確な目標はまだ見つけられていないのですが、やりたいことはたくさんあるんです。例えば、やっと作詞に携われるようになったので、制作にもっと深く関わりたいとか。

──作詞、じゃんじゃんやったらいいと思います。

あるいは“絶望系アニソンシンガー”という言葉の意味自体も、まだまだ考察の余地があるんじゃないかとか。それから、武道館という大きなステージにたどり着いた今、次に目指すステージはどこなのかとか。それは「ただいま」を言えるような場所なのか、それともずっと遠くにある場所なのか……でも、今一番やりたいことは何かといえば、5周年を迎えられたことに対する「ありがとう」を伝えることなんです。「“ピルグリム” at 日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」もテーマの1つが「出逢ってくれてありがとう」だったんですが、改めて、ReoNaに出会ってくれた1人ひとりにどれだけ「ありがとう」を伝えられるか楽しみです。

──僕はReoNaさんのキャリアを見て「まだ5年しか活動してないの?」と思ったんですよ。それぐらい濃密に感じるので、10周年、15周年のときはどうなっているのか、リスナーとしても楽しみです。

変わっていくのか……逆に、ときには後戻りすることもあっていいというか。昔の自分のボーカルを聴き返していると「できるようになったこともあるけど、できなくなったこともあるな」と思ったりするんです。なので揺らぎながら、行ったり来たりしながら、それでも常に右肩上がりでいたい。レベルアップはし続けたいです。

ReoNa

プロフィール

ReoNa(レオナ)

10月20日生まれ、“絶望系アニソンシンガー”を掲げる女性アーティスト。テレビアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて劇中歌アーティスト・神崎エルザの歌唱を担当し、“神崎エルザ starring ReoNa”として2018年7月にミニアルバム「ELZA」をリリース。2018年8月にReoNa名義でテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のエンディングテーマを表題曲とした1stシングル「SWEET HURT」をリリースしてソロデビューした。2022年5月にミニアルバム「Naked」を発表し、アコースティックツアー「ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 "Naked"」を開催。10月より10カ所16公演のライブハウスツアー「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 "De:TOUR"」を行った。12月にはアニメ「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」のオープニングテーマ「Alive」を表題曲としたシングルをリリース。2023年3月に初の日本武道館公演「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」を開催し、アルバム「HUMAN」を発表。5月から7月にかけてライブツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」を行った。8月にメジャーデビュー5周年を迎え、ライブ映像作品「ReoNa ONE-MAN Concert 2023『ピルグリム』at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」をリリース。