ReoNa特集|絶望系アニソンシンガーの道のりと未来──デビュー5周年に語る、5つのターニングポイント

ReoNaが8月29日にデビュー5周年を迎えた。

ReoNaは2018年に放送されたテレビアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて、劇中アーティスト・神崎エルザの歌唱を担当。同年7月に神崎エルザ starring ReoNaとしてミニアルバム「ELZA」をリリースした。その後、8月にReoNa名義でテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のエンディングテーマを表題曲とした1stシングル「SWEET HURT」をリリースしてソロデビュー。“絶望系アニソンシンガー”として「ソードアート・オンライン」シリーズやノベルゲーム「月姫 -A piece of blue glass moon-」、アニメ「シャドーハウス」「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」などさまざまな作品のテーマソングを歌唱してきた。

音楽ナタリーではReoNaのデビュー5周年を記念して特集を展開。ReoNaにこの5年間でターニングポイントとなった出来事を5つ挙げてもらった。歌を紡ぐことでリスナーの“絶望”に寄り添ってきたReoNaの歴史を感じてほしい。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 斎藤大嗣

①2018年7月4日:神崎エルザ starring ReoNa ミニアルバム「ELZA」リリース

──ミニアルバム「ELZA」は、ReoNa名義ではないにせよ……。

人生で初めてのリリースであり、自分の声が入ったCDが初めてお店に置かれるという。

──神崎エルザはアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」の劇中アーティストです。例えば歌い手が声優だった場合、「ELZA」の楽曲はキャラソンということになると思いますが、ReoNaさんはどういうスタンスで歌ったんですか?

当時はまだ「ReoNa」とは何者なのか、ほとんど認知されていない状態でしたし、私も神崎エルザを演じられるほど器用なわけでもなくて。「神崎エルザだから、こういうふうに歌おう」と、できもしないことにチャレンジしてクオリティを下げるよりは、今できるすべての歌唱表現を詰め込んで、結果、ちゃんと神崎エルザとして受け入れてもらえたらいいなという感覚でした。

ReoNa

──神崎エルザというキャラクターに対してはどのような印象を?

最初は「まったく共感できない人だったらどうしよう?」「ものすごく自分と解離した感じだったらどうしよう?」といった不安もあったんです。でも原作小説を読んで、例えば死というものに対して憧れを抱いていたりする、ただあけすけなだけじゃない彼女のキャラクター性あるいは人間性を見出すことができて。「ああ、よかった。自分と違う人間じゃない」と感じたので、その違わない部分を、どうやってより“自分事”にできるだろうかを考えていきました。ただ、この5年間でReoNaがお届けしてきた楽曲は1曲1曲、できあがり方が全然違うんですけど、神崎エルザの楽曲に関しては苦労しなかったことがないというか。

──苦労しなかったことがない。

例えば「ピルグリム」は、実はレコーディングを3回やって、何度も録り直しさせてもらっていたり。歌唱することの難しさに加え、聴き手に届くお歌と、自分が歌っていて気持ちいいお歌はまったく違うということも当時の私にはまだわかっていなかったんです。そんな中で、神崎エルザの楽曲でありつつReoNaとしても伝えたい思いがある。だから、歌詞に書かれた1つひとつの言葉に対して「私だったら? 私だったら?」という問いかけを重ねました。「自分事にする」とは「他人事にしない」ということであり、別の言い方をすれば「カバー曲っぽくならないようにする」ことなのかなって。それまで私はカバー曲を歌う機会が多かったので、「ReoNaの楽曲なんだぞ。私の名前で誰かに届くんだぞ」と自分に言い聞かせていました。

──今年3月に行われた「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at 日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」は、「ピルグリム」で始まり「Rea(s)oN」で終わりました。いずれも「ELZA」の収録曲であり、今に至るまでReoNaさんにとって大事な曲になっていることがうかがえます。

人生で初めてレコーディングした楽曲たちであり、長い時間を一緒に歩んできた楽曲たちなので、本当にいろんな思い出が詰まっています。実は、私がアコースティックギターを始めたのは神崎エルザの歌唱を担当することになったのがきっかけで。「ピルグリム」と「Rea(s)oN」が、人生で初めてギターで弾けるようになった2曲なんです。

──へええ。

ただ、コードを覚え始めてから人前で弾くまで(2018年7月に開催された「神崎エルザ starring ReoNa × ReoNa Special Live “AVATAR”」)、半年ぐらいしかなくて。だから「ギターって、痛いんだな」と思いながら、爪の補強用のアロンアルファを片手に過ごしていました。でも、それがあったおかげで「絶望年表」(2020年10月発売の1stアルバム「unknown」収録曲)や「HUMAN」(2023年3月発売の2ndアルバム表題曲)といった楽曲もライブでワンコーラスは弾き語りでお届けできたりしているので、神崎エルザが切り開いてくれた道が今も続いています。

──「Rea(s)oN」の歌詞にある「ここに生きるReason それはあなたでした」というフレーズも、ReoNaさんの活動のスタンスを体現しているようで。

神崎エルザというキャラクターを軸に考えたら、「Rea(s)oN」の歌詞は彼女のアバターであるピトフーイから主人公のレンに送る言葉だったり、「ガンゲイル・オンライン」というゲームに対して送る言葉だったり、いろんな解釈の仕方があると思うんです。でも、「あなた」という言葉が出てくる楽曲を自分が歌うことになったとき、私にとっての「あなた」とはなんだろうなとすごく考えて。ともすれば「楽曲を聴いてくれているあなた」とか「ReoNaという存在に出会ってくれたあなた」と言いたくなるんですが、それだけだと私の「あなた」がぼやけるんじゃないかと思ったんです。

ReoNa

──なるほど。

そこで1つたどり着いたのが「私にとって出会えたあなたは、お歌でした」という発想で。これは当時導き出した1つの正解であり、今も変わらず持ち続けている1つの正解でもあります。

──アニソンシンガーになりたいという夢も、このとき叶ったわけですよね。

はい。当時はいつ「ドッキリ大成功!」と書かれた看板を持った人が物陰から出てくるのか、気が気でなくて。レコーディングのときもTD(トラックダウン)のときもダビングのときも、アニメ制作の現場を見学させてもらったときも、帰り道でスタッフに「これ、覆らないですよね?」「ここまで進めておいて『やっぱりなし』とはなりませんよね?」「いつになったら安心できるんですか?」と確認していました。だから実際にCDが発売されて、アニソンシンガーとしてのデビューが叶ったときは、本当に本当にうれしかったです。

②2018年8月29日:ReoNa 1stシングル「SWEET HURT」リリース

──次のターニングポイントは約2カ月後、ReoNa名義でのデビューシングルですね。

ReoNaとしての始まりのお歌になります。このシングルの制作が決まった当時、この先いろんな楽曲を歌って、いろんなタイミングでReoNaという存在に出会ってくれる方がいるとしたら、デビュー曲というのはきっと帰ってくる場所になるんだろうなと思っていて。私も好きになったアーティストがどんな曲でデビューしているのか気になって、必ずさかのぼって聴くんです。だから、初めてReoNaとしてお届けするお歌であると同時に、今後どれだけ時間が経っても、いつ出会ってもらってもいいお歌として作らなきゃいけないという思いが強くありました。

──そういう歌にできたのでは?

できたんじゃないかと思っています。表題曲の「SWEET HURT」だけじゃなく、カップリングの「おやすみの詩」も「カナリア」も、リリースから5年経った今聴いても色褪せていないというか、何度歌っても歌い飽きなくて。神崎エルザの楽曲と同様に、一緒に歩んでくれています。

──この時点で、今に至るReoNaさんのスタイルがほぼ確立されているようにも思います。

本当ですか? 当時は、私1人では考えが及ばないところを一緒に考えてくれるスタッフがいて、例えば「自分が苦しいときに、同じように苦しさを内包した音楽を聴いて支えられたんです」といった私の話を聞いてもらっていて。そこでエンディングテーマとして寄り添わせてもらったのがアニメ「ハッピーシュガーライフ」という、ある種の痛みを伴う作品だったことで、“絶望系アニソンシンガー”としてのReoNaの存在の仕方みたいなものがある程度定まっていったんじゃないかと思います。

──スタイルはほぼ確立されているとはいえ、当たり前ですが当時のボーカルは初々しいですね。

それは、私もすごく感じます。当時の私はまだ19歳の、右も左もわからないちんちくりんでした。

──初々しく聞こえるということは、以降、ReoNaさんのボーカルが変化しているということでもあります。

できるようになったことは、すごく増えたと思います。この先のターニングポイントでアッパーな楽曲を歌うようになったり、もっと言葉を届けるためにはどうしたらいいか考える必要が生まれたりして。1つひとつの楽曲との出会いを通して、できるようにならなきゃいけないこと、できるようになりたいことがたくさんあったので、その意味では徐々に変わっていきました。

──僕はカップリング曲「カナリア」も好きなんです。というのも、僕がReoNaさんのライブを初めて観たのがたまたま招待されて行った2019年1月の「リスアニ!LIVE」で、そのとき「カナリア」をアコースティックギターのみの伴奏で歌っていたのが印象に残っていて。

まさに「カナリア」も1つの分岐点でした。「カナリア」があったからアコースティックギター1本とReoNaとか、ピアノ1台とReoNaとか、ストリングスとReoNaとか、音数が少ない中でお歌を紡ぐ形ができていて。きっとライブのスタイルにも、かなり大きな影響を与えていると思います。

③2020年7月22日:ReoNa 4thシングル「ANIMA」リリース

──表題曲の「ANIMA」は先ほどおっしゃった「アッパーな楽曲」ですね。この曲によってReoNaさんのボーカルのタガが外れたといいますか、ギアが上がった感あります。

神崎エルザ starring ReoNaから始まった約2年間は、「はじめまして」が多かったんです。つまり「はじめまして、ReoNaです」とお伝えする「ELZA」と「SWEET HURT」があって、その次の「forget-me-not」(2019年2月発売の2ndシングル表題曲)はアニメ「ソードアート・オンライン アリシゼーション」のエンディングテーマとして、初めて「ソードアート・オンライン」の本編に寄り添わせてもらった楽曲で。さらに初めてのノンタイアップシングルである「Null」(2019年8月発売の3rdシングル)がある。そんなふうにいろんな「はじめまして」を重ねた先で、すでに1回ご一緒している「ソードアート・オンライン」という作品に改めて、今度はオープニングテーマとして寄り添わせてもらう。そのことに対してクリエイターも含めたチーム全体で向き合った楽曲が「ANIMA」であり、その果てに生まれたのが「魂の色は 何色ですか」という言葉だったりして。

──パンチラインですよね。

作詞、作曲、編曲を手がけた毛蟹(LIVE LAB.)さんが、「ソードアート・オンライン」への深すぎる愛情と理解を持ってバーッと走り抜けてくださって。そこで示されたサウンドや言葉たちにどうやって自分を重ね、“絶望系アニソンシンガー”として表現すればいいのか、改めて考えざるを得ませんでした。そんな挑戦状のような楽曲であり、アニソンシンガーとしてのReoNaのあり方におけるターニングポイントにもなってくれた楽曲です。ただ、この「ANIMA」では悔しい思いもたくさんしていて……当時は、ちょうどライブができなくなったり、バンドと一緒にスタジオに入れなくなったりした時期で。

──そうか。「ANIMA」のリリースも、当初予定されていた5月から7月に延期されたんですよね。

そうです。ツアーも1本まるっと中止になったり(2020年5月から7月にかけて全国ツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2020 “A Thousand Miles”」が行われる予定だった)、リリースイベントもできなかったり、いわば楽曲を育てる機会が失われてしまって。他方で、これはすごくありがたいことなんですが、初めてネット番組で生配信ライブをしたり、「THE FIRST TAKE」や「With ensemble」でアレンジを変えて披露したり、「ANIMA」を携えてステージに立たせてもらう機会が多くあったんです。ステージに立ったら言い訳はできませんから、いろいろな制限がある中、しかも初めて挑戦するタイプのお歌を自分の中で作り上げなきゃいけなくて。今振り返ると、歌うたびに悔しさを感じていたかもしれません。

──そんな逆境の中にあっても代表曲の1つとして定着しているということは、それだけ“強い”曲だったのでは。

楽曲の持つパワーに、すごく助けられました。

──いやいや、歌の力があってこそですよ。

いえいえ。でも、その言葉はありがたく受け取らせていただきます。

ReoNa

──先ほど毛蟹さんの名前が出ましたが、その毛蟹さんと、同じくLIVE LAB.所属のハヤシケイ(LIVE LAB.)さんとはデビュー前からのお付き合いなんですよね。そうした作家との関係に変化はありますか?

時間を重ねるごとに自然とお互いの理解は深まっていると思っていて。ただ、毛蟹さんは本当に研究家で、私には聞こえない私の声が毛蟹さんには聞こえているんじゃないかと不思議に思うこともあるんですが、それぞれのスタイルでReoNaというアーティストに寄り添ってくださっています。でも、デビューする前は申し訳なさを感じていた部分もあったんです。要は、まだデビューできるかもわからない、何者でもない私に、きっと生きていく中で無限に生み出せるわけではないであろう楽曲を託してくださることに対して「本当はもっと有名な人に歌ってほしかったんじゃ?」「そもそも女性ボーカルでよかったのかな?」と考えたりもしていて。

──例えば「怪物の詩」(「Null」収録曲)は、ReoNaさんが17歳のときに毛蟹さんが書いてくれた人生初のオリジナル曲だと以前おっしゃっていましたが、デビュー前に「やっぱ返して?」と言われたら困っちゃいますよね。

そうそう。特に「怪物の詩」をいただいたときの私はリアクションが薄かったというか、すごく複雑な顔をしていただろうなって。本当に素敵な楽曲だったので「うわー!」って喜びたい気持ちもありつつ「責任重大だな……」みたいな。でも今は、時間や心や思いを削って生み出された楽曲を、ReoNaが届けることでどんなふうに人に伝わるだろうとか、そういうことを考えるようになっていて。楽曲への向き合い方の変化とともに、クリエイターの皆さんへの向き合い方も変化してきているのかなと思います。