10代の頃、四六時中一緒に遊んでいた友達へ
──続く「FRIENDS」も文字通り友達のことを歌った曲で、作編曲がrui(fade)さん、作詞はReoNaさんとruiさんの共作という形になっていますね。
「FRIENDS」は、私の個人的で具体的な友達との関係を描いていて。私が10代の頃、すごく限られた狭い世界の中で生きていた当時、四六時中一緒に遊んでいた女友達が2人いたんです。その2人とは諸事情あってデビューしてから一度も連絡を取ることなく、距離を置いてしまっているんですけど、彼女たちに向けて当時を振り返りながら歌詞を書かせてもらいました。
──実は僕、この「FRIENDS」は、かつて恋人だったけれど、今は友達になってしまった人のことを歌っているのかなとも思ったんです。要は「友達だった頃に戻りたい」とか「別れても友達でいたい」みたいなフラれ方をして……。
なるほど、そういう受け取り方もできるんですね。でも変な話、特に思春期の女の子にとって一番仲よしの友達って、ほぼ恋人と同義だと思うんです。常に腕を組んで歩いたり、しょっちゅうお互いの家に泊まりに行って狭いシングルベッドで一緒に寝たり、些細なことでもいちいち連絡したり、逆に丸1日連絡が取れないと「何してたの?」と腹を立てたり、相手に恋人ができたら嫉妬したり。お互いに一番近いところにいて、自分の親よりもいろんなことをお互いに知っているし、当然嫌な面もいっぱい知っているけれど離れられない。私も当時は3人で1つの生命体ぐらいに感じていたんですけど、そうやって同じ時間を過ごした人でも、ずっと一緒にいられるかといったら必ずしもそうではなくて。
──僕は勘違いしてしまいましたが、とても親密な歌詞ですね。
「FRIENDS」は、ほぼ自分1人で歌詞を書いた初めての楽曲なんですが、作詞のヒントになったのがThe Beatlesの「Hey Jude」で。ジュリアン・レノンというたった1人の子供のために書かれた楽曲が、世界中の人たちがシンガロングしたり、誰かに送ったりするお歌として愛されている。何か大きなことを言わなくても、身近な人に宛てた手紙のような楽曲でも、たくさんの人に響くことがある。そんなことを思いながらつづった歌詞なので、それを受け取った人それぞれの経験の中で、それぞれの物語になってくれることが一番うれしいです。
──歌詞の中に「メイとガブは離れてく」というフレーズがありますね。これは絵本「あらしのよるに」に登場するヤギのメイとオオカミのガブだと思われますが、ここでも「さよナラ」とのつながりを感じます。
「あらしのよるに」は私も大好きな絵本でありアニメなんですけど、実はそのフレーズはruiさんのマネージャーさんからご提案いただいたんです。もともとこの箇所には、対になる関係でありながら、お互いがお互いの世界を生きるために離れ離れになる選択をする物語の登場人物を入れたくて。でも、私が思いつく限りではそれが死別だったりして、そういうものであってほしくないと悩んでいたときに、ふとruiさんのマネージャーさんに相談したら「『あらしのよるに』って知ってます?」と。確かにメイとガブはどちらが悪いわけでもなく、死別するわけでもなく、お互いのために友人として別れを選んでいるので、ぴったりだと思ってその案をいただきました。
──僕としては「懐かしいは優しい」というフレーズも印象深くて。そのことについて、先ほど少しお話に出た「一番星」の制作エピソードの中でも語られていたので(参照:ReoNa「Alive」インタビュー)。
“懐かしい”だけは一切トゲのない感情というか。そのときもお話ししましたけど、まったく違う場所でまったく違う人生を歩んできた人のはずなのに、小さい頃に同じアニメを観ていたというだけで「わあ、懐かしい!」と打ち解けたり。そうやって人と人をつないでくれたりもする、大切な感情だと思っています。
出会いと別れの季節に、“絶望系”の色を添えて
──他方で7曲目の、毛蟹(LIVE LAB.)さんが作詞、作曲、編曲を手がけた「メメント・モリ」はタイトルからも察せられるように、死別を歌っていますね。
まっすぐに死を思う楽曲です。「メメント・モリ」は作詞、作曲、編曲すべて毛蟹さんにお願いするという前提で作っていただいたんですが、それは私にとっては原点回帰に近い意味もあって。まだ私がデビューする前の、17歳の頃にできた人生初のオリジナル曲が、毛蟹さんが手がけた「怪物の詩」(2019年8月発売の3rdシングル「Null」収録曲)という楽曲なんです。以降もいろんな道筋をたどっていく中で、毛蟹さんは常に絶望のど真ん中にあるような楽曲を書いてくださったので、このアルバムでは原点回帰でありつつ、私と毛蟹さんの“これから”も感じられるような楽曲を歌いたかったんです。
──リズミックなギターロックで、例えばアイリッシュのような、どこかルーツミュージック的な要素も感じます。その中でReoNaさんは、ただでさえユニークな楽曲に、声の強弱でうねりを加えているといいますか。
毛蟹さんの楽曲は毎回、今まで聴いたことのない何かが飛び出してくるんですが、この曲調の中で私が出しうる限りの、最も弱々しい声で歌い始めています。そんな今にも消え入りそうな歌声というのも、それまでたどってきたいろんな道筋の果てで得たもので、具体的には「ないない」があってこそのボーカルだと思います。自分の声って、こんなにも自由に遊べるんだ……という言い方はふざけて聞こえるかもしれませんけど、声も1つの楽器なんだということをこの楽曲で実感しました。
──「メメント・モリ」から、同じく毛蟹さんが作詞、作曲、編曲を手がけた「生命線」につなぐ流れもニクいと思いました。そこから“痛みとともに生きていく”ことを歌った「Alive」を経て、澤野弘之さん作編曲、cAnON.さん作詞の「SACRA」へと続きます。タイトルになっている“桜”は、諸行無常を象徴する花ですね。
「SACRA」はタイトルトラックの「HUMAN」からつながってくる、出会いと別れの楽曲です。最初に澤野さんからまだ歌詞の付いていないデモをいただいたときに、賛美歌のような、どこかホーリーなものを感じて、毎年春に咲いては散っていく桜をモチーフにしてはどうかと思ったんです。そこに至った背景には、実は「シャル・ウィ・ダンス?」のMVがあって。このMVに出演してくださっているダンサーさんはみんな、ダンスや歌を専門に勉強している学生さんで、高校2、3年生の子たちがメインなんです。
──へええ。
でも、この情勢下で本来受けるはずだった課外授業や、学生の間に立てたはずの舞台をまったく経験しないまま3年生になり、「シャル・ウィ・ダンス?」のMVが最初で最後の現場になるんじゃないかという子もたくさんいて。そんな彼女たちとの出会いもあって、過ぎ去ってしまう時間の儚さだったり、嫌でも訪れてしまう卒業の季節だったりを感じさせるような楽曲に、ReoNaの“絶望系”という色を添えられないかと思ったんです。そんなお話をcAnON.さんにしたところ、すごく寄り添ってくださいまして。澤野さんのメロディの美しさを最大限に引き出す歌詞を紡がれてきたcAnON.さんが、音を大切にしながら、思いも汲んで書いてくださった歌詞からは「英語で韻を踏むのって、こんなに気持ちがいいんだ」「私の思いはこんなふうに英語で表現できるんだ」という新しい発見をたくさんいただきました。
──まさに英語で韻を踏んでいる「Remember me tender, remember my pain」という歌詞の「my pain」にReoNaさんっぽさを特に感じました。
別れに必ず付いてくる痛みは、その別れを思い返すたびによみがえってくる。それも春特有の痛みなのかなと思います。
──僕はこの曲におけるReoNaさんのボーカルに最も驚かされまして。先ほど「ホーリー」とおっしゃったのがすごくしっくりきたのですが、ハスキーな成分がほとんどない、ひときわ透き通った歌声ですね。
ボーカルを録るときに、躊躇はしたんです。楽曲に身を委ねて、ありのままに歌ったらこの声になってしまうけど、大丈夫かなと。でも、自分の中で「澤野さんとの楽曲だから、いいんだ」と踏み出したボーカルではあります。このメロディの持つ儚さや温かさ、美しさといったものが、伸びやかに耳に入っていってもらいたいと思いながら歌いました。
「SAO」を背負っていく
──出会いと別れを描いた「SACRA」に対し、最後の曲「VITA」では「決してあなたを忘れないよ」と歌っています。ある種のアンサーのようで、この流れもすごくいいですね。
私やあなたという存在はいつか消えてなくなってしまうけれど、それで全部なかったことには決してならないと思いたいし、そう伝えていきたいです。
──「VITA」はラテン語とイタリア語で「命」を意味します。つまり人は必ず死ぬが、肉体は灰になっても命は残ると。
はい。この楽曲も「ソードアート・オンライン LAST RECOLLECTION」というゲームの主題歌になってるんですけど、私は以前、アニメ「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」に寄り添わせてもらったときに「ANIMA」(2020年7月発売の4thシングル表題曲)という、ラテン語で「魂」を意味する言葉をタイトルに用いていて。それを引き継ぐ「VITA」には「命」だけでなく、スワヒリ語で「戦い」という意味もあると聞いて、「LAST RECOLLECTION」にふさわしい言葉だと思ったんです。ReoNaはずっと「SAO」シリーズと一緒に歩んできているんですが、2012年にアニメの第1期が放送されたとき、私はただのアニメ好きな中学生で、自分の夢すら語れませんでした。そこから10年経った今、いちファンとして、主題歌を担わせてもらうシンガーとして、まだまだ「SAO」は終わらないし、終わってほしくないという強いメッセージを込めています。
──「VITA」の作曲は毛蟹さん、編曲は荒幡亮平さんという、かつてゲーム「ソードアート・オンライン Alicization Lycoris」のオープニングテーマ「Scar/let」(シングル「ANIMA」カップリング曲)を手がけたお二人で、作詞は毛蟹さんとReoNaさんとなっています。やはり自分でそのメッセージを言葉にしたかったんですか?
いや、実は楽曲ができあがったあとに、毛蟹さんから「作詞クレジットにReoNaの名前を入れていいか?」と打診されまして。今までも毛蟹さんが作詞をしている隣で「ここはこういう言葉だったらどうですか?」「これってどういう意味ですか?」と意見を出させてもらうことはけっこうあって、「VITA」も毛蟹さんとお話ししながら歌詞を作っているんです。毛蟹さんも「SAO」への思いがすごく強いというか理解が深すぎるので、ときに原作を全巻読んでアニメも全シリーズ視聴した人でないと伝わらない言葉を使いそうになってしまったり、迷う場面もあったりして。そういうときは2人で話し合うことも多いんですが、その中で毛蟹さんから「ReoNaは今回の『LAST RECOLLECTION』や原作者の川原礫先生、そして『SAO』がきっかけで出会った人たちに、どんな思いを届けたい?」と聞かれたときに、歌詞になった「背負っていく」という言葉が出てきて。
──熱いやりとりですね。
後日、毛蟹さんが「『背負っていく』という言葉は、ReoNaからしか出てこない。僕は作詞家としてその言葉をReoNaに歌わせることはできないから、ReoNaの名前を作詞に入れたい」と。しかも時系列でいうと、ReoNaの名前が初めて作詞にクレジットされたのが、この「VITA」だったんです。
──あ、そうなんですか。リリース順だと「ネリヤカナヤ ~美ら奄美(きょらあまみ)~」(シングル「シャル・ウィ・ダンス?」カップリング曲)が最初ですよね?
そうです。だからリリースの順番は前後しているんですけど、「VITA」は私にとってターニングポイントになった、本当に色濃く思いが残っている楽曲です。
──そんな過去に作った曲が、「HUMAN」と題したアルバムのラストナンバーとしてばっちりハマっているというのもすごい話ですね。
うれしいです。歌詞にある通り「まだ終われない」。
自分のことを“人間未満”だと思い続けてきたけれど……
──「VITA」の歌詞についてもう1つ、命を終わらないものと捉え、なおかつそれを「記憶」と言い換えてもいるのがとてもReoNaさんらしいと思いました。「懐かしいは優しい」の「懐かしい」も記憶ですから。
私はデビューして4年半の間に出会いと別れを繰り返してきて、その中には死別も含まれているんですが、亡くなった人にとって一番の弔いはなんだろうと考えたとき、その人のことを忘れずに、その人の話をし続けることじゃないかと思って。変な話、悪口でもいいから。私がこの世からいなくなったときに何が一番寂しいかといえば、きっと存在を忘れられることでしょうし……もちろんみんなの営みは変わらず正常でいてもらいたいんですけど、たまには思い出してほしい。それは人間として誰しも抱える望みなんじゃないかとも思います。
──その人のことを忘れない限り、その人がいたという証は残りますからね。そして「VITA」は「SAO」楽曲らしいロックナンバーですが、ReoNaさんの歌声にも鬼気迫るものがあります。
先ほど言ったように「VITA」は時系列的には過去の楽曲で、ボーカルRECもそのとき済ませていたんです。でも、作詞作曲の毛蟹さんも、編曲の荒幡さんも、楽器を演奏してくださったミュージシャンの皆さんもこの楽曲にものすごい熱量を注ぎ込んでくださったので、時間が経つにつれ「ボーカルを録り直したい」と思う人が、私だけじゃなかったという。そんなわがままはなかなか通るものではないんですが、ボーカルRECをリベンジさせてもらいまして。過去に録ったバージョンも完成してから何度も聴き直していて、そのうえで再録に臨んだので、もう一歩踏み込めたお歌になっていることは確かです。
──冒頭の話に戻ってしまいますが、絶望系アニソンシンガーとして歌を届けてきて、「HUMAN」というアルバムタイトルにたどり着くと思っていました? もちろん「たどり着く」というのは便宜上の表現で、正しくは通過点に当たるわけですが。
思っていなかったです。私は自分のことをずっと“人間未満”だと思い続けてきたので。人として生きるのは本当に難しいというか、苦しい思いをしたい人も、誰かを傷付けるために生きている人もいないはずなのに、理解し合えないことも傷付け合うことも多くて。「ただ生きているだけで、なんで私はこんなにつらいんだろう?」「普通の人ならできることが、なんで私にはできないんだろう?」「そもそも人間の“普通”ってなんだろう?」みたいなことを考えては、いずれにせよ自分はそこに及んでいないとあきらめていた時間がすごく長かったんです。でも、及んでいなかったとしても、この数年間で私が紡いできたお歌たちの中には間違いなく“人間”というものが詰まっているので、今「HUMAN」というタイトルでアルバムを出すことに対する不安や迷いは一切ありません。
ツアー情報
ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”
- 2023年5月14日(日)埼玉県 戸田市文化会館
- 2023年5月27日(土)福岡県 福岡国際会議場
- 2023年5月28日(日)大阪府 大阪国際交流センター 大ホール
- 2023年6月11日(日)愛知県 名古屋市公会堂
- 2023年6月24日(土)北海道 道新ホール
- 2023年7月9日(日)宮城県 電力ホール
- 2023年7月13日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
プロフィール
ReoNa(レオナ)
10月20日生まれ、“絶望系アニソンシンガー”を掲げる女性アーティスト。テレビアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて劇中歌アーティスト·神崎エルザの歌唱を担当し、“神崎エルザ starring ReoNa”として2018年7月にミニアルバム「ELZA」をリリース。2018年8月にReoNa名義でテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のエンディングテーマを表題曲とした1stシングル「SWEET HURT」をリリースしてソロデビューした。2022年5月にミニアルバム「Naked」を発表し、アコースティックツアー「ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 "Naked"」を開催。10月より10カ所16公演のライブハウスツアー「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 "De:TOUR"」を行った。12月にはアニメ「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」のオープニングテーマ「Alive」を表題曲としたシングルをリリース。2023年3月に初の日本武道館公演「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」を開催し、アルバム「HUMAN」を発表。5月から7月にかけてライブツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」を行う。