ReoNaが2ndフルアルバム「HUMAN」を3月8日にリリースした。
アルバムには島田昌典がサウンドプロデュースを手がけた表題曲、ダンジョン攻略アトラクション「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」の主題歌「Weaker」、ゲーム「ソードアート・オンライン LAST RECOLLECTION」主題歌「VITA」など全12曲が収録されている。
2018年にデビューし、“絶望系アニソンシンガー”として活動してきたReoNaは、このアルバムで「HUMAN」という大きな言葉にたどり着いた。そこに至るまでにはどのような思いがあったのだろうか。人の弱さにまっすぐに向き合い続けるReoNaだからこそ生み出せた新作にインタビューで迫る。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
人間について歌ってきた日々だった
──2ndアルバム「HUMAN」は、1stアルバム「unknown」から約2年半ぶりのフルアルバムということでだいぶ間が空きましたが、リスナーにとっては待った甲斐のあるアルバムになったのではないかと。
本当に「待ってくださっていたらいいな」と思いつつ、待ってくださっていた方には自信を持ってお届けできるアルバムになりました。1曲1曲、完成に至るまでかなり試行錯誤して、私としても時間をかけて進んでいった甲斐があったと思います。
──ReoNaさんがこの2年半の間に積み重ねてきたものが「HUMAN」というタイトルに結実するのも、何度かインタビューさせてもらった身としては納得がいきます。
「unknown」リリース以降、「ないない」(2021年5月発売の5thシングル表題曲)、「生命線」(2021年9月発売の1st EP「月姫 -A piece of blue glass moon- THEME SONG E.P.」収録曲)、「シャル・ウィ・ダンス?」(2022年7月発売の6thシングル表題曲)、「Alive」(2022年12月発売の7thシングル表題曲)と、それぞれのタイミングでアニメやゲームに寄り添うチャンスをいただいて。他方で「ライフ・イズ・ビューティフォー」(2022年5月発売のEP「Naked」収録曲)という、なんらかの作品の主題歌ではないお歌もお届けしてきたんですが、どの楽曲も生きることについて触れてきたなと、この2年半を振り返ったときに感じたんです。ただ、ReoNaは“絶望系アニソンシンガー”として「生きよう」と言ってきたわけでは決してないと思ったときに、1つたどり着いたのが「人間について歌ってきた日々だったんじゃないか」という発想で。そこから「HUMAN」という、すごく大きな言葉に至りました。
──1曲目でタイトルトラックの「HUMAN」の作詞作曲はハヤシケイ(LIVE LAB.)さんです。人と人はわかり合えないし、傷付け合うし、必ず別れを迎えるが、人として人と生きていく、と吐露するような歌ですね。
その通りです。生きていく中で出会いと別れは付きものですし、特にデビューしてから4年半の間で私は数えきれないほどの出会いを経験させてもらったんですけど、当然その中には受け入れ難い別れもあって。でも、それって私だけが抱えているものじゃなくて、ケイさんはもちろん誰しもが抱えている、すごく普遍的かつ大事なものだと思うんです。
──ハヤシさんとはどのようなやりとりを?
今までReoNaの楽曲はいろんなできあがり方をしてきたんですが、この楽曲に関しては「『HUMAN』というアルバムタイトルになったので、『HUMAN』という曲を書いてください」とお願いしたところ、ほぼこの状態で上がってきました。だから本当にまっすぐできあがった楽曲ですし、デモを受け取ったときに「ここに何か手を加えるのは野暮なんじゃないか?」と思うぐらい、ケイさんのまっすぐな気持ちが込められていて、私自身も「ああ、そうだよな」と噛み締めるものがありました。
──「噛み締めるもの」とは、強いて言えばどのあたりですか?
「時に人を傷つけて 人を遠ざけて 一人になりたくて 独りは寂しくて」というフレーズです。
──めちゃくちゃ矛盾しているやつですね。
でも、人ってそういうものだし、大切な人だからこそおざなりにしてしまう瞬間があったりして。このフレーズを聴いたとき、いろんな人の顔が思い浮かんだんです。その顔は、人によっては恋人だったり友人だったり家族だったりするかもしれませんが、人に傷付けられずに生きられる人はいないし、人を傷付けずに生きられる人もまたいないと私は思っていて。そういう、弱さゆえになかなか言葉にできない部分がまっすぐに描かれていて、なおかつ一筋縄ではいかない感じがたまらなく「HUMAN」です。
人間は、弱い
──「HUMAN」の編曲は、aikoさんをはじめ名だたるアーティストの楽曲をプロデュースしてきた島田昌典さんです。
島田さんは、言葉を大切にする楽曲を手がけていらっしゃるイメージがすごくあって。このまっすぐな楽曲を、日本で一番まっすぐに届けられる編曲家は誰だろうと思ったときに、島田さんのお名前が浮かんだんです。もうダメもとでお願いしたところ、快く引き受けてくださいまして、温かいのにどこか切なく、かつ自分たちが聴いてきたJ-POPの血筋を感じるサウンドに仕上げていただきました。この楽曲を通して、また1つ出会いが生まれたことになります。
──ReoNaさんの歌声も、例えば「ライフ・イズ・ビューティフォー」を更新したような朗らかさがありますね。
まさに「ライフ・イズ・ビューティフォー」のときも、あれだけキラキラした楽曲を歌うにあたって声のアプローチでものすごく苦戦したんですが(参照:ReoNa「Naked」インタビュー)、この「HUMAN」はさらにレベルアップせざるを得なかったというか。どうしても言葉を届けたくて、そのために島田さんに編曲をお願いしたりしてきた中で、いざお歌を入れるとなったとき、今までのReoNaの経験値ではもう一歩及ばない楽曲だと思って。実は編曲も楽器RECも2022年の秋口には終わっていて、あとはボーカルを残すのみという状態から、2カ月ほどレコーディングを待っていただいたんです。
──はい。
その2カ月の間に何があったかというと、ReoNa史上最も長い全16公演の全国ツアー(「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 “De:TOUR STANDING -歪-”」および「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 “De:TOUR SEATING -響-”」)なんです。当時の私には「この楽曲が届くのは、来年の武道館のあとだ」「そんな未来で受け取ってもうお歌を今、紡がなきゃいけない」という意識が強くあって。だからこそ、「De:TOUR」でいろんな“HUMAN”たちと一緒に回り道してからボーカルを録りたかったし、結果、この「HUMAN」にふさわしいお歌の紡ぎ方にたどり着くことができたと思います。
──「HUMAN」を歌うには、全16公演のツアーを回る必要があったと。
言葉を押し付けたくもなく、かと言って聞き流されたくもなくて。どこか俯瞰しているような、達観しているようなこの楽曲を、どうやったら言葉のままに受け取ってもらえるのか。それが、私にとって本当に大きな挑戦でした。
──そんな「HUMAN」に続く2曲目が、同じくハヤシケイさん作詞作曲の「Weaker」という。
人間は、弱い。
──ReoNaさん自身が“弱さ”に対して肯定的な人ですし、アルバムの流れとしてもきれいです。
この楽曲は「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」というアトラクションの主題歌でもあって(参照:ReoNaの新曲「Weaker」が「ソードアート・オンライン」ダンジョン攻略体験企画の主題歌に)。「SAO」にはキリトというすごく強い主人公がいて、彼はチートという言葉をもじって「ビーター」と呼ばれているんですが、そんな存在に立ち向かう我々は弱い者たちであるという意味もかけて「Weaker」なんです。
──なるほど。
私自身、弱いからいろんなものから逃げてきたし、逃げ続けた果てに今の自分がある。だから「弱いから 弱いから ああ 今がある」という歌詞は私にも、きっとケイさんにも、そして実はキリトにも重なると思っていて。強さと弱さは表裏一体というか、人に優しくできる人は、人に傷付けられてきた、人の痛みに共感できる人なんじゃないか。私も傷付かない強さは欲しいけれど、傷に対して鈍くはなりたくない。矛盾しているかもしれませんが、それが今の私ができうる限りの、自分の弱さとの向き合い方なんです。
──「Weaker」の編曲は堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんですが、イントロからスケールがデカすぎて驚きました。
壮大なファンファーレで幕を開ける、まさしく開幕の楽曲という感じで。きっと、チームの共通認識として「この楽曲はアルバムの序盤に来るだろう」というのがあったと思います。
──ReoNaさんのボーカルも「HUMAN」とは対照的にアグレッシブで、ある種の泥臭さも感じます。
デビュー当時の私には、歌い分けを気にかけられるほどの経験値もなかったんですが、いろんなアニメに寄り添いながら幅広い楽曲を歌ってきた果てに、この「Weaker」のボーカルがあるんだと思います。堀江さんも「SAO」シリーズの楽曲に長く携わってこられた方ですし、私もお歌で「SAO」へのリスペクトをしっかり込めることができました。
物語を読み聞かせるように
──「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」といずれもアニメ「シャドーハウス」の主題歌を挟んで、5曲目は傘村トータ(LIVE LAB.)さんが作詞作曲された「さよナラ」です。傘村さんはいろんなタイプの歌詞を書かれる方ですが、この「さよナラ」は寓話的というか、寓話そのものですね。
「さよナラ」自体が原作であり、同時に主題歌でもあるような楽曲だと思います。
──一聴して「絵本みたいな曲だな」と思ったのですが、ミュージックビデオも絵本になっていて。物語としては、友達同士である「おおかみのナラ」と「にんげんのさよこ」の別離を描いています。
オオカミは人間を食べる動物だと思われていて、それは歌詞にも書かれているんですけど、周囲から危険視あるいは不安視される関係性であっても、さよことナラには当人同士にしかわからない絆や思い出があって。もしそれが環境のせいで引き裂かれてしまっても、きっと2人の中でずっと残り続けるし、残り続けたものが「さよなら」という言葉になったんだよ……みたいな。
──「さよなら」の語源は、さよことナラだった。
本当にそうだったらいいのにと思ってしまいます。これはトータさんの作る楽曲のニクいところの1つで、例えば「いかり」(アルバム「unknown」収録曲)という楽曲も最後まで聴いてようやくタイトルの意味を回収できるんです。「さよナラ」のデモを受け取ったときも「なんで『さよ』は平仮名で、『ナラ』はカタカナなんだ?」と不思議だったんですが、聴き終わると2人の関係性に心が引っ張られて、それこそ1編の物語を読み終えたあとのような充足感がありました。
──「さよナラ」の編曲はReoNaバンドのバンマスでもある荒幡亮平さんです。演奏はピアノとチェロのみで、ReoNaさんのボーカルも読み聞かせみたいですね。
ピアノは荒幡さんが弾いてくださっていて。「一番星」(シングル「Alive」カップリング曲)という楽曲でもそうだったんですが、2人でブースに入って、クリックも聞かず「せーの」でレコーディングしているんです。まさに物語を読み聞かせるように、語り紡ぐように、言葉が準備できたら息を吸って、その息とともに置いていく。私が紡ぎたいように紡いだ言葉に、荒幡さんが耳を澄ませて音を乗せてくれる。そんなふうにお互いの呼吸を探り合いながら、読み合いながらのレコーディングでした。
──ReoNaさんはライブのことを「一対一の空間」と表現していて、ライブ中もお客さん1人ひとりを凝視するとおっしゃっていました(参照:ReoNa「月姫 -A piece of blue glass moon- THEME SONG E.P.」インタビュー)。それが読み聞かせというスタイルにもハマったんだろうなと。
確かに一対一で、聴いている人を物語の中にいかに引きずり込めるかが読み聞かせでは重要になってくると思いますし、それができていたとしたらとてもうれしいです。
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