あなたの国の言葉で伝えられたら
──カップリング曲の「Numb」は、作編曲は「Alive」と同じくruiさんですが、作詞と編曲にDreamlab(米ロサンゼルスを拠点にする音楽制作チーム)のメンバーが携わっているんですね。
ruiさんからご縁をいただいたんですけど、Dreamlabはケイティ・ペリーさんやジャスティン・ビーバーさん、マイリー・サイラスさんといった、私が小中学生のときからいち洋楽好きとして聴いていたアーティストのプロデュースもされているチームで。そんな方々とご一緒できるという事実に、まず驚いたところから制作がスタートしました。この「Numb」も、先ほどお話しした「Alive」の中国語バージョンと同じく、海外の方々にお届けできるお歌にしたいという思いがあって。アニソンって、いろんな国の方々に受け取っていただいていて、私自身もアニソンシンガーとしてシンガポールやドイツでお歌をお届けしてきたんですけど、現地の皆さんがサビのフレーズとかを日本語で一緒に歌ってくれるんです。きっと一生懸命聴いて覚えてくれたはずだから、今度は私が「ReoNaはこういう思いを、絶望に寄り添うお歌を歌っているんだよ」というのをあなたの国の言葉で伝えられたらと、全編英語の歌詞をリア・ヘイウッドさんに書いていただきました。
──当たり前ですが、ネイティブらしい言い回しだらけですね。
「Numb」は「麻痺した」とか「感覚のなくなった」という意味で、歌詞は私がruiさんに宛てた「こういう瞬間に自分のことが嫌になります」というお手紙が元になっているんですが、こんな表現の仕方もあるのかと驚きました。しかも意訳のしようもたくさんあるというか、英語圏の方々が歌詞カードに併記された日本語訳の通りに受け取ってくださるかわからない、ある種の余白のような部分もあって。海外の皆さんにどういうニュアンスで届くのか、すごく楽しみです。
──厭世的な歌詞ですが、確かに行間の読みようによって受け取り方が変わりそうですね。例えば「Wanna run and hide but you're in front of me」の「you」をどう捉えるかでも……。
心が麻痺している自分に寄り添ってくれる存在なのか、はたまた自分のことが嫌になって逃げて隠れたいのに、それを許してくれない存在なのか。私にとっては、逃げることは1つの救いでもあるので、どちらかというと後者のイメージで歌っていたんですが、聴いてくださった皆さんそれぞれの解釈で受け取っていただきたいです。
──ReoNaさんにも心が麻痺していくような感覚があったわけですよね?
すごくありました。笑いたくないけど笑っていなきゃいけなかったり、みんなが好きなものを好きじゃなきゃいけないみたいな空気を感じて、それに合わせられちゃう自分のことがすごく嫌で。でも振り返ってみると、みんな嫌々合わせていたのかなとも。
──仮にみんなが嫌々合わせていたとしたら、その「嫌々」はなんだったんでしょうね。
やっぱり合わせているほうが楽だし、「No」と言うことにも勇気がいるし、「『No』と言いたい自分はただ反発したいだけでは?」「じゃあ、私の本音ってどこにあるの?」とか、そんなことを考えてしまう場面もたくさんありました。それを言ったら、今でも「私は本当はどうしたいんだろう?」と悩むことはよくあって。それは「嫌々」とも「麻痺」ともまた別の話ではあるけれども、「自分が一番やりたいことはなんなのか?」という自問自答にハマってしまうことは大人になってもありますし、きっとこれからもなくなることはないんだろうなと思います。
──「Numb」も洋楽的なエレクトロニカですが、「Alive」とはボーカルスタイルがかなり異なりますね。ある種、虚無的な歌声といいますか。
「Alive」も英語が多めでしたけど、同じ英語という言語でもまったく違うニュアンスになったと思います。そうなったのは、作詞のリアさんの影響が大きいと感じます。リアさんはセリーヌ・ディオンさんやブリトニー・スピアーズさんのコーラスやボーカルディレクションもされている方なんですが、「Numb」でもReoNaの声に合わせてコーラスを入れてくださったんです。今まで自分の声に自分以外の人の声を重ねたことはなかったので、リアさんのコーラスが加わることでこんなにも表情が変わるのかという発見もありました。私自身の声も、「Numb」というタイトルに沿うように、熱く歌い上げるのではなく、どこか冷静に、空虚な自分を俯瞰しているようなイメージで歌いました。
“懐かしい”という感情は、一番優しい感情
──今回のシングルは盤によって3曲目が異なります。まず初回生産限定盤と通常盤に収録された「一番星」は、「Alive」とも「Numb」とも違う親密なバラードで、作詞が荒幡亮平さんと宮嶋淳子さん、作編曲が荒幡さんですね。
荒幡さんはReoNaバンドのバンドマスター、キーボーディストとして最初のツアー(2019年に行われた「ReoNa Live Tour 2019 "Wonder 1284"」)からずっとご一緒してくださっている方で。お互いのプライベートの話をする機会はあまりなかったんですが、この「一番星」は荒幡さんが経験された大切な人との別れへの思いを込めた楽曲だと、デモをいただいたときに伺ったんです。それが私自身の体験とも重なったというか、そういう体験をしたからこその音でありメロディなんだろうなと感じて「そんな大切な瞬間につづった大切な楽曲をReoNaに預けていただけるのであれば、ぜひ歌わせてください」と。歌詞に関しては、当時の荒幡さんのまっすぐな気持ちを言葉にされていたので、当初は荒幡さんが書いたままの歌詞がいいと思っていたんです。でも、荒幡さんご自身が「ReoNaが歌うなら、ReoNaの思いも入ったものにしたい」と言ってくださって。そこで宮嶋さんにも入っていただいて、歌詞が完成しました。
──ノスタルジックな歌詞だと思いましたが、それは荒幡さんの過去の体験がベースになっていたからなんですね。しかも、それがすごく平易な言葉で書かれていて。
本当にまっすぐ、歌詞に書いてある通りに受け取ってもらえると思います。
──後悔のない別れって、絶対に無理だなと思いました。
残された側としては「もっとこうしてあげたらよかったのに」と考えてしまうし、仮にそれを全部やり切ったうえでお別れした世界線があったとしても、また別のところで後悔しているんだろうなと思います。
──「一番星」は、バックの演奏が荒幡さんのピアノのみというのがまた素敵ですね。
この楽曲は2人でブースに入って、お互いの呼吸を合わせて「せーの」で録っていて。クリックもなく、本当に2人の呼吸だけでレコーディングしたことで、言葉が出てくるまでの準備ができたというか、自分の中で思いを組み立てる余地があったので、声も感情もスムーズに乗せられたと思います。何度か演奏と歌を重ねて、声とピアノの音しかない空間だったからこそ録れたお歌です。
──やはりテイクによって、歌もピアノの演奏も変わりました?
変わりました。お互いの音に耳を澄ませているので、私の声が静かになっていくと荒幡さんのピアノの音色も静かになったり、終盤の音の膨らみ方も毎回違ったような気がします。スタジオでのレコーディングではありますけど、荒幡さんとは今まさに一緒にツアー(「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 "De:TOUR STANDING -歪-"」および「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 "De:TOUR SEATING -響-"」)を回って、いろんなライブを重ねているので、すごくいいタイミングでレコーディングできました(※取材は11月中旬に実施)。
──別れの歌ではありますが、ReoNaさんの歌声はそこまで悲観的ではないというか、むしろ温かさを感じました。
別れはすごくつらく悲しいものではあるんですが、私の中で“懐かしい”という感情は、一番優しい感情でもあって。その2つが同居しているようなお歌にしたかったんです。あなたはいなくなってしまったけれど、あなたと過ごした思い出や、あなたと一緒に好きになれたものは自分の中にまだ残っている。そういうことを大事に思い浮かべながら歌いました。
──懐かしい=優しいって、いいですね。
懐かしいという感情は昔から好きで、例えば夏の夕暮れになると、まだ携帯電話も持っていなくて、自転車で走り回れる範囲が世界のすべてだった頃を思い出したりします。その懐かしさは自分が今まで生きてこられたからこそ感じられるものだと思っているし、懐かしさを共有するだけで、人との距離が近く感じられることもあって。まったく違う人生を歩んできたはずなのに、小さい頃に同じアニメを観ていたりすると「あ、それ私も観てた」みたいな。そうやって懐かしさが重なる瞬間も、すごく尊いものだと思います。
絶望系アニソンシンガーとしてまっすぐ絶望と向き合いたい
──期間生産限定盤に収録された「Simoom」は、「一番星」とは対照的にヘビーなロックナンバーですね。作詞は、ReoNaさんの楽曲ではお馴染みのハヤシケイ(LIVE LAB.)さんですが、作編曲はPan(LIVE LAB.)さんという……。
新しくチームに参加されたクリエイターの方で、すごくフレッシュな風を吹き込んでくださいました。
──「Simoom」の歌詞は、「アークナイツ」と関係ありますか?
直接的には作品と関係ないんですが、同じシングルに収録されるカップリング曲の1つということで、世界観を重ねて聴いてもらえたらいいなという思いがこもっています。
──例えば「一番星」の歌詞は個人的な体験がベースになっていましたが、「Simoom」の歌詞はなんらかのフィクションをモチーフにしているように思えて。
ハヤシケイさんの楽曲の中には裏テーマがあるものがあって。例えば「虹の彼方に」(シングル「forget-me-not」カップリング曲)であれば「オズの魔法使い」、あるいは「ミミック」(2020年7月発売の4thシングル「ANIMA」カップリング曲)であればカフカの「変身」がそうなのですが、それに対して今回の「Simoom」はカミュの「ペスト」がモチーフに。
──ああ、なるほど。
例えば「あの人が悪い」とか、具体的に矛先を向けられる対象がいるわけじゃなくて、誰が悪いわけでもないのに、なぜかみんながみんな苦しい思いをしなきゃいけないという。そうやって「アークナイツ」の世界と現実の世界を重ねつつ、ケイさんの紡ぐ言葉はその響き自体が美しかったり痛かったりするんですけど、例えば「Let it Die」(アルバム「unknown」収録曲)の歌詞みたいな、文字の奥に絵が浮かぶような深い絶望を込めていただきました。
──この「Simoom」も含め、今回のシングルは4曲ともミドル~スローテンポの曲で固められています。逆に前作にあたる「シャル・ウィ・ダンス?」では収録曲の振れ幅がかなり大きかったのですが、シングルごとに何かしら決めごとみたいなものはあるんですか? EPである「Naked」には、剥き出しの自分を剥き出しの音でさらけ出すという目的がありましたが。
楽曲のできあがり方も1曲ごとに全然違いますし、作っていく中でどんどん変化していくこともありますし、デモ音源を聴いて「この楽曲は、今じゃない」「歌うのにふさわしいタイミングが訪れるまで取っておこう」となることもあるんです。そういう意味では、終着点は私も含めて制作チームの誰も決めていない気がします。ただ今回に限っては、「Naked」や「シャル・ウィ・ダンス?」を通して「絶望って、いろんな形があるよね」と示してきたその先で、改めて絶望系アニソンシンガーとしてまっすぐ絶望と向き合いたい、まっすぐ痛みに寄り添いたいという思いが、根底にはあったのかもしれません。
「未来でも、もっと大きな何かを一緒に見に行けたらいいね」とお伝えする機会
──少々気が早いかもしれませんが、ReoNaさんは来年の3月6日に初の武道館公演「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at 日本武道館 ~3.6day 逃げて逢おうね~」を控えています。率直に言って楽しみですね。
現実味を帯びてきました。たぶん気が付いたらリハーサルが始まっているんでしょうけど、もう現時点で、やりたいことのぶつかり合いになることも見えていて。
──それは頼もしいですね。
すでに「この曲は必ずやりたいよね」という曲を並べただけでセットリストからオーバーしているので。今回は、初の武道館公演ということで1つのアニバーサリーであると同時に、「ピルグリム」というReoNaにとって始まりのお歌のタイトルを冠しているように「まだまだここからだよ」「未来でも、もっと大きな何かを一緒に見に行けたらいいね」とお伝えする機会でもあると思っていて。それをどういう形でお届けできるのか、いつも以上にセットリストも含めて試行錯誤を重ねることになるのは間違いありません。幸いにも時間の猶予はまだあるので、今やっているツアーを回り切って、チームのみんなと一緒に考えながら作っていきたいです。
──まさに今は全国ライブハウスツアーの終盤ですが、現時点での手応えみたいなものは感じています?
いろんな変化が起こっています。以前も決して遠慮していたわけではなかったんですが、今はより踏み込んで思ったことを伝えられるようになったり、そういった関係値もできあがっていて。具体的に「このメンバーと一緒に武道館に行きます」という同じ未来を見ているメンバーと回っているし、未来のことを考えて行動することでこんなにも前に進めるのかと驚いてもいます。だから本当に得るものが多いツアーになっているんですけど、何より自分の足でお歌を届けに行けること、あなたに会いに行けることがうれしくて。もちろんライブは私1人だけじゃなくて、バンドメンバーはもちろん、音響や照明のチームだったりグッズのチームだったり、いろんなセクションの人たち全員の手によって作り上げられるものなので、本当に各公演、みんなで武道館までのいい“まわり道”ができています。
──チームとして練り上げられた状態で武道館に臨むと。
私自身も手探りだった部分が見えるようになってきましたし、リハーサルや本番でのメンバーとの呼吸の合わせ方とか、あるいは雑談中に発せられる言葉とか、細部に至るまで今までとは変わってきたという感覚がすごくあります。そういった成果も、武道館でお見せできると思います。
ライブ情報
ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~
- 2023年3月6日(月)東京都 日本武道館
プロフィール
ReoNa(レオナ)
10月20日生まれ、“絶望系アニソンシンガー”を掲げる女性アーティスト。テレビアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて劇中歌アーティスト·神崎エルザの歌唱を担当し、“神崎エルザ starring ReoNa”として2018年7月にミニアルバム「ELZA」をリリース。2018年8月にReoNa名義でテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のエンディングテーマを表題曲とした1stシングル「SWEET HURT」をリリースしてソロデビューした。2020年7月にはアニメ「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」のオープニングテーマ「ANIMA」を表題曲とした4thシングルをリリース。同年10月に1stフルアルバム「unknown」を発表した。2022年5月に新作「Naked」を発表し、アコースティックツアー「ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 "Naked"」を開催。10月より10カ所16公演のライブハウスツアー「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 "De:TOUR"」を行った。12月にはアニメ「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」のオープニングテーマ「Alive」を表題曲としたシングルをリリース。2023年3月に初の日本武道館公演「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」を開催する。