暗いAメロを歌うために生まれてきた
──先ほどもお話に出た3曲目の「Lost」ですが、その歌詞を僕はReoNaさんのステートメントとして受け取ってしまいまして。要は、自分は孤独や痛みを抱えているけれど、歌詞の最後の2行にある通り「I sing a song so sweet, someone in need(誰かのために、甘美な歌を歌う)」「A song for someone who has come to the end of the line(失ってしまった誰かのための歌を)」と。
うれしいです。確かに「月姫」で描かれている孤独や痛みといったものは普遍性があるというか。歌い出しの「Cut my hair just because I thought that maybe things would change(髪を切れば変われる気がして)」という一節も、例えば失恋したから髪を切ったり、自分を変えるために髪型を変えたりした人は決して少なくないでしょう。私もその1人で、腰まであった髪をバッサリ切ったことがあるんです。だから、「Lost」は不思議と私の物語とも重なるし、この楽曲を必要とする誰かの物語に重なるといいなと思っています。
──ちなみに、サビの最後の「Iician far gesund gemynd」って、何語なんですか?
古語表現なんです。最初は私も「何語だろう?」と思ったんですけど、「思い出が褪せていく」という意味だそうで。訳詞をしてくださった本山清治さんがこの言葉をセレクトしてくださったのですが、「月姫」に出てくる吸血鬼はものすごく長い時を生きているので、古語を使うことによって、彼女が生きた時間を表してくださったのかもしれません。
──そういうバックグラウンドがある人の歌だったんですね。であれば、「Lost」で描かれている苦しみの長さたるや……。
そうなんです。吸血鬼は自分よりはるかに寿命の短い人間を愛したこともあったかもしれないし、そういう記憶が時とともに薄れていってしまう悲しみや、自分だけが取り残されてしまったような寂しさも感じていたんじゃないか。忘れたくないけど忘れてしまう、大切な思い出が時間によって残酷に押し流されて“lost”してしまうことって、私にもありますし。
──あ、僕は歌詞の一部を誤読していました。具体的には「Just learn to let go, the past is gone(手放すことを覚えれば、過去は消え去る)」を、ポジティブな意味に捉えていたんです。
過去を忘れてしまうことを悲しいと捉えるか、逆に救いと捉えるか。私も今、発見をもらいました。作品やゲームの世界観に対して先入観のない方が聴いたら受け取り方が変わってくるかもしれませんし、今おっしゃってくださったように忘却は救いだと、自分事にしていただけたのもうれしいです。
──僕がどれだけ過去を忘れたい人間かという話になりますね。「Lost」はピアノが同じフレーズを繰り返すミニマル感のある曲で、それも延々と時が流れていくさまを示唆しているのかなと、今ふと思いました。
寄せては返す波みたいな。その暗い海に、月が浮かんでいるようなイメージを私もこの楽曲から受け取りました。ただ、お歌に関しては、Aメロが特に低い楽曲なので、声音自体が潰れてしまうこともありますし、低い声だと表現できる幅も狭まっていくんです。なので、低い声音のまま豊かな表現ができるよう試行錯誤しながらレコーディングしました。結果、毛蟹さんから「君は暗いAメロを歌うために生まれてきた人だ」と言ってもらえたので、それならきっと合格だろうと(笑)。
悩んでいた私に寄り添ってくれた曲
──4曲目の「Believer」もロックナンバーですが、疾走感というよりは切迫感があり、歌声にもそれが表れていると思いました。
まさに、何かを追いかけているような、あるいは何かに駆られているような感覚が私の中にもあって。「Believer」という言葉自体にある切実さ、希望と絶望の表裏一体感みたいなものを私もすごく感じました。実はこの楽曲ができた当時、私はまだデビューして間もない頃で、明るい曲やテンポの速い曲を歌うのがあまり得意じゃなくて。「何を歌っても暗くなる」「サビがサビに聞こえない」とずっと言われていたんです。
──おお……。
だから「果たして私にこの楽曲が歌えるんだろうか?」という不安がすごくあったんですけど、いざ「月姫」制作チームの方々に聴いていただくための仮歌を録ったとき、不思議とどんな声で歌えばいいのか迷わなかったんです。なので、この「Believer」は当時の私に激しい曲を歌うときの1つの方法を教えてくれた曲でもあり、悩んでいた当時の私に寄り添ってくれた曲でもあって。そんな楽曲を、やっとあなたにも聴いてもらえるといううれしさも詰まっています。
──リリースするにあたり、歌は改めてレコーディングしているんですよね?
はい。ある意味、今回の収録曲の中では一番光を感じる楽曲でもあるので、それを今のReoNaのお歌として、切迫感を持って表現したい。そういう意識でレコーディングに臨みました。
──過去に一度録っているという点で、当時の自分と対峙するみたいな感覚もあったのかなと。
ありました。やっぱり時間とともに得るものと失うものって絶対にあると思っていて。それでも、今、自分が持っているものを全部込めたつもりです。私の中に、歌詞にある「愛を教えて」という言葉が当時からずっと残っているんですけど、本当に何かを求める、誰かを欲する気持ちを込めたかったし、その気持ちに対して誰かがうなずけるような楽曲になっていたらいいなと。
──この「Believer」も含めて、4曲すべてロックナンバーというのも潔いですね。
私は“絶望系アニソンシンガー”という言葉を掲げてお歌をお届けしてきていますが、今回は「月姫」という作品の中にある絶望や孤独、毛蟹さんの中にある絶望や孤独、そして私の中にある絶望や孤独というものを、歌詞やサウンド、歌声とともに形にできました。なので、「月姫」を愛する方々にはぜひ全曲フルで受け取っていただきたいですし、逆にこの4曲を聴いて「ああ、好きだな」と思ってくださった方はきっと「月姫」も好きになってくださると思います。いずれにせよ、この4曲を作品とともに愛していただけたらうれしいです。
この先も驚いていたい
──今後の予定として、10月から11月にかけて全国ツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2021 "These Days"」の開催が決定していますね。
「These Days」というツアータイトルには、まさしく“ここ最近”の、こんな世の中でも自分らしく生きていくしかないという思いを込めているんですけど、今回は札幌や仙台といった、ひさびさにお歌をお届けする場所も回ることができるんです。なので各会場で「ただいま」をお伝えするとともに、今を生きているあなたと一対一で向き合えるツアーにしたいです。
──「These Days」って、いいタイトルですね。
私も気に入っています。去年中止になってしまった「A Thousand Miles」ツアーもそうですけど、今回の「These Days」も洋楽の名曲から。
──やっぱり(笑)。そしてこのツアー中の10月20日に、ReoNaさんは23歳の誕生日を迎えます。
そうです、そうなんです。
──ついでに言うと、この記事がアップされる頃にはデビュー3周年(2018年8月29日に1stシングル「SWEET HURT」でデビュー)を迎えています。その先の野望などはあります?
私は、何かの節目を迎えるたびに「こんなに大きな未来が待っているとは思わなかった」と驚いていて。今も「19歳でデビューして、あっという間に23歳になるんだな。駆け抜けてきたな」と思っているんですけど、同時に、ReoNaのお歌を待ってくださっているあなたとなら、ReoNaのお歌を一緒に紡いでくれるみんなとなら、まだまだ想像もできないような未来に向かっていけるんじゃないかというワクワク感がすごくあります。きっと23歳を迎えるときも驚いているでしょうし、その先の24歳を迎えるときも驚いていたい。「こんなところまで来られたんだね」って、みんなと言い合っていたいです。
※記事初出時より本文の内容を一部変更いたしました。
ライブ情報
- ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2021 "These Days"
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- 2021年10月14日(木)神奈川県 KT Zepp Yokohama
- 2021年10月20日(水)北海道 Zepp Sapporo
- 2021年10月22日(金)宮城県 SENDAI GIGS
- 2021年10月29日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2021年11月11日(木)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)
- 2021年11月13日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
- 2021年11月22日(月)東京都 中野サンプラザホール
- ReoNa(レオナ)
- 10月20日生まれ、“絶望系アニソンシンガー”を掲げる女性アーティスト。テレビアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて劇中歌アーティスト・神崎エルザの歌唱を担当し、“神崎エルザ starring ReoNa”として2018年7月にミニアルバム「ELZA」をリリース。ReoNa名義で2018年8月に1stシングル「SWEET HURT」を発表し、同年10月に初のワンマンライブ「Birth」を行った。その後、楽曲のリリースやライブ活動を重ね、2021年8月に初のライブDVD / Blu-ray「ReoNa ONE-MAN Concert Tour "unknown" Live at PACIFICO YOKOHAMA」を発売。9月には新作CD「月姫 -A piece of blue glass moon- THEME SONG E.P.」のリリースを控えている。
2021年9月2日更新