Reol「COLORED DISC」インタビュー|追求し続けた「Reolとは何か?」の答え

今年の春にレーベル移籍を発表して新天地へと身を移したReolが、11月16日に自身初のCDシングル作品「COLORED DISC」をリリースした。

今作にはアグレッシブな言葉の連射と攻撃的なサウンドが印象的な先行配信曲「SCORPION」をはじめ、淡々と進むように聞こえるサウンドから音楽的探究心の幅広さが垣間見える「secret trip」、今春行われたツアー「激情アラート」のインタールードとして生まれた「感情が群れを成すパレイド」の計3曲が収録されている。揺るぎないReol像を形作るために1つのフェーズを終えた彼女が作り上げたのは、いずれも新しさと自身の“らしさ”を共存させた3曲だった。これまでそのときどきのモードを如実に作品へ反映させてきたReolは、果たして今何を考えているのか。現環境に身を置くに至る背景から制作過程のこと、ここ最近の活動に通底するテーマまで、たっぷりと語ってもらった。

さらに特集の最後にはジャンボたかお(レインボー)、syudou、成田悠輔、YOASOBI、LiSAからのコメントを掲載。Reolへの印象や新作「COLORED DISC」を聴いた印象がつづられている。

取材・文 / 風間大洋撮影 / 堀内彩香

既存のReolを壊してアップデートするための環境

──今年は春にツアーがあり、その後は新曲やリミックスの配信が続きました。レーベルの移籍が5月に発表されましたが、今の体制になったのはどのタイミングからですか?

ソニーに移籍してから今のチームで初めて回ったのが5月のツアーで、その流れで出た「赤裸裸」が新たなる1歩目のような感じでした。世の中みんなそうだと思うんですけど、コロナ禍で1回すべてが止まったことによって「果たして本当に今の流れでいいのかな?」ということをすごく考えて。別にどこのレーベルに身を置くことがいいとかそういうことより、何かを作って世の中にリリースするようなサイクルをずっと続けるのは健康的なことなのかな?みたいな。

──はい。

私にとってはその「何か」が“音楽”というものであり続けるために、楽しくやっていきたい。個人的には、楽しんでやれているかどうかがすごく楽曲に反映されるタイプだなと思っていて。ノリノリで「できちゃった」みたいに生まれた曲のほうがリスナーにも気に入っていただけている手応えもあるし。あまりフィクションみたいなものからインスパイアされて楽曲を作るタイプじゃなくて、そのときの私がどういうテンション感なのか、何を考えているのかが楽曲に出てしまうタイプなので、「楽しくするためには?」みたいなことを考えて、新しい環境作りを模索していました。

Reol

──そういう逡巡を経たうえで得た今の環境は、つまり理想に近い形であると。

そうですね。そこそこのキャリアになってくると、いろんなことをディスカッションして物事を決めたくなるんです。活動を始めた頃から「金字塔」(2020年1月発売の2ndフルアルバム)くらいまでは「私が作りたい場所で私が作りたいものを作る。自分の中にはこういう美学があってこういうものが作りたい、絶対これ」「だからこれをできる人を」といったスタッフィングでした。キャリアを重ねていく中で、私1人のワンマンではなくもっと拡大していくためには、“Reolである私よりもReolになりきって意見を言ってくれる”スタッフが欲しいなと考えるようになって。プロデューサーはずっと私なんですが、それに対して反対意見が出ても全然いいと思うし、「この人たちと一緒に作っている」と自覚できるメンツが欲しい感覚に自然となりました。

──主観も俯瞰もフラットに織り交ぜたReol像を求めてきていると。

はい。デビューして5、6年目とかまではReolを確立するために「Reolというアーティストはこういう音楽性でこういうライブをしますよ、こういうカラーの人です」ということをわかってもらおうとがんばっていましたが、ここからはそれを壊しつつアップデートしていく作業に入ると思っています。自分1人だけがアイデアマンである危うさをずっと感じながらやっていた部分もあるので、常に新しいことをするために信頼できるチームと出会えたのがたまたまこのタイミングだったのかな。

ちゃんと尖り続けてソリッドなものを生み出し続ける決意

──制作の布陣もそうですし、より開かれてきている印象はあります。

そうですね。タイアップに関しての考えもそうで、Reolというブランドを確立する前から振り回されて、作品を出したときに全部ちぐはぐな「この人って結局どれがやりたいことなんだろうね」というふうにはなりたくなかった。1回ちゃんと「私はこういうものを売っている店です」と見せることができれば、そこにあとからいろんなものが並ぼうが「こういうこともできたんだ」とお客さんに思ってもらえるけど、最初からバラバラのテイストのものが店先に並んでいたら、この人はどれがやりたいんだろう?って思っちゃうだろうから。今は自分がどういう楽曲が得意で、どういうところが不得意かがわかるので、それをより理性的にコントロールするフェーズという感じですね。

Reol

──要はなんでも出せる和洋折衷の創作料理居酒屋みたいなお店には惹かれない、といったことですよね。

そうです。結局何を置いている店かわからないから行かない、みたいな。それが器用にできる方だったらいいと思うんですけど、私は個性派寄りの人間だから、ちゃんと尖り続けてソリッドなものを生み出していかないといけないなっていう意識があった。最近すごく考えるのは、適材適所だなということ。トップチャートに向き合うときも「何がウケていて、この人の曲のどこがいいと思われているんだろう?」と思って聴いているので、「私がその楽曲を歌っていれば」のようには考えないし、意味がないというか。私には私にしか対話できないリスナーがいて、私の音楽でなければ深いところまで刺さらない人もいる。でも別のアーティストの曲がクリティカルヒットする人ももちろんいる。もっと言えば、私のリスナーに向けて「こういう曲が刺さるから」といってその焼き直しを出してればいい、みたいなことも絶対嫌なわけですよ。ちゃんとReolとして新しい側面を見せながら続けていきたい、ということをすごく考えています。

初アルバムが「極彩色」で初シングルが「COLORED DISC」

──直近のリリースは単曲配信が続いていて、今作で初のCDシングルをリリースすることになりました。こういったリリースのスパンや形態はあらかじめ定めていたものなんですか?

事前にしっかり計画していたわけではなく、今必要なものをリリースしてきた感覚ですね。今回のシングルのタイミングに関しては、最初アルバムにしようかという議論もありました。ただ、今は新たな側面を見せたい時期というのが強くあって、まずは今までの私の楽曲にありそうでなかったところを埋められるシングルを切りたいなと思ったところから、先行配信されている「赤裸裸」「煽げや尊し」と「COLORED DISC」を作ることに決めました。

──動画や配信など、フィジカルではないリリースをこれまでたくさんしてきた中で、CDでシングルを出す際、そこにどんな付加価値を付けるかということも考えてきたと思います。コンセプチュアルな作品性であったりアートワークであったり、シングルを出すに当たってはどう考えていましたか?

シングルを作るという作業は初めてでしたが、3曲入りなので以前作った「文明EP」という4曲入りのEPにちょっと近い感じだなあとは考えていて。でもEPではなくシングルと謳っている以上はこの3曲で完成する世界観ではなく、いろいろ吸収してきた自分がアウトプットしたいものを抽出して、まだ自分が作ったことのない1曲1曲を作るイメージでした。ストック曲もありましたが、私はあまり今回の収録曲をストックから出したくなくて……なんでなんですかね? ありものをコーディネートするんじゃなくて、「COLORED DISC」というシングルの中に入れるならこういう楽曲たちがいいだろうと考えて、あとから足していくのが私のもの作りのやり方なんですよね。できあがっている曲をまとめたものを、アルバムとかシングルって言いたくなくて。なんでかわからないですけど、外枠から作りたい。

──タイトルも先に決めました?

今回はあと付けで、どういう名前にしようかめちゃくちゃ悩みました。「赤裸裸」や「煽げや尊し」といったタイトル付けでは意図的に「アカ」や「アオ」という言葉を入れていて。今回のリリースはビビッドなものでありたくて、有彩色でギラッとした感じの……アートワークとかもそういう色味にしてもらっているんですけど、ちょっと攻撃的な感じを想定してました。あとは頭文字を取ったら「CD」なのもウケるねっていう(笑)。

──ああ!

私の音楽って私の分身というか。私自身が多分パンチがあるほう……淡くて自然体でというよりはビビッドでアウトラインとかバチバチみたいな感じの人間なので、自分にハマるワードだなって思います。あとは最初に出したメジャーアルバムが「極彩色」というタイトルだったんですけど、その頃から「色」をコンセプトにすることが好きで。ここで初めて出すシングルが「COLORED DISC」で初めて出したアルバムが「極彩色」、共通したものはありつつも進化している感じも気に入って付けました。

──音を聴いた印象としてはすごく質感がクールだと思ったんですよ。

おお! 確かにそうなりましたね、結果的に。収録するのが3曲だけだし、かわいげのある楽曲は「第六感」のときに「Nd60」でやったかなと思ったので、やってないことを突き詰めた結果こうなりました。「SCORPION」は、ここまでヒップホップ色をブーストした曲はなかったし、「secret trip」では日本だとまだ取り入れてる人がたまにいるくらいのここ数年の1980年代のリバイバル感をやってみたくて。「感情が群れを成すパレイド」も、曲中でここまで曲調が変わるものってあまりないからやりたいなという。今までにないけど私がやりたくなったことをやった感じですね、全部。

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本家の人たちと渡り合えるようになった

──具体的にどう作るのか、誰と作るのかという部分の進め方は?

「SCORPION」は、タイアップ先であるゲームの「Riot Games ONE」と「VALORANT」というお題をいただいた時点で、ヒップホップのバババッと言葉が並ぶ感じと銃を連射する感じが情景としてシンクロしたんですね。畳みかける系のラップをしたいというオーダーにハマりそうな、キックとかの音の強い人を考えると、ビートはマサヨシ(Masayoshi Iimori)がいいかなって。

──なるほど。

「secret trip」は、ジャスティン・ビーバーとザ・キッド・ラロイの「STAY」のような……疾走感のある楽曲もいいけど、ザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」みたいな夜のキラキラした感じもいいなあとかいろいろ考えて、どっちかというと後者をやってみたいと思っていました。私、ずっとf(x)が好きで、ちょうど自分がユニットをやってエレクトロサウンドを作っていたときに聴いていたんですが、そのめちゃくちゃ好きだったサウンドメイカーがLDN NOISEで、ずっと一緒にやりたいと思っていて。

──Reolさんにとってルーツのような存在ですか?

そうですね、もはや。感慨深いですよね、あの頃聴いてた音を手がけていた人が、今のReolだったら一緒にやってくれるんだ!っていうのがアツいなって思います。当時声をかけてても「誰?」って言われてたんだろうなとか思いますし。

──仮にコラボできたとしても、こういうものにはなっていなかったでしょうし。

そういう楽しさはかなりあるかもしれないですね。自分が聴いて育ってきた音楽の“御本家”みたいな人たちと渡り合って会話ができるスキルが自分の中にちゃんと宿った。それをやりつつ、マサヨシとか自分の同世代くらいの「いいもの作るな」って思う人を引っ張ってメインストリームに出す役割も同時にやりたいし。とにかく自分が「いい」と思ったもので固めたい(笑)。