人が突然変異する瞬間って、まさに恋愛じゃないか
──制作陣の顔ぶれでお馴染みのGigaさん以外の、KOTONOHOUSEさんとGeekboyさんの2名にはそれぞれどんなことを期待してお願いしたんでしょうか。
ことのは(KOTONOHOUSE)くんは打ち合わせでたまたま同い年だということがわかったんです。聴いてきた音楽もちょっと被っていたり、共通言語が多くて。かわいい音作りとか、打って変わってアンニュイでダウナーなサウンドだったり、いろいろ器用ですね。なんでもできるからこそ、今回は日本人的な心の機微を打ち込みで表現してもらいたいなと思って、願いとか祈りをテーマにした「白夜」をお願いしました。
──まさにトラックのメインテーマはちょっとオリエンタルな要素とJ-POP感があります。一方のGeekboyさんはどうでしょう?
2020年の初めくらいに韓国の男性アイドルグループ・SF9の「Now or Never」を聴いたときに、面白い音作りをするなと思って。“ぽわん”っていう泡みたいな音が入っていたりとか、絶対にドラムで使わなそうな音をフィルに混ぜていたり、ちょっとヘンな音を入れたりするところがいいなと思って声をかけました。SF9に限らず、たまたま好きだった音楽のプロデュースを彼がしていることも多かったので、必然的に。
──作り手からすると変わったことをしているけど、普通に聴いたらスルッと聴けちゃうバランス感というか。
そうです、そうです。サンプリングした音を音楽としてちゃんと表現に持ち込むのがうまいんです。あと、彼はイギリス在住なんですけど、イギリスと日本って同じ島国だし、わりと建前で話すところとか、国民性が似ているところもあると思って。マインド的に近いものを感じていますね。
──確かに「Nd60」は軽快なサウンドの中に、日本っぽい哀愁も感じられますね。
どこかUSとかのダンスミュージックと違うのがいいですよね。やりとりをしていると自分の作り方と似ている部分も多い気がします。
──歌詞についても伺いたいです。文字量や情報量が多いことや、その言葉のはめ方や響きの面白さはこれまでもReolさんが武器としてきたところですが、今作で新たに意識したことや取り組んだことはありますか?
「ミュータント」はサビのメロディを6回くらい書き直してこれにたどり着きました。サビ以外はすごく言葉数が多くてポエトリーっぽかったりもするんですけど、サビはちゃんとJ-POPにしようと思って。「ミュータント」は突然変異体という意味なんですけど、知人にワクチンを2回打った話をしたら、「ミュータントになったんだね」と言われて。そこで“ミュータント”という言葉がなんかいいなって思ったんです。人が突然変異する瞬間って何だろう?と考えたときに、精神的な変異ってまさに恋愛じゃないかと思って。
──ああ、なるほど。
そこからミュータントっていう言葉を使いたいがためにこの曲を書いたんですよね。普段はそういう作り方は全然しないんですけど、それくらいこの言葉を気に入ってしまって。
──コロナ禍の影響を受けた曲という点では「Q?」もそうなのかなと。
「Q?」はコロナもそうですけど、日本でもBlack Lives Matterのデモ活動が盛んになった時期にちょうど歌詞を書いていたので、いろいろ思案させられる事象が多かったですね。
──現実で起きていることを踏まえて詞を書くことは多いですか?
例えばニュースを見ていて、自分の琴線に触れるニュースがあっても、そのことを題材にした曲を書こうとはならないです。「胸糞悪いな」とか、「やるせないな」とか、そういうことを思った経験が自分の中に蓄積されて、いざ楽曲を書こうというときにはまた違った形でアウトプットされていくというか。本当に断片的に出てくる感じです。
「自分のため」と「あなたのため」
──ほかに今作を作る中で、印象に残った部分はあります?
自分の心情的なものを吐露した曲でいうと、やっぱり最後の「Boy」になりますね。自分の思っていることを色濃く言いたいタームは自分のキャリアの中でたびたびあるんです。それこそ「No title」という最初に作った楽曲だったりとか、「平面鏡」(2018年3月発売の1stミニアルバム「虚構集」収録曲)とか。そういうときって、何か自分の感情が大きく揺れることが起きた直後とかに歌詞を書いてることが多いんですけど、「Boy」はまさにそういう感じ。今書こうとしてもこういう歌詞にはならないなという曲です。
──当時はどういう心境だったんですか。
人との別れ、すれ違いみたいなことを経験した頃に書いていて。だからどう受け取ってもらってもいいんですけど、自分のためにやってるのか、人のためにやっているのか、その交差点はいったいどこなんだ?ということをずっと考えながら作っていた今回の作品を、この曲が一番表現しているかな。
──パーソナルでありながら外にも向いているというか。
そうだと思います。2番の歌詞の「『君のため』いつだって それはあたしのためだった」っていうフレーズを書いたんですけど、「あなたのためにがんばりたい」というのはこっち側のエゴで、“あなたのため”っていう押し付けだと思うんですよね。そうやってがんばるのはとても楽で、自分のためにがんばるのって難しいんですよ。だけど、自分のためとあなたのため、どちらも尊いことだと思うし、人のためにがんばれないっていうのもそれはそれで不健康だよなと思うんです。そこをちゃんと50:50でできればいいと思うんだけど、やっぱりその時々でバランスは崩れるじゃないですか。そういうことを考えていた時期ですね。
──曲調自体は力強くアンセミックです。
ダンサブルなビートの上にシンガロングも入れたのは、ただの哀歌にはしたくなかったからですね。人は1人で生まれ1人で死んでいくんだということ、それぞれの孤独を前提にしたうえでそれでも人と交わりたいという欲求が人間には備わっているから。そのためにバランスをとりたい。哀歌ですけど「関わり合う」ということ自体を諦めない、そういう意味ではとてもポジティブなことを歌っています。
──ちょっと少年マンガのような熱も感じます。
「Boy」は、「1LDK」(「金字塔」収録曲)という曲で歌った“憧れ”さえも追い越していけという曲なんです。だからこの「第六感」は、「金字塔」よりもっと開けた感覚があります。
──先ほど「作品の最後は次への布石」とお話しされていましたね。
はい。エピローグでありプロローグでありたい、みたいな感覚です。
──それを踏まえ、次以降に向けて今時点でやりたいことや、なりたい姿はどんなものですか?
今はもっとReolというカルチャーを大きく、より一般の方に認知していただくためにがんばりたいです。ずーっと変わらない気持ちとしては、みんなをビックリさせたいんですよね。それをモットーに、もっと大きな、できるだけいい衝撃を世の中へ届けていきたい気持ちがあります。今作は2年くらいかけて作ったので、ここからまたちょうどいいペースに戻して音楽を作れたらいいなと思ってます。
プロフィール
Reol(レヲル)
シンガーソングライター。2012年より動画共有サイトにて歌唱動画や自身が作詞を手がけた楽曲を投稿し始める。2015年7月には、れをる名義でソロアルバム「極彩色」をリリース。2016年3月にはサウンドクリエイターのギガ、映像クリエイターのお菊と共にユニット・REOLとしての活動をスタートさせ、同年10月にはアルバム「Σ」をリリースした。2017年8月にユニット・REOLの“発展的解散”を発表。同年10月に行われたラストライブ「REOL LAST LIVE『終楽章』」をもって、ユニットとしての活動に終止符を打った。2018年1月にはReol名義で“再起動”することがアナウンスされ、活動を再開。10月に1stアルバム「事実上」を発表した。2020年1月に2ndアルバム「金字塔」をリリース。同年8月に自身初の無観客ライブ「Reol Japan Tour 2020 ハーメルンの大号令 -接続編-」を配信し、12月に初の映像作品「Reol LIVE 2019-2020 -ハーメルンの大号令 / 侵攻アップグレード-」をリリースした。2021年12月に2ndミニアルバム「第六感」を発表。