きっかけはONE OK ROCK・Takaのデモ、3年の歳月を経て完成した「Rainbow (feat. Taka)」
──今作はフィーチャリングゲストを迎えた楽曲もいくつか用意されています。その1つである「One Last Try (feat. Maisie Peters)」はイギリスのシンガーソングライター、メイジー・ピーターズさんが参加していますが、彼女とは以前から交流があったんでしょうか?
メイジーさんとはこの楽曲制作で初めてお話しました。UKのSSWはよくチェックするんですけど、メイジーさんの声はすごくキャッチーで、ブリティッシュならではの独特な発音アクセント、アメリカのシンガーとはちょっと違う言葉選びが魅力的ですね。「One Last Try (feat. Maisie Peters)」は逆境の中で戦う人たちのアンセムソングにしたかったので、男女という形でコラボするべきだと思って。そこでメイジーさんにオファーしたら「絶対やりたい!」って賛同してくれました。
──前半はReNさんが日本語、後半はメイジーさんが英語で歌うように振り分けられていますが、どのように制作を進めたんでしょうか?
まず僕がデモを作って、メイジーさんとアイデアを出し合いながら作っていきました。実はメイジーさんも、終盤では日本語で歌っているんですよ。もともとはすべて英語詞で構成する予定だったけど、彼女が「日本語を使ってみたい」と提案してくれて。ものすごくきれいな日本語で歌ってくれて驚きました。彼女が日本語で歌うことに挑戦してくれたことで、「One Last Try (feat. Maisie Peters)」に込めたメッセージもより強くなったんじゃないかと。
──ReNさんにとっても、初めて海外アーティストとコラボするというチャレンジになりましたね。
お互い初めての挑戦だけど、手を取り合って最高の1曲に仕上げることができたと思います。新しい発見も多かったし、視野を広げることができました。
──そしてもう1つ、「Rainbow (feat. Taka)」にはONE OK ROCKのTakaさんが参加しています。ReNさんは2017年に行われたONE OK ROCKの全国ツアー「"Ambitions" JAPAN TOUR」にオープニングアクトとして出演しましたね。
Takaさんは以前から僕の楽曲を聴いてくれていて、ツアーへの出演もTakaさんがオファーしてくれたんです。それでツアーの会場で初めて直接会って、その後もよく連絡を取り合っていました。「Rainbow (feat. Taka)」は出会って間もない頃、Takaさんが「ReNにぴったりなメロディがあるんだよね」って歌ってくれたデモが原型になっているんです。だけど僕のスキルが足りず、なかなかまとめることができなくて。3年近くかけてようやく完成したので、Takaさんにも一緒に歌ってもらいました。
──レコーディングはTakaさんと一緒に?
そうですね。ほぼ完成した音源をTakaさんに渡して、1日だけ一緒にレコーディングしました。その場でパートの振り分けを考えて、2時間くらいで録り終えましたね。
──「Rainbow (feat. Taka)」は“モノクロになってしまった虹”という歌詞やスローテンポな曲調も相まって、アルバムの中では唯一ダークな印象を受けました。「過去の思い出が危機から守ってくれる」という一節があるので絶望的な内容ではないのですが、シリアスですよね。
この曲は小説や映画のように、進行するにつれてスケール感が増す曲にしたくて、ほかの曲ではあまり使わない言葉をチョイスしました。抽象的になってしまうんですが、自分にとってかけがえのない、大切な人が去ってしまうとき、景色の色彩がなくなってしまうような感覚に陥ることがあって。そういう特殊な感覚を表現しています。それからスウェーデンのサウンドプロデューサーに音を調節してもらったので、北欧らしい湿度を感じる、カッコいい音色になっています。
──今回のアルバムでは、ほかにも海外のプロデューサーやエンジニアが参加された曲はありますか?
「Rainbow (feat. Taka)」と「One Last Try (feat. Maisie Peters)」の2曲ですね。僕の場合ある程度楽曲を完成させて、作風に合わせてプロデューサーを決めています。海外の方はセッションを通して知り合った人がほとんどで、楽曲を聴いてもらって「こういう感じがいいと思う」と意見をもらえたら、その案を採用するようにしています。そういった交流は大事で、今回はスタジオセッションができなかった代わりに、過去のセッション音源を聴き直しつつ、積極的に意見を交換しました。国内では「Fallin'」の制作で知り合ったSoma Gendaくん、海外だと2、3人のプロデューサーが特に相性がいいですね。やっぱり一緒に制作する場合、僕の歌いたい内容を全部把握してくれる人だとありがたいです。
アルバムならではの表現、新たなサウンドに挑戦
──サウンドに関して詳しく挙げていくと、「アナログの空」ではブルース風のギターフレーズが入っていたり、「Teenage Dreamers」は1990~2000年代のブリティッシュロックを彷彿とさせるバンドサウンドになっていたり、これまでの作品とは大きく異なる作風を取り入れているのも特徴的でした。
「Teenage Dreamers」はライブではもっと違うアレンジを施す予定ですが、アルバムではあえてバンドサウンドに振り切りました。今までの作品はライブでの演奏を考えて、再現できない曲はなるべく作らないようにしていたのですが、アルバムだからこそ表現できる方法も取り入れてみたくて。ディレイの入ったギターはまさに1990年代のブリティッシュロックっぽい感じで、以前からこういう音色が好きだったんです。でも意識的に使ったわけではなく、自然と採用していましたね。
──「City Lights」はさらに年代をさかのぼり、1980年代のディスコチューンを彷彿とさせるアレンジになっています。これも意外でした。
「City Lights」は僕にとってドライブソングですね。夜の街中をドライブするのが好きなんですけど、東京の夜景は都会的で、幻想的な雰囲気もあって。「City Lights」ではその様子を表現しました。実は1980年代のシンセベースを駆使した楽曲って、小さい頃からよく聴いていたんです。レトロなんだけど近未来的でもある、いわゆるレトロフューチャーなムードとドライブに出かけたときの心地よさを組み合わせました。
──ReNさんの曲は「City Lights」以外にも、車をモチーフした曲が多いですよね。先ほど挙げた「Can't get enough of you」でもドライブ中の様子が描かれていますし。
しょっちゅうドライブに行くからかな(笑)。だから車の中や、運転中の景色から物語がスタートする曲が多いんだと思います。その中でも「City Lights」は起きているけど静かという、夜の街ならではの矛盾の中を掻き分けていく様子を描きたかったんです。
自分らしい生き方、意見とは?
──「We'll be fine」が発表された時期は「もう少し先になれば状況はよくなるのかな」という気持ちもあったのですが、実際にはまったく落ち着かず、コロナだけでなくSNS上の殺伐とした様子もさらにひどくなっているように感じます。その中で前に進むことを純粋に表現した「ReNBRANDT」は、リスナーを励ましてくれる作品となりそうです。
そんなアルバムになれたらうれしいですね。SNSを見ていると、なんでも他人と比較する思考に陥ってしまいがちですが、それって不幸の引き金になっているような気がして。自分が一番心地よいと感じる生き方を、他人が否定する権利はないと思うんです。誰かに迷惑をかけていなければ自分の生き方を貫いていいし、「周りと同じじゃないからダメ」という考え方はナンセンスですよね。でも今は日常の行動も制限されているから、どうしても他人とのつながりを求めてしまう。SNSの中だけで人間関係を作ろうとしたり、状況を把握しようとすると、ネガティブな情報が多くて衰弱しやすいと痛感しています。SNSと距離を置くのは難しいけど、本当に自分が伝えたいことを投稿したり、大事にコミュニケーションが行えるツールにできるよう気をつけたいです。
──過去のインタビューで、ReNさんは今の社会に対する考えを発言することについて、「意見がないのは悪いことじゃない」「意見を出せなくて当たり前だと思うくらい、複雑な問題もある」とお話していました。確かに、今はすぐに答えを求められるようなケースが多い気がします。
やっぱりわからないことに答えを出すのは難しいですよね。僕は自分の中から答えが生まれてくるのを待つ、という時間を大切にしたいです。例えば大きな問題が目の前にあって、いろんな情報があっても、どれが正しいかはすぐにわからなかったりしますよね。なので自分の中で疑問に思ったことは、数日考えてから発言しています。すぐに意見が言えないのは、決して悪いことではないですから。
──まずは関心を持ったり、調べたりすることが重要ですからね。
ええ。急がず冷静に判断して、自分なりの意見を持ち続けることが大切ですね。
公演情報
- ReN「ReNBRANDT Tour」
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- 2021年10月22日(金)北海道 cube garden
- 2021年10月24日(日)宮城県 darwin
- 2021年11月5日(金)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2021年11月7日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2021年11月14日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2021年12月3日(金)愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2021年12月23日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
- 2021年12月25日(土)大阪府 サンケイホールブリーゼ
- ReN(レン)
- シンガーソングライター。10代でイギリスに単身で渡った際、UKミュージックに衝撃を受け、20歳の春に本格的な音楽活動を開始した。ライブではLoop Stationを駆使し、コーラスも含めすべて1人で演奏するスタイルで楽曲を披露している。2016年に1stアルバム「Lights」を発表。2017年には自身が多大なリスペクトを寄せるエド・シーランとの対談や、ONE OK ROCKの全国ツアー「"Ambitions" JAPAN TOUR」へのゲスト出演を果たし、同年6月に2枚目のアルバム「LIFE SAVER」を発表した。2019年5月には東京・新木場STUDIO COASTでのワンマンライブを成功させ、同年11月にCD+DVD作品「Fallin'」を発売。シングル曲「We'll be fine」「Running Forward」「あーあ。」の配信を挟み、2021年9月には3rdフルアルバム「ReNBRANDT」をリリースした。