ReN|力強さと優しさを追求した4曲、観客とのグルーヴを凝縮した初ライブ映像

ReNのCD+DVD作品「Fallin'」が11月27日にリリースされた。

CDには、昨年12月にクリスマスバージョンがYouTubeで公開された「Fallin'」や、今年4月に配信リリースされた「HURRICANE」を含む4曲を収録。DVDには5月に行われたワンマンツアー「ONE MAN TOUR 2019『衝動』」東京・新木場STUDIO COAST公演の映像が収められており、新曲とライブパフォーマンスでReNの魅力を味わうことができる。音楽ナタリーでは本作の発売を記念し、ReNに各楽曲の制作時のエピソードや、新木場STUDIO COASTでのワンマンを振り返ってもらった。

取材・文 / 高橋拓也 撮影 / 永峰拓也

ReN流オールディーズ

──今作の表題曲である「Fallin'」は昨年のクリスマスイブにYouTubeとラジオ限定で公開された楽曲です。オールディーズ調のアレンジがとても新鮮でした。

僕の楽曲では珍しいですよね。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が大好きなんですけど、「Fallin'」はあの作品をヒントにして生まれたんです。

ReN

──初インタビューのときにも、同映画の主人公がチャック・ベリーの「Johnny B. Goode」を演奏するシーンにとても感銘を受けたと教えてくれましたね(参照:ReN「Lights」インタビュー)。

そうそう。主人公のマーティが過去に戻って、若い頃のお父さんとお母さんが恋に落ちるよう奮起する場面ですね。そのシーンの前に「Earth Angel」というオールディーズが披露される場面があるんですけど、この曲も大好きで。僕の楽曲は縦ノリのものがほとんどで、「Earth Angel」みたいなスウィング系の曲は今まで作ったことがなかったんです。それでアコースティックではなく、ビンテージのエレキギターを使っていろいろ試してみたら、思いのほかしっくりきて。

──ギターフレーズがブルース風だったり、ピアノの音色を生かしたジャジーなサウンドとも相まって渋い雰囲気になっています。

オールディーズならではのムードを生み出したかったので音の数を最小限にとどめて、歌詞は素直に優しい気持ちを込めました。4月に配信された「HURRICANE」はとにかくいろんな音を詰め込んだので、そちらとは正反対になるよう意識したんです。

──この楽曲は昨年にクリスマスバージョンとして発表されましたが、別のバージョンも用意されていたんでしょうか?

最初はまったくクリスマスとは関係ない内容で、英語だけの歌詞でした。そこからデモ音源を作っていくうち、自然とクリスマスにちなんだ歌詞に変わっていきました。それでちょっとしたプレゼント、みたいな感覚でクリスマスイブに公開したんですが、予想以上に反響がありましたね。ただクリスマスバージョンはかなりラフな音源だったので、今回は歌も楽器もすべて録り直したテイクを使用しています。

──シーズン的にも、ちょうどいいリリースタイミングになりましたね。

去年は「ちょっと遅かったかな……」と後悔してたのでよかったです(笑)。あったかい雰囲気の歌なので、クリスマスだけでなく冬場のさまざまなシチュエーションに合う曲になったと思いますね。

夢を語れなくなった同世代のために

──先ほど話題にも挙がった「HURRICANE」は初めて海外でレコーディングが行われた楽曲です。

自分の中の引き出しを増やしたくて、今年の2月に1週間アメリカに行ったんです。まずロサンゼルスでいろんなミュージションと一緒にセッションして、デモをとにかく作りました。

──最終的に楽曲はナッシュビルで完成させたとのことでしたが、なぜだったんでしょう?

ロスでの制作ですでに面白いものはたくさんできあがったんですけど、日本に帰る前日に「せっかくだからナッシュビルに行ってみよう」ってことになったんです。ナッシュビルはカントリーの聖地だから、どんな場所か気になっていて。シンガーソングライターは絶対一度は行ってみるべきだと思ったんです。

──実際に足を運んでみていかがでしたか?

気温が-30℃ぐらいの大寒波の時期だったので、すっごく寒かった(笑)。それで外の景色を見ながらセッションをしたんですけど、そのときに生まれたのが「HURRICANE」のイントロだったんです。そのままフィーリングで弾いたら、一気に曲全体の構成ができあがりました。

──日本である程度仕上げたのではなく、完全にセッションありきで生まれた曲だったんですね。

ストックしていたアイデアをあえて使わず、現地の空気感を生かして作らないと、結局自分の物差しに戻してしまうので。それだと広がるものも広がらないですからね。このセッションの成果を生かすことができたし、今後役立つようなアイデアもいっぱい思い浮かびました。

──日本国内でもセッションで新曲を作ることはありましたか?

日本では自分1人でほぼ土台を作り上げて、レコーディングで仕上げることがほとんどです。自分の部屋の中で生まれてきた音や言葉で作っていくような感じ。

──一方で歌詞はどのように作り込んでいったんでしょう?

まず「HURRICANE」という言葉が思い浮かんで、そこから海外での活動を経て感じた思い、仲間内で話していくうちに考えたことを盛り込んでいきました。英語と日本語を混ぜる作業は以前よりも複雑になったんですけど、そこは新たなトライにつながったと思います。

──「HURRICANE」は楽曲全体のムードだけでなく、歌詞の内容も生きることに対する苦悩がつづられていたり、よりスケールが広がったように感じました。

今回はあえてパーソナルなことを歌わない、という選択肢を取ったんです。あとは僕と同じ世代で、夢に向かってがんばろうとしている人がだんだん減っているような気がしていて。夢を語ることが恥ずかしいと思うのかもしれないし、SNSが普及したことで余計なもの、見たくないものが目につくようになってしまったことも原因かもしれない。他人と比べてしまうことも多くなったな、と感じていて。

──私もReNさんと年齢が近いのですが、確かにそういった息苦しさを感じることは増えたと思います。

でもそれは誰かのせいではないし、「結局は自分が原因だ」と言い切ることもできないですよね。感情がムチャクチャになってしまう環境だからこそ、夢を語っても「馬鹿らしい」と思われてしまうのかも。誰にでも夢はあったはずなのに、だんだんと失っていくことに対する切なさ、いら立ちが「HURRICANE」には込められているんです。ほかにもさまざまな感情を表現しているので、聴く人によっていろんな捉え方ができるんじゃないかと思います。

──込められているものが多いからこそ、解釈もいくつも用意されている、ということですね。

そうですね。だからこそ、あえてこの曲では答えを提示せず、聴き手に寄り添うようにしています。この曲を聴くことでポジティブな気持ちになって、それをエネルギーにつなげてもらえたらうれしいです。