「HERO」の撮影だよ

──今回、白塗りで十二単を着たアーティスト写真も話題になりましたが、撮影は大変でしたか？

これまでのアー写と同じように写真館で撮ったんだけど、12枚まではいかないにせよ何枚も衣を重ねて着てさ。そしたらもう、重さもあるし圧迫感もあるし、座ってるだけでどんどん体力が奪われていくわけ。その上、顔には白塗りやお歯黒もして、これ全部やってた当時の女性は、本当に大変だなって思ったね。よく言うじゃない、「おしゃれは我慢」って。1300年前からそうだったんだね。それでもやっぱりきらびやかに見せたいから、みんな着飾ってたんだなって。そういう貴重な体験を身をもってできたから、レキシをやっててよかったなって思いましたよ。

──「SHIKIBU」のMVには、劇団シキブこと八嶋智人さんが出演されてますね。

俺が「この格好で京都の街を走り回りたい」って言ったところから始まった企画で。追いかけっこするのがいいなと思って、相手を誰にお願いしようかってときに、八嶋さんが以前から「何か一緒にやれたらいいね」って言ってくれてたのを思い出してオファーさせてもらいました。

──八嶋さんとは以前から交流があったんですか？

うん。八嶋さんは上原ひろみちゃん（オシャレキシ）とも仲がいいから前から交流があって。今回は忙しいのに時間を割いてくれてね。京都には前日の夜に入って、当日の昼までしかいられかったので、それまでに全部撮影して。練習なし、カメリハもなし、いきなり本番（笑）。もう素晴らしいですよ。最後のほうで改札に引っかかるシーンがあるんだけど、見事な表現力で完璧に決めるし。八嶋さんは楽器とかまったくできないけど、やっぱりリズム感がすごいよね。役者で大成されてる方だけど、音楽をやってもそこそこちゃんとできてたんだろうなって思いましたね。

──MVには地元の小学生とかも映ってましたよね（笑）。平安貴族が追いかけっこしてる光景を見て、子供たちも笑ってましたけど。

撮影をしたところがちょうど通学路だったからね。あと大学の前で撮影してたら、ちょうど朝の通学時間と重なっちゃって。女子大生たちが「え！ 何これ？『HERO』の撮影じゃない？」って話してて。「そうだよ。『HERO』の撮影だよ」って教えといてあげた。

──「HERO」に貴族が出てくるわけないでしょう！（笑）それはともかく、女が逃げて男が追いかけるという関係で、捕まえられそうでなかなか追いつけない感じが面白いですね。

うれしそうに追いかけ回してるけど、「本当の気持ちはどうなんだろう？ すぐに追いつけそうなのに、わざと泳がせてるのかも？」みたいな感じで、いろいろと深い裏テーマはありつつね。歌詞にも「離れそうなほど 絡む指先」ってあるけど、離れそうになればなるほど気持ちの結びつきが固くなるようなイメージですね。「会えない時間が愛育てるのさ」ってことですよ。

──恋愛っていうのは、いつの世も変わらない感情であって。源氏物語が今でも読み続けられてるのもそういうことからですもんね。

そうそう。今の人もシンパシーを感じるのはそこだろうしね。「SHIKIBU」の途中に「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半（よは）の月かな」っていう紫式部の和歌が出てくるのね。これは友達のことを詠ったものなんだけど、「せっかく会いに来てくれたのに顔を見るか見ないかの間にあなたはまた行ってしまった、雲に隠れた月のように……」っていう歌なんだよね。当時って方角を大事にしていて、人に会いに行くときも直接行くと悪い方角だから、わざわざ遠回りして会いに行くとか、直接顔を見ないで会いに行くとかあったわけ。今に比べたら、まあもどかしいよね。そういう感覚も漠然と表現したいっていうのはあったかな。でも、そんな伏線も全部吹っ飛んじゃう映像のインパクトだよね（笑）。

1.5D・2.5chサラウンドの「IKEMAX THATER」

──このシングルを携えて、全国ツアー「IKEMAX THATER」が開催されます。バンドのツアーとはひさびさになりますよね。

去年の年末はオシャレキシとのツアーだったし、今年はバンドでのワンマンは青森の三内丸山遺跡でしかやってないからね。

──今回はどんな感じの内容になりそうですか？

えーっとね、やっとステージ進行の台本が書けました（笑）。タイトルが「IKEMAX THEATER」だから、ハリウッド映画を意識したようなね。1.5D！ 2.5chサラウンド！ですよ！

──ちょっと数が目減りしてるじゃないですか（笑）。

メイベリンニューヨーク！ まあ、映画がテーマになったのは、今年「海街diary」って映画に出たのがきっかけになっただけで。だから見切り発車です（笑）。その見切り発車に苦しんで、やっと台本が固まったところ。とりあえず来てくれる人は、予習として映画を観ておいてほしいね。

──映画？ なんの作品ですか？

なんでもいいよ。レキシの曲を聴かなくていいから、有名な映画をたくさん観ておいてください。あと、年末年始にかかるツアーだから……かくし芸感はあるよね（笑）。いろいろアイデアはあるけど、とにかくレキシを観たことがない人でも楽しめるものになると思います。

──なんだか最後、謎めいた感じのメッセージになりましたが……どんなステージになるのか、まったく想像つかないです。

安心してください、俺も想像ついてませんよ！（笑）