リーガルリリーが1stフルアルバム「bedtime story」をリリースした。
本作の収録曲は、映画「惡の華」の主題歌として書き下ろされたシングル曲「ハナヒカリ」を除くすべてが録り下ろしの新曲。3カ月ほどの短期間で一気に作り上げられたという本作は、彼女たちの最新のモードが強く反映された1枚となっている。音楽ナタリーでは、年末から年明けにかけて中国ツアーを開催するなど活動の規模を拡大している3人に、「bedtime story」の制作過程について詳しく語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
3カ月くらいで作った
──Apple MusicやSpotifyで公開されたプレイリスト「10 Songs Selected by リーガルリリー」には、Smashing Pumpkins、The Libertines、Blur、Weezerなどの楽曲も含まれていますが、これらのバンドはリーガルリリーの音楽的ルーツでもあるんですよね?
たかはしほのか(Vo, G) そうですね。あと、アルバムを作っていたときに聴いてた曲とか。
海(B) 制作中に聴いて「これ、カッコいいね」みたいな話もしてたので。
ゆきやま(Dr) 最近好きな曲というか、今、自分たちの中で流行ってる曲も入ってますね。
海 楽器の音作りをしてくれた人と仲よくなって、その人に教えてもらった曲もあります。
──楽器のテックの方ですか?
たかはし はい。「この曲のギターの音を真似したい」っていうと、すぐにわかってくれて。今回はそういうところもよかったですね。
──1stフルアルバム「bedtime story」は、シングル曲「ハナヒカリ」以外はすべて新曲です。
たかはし 最初は「リッケンバッカー」(2016年10月発売の1stミニアルバム「the Post」収録曲)などの既存曲も入れて、今までの集大成みたいなアルバムにしようと思っていたんですよ。でも、「せっかくだから、新曲作るか!」ってなって。もともと持ち曲も少なかったし、もうちょっとがんばろうかなと。曲のストックはなかったけど「絶対できるはず」と思ったので。
ゆきやま できないかもっていう不安はなかったですね。ほのかだったら、絶対にできるだろうなって。
海 むしろ「そっちのほうがカッコよくない?」みたいな感じでした(笑)。
たかはし 3カ月くらいで作ったんですよ。まずはストックというか、アイデアみたいなものを集めて、3人でスタジオに入ってインストを作って。
ゆきやま 最初の1カ月でほのかが曲の欠片みたいなものを集めてくれて、次の1カ月で猛烈にスタジオに入って、最後の月にレコーディングをやったんです。
たかはし 今までにないような作り方でしたね。
ゆきやま 去年の夏は全部それでしたね。
みんなで楽しめるライブっていいな
たかはし 合宿もしたしね。
ゆきやま メンバーとスタッフ2人とレコーディングエンジニアとテックの人で1週間、山中湖に行ったんですよ。一緒にごはん食べて、いろんな話をして、レコーディングして。
海 そこでドラムとベースは大体録り終わったんです。最初の日に調子が上がっちゃって、いきなり何曲か録って。途中でズン!と沈んだときもあったけど……。
たかはし 私がアレンジが思い浮かばなくなったんですよ。
海 でも、ごはん食べて、ケーキも食べて、ゆっくりしたら次の日には復活して。楽しかったですね、合宿。
ゆきやま ホントに楽しかった。
たかはし うん。今まで生きてきた中で一番楽しかった(笑)。
──すごい(笑)。フジロックよりも楽しかった?
たかはし 合宿の次がフジロックかな(笑)。
──オープニングアクトとして出演した「SUMMER SONIC 2019」はいかがでしたか?
ゆきやま サマソニでは、ライブもいろいろ観られて。
たかはし Weezerと楽屋が隣だったんですよ。歌の練習してるのが聞こえました(笑)。斜め前の楽屋はMgmtで。
海 The 1975のメンバーとすれ違ったりね。いい夏でした(笑)。
ゆきやま サマソニで観たWeezer、The 1975のライブも、アルバムに生きてるんですよ。ドラムのフィルにしても、やっぱりシンプルなのがカッコいいなとか。
たかはし うん。怖がらず、シンプルなことをやりたいなって。確かにライブから影響を受けることは多いですね。サマソニのとき、Mgmtのライブでモッシュピットに飛び込んだんですけど、「みんなで楽しめるライブっていいな」と思ったり。リーガルリリーのライブは、お客さんがじっと見入るように観ていることが多いんですけど、沸かせるのも面白いだろうなって。
海 Pale Wavesのベースの弾き方も印象的でした。すごくうまいというわけじゃないんだけど、プレイスタイルが独特で、惹き付けられるものがあって。研究したいなって思いました。
自然に生まれたタイトルとコンセプト
──「bedtime story」というタイトルは、アルバムが完成してから決めたんですか?
たかはし そうですね。アルバムの最後に入っている表題曲「bedtime story」はセッションしながら作ったんですけど、即興で歌を乗せたら、その歌詞がほかのすべての曲のことを言い表している感じがして。全部をまとめたような歌詞だったから「これをアルバムの名前にしよう」と。コンセプトを決めて制作していたわけではないんですけど、曲と曲に関連性があるんですよ。同じようなことを歌っているなと思ったし、短い期間で作ると自然とコンセプトが生まれてくるんだなって。
ゆきやま 関連している感じもあるし、1曲1曲に固有の物語もあって。そのことも「bedtime story」というタイトルを決定付けた理由になってます。あと、曲を聴いているとさわやかさ、涼しさを感じるんですよ。それってほかのバンドでは感じないものなんじゃないかなって。
──全体的に透明感や儚さがあるし、どこか寓話的な雰囲気もあって。
たかはし そうですね。自分自身のことを歌う曲って、そんなにたくさん作れないんですよ。自分のことを歌うと、どうしても同じような内容になってしまうし、私自身もそんなに惹かれないというか。自分が経験したことをもとにして、別の主人公の歌として表現した曲が多いですね。
海 いろいろな物語が感じられるというか。インタビューで「どの曲が好きですか?」って聞かれるんですけど、選ぶのが難しいんですよね。そのときによって好きな曲が変わるというか。
ゆきやま 聴くたびによさが更新されるんですよ。
海 ライブでも何曲かやってるんですけど、演奏するたびに印象が変わってきて。ライブの中でどう変化していくかも楽しみです。
“生きた音”を収録できた
──音もすごくいいですよね。オルタナ、シューゲイザーの影響もありつつ、生々しさと儚さがうまく融合されていて。
たかはし ミックスもすごく気に入ってます。エンジニアとも相性がよかったんですよ。采原史明さんという方で、きのこ帝国とかクリープハイプとか、私がすごく影響を受けたアーティストのアルバムを録っている人なんです。歌録りも独特で、1回目のテイクが採用されることが多くて。ちょっとくらい下手でも、しっかり言葉が入ってくるほうがいいって。「歌い上げるんじゃなくて、伝えようとする歌が欲しい」って言われましたね。
海 ベース、ドラムに関しても、すごくいい音で録ってくれて。レコーディングは緊張するから堅い演奏になりがちなんです。そこをちゃんと聴き分けてくれて、「今の演奏はうまかったけど、ちょっと音が死んでた」みたいなことを言ってくれて。ちゃんと“生きた音”で収録できたと思います。
たかはし どんどん私たちのほうに入り込んできて、いろいろアドバイスをくれるエンジニアなんですよ。采原さんが言ってくれることは、「なるほど」と腑に落ちることばかりだったので。
ゆきやま うん。ドラムの音は三原重夫さんと一緒に作ってもらったんですけど、例えば「そらめカナ」のときは、私の「水辺の夜のイメージで録りたい」みたいな要望にも応えてくれて。スネアの音の処理とかもすごくいいんですよ。
たかはし そうやって音にこだわれたのもよかったし、やっぱり環境って大事だなと思いました。エンジニアと一緒に時間をかけて録るためには、予算が必要じゃないですか。その意味でも制作にゆとりがあったし、メジャーデビューしてよかったなって。
──メンバーの3人に音のアイデアがあったのも大きいと思います。
たかはし そうですね。制作に入る前は「自分たちの技量が足りなければ、この環境が生かせないこともあるだろうな」と思っていたので。そんなことはなかったですね。
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