10月22日から11月17日にかけて東京都内各所で行われたレッドブル主催の音楽フェス「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」。音楽ナタリーではこのイベントを盛り上げるべく、全3回にわたる特集を展開してきた。
最終回となる今回は東京・青山のレッドブル・ジャパン本社内にある、レッドブルが手がけるレコーディングスタジオ・Red Bull Studios Tokyoを訪問。レッドブルと音楽カルチャーの長年にわたる関係を紐解くうえで重要な意味を持つこの場所で、Red Bull Studios Tokyo専任エンジニアの川島隆氏と、レッドブル・ミュージック・フェスティバル実行委員会の広報を担当する立川智宣氏に話を聞いた。
取材・文 / 大橋千夏
レッドブルの本気度がわかる「カルチャーの箱」
ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、パリなどの都市に続いて、世界で11カ所目のRed Bull Studiosが東京・青山に誕生したのは2014年のこと。この年、東京がレッドブル主催の音楽学校「Red Bull Music Academy」のホストシティとなったことをきっかけに設立されたものだ(参照:Red Bull Studios Tokyo完成記念イベントが続々)。
「レッドブルを訪れていただく方には、まず最初にこのスタジオを見ていただくようにしています。と言うのも、ここに来ればレッドブルの本気度がすぐに伝わるから。僕たちが音楽カルチャーを単なる一過性のキャンペーンとして扱っていないことが、一見すれば理解していただけると思います」と話すのは、レッドブル・ミュージック・フェスティバル実行委員会の広報を担当する立川智宣氏。氏が「もはや飲料メーカーがやることの枠を超えているとは思います(笑)。まさしく『カルチャーの箱』ですね」と話す通り、ライブルーム、ボーカルブース、ドラムブース、コントロールルームを中心に構成されたスタジオには、アナログコンソールや各種アウトボードなど、プロ仕様のレコーディング機材がそろう。そして驚くことに、これらの機材やスタジオはすべて無償で貸し出しが行われている。立川氏は「Red Bull Studiosはレッドブルがシンパシーを感じたアーティストやクリエイターをサポートし、共に革新的な音楽コンテンツを世界に発信するためのプラットホームなんです」と説明してくれた。
デジタルで事足りてしまう時代に、あえての選択を
レッドブルが世界各国で運営するRed Bull Studiosには、各都市のローカルの建築家がデザインを担当するというルールがある。東京のスタジオの内装を手がけたのは、新国立競技場の設計者としても知られる隈研吾。外光が降り注ぐ開放的で温かな雰囲気のライブルームは、このスタジオが多くのアーティストから支持される理由の1つだ。天井と壁には音を分散させるためのパレットが並ぶ。「これらは実際にレッドブルを運搬するときに使っていたパレットだそうですよ」と教えてくれたのは、Red Bull Studios Tokyo設立当時からこのスタジオの選任エンジニアを務める川島隆氏だ。
川島氏は「都市によって内装こそ違うものの、音響設計は世界共通。使用している機材も似ているので、Red Bull Studiosのある都市を回りながら1つの作品の制作を行うなんてことも可能です」と話す。世界各国のスタジオで作業してきたある海外アーティストがここを訪れた際、「ロサンゼルスのスタジオよりもいいね」と太鼓判を押したこともあるのだとか。その理由について川島氏は「スタジオから放たれるバイブスはもちろん、今ではプロでも触れる機会が減ってしまったアナログミキサーなどの機材がそろっていることも魅力なのではないでしょうか」と考える。
スタジオにメインコンソールとして実装されているのはSSL 4040 G+。レコーダーはPro Tools HDXとLogic Proがそろう。「アナログミキサーを見て喜ぶアーティストの方は多いですね。デジタルでことが足りてしまう時代だからこそ、僕らはあえてミキサーのツマミを回したりフェーダーを上げ下げしてレコーディングできる環境を大事にしているんです。この緊張感もまたいいものですよ。だからどの国のRed Bull Studiosにも、アナログミキサーは完備されています」。こんなところからも、レッドブルの音楽に対する真摯な姿勢や情熱が伝わってくる。
エンタテインメントをエンジョイするだけでなく「学び、作る」
誕生から3年が経過したRed Bull Studios Tokyo。現在までに坂本龍一、Hi-Standard、METAFIVE、藤原ヒロシ、真心ブラザーズ、サンボマスター、SiM、Crossfaith、Crystal Kay、WONKなど国内の著名アーティストに加え、SkrillexやKygo、FKJほか海外の大物アーティストがお忍びでレコーディングしていくことも増えたという。「彼らからすると、日本のカルチャーはまったくの異文化なんでしょうね。制作の合間には日本でミュージックビデオを撮影したり、日本のアーティストとコラボレーションしたり。さまざまな刺激を受けて帰っていくようですよ」と川島氏は続けた。
現在は3カ月先まで予約で埋まってしまうこともあるが、中には飛び込みでスタジオを訪れ1、2時間だけ制作していくクリエイターもいるのだとか。立川氏は「普通のスタジオでは突然の飛び込みなんてありえないことかもしれませんが、そんな偶然からここで生まれた音楽が広く発信されていけば僕たちとしてもうれしいですし、それこそがこのスタジオの正しい使い方なのかな」と話したあと、「もちろん『スタジオが空いていれば』の話になってしまうんですけどね。実は以前にファレル・ウィリアムスからこのスタジオを使いたいと連絡があったのですが、予約でパンパンだったので断らざるを得なくて(笑)」と加えた。
Red Bull Studios Tokyoでは、スタジオを解放してのワークショップや展覧会の開催、MV撮影なども頻繁に行われている。これはレッドブルがエンタテインメントをただエンジョイするだけのものではなく、“学び、作る”ものとして捉えていることの表れだろう。
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レッドブルとユースカルチャー
- RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017
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2017年10月22日(日)~11月17日(金)