ЯeaL特集 Ryoko(ЯeaL)×MOMIKEN(SPYAIR)|憧れの先輩が示す、新たな世界への道

スリーピースバンド・ЯeaL(リアル)が9月25日に新曲「Unchain My Heart」を、10月2日にSPYAIRのカバー曲「現状ディストラクション」を配信リリースした。

「Unchain My Heart」は、バンドとしてのネクストステージに踏み込むことをコンセプトに制作されたという、疾走感あふれる力強い1曲。リリックプロデューサーにSPYAIRのMOMIKEN(B)を迎えたことで、歌詞にはこれまでにない表現が宿り、新たな決意が鮮やかににじむ仕上がりとなっている。またSPYAIRへのリスペクトを最大限に込めたという「現状ディストラクション」は、原曲を忠実に再現してみせることでЯeaLの高い演奏力を提示。女性ボーカルによる斬新さを味わえる絶品カバーとなっている。

この2曲の配信にあたり、音楽ナタリーではЯeaLのRyoko(Vo, G)とMOMIKENによる対談をセッティング。「Unchain My Heart」での作詞作業の話題を中心に語り合ってもらった。

取材・文 / もりひでゆき

ガールズバンドとして絶対なめられたくない

──ЯeaLとSPYAIRの2組は以前から面識はあったんですか?

Ryoko(ЯeaL) はい。去年「ANI-ROCK FES. 2018」というアニメ「銀魂」のライブイベントがさいたまスーパーアリーナであって。そこで初めてお会いしてご挨拶させていただきました。

MOMIKEN(SPYAIR) そのときはホントに挨拶をしたくらいだったよね。だから今回、こういうお話をいただけたことに驚いたし、すごくうれしかったですよ。

ЯeaL「Unchain My Heart」ミュージックビデオのワンシーン。

Ryoko SPYAIRさんは私たちがバンドを始めた頃からのスターで、ホントに憧れだったんですよ。ドラムのAikaが「銀魂」が大好きだから、メンバー3人で映画を観に行って、そのエンディングでSPYAIRさんの曲が流れてめっちゃテンションが上がったり、苦手なホラー映画を観るとき、あまりにも怖いからイヤフォンで「現状ディストラクション」を聴きながら鑑賞したり(笑)。それくらい私たちの中では神のような存在だったんです。しかも「ANI-ROCK FES. 2018」で観させていただいたライブがまたすごくて。自分たちも同じステージに立ったはずなのに、まったく違った世界を見せてくれたというか。だから私も今回、こんな夢のような話が実現してうれしいんです。

MOMIKEN 「SPYAIRに憧れてバンド始めました」みたいに面と向かって言ってもらえること自体が初めてで。そんな憧れられるような立場だともまったく思ってないし。だからそうやって言ってもらうと「え、マジで!?」みたいになっちゃうよね(笑)。ありがたい。

──MOMIKENさんはЯeaLというバンドに対してはどんな印象を受けましたか?

MOMIKEN これはもう僕の偏見なんですけど、ガールズバンドだから演奏に重きを置くというよりは、ステージングにこだわるのかなと最初は思ってたんですよ。でも実際ライブを観たらめちゃめちゃロックバンドらしいパフォーマンスをしてたからびっくりしましたね。そういう意外性も含めて、すげえカッコいいと思った。

Ryoko あー、うれしいです。私たちはガールズバンドとして絶対なめられたくないから、ちゃんとカッコよく演奏できることを大事にやってきてますからね。それが伝わっててよかったです(笑)。

パワーワードではなく、ストーリーを意識した歌詞

──ЯeaLは今年で結成から7年、メジャーデビューから3年を迎えましたが、このタイミングでリリックプロデューサーを迎えようと思ったのはどうしてだったんですか?

Ryoko バンドとしてもう1つ上のステージに行きたいと思ったんですよね。10代で組んだバンドが20代になったからには、第2ステージに行くべきだろうと。それを実現するためには歌詞の力、言葉の力をもっと強くするべきだと思ったんですけど、自分たちの力だけではどうしようもできない部分があって。だったら作詞面で誰かプロデューサーに入ってもらえば、新しい世界を手に入れて成長することができるんじゃないかと。で、誰にお願いするかって話になったんですけど、そこではもうSPYAIRのMOMIKENさんしか思い浮かばなかったんですよ。自分たちの憧れでもあるし、勝手に距離の近さも感じていたし……まあ、好きやったんですよ、総じて言うと(笑)。

ЯeaL「Unchain My Heart」ミュージックビデオのワンシーン。

MOMIKEN ありがとうございます(笑)。僕はこれまで歌詞を提供したことはあったんですけど、実は作詞のプロデュースは初めてだったんです。ただ、以前にSPYAIRでも同様に、いしわたり淳治さんに歌詞をプロデュースしていただいたことがあって。そのときにものすごく勉強になったんですよね。言葉をどう使っていくかっていう部分に関して、新しい可能性をグッと引き出していただいたというか。そんな経験があったうえでの今回のお話だったので、僕なりにできることをやれたらいいなあと思いましたね。僕がいしわたりさんから学んだことを、今度はRyokoちゃんに受け継げればなって。

Ryoko で、引き受けていただけることが決まった段階で一度顔合わせをさせていただいて。めっちゃ緊張してなかなかしゃべれなかったんですけど(笑)、自分たちがなぜMOMIKENさんにお願いしたのか説明させてもらったんです。今のЯeaLはこういう感じで、次はこういうところを目指したくて、そのためにこういう歌詞を書いていきたいんです、みたいなことをぶわーっと。

MOMIKEN うん。これまでのRyokoちゃんは、例えば「秒速エモーション」とか「未来コネクション」みたいな造語、それ自体がすごくパワーを持っている言葉をつい使ってしまいがちだと。でも今回はそこを抑えて、1つのストーリーがちゃんと見える歌詞を書きたいんだっていうことを話してくれたよね。

Ryoko そうなんです。私の場合、そういう力を持ったワードを使って、全体的に抽象的な歌詞を得意としてきたんですよ。100人が聴いたら100人全員に共感してもらいたいから、聴く人ごとに自分を当てはめられるように、あまり具体性を持たない歌詞が好みだったりするので。でも今回はMOMIKENさんの力をお借りして、違った方向性の歌詞を書いてみたかったんですよね。

「自分の作った鎖に絡まっているように見えるね」

──具体的にはどうやって作詞作業を進めていったんですか?

Ryoko 「Unchain My Heart」というタイトルは最初に決まっていたので、それをテーマにして、まず私がフル尺の歌詞を書いて。それをMOMIKENさんに見てもらったんですけど、すぐに具体的なアドバイスをいただけたんですよ。「曲として1人の主人公が見えづらいかもしれないね」って。

MOMIKEN 今回のお話をいただいたとき、予備知識としてこれまでに発表されたЯeaLの楽曲の歌詞を調べたんですけど、正直、僕が入る必要はないんじゃないかと思ったんです。その上で今回の自分の役割を考えたとき、Ryokoちゃんの視界をクリアにしてあげることかなと。そこでまずは今までとは違って、もうちょっと具体的で、物語が見えるような歌詞を書いたほうが伝わりやすいんじゃないか、ということをアドバイスさせていただいた感じですね。これまでの歌詞は確かに抽象的ではあるけど、何を言っているかがわからないわけではなく、伝えたいことはしっかり明確なんですよ。だったらもうちょっと具体的に書くアプローチを開拓していったらいいんじゃないかなと思ったので。

Ryoko そこから何度も書き直していくんですけど、書けば書くほどわからなくなっちゃって(笑)。ところどころ穴が開いた状態のまま、「また助言をください!」とお願いしたんですよね。

MOMIKEN その歌詞を読んでると、「あ、このへんから悩んできてるな」みたいな部分がわかったからね(笑)。

ЯeaL「Unchain My Heart」ミュージックビデオのワンシーン。

Ryoko あははは(笑)。そこで言われたのが、「自分の心の解放をテーマにした曲なのに、Ryokoちゃん自身が自分の作った鎖に絡まっているように見えるね」という言葉で。それを聞いたときに「なるほど!」ってすごい納得できたんですよ。今までとはちょっと違ったアプローチの歌詞を書きつつも、そこには自分らしさを込めなきゃいけないんだという思いが強すぎたんです。その思いにがんじがらめになってた。だってね、2度目にお見せした歌詞には“自分らしさ”って言葉が5回くらいも出てきてましたもんね(笑)。

MOMIKEN 入ってたね(笑)。でも、そこで僕が指摘したあと、すぐに今の形の歌詞が上がってきたから安心しました。リライトするのはけっこう大変だからさ。「もうムリです」とか言われたらどうしようかなって。ちゃんとキャッチボールが続く人でよかった(笑)。

Ryoko 確かにMOMIKENさんから食らったパンチはめちゃくちゃ強かったんですよ(笑)。おっしゃっていただいたことは薄々自分でもわかっていたけど、無理だと決めつけていたことだったから。でもそれを改めて指摘していただいたことで、自分の視界が、そして自分の見ている世界がクリアになったんですよ。ホントにMOMIKENさんの言葉には救われたなって。自分にとっていい衝撃でした。