ナタリー PowerPush - くるり

新曲「三日月」は時代劇ドラマ主題歌 くるりが語るシングルと音楽配信の現在

中古屋にCDを売るときの罪悪感

──これまでのシングルに撒き餌的な役割というものがあったとしたら、その役割は音楽配信に移っていると思いますか?

岸田 ええとね、それは「はい」とも言えるし「違う」とも言えると思っていて。確かにその、配信が便利なのは間違いないところで。パソコンやクレジットカードが使えない子供にとっては着うたなんかも非常に便利なものやとは思うんですよね。より、ただ感覚としては、今までみたいにお店に行ってCD買ってくる、っていう形から考えると、あまりにもカジュアルすぎると思うんですよね。

──カジュアルすぎるというのは?

岸田 あの、なんて言うのかなあ。便利なのは本当にええことやと思うんですよ。パッとダウンロードできて、音楽を聴きたいっていう欲求をすぐ満たしてくれて。しかも全然低価格になるわけですし。特に田舎ではレコード屋さんがないとか、欲しいものが売ってないっていうところも多いから、配信の意味は大いにあると思うんです。でも、ミュージシャンとして言わせてもらえれば、所詮はmp3なので。せっかくいい音で録ったものがmp3になって圧縮されてしまうっていうことに対しては、やっぱりちょっと憤慨するところもあったりとか。それと、やっぱりダウンロードっていう行為自体があまりにも簡単ですから、そういう世界ではライトな音楽のほうが得ですよね。受け手側の感覚としてピッとダウンロードして、つまんなかったら消せばいいや、みたいなところはあると思うんです。こういうこと言うと、じゃあシングルのCD買ってきてしょうもなかったら中古CD屋で売るっていうのと一緒やんっていう話もあるとは思うんですけど。でもねえ、中古屋でCD売るときってね、どうしても罪悪感があるんですよね。

──ありますね。

インタビュー写真

岸田 まあ売るんですけど。邪魔になるから。でもやっぱりちょっとためらうんですよね。でもiTunesで買ってきたものを消すときには罪悪感を感じないんです。

──あー、確かにCDを手放す重さに比べたら軽い気がしますね。

岸田 俺らは作ったものをたくさん聴いてもらいたいし、やっぱりゴミ箱には捨ててほしくない。中古CD屋に並んでほしくないし、ダウンロードしたものを消されたくないっていう気持ちはあって。だからカジュアルにばら撒けばいいっていう話ではないな、と思ってるんです。作品とちゃんと向き合って、配信とかもちょっと新しいやり方っていうのかな。いいやり方でやっていければいいなと思っていて。

──そうですね。

岸田 あと、配信に関してはほんまに地方の人に喜んでもらえれば、というとこで。地方限定配信とかやれたら面白いですよね(笑)。

音楽がごはんみたいになればいい

──先程、配信はライトな音楽に向いているという話が出ましたけど、確かに着うた中心のヒットは増えているし、実感として手軽な音楽を手軽にダウンロードして聴くというスタイルがあるというのもわかります。そういう意味ではくるりの音楽って、あんまりダウンロードに向かないのかな、とちょっと思ったんですが。

岸田 うん、現時点ではそんなに向いてるとは思いませんね。まあもちろんできるようにはなってるんですけど。まあ僕らが配信に求めることがあるとすれば、今はやっぱり音質ですよね。そこまで細かい音質の話はあんまりユーザーには関係ないような言われ方もするんですけど、これはありますよ、やっぱり。僕らのプライドとしても、すごいハイファイなものを作っているわけではないですが、最終工程のマスタリングまで、あるいはそのCDをプレスするマシンまで指定して作っているわけで、やっぱりそこまでが僕らの作品なんですよね。なんか頑固なラーメン屋みたいになってますけど、そういうやり方を続けてきて、やっとここまで伝わるようになったので、伝わる技術がちゃんと導入されればいいなっていうことは思います。

──そうですね。

岸田 僕自身もiTunesとか使うし、出会いが増えるのはいいことだと思うんです。音楽配信という仕組み自体はすごくポジティブに捉えてますよ。ただ、僕は配信でよかったものはやっぱりCDを買うんです。配信で聴いてるうちに好きになって、あ、アルバム買おうってなることはけっこうある。

──じゃあやっぱりくるりというバンドにとって、メインというか、一番大切にしているのはパッケージのアルバムということになるんでしょうか?

岸田 うーん、やっぱりそうなるんですかねえ。まあアルバムはもちろんずっと大事で、あの、おそらく次に作るアルバムも、通して聴いたときに、しっかりとしたCD1枚としての流れがあるものっていう考え方で作るつもりですし。ただ、例えばモーツァルトやベートーベンがいた時代に、記録するものって楽譜だけやったわけで。

──あー。

岸田 うん。その、メディアが超アナログだったわけです。で、今はもうそこから比較すると飛躍的な進化を遂げて、かつ音楽の地位っていうのが飛躍的に下がってしまって。音楽が芸術ではなくなったっていうことなんですかね。僕はすごい好きな指揮者がいて、その人が書いてる本の中で、けっこう目から鱗が落ちるようなことが書いてあったんですけど、産業革命以前のヨーロッパでは、ほんまに文化・芸術っていうのがいろんな物事の中心、人の喜びの中心にあったんですけど、産業革命以降っていうのは、そんなことよりも新しい冷蔵庫を買うとか、そういうことのほうが人にとって価値のあることになって、音楽っていうのは趣味の1つに成り下がってしまったと。それを読んで「ああ、なるほどね」と思って。それはまあ、ウィーンに一昨年かな、行ってたときとかにやっぱり痛感したというか、うん。ミュージシャンたちの、まあそれはクラシックの人たちですけど、音楽に価値があった頃のテクスチャを持って生きてる人たちの根本的な強さっていうんですかね。そこにはほんまにやられました。まあ、そうは言っても僕らはそういう人ではないから。

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──はい。でも、だからこそ、お茶の間でドラマのテーマソングになるわけですし。

岸田 そうそうそう。そうなんですよ。芸術ではそれはできないわけですよ。ほんでも、やっぱりいろんな側面があるのがポップミュージックやと思いますし、芸術としての側面もあると思うんですよね。何かに偏るとやっぱり、それはポップソングではないですし。

──なるほど。

佐藤 なんかね、音楽がごはんみたいになればっていうのは思います。

岸田 なに、食わな死んでまうってこと?

佐藤 インスタントラーメンでもラーメンやけど、やっぱなんか美味しいもの食べよって思ったときは、外行って食べたりとか、自分で手間暇かけて作ったりとかするやないですか。やっぱ音楽聴かないでいい人って絶対いるし、別に全然、CDそんなに買うたことないとかいう人もいるわけで。

──はい。

佐藤 その人それぞれやし、それは全然いいんです。ただ、自分はパッケージ欲しいですからね。

──だからこそくるりもノイズ・マッカートニーもCDを出し続けていると。

佐藤 はい。やっぱその、価値あるもんを作りたいし。新しい曲ダウンロードして3カ月聴いてそれでなんかウハウハして。3カ月経ったら消せばいいや、とか、そういうもんにはやっぱなりたくないですね。

ニューシングル『三日月』 / 2009年2月18日発売 / 1200円(税込)VICL-36489 / SPEEDSTAR RECORDS

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<CD収録曲>
  1. 三日月
  2. かごの中のジョニー
  3. 夢の中
くるり

1996年、立命館大学のサークル仲間の岸田繁(Vo,G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1997年11月にデモ音源を集めたCD「もしもし」をインディーズから発表。1998年10月にはシングル「東京」でメジャーデビュー。2001年9月に大村達身(G)が正式に加入し、翌2002年7月には森がバンドを脱退。その後もサポートメンバーなどを迎え、精力的な活動を展開する。2006年には初のベストアルバムをリリースするも、同年末をもって大村が脱退。現在は岸田と佐藤を中心に活動を継続中。日本を代表するロックバンドとして、常に革新的なサウンドを提示し続けている。2007年6月にはウィーンレコーディングの7thアルバム「ワルツを踊れ Tanz Walzer」を発表。