ナタリー PowerPush - くるり

新曲「三日月」は時代劇ドラマ主題歌 くるりが語るシングルと音楽配信の現在

くるりがニューシングル「三日月」をリリースする。この曲はNHK時代劇「浪花の華~緒方洪庵事件帳~」の主題歌として書き下ろされたナンバー。カップリングにはライブでも好評の新曲「かごの中のジョニー」と、BO GUMBOSのカバー「夢の中」を収録し、くるりならではの世界観を作り出している。

今回ナタリーでは岸田繁と佐藤征史の2人に初インタビューを敢行。「三日月」についてはもちろん、くるりにとってシングルとは何なのか、音楽配信をどう捉えているのか、といったディープな話題までざっくばらんに聞いてみた。

取材・文/大山卓也 インタビュー撮影/平沼久奈

原作を読んですぐ曲のイメージが沸いてきた

インタビュー写真

──まずは今回のシングル「三日月」をリリースすることになった経緯から聞かせてください。

岸田 去年の夏頃にですね、NHKさんの方から、時代劇のドラマをやるので主題歌を作ってほしいと言われまして、大阪のスタッフの方が東京まで来てくれはって。時代劇というもんをほとんど見たことがなかったんで、最初は大丈夫かなと思ったんですけど、原作を読んでみたら面白くて、すぐ曲のイメージは湧いてきまして。

──原作を読んで共感できる部分があったんでしょうか?

岸田 ありましたねえ。それが何なのかっていうのは、具体的には説明しにくいところなんですけど。時代劇っていうから最初チャンバラやと思って。でもぜんぜん違ってて、お話自体が、なんて言うんですかね、時代の移り変わりを描いていて。自分の生まれ育ったところじゃない、あるいは自分の範疇じゃないところでどうやって成長していくかっていうお話で。僕らが今までやってきた歌詞世界みたいなもんと、共通してるところはあると思います。

──なるほど。今回のドラマ主題歌のように何かの依頼を受けて作品を作るのは、純粋な自分の作品を作るときとは意識が違うものですか? やっぱり依頼される方はそれまでのくるりの音楽を聴いて、“くるりっぽいもの”を求めてくる場合が多いと思うんですが。

岸田 そうですね。でも、あの、そこに応える気は毛頭ありませんっていうか(笑)。

──(笑)。

岸田 例えば僕らが過去に出した曲のタイトルとかを挙げられて「こういう曲を作ってください」って言われるとそれとはまったく逆のものを作ってやろう、と思ってしまうんで(笑)。でも今回は一応聞いたんですよ。打ち合わせのときに「今までの曲で言うとどういうのがいいですか」って聞いて。でもそこで返ってきた答えがあんまり具体的なものじゃなかったんで。っていうことは、自由にやっていいのかなって判断しまして。だからその、なんて言うんですか、いわゆる常識の範疇で自由にやらせてもらいました。

──常識の範疇で(笑)。

岸田 やっぱり「これはいただいたお仕事や」という意識はありますよね。NHKで、しかも時代劇のドラマで、使われる分数がこれだけでっていうところは考えたし。ただ、もちろん曲を書くときっていうのは、もっとインスピレーションっていうんですかね、思いつきで、パッとそのとき思ったことを曲にするわけで。でもそうやって出てきたものに対して、例えば使う音階とかリズムの感じとか、全体的な音色の感じ。あと歌詞ですね。そういうものがちゃんとドラマにフィットするようにっていうことは、すごく考えましたね。

これはアルバムの先行シングルではない

──では今回はアーティストとして単に作りたいものを作るというよりは、仕事として制作したという感覚が強いんでしょうか?

岸田 いや、もちろん作りたくないものは作ってないし、今回ならNHKの時代劇の主題歌を作りたいからこのお仕事を選んでるわけですよ。ただ、その仕事を使って自己表現をしたいっていうところが勝ってしまうとアウトですよね。

──なるほど。

岸田 お仕事にならへんっていうか。それはコマーシャルの曲とかでもそうですけど。

──今回は確かにくるりらしさを損なわず、エンディングテーマとしても違和感のない仕上がりになっていると思います。ただ、逆にくるりの新しい部分や濃い部分を求めているファンにとっては物足りないかな、という気もしました。シングルにはその1曲でバンドの世界観をアピールするという役割もあるでしょうし。

岸田 ああ、アルバムの方向性を示すものだったりとかね。

──そうです。でもこのシングルはそういうものではないですよね?

岸田 うん、たぶん違いますね。例えばこの次にもう1枚シングルを出すとして、そのシングルを聴いてもらえれば、次のアルバムへの流れは必然的にわかってもらえるとは思うんですけど。今の段階ではまだ煙に巻いてる段階ですかね。別にこれがアルバムのプロトタイプというわけではないです。プロトタイプのプロトタイプくらい。

──いわゆる先行シングルみたいなものとは意味が違うということですね。

岸田 ぜんぜん違いますね。今までの、そういうアルバムの前に出したシングルとは趣が違うと思います。もうちょっとその、去年1年の総括的なシングルというか、ミニアルバムに近い感じですかね。

1枚のCDとしての統一感を重視

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──カップリングの「かごの中のジョニー」は、去年のライブで何度かやっていた曲ですよね。このタイミングで音源化したのはなぜですか?

佐藤 やっぱりこのCDを1枚の作品としてちゃんとしたものにしたかったんですよね。「ジョニー」は「三日月」っていうA面の曲に合う曲という視点で選んだ感じです。

──なるほど。で、もう1曲が「夢の中」ですね。

岸田 はい。

──岸田さんはどんとさん(ROSA LUXEMBURG / BO GUMBOS)の曲では「橋の下」をカバーしているイメージが強かったんですけど。

岸田 そうですね。まあでも「夢の中」をどんとさんのトリビュートライブで歌わせてもらって、それがね、けっこうよかったんですよね。その感触がよかったんで、まあ今回シングルでカップリングが2曲ぐらい必要で、まだアルバムの方向性を指し示すタイミングではないっていうのもあって。それでカバーとかにしといたほうがいいかもしれんなあと。カバーってほとんどやったことないですけど、まあええタイミングちゃうかなあっていう感じです。

──3曲あわせて、1枚の作品としての統一感がありますよね。確かにミニアルバム的というか。

岸田 ありがとうございます。

ニューシングル『三日月』 / 2009年2月18日発売 / 1200円(税込)VICL-36489 / SPEEDSTAR RECORDS

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<CD収録曲>
  1. 三日月
  2. かごの中のジョニー
  3. 夢の中
くるり

1996年、立命館大学のサークル仲間の岸田繁(Vo,G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1997年11月にデモ音源を集めたCD「もしもし」をインディーズから発表。1998年10月にはシングル「東京」でメジャーデビュー。2001年9月に大村達身(G)が正式に加入し、翌2002年7月には森がバンドを脱退。その後もサポートメンバーなどを迎え、精力的な活動を展開する。2006年には初のベストアルバムをリリースするも、同年末をもって大村が脱退。現在は岸田と佐藤を中心に活動を継続中。日本を代表するロックバンドとして、常に革新的なサウンドを提示し続けている。2007年6月にはウィーンレコーディングの7thアルバム「ワルツを踊れ Tanz Walzer」を発表。