クジラ夜の街と崎山蒼志のコラボ曲「劇情」がリリースされた。
「劇情」は、ソニー・ミュージックアーティスツの創立50周年を記念したツーマンツアー「SMA 50th Anniversary presents クジラ夜の街×崎山蒼志『劇情』」へ向けて制作された楽曲。目まぐるしく展開するジャンルレスなサウンドに、「劇場」をテーマにしたコンセプチュアルな歌詞が乗せられた、両者の持ち味をきれいにパッケージした1曲となっている。
同世代で同じ事務所に所属している彼らは、お互いのアーティスト像や人間性をどのように見ているのだろうか。彼らへインタビューを行い、コラボ曲「劇情」の“舞台裏”を紐解いていった。
取材・文 / 石井佑来撮影 / 佐々木康太
「え、あの崎山蒼志さんが!?」
──崎山さんとクジラ夜の街は年齢的には1歳差なので“同世代のアーティスト”と言っていいと思うのですが、2組の年表を照らし合わせると、崎山さんが「日村がゆく」の高校生フォークソンググランプリで優勝したのが2018年、クジラ夜の街がロッキング・オン主催のオーディション「RO JACK」で優勝したのが2019年と、頭角を現し始めた時期もかなり近いんですよね。お互いのことを認識したのはいつ頃だったんですか?
宮崎一晴(Vo, G / クジラ夜の街) 僕らが崎山さんを知ったのは、まさしく「日村がゆく」がきっかけでした。その頃僕らは全員同じ軽音楽部に所属していて、部員同士のLINEグループで「この曲いいよね」みたいな話をずっとしていたんですよ。その1つとして、崎山さんが「日村がゆく」に出たときの映像も話題になっていて。「すごい人が出てきたぞ!」という感じでした。その動画をきっかけに、別の弾き語り動画やKIDS A(かつて活動していた崎山擁するバンド)の映像も話題になり……という感じで、軽音部内に1つのムーブメントを起こしていましたね。僕らは当時高校2年生で、ライブハウスでの演奏などもまだ全然していなかったので、崎山さんは遠い世界の人というイメージでした。
──その頃ほかによく話題になっていたアーティストというと?
宮崎 サカナクションみたいな、メジャーシーンの第一線で活躍しているバンドの話はみんなしていましたね。あとはポルカドットスティングレイとか。
秦愛翔(Dr / クジラ夜の街) マカロニえんぴつ、THE 2、KOTORIあたりの話題も多かったよね。
宮崎 多かった。だから崎山さんのことも同世代のアーティストというよりは、そういったそうそうたる皆さんと同じラインの人として見ていて。
山本薫(G / クジラ夜の街) ね。当時はとにかく「すごいなあ」と思ってた。ギターがうますぎて、「この右手首どうなってんだろう?」みたいな(笑)。
──一方の崎山さんは、何をきっかけにクジラ夜の街を認識したんでしょうか。
崎山蒼志 やっぱり「RO JACK」がきっかけでしたね。betcover!!とかニトロデイとかも「RO JACK」をきっかけに知ったんですけど、クジラ夜の街はまさか自分とそこまで歳が近いとは思っていなくて。「自分と同世代の人たちが世に出始めてる……!」ということをそこで実感しました。
──確かに2010年代後半ぐらいから、崎山さんと同世代のアーティストが一気に頭角を現し始めましたよね。
崎山 そうなんですよ。その中でもクジラ夜の街はちゃんとアイデンティティがあるというか、自分たちの色が確立されていて、そこがすごくカッコいいし素敵だなと思っていました。あと、同じく同世代の高橋直希くんというドラマーの子と仲がいいんですけど、彼がクジラ夜の街のことがめちゃくちゃ好きで。
秦 え、そうなんですか? 知らなかった!
崎山 そうなんです。「夜間飛行少年」とかを一緒に聴いて「ヤバっ!」と思ってました。
──では、2組が実際に接点を持ったのはいつ頃だったんでしょうか。
宮崎 2019年の春にソニー・ミュージックアーティスツの方に声をかけていただいて。そこで、同じ事務所に崎山さんも所属していることを知るんです。「え、あの崎山蒼志さんが!? す、すごい!」みたいな感じで、もうびっくりですよ。で、SMAに所属した翌年に、崎山さんの「Samidare」のミュージックビデオに佐伯が出ることになって。直接接点を持ったのはそれが最初でしたよね?
崎山 そうだったと思います。
宮崎 そこから薫が個人的に仲よくなっていき……。
山本 当時崎山さんが使っていたOvationのViperというエレキギターをたまたま僕も持っていたので、それをワンマン終わりの崎山さんに見せに行きました(笑)。
崎山 わざわざ持ってきてくれたんですよ。それから2人でエフェクターの展示会に行ったり、公園で怖い話をしたりするようになって。
──怖い話……?
崎山 2人とも怪談が好きなんです。誰かから聞いた話や自分の体験談をひたすら聞かせ合うというのを上野公園でやってたりしました。
宮崎 実に彼ららしいと思います(笑)。
同世代ならではのグルーヴ感
──直接接点を持つ前から、お互いのことはずっと認識していたということですが、実際に接することで気付いた意外な一面などもありました?
宮崎 僕は崎山さんと初めてちゃんと話したのが、今年の春にあった「TOKYO GUITAR JAMBOREE 2024」というイベントの本番前で。会場の両国国技館を俺と薫と崎山さんの3人で探検するという、社会科見学みたいな時間があったんですよ(笑)。そのときに初めてちゃんとお話ししたんですけど、崎山さんって“ずっと静かにたくさんしゃべってる”んですよね。普段の崎山さんを知らない人からすると、めちゃくちゃ尖ってるというか、他人を寄せ付けない雰囲気があるのかなと感じる人もいると思うんです。でも、実際は全然そんなことなくて。国技館を巡りながら「あー、ここいいですね」とか「お相撲さんがどうのこうの」とかずっとしゃべってる(笑)。一緒に話していて本当に気持ちがいい人です。
秦 そうなんですよね。僕、EFNP(運動家)なんですけど……。
宮崎 MBTIの話? いきなりしゃべり出したと思ったら。
秦 崎山さんもEFNPで、一緒なんですよ。
宮崎 あんまりミュージシャンがすすんでMBTIの話しないよ。
秦 僕は人と話すときに「明るく話そう」と意識していて、それでやっと仲よくなれるんですけど、崎山くんは天性の力で人を惹き付けている感じがする。だから燃費がよさそうだなと思います。
宮崎 言い方(笑)。まあでも確かに、人望はめちゃくちゃ厚いよね。
──佐伯さんはいかがですか?
佐伯隼也(B / クジラ夜の街) 僕は気付いたら話すようになっていたんですよね……。最近話したのはSMAの50周年イベントに向けた食事会だったかな。そこで一緒の席になっていろいろ話して。僕は普段音楽の話とかはまったくしないので、歳の近い友達という感覚です(笑)。
──崎山さんは、“アーティストとして”というところや人間的な部分を問わず、クジラ夜の街にどのような印象を持っているのでしょうか。
崎山 まずアーティストとしては、ものすごくストイックだと思います。それは今回制作を一緒にして、強く感じました。レコーディングのときも、1つひとつの音にしっかり向き合っていて。「すごく真摯だな」と感銘を受けたし、それを仲間たちで一緒にやっているということにうらやましさを感じたりもして。みんなの関係性とか人柄とかも、すごく面白いんですよね。この前、NACK5でやられている「クジラ夜の街のメタラジオ」という番組に出させていただいたんですけど、会話のテンポ感がすごくて。
宮崎 僕らは部活の延長線上で活動しているから、それが関係性とか会話の空気感とかに表れているのかもしれないですね。
崎山 インターネットカルチャーとかも同じようなところを通ってきているから、同世代ならではのグルーヴ感があるというか。「奇奇怪怪」(Dos Monos・TaiTanとMONO NO AWARE玉置周啓のポッドキャスト番組)が持つ独特なグルーヴの、“僕ら世代バージョン”みたいな感じ。聴いていてそういう感覚を持てたのは、クジラ夜の街のラジオが初めてでした。
クジラ夜の街のアイデンティティとは?
──クジラ夜の街は「ファンタジーを作るバンド」というコンセプトを掲げて活動されていますが、崎山さんも最新アルバム「i 触れる SAD UFO」でSF的なモチーフを取り入れたり、幼少期に読んでいた絵本からの影響を各所で語られたりしていますよね。そういう、音楽を通してフィクショナルな世界を表現していくところは、2組の核にあるアティチュードとして近いものがあるんじゃないかと思いました。だからこそ今回、“劇場”というフィクションの舞台がモチーフになるのもすごく自然に感じられたというか。
宮崎 なるほど。今まで考えたことなかったけど、そう言われると確かに共通している部分はあるし、その影響が「劇情」にも出ているのかもしれないですね。ただ、崎山さんはどちらかと言うと、実際に見えている景色を別の視点で切り取るのが得意な方だと思っていて。そこは、ファンタジーな世界を生み出す自分たちとは少し違うのかなという気もします。僕らよりもっと写実的な方法で世界を捉えるのに長けているのかなって。それぞれがいる場所は決して遠くはないけど、性質が微妙に違うというか。だからこそ面白いなと思いますし。
崎山 一晴くんとはよく歌詞の話をするんですけど、書き方が僕とはけっこう違うんですよね。自分はわりと感覚的に書いていて、一晴さんはロジカルに書いている感じがする。掛け言葉の使い方とか、僕にはない視点をたくさん持っているので、勉強になります。
宮崎 書き方はわりと違うけど、以前2人で好きな歌詞を挙げていったときは、お互いに共感の嵐でしたね。僕は、身近なものを普通とは違う視座で捉えたものだったり、自分にはない方向性の歌詞にワクワクするので。「TOMOOさん最高だよね」とか、そういう話で意気投合しました。
崎山 やっぱり、ミクロなものがマクロなものにつながっていく、みたいな歌詞にすごさを感じます。
宮崎 そうだね。“細かければ細かいほど好き”というところは共通しているかもしれない。
崎山 あと、聴いている音楽の雑食感はけっこう近いと思います。一晴くんもバンド系の音楽だけじゃなくて、ヒップホップとかも聴いていて。普段自分が出力している音楽からは離れたものを聴いているところは、僕と似ているなと。それがクジラ夜の街のアイデンティティにつながっていると思います。
──先ほども「クジラ夜の街にはアイデンティティがある」とおっしゃっていましたが、崎山さんが思う“クジラ夜の街のアイデンティティ”とはつまりどういうものなのか、もう少し具体的にお聞きできますか?
崎山 言葉にするのが難しいんですけど……「同世代のバンドとは一線を画しているな」と思う部分がいくつかあるんですよね。例えばビート感ひとつ取っても、曲ごとに変わっていくので、そういうところもクジラ夜の街の特色だと思います。あとはやっぱり、歌詞が持つ物語性ですかね。ここまでテーマをしっかり設けて歌詞を作っているバンドは、同世代にはなかなかいないと思うので。そこは間違いなくクジラ夜の街のアイデンティティになっているのかなと。
──なるほど。今の“クジラ夜の街評”を受けて、宮崎さんはどう感じますか?
宮崎 どちらも自分たちが大事にしているところなので、率直にうれしいです。僕は歌詞を書くうえで、わかりやすさとか、とっつきやすさとかを大事にしたいと思っていて。子供向けのアニメ映画で大人が感動する、みたいな現象が好きなんですよ。そういうことをバンドでできたらいいなと思っている。歌詞でここまでがっつりストーリーテリングをしているバンドはあまりいないし、そもそも僕は妄想とかするのが大好きで。だったら、それを自分たちの特色として打ち出していけばいいんじゃないかと思って、自然とこういう形になりました。ストーリーテリングの部分は僕が中心に考えているけど、ビートやリズムについてはメンバー全員で作り出しているものなので、そこを個性として受け取ってもらえるのはうれしいですね。僕らはあくまでバンドなので。
次のページ »
“文化祭の女子”みたいなマインド