音楽ナタリー Power Push - 平井拓郎(QOOLAND)×三浦隆一(空想委員会)対談
平井拓郎(QOOLAND)
三浦隆一(空想委員会)
インディーズとメジャーシーンで邁進中 それぞれが考える音楽の届け方
リスクも潜むクラウドファンディングに懸けた思い
──QOOLANDは新作の制作費用はクラウドファンディングで集めましたけど、ほかのことは全部自分たちでやっているわけですね。
平井 そうですね。やっぱりただ広めるということに関しては、メジャーレーベルのアーティストに比べると自分たちだけだとやはり弱いんですよ。なのでQOOLANDを広めようとするんじゃなくて、今いるお客さんの温度をめちゃくちゃ上げるということにフォーカスしようと思って。一気に広めることはたやすくないけど、ファンが高い熱量をバンドに注いでくれてもっと好きになってくれたら、それが周りにもどんどん波及していくはずだって信じて。今回はそれに懸けてるんです。
──そのためのクラウドファンディングですね。逆にクラウドファンディングをやるデメリットってどこにあると思いますか。
平井 もし集まらなかったり、目標が達成できなかったら、お金を全部返さなきゃいけないんですよ。リターンとして用意したものも達成してないので提供できません、と出資者に説明しなきゃいけない。そうなったあとに活動を続けていくことって気持ち的にはかなり難しくなってくると思います。ファンのための計画を達成するためにファンから資金を募ったのに何も返せなかったとき、その先ファンに向かって何を歌っていけばいいのかって。
──なるほど。モチベーションの問題ですか。
平井 はい。アメリカのクラウドファンディングは全然そうじゃなくて、失敗してもOKって感じでやってるみたいなんですけどね。ちょっと話がそれますけど、ヨーロッパから逃げるように大陸を渡った人が多くいるアメリカ人ならではの国民性なのかもしれない。古くの日本は失敗したら腹を切る文化ですからね(笑)。
三浦 (笑)。そういうことになるか!
平井 アメリカは失敗した人たちが集まって「次は負けないぞ!」って気持ちでできた国だけど、日本人は失敗は絶対許されないような感覚が強いというか。
──日米の国民性の違いですか。
平井 考え過ぎかもしれないですが。デメリットって、失敗したときのリスクかなと思います。
三浦 そもそもカッコつかないしねえ。
──リターンを考えるのも難しいですね。お客さんが欲しがるものをちゃんと汲み取らなきゃいけない。
平井 そうですね。価格帯によっていろんなリターンを用意しました。今回は1万円ぐらいのところをいちばん分厚くしようと。リターン内容を金額に換算すると、ものによってはライブも観れるしCDももらえるし、けっこう割安だったりするんですよ。結局は「アルバム作りたいんで支援してください」ってことですけど、これだったらお金払って欲しくなるんじゃない?って、前向きな気持ちでリターン内容を練りに練りました。
──リターン一覧を見て「平井さんとゴールデン街でサシ飲み5万円」というものがあって面白いなと思いました。
平井 普段はなかなかファンの人たちとしゃべる機会ってないんですよ。でも今回は、1人のためだけに弾き語りしますとか、そういうリターンを用意したので、1対1で話せる機会が多くできてよかったです。そこで話をしたときに、みんなクラウドファンディングを楽しんでくれてたことがわかって。いろんなお客さんがいるんですよ。QOOLANDが大好きだし、CDは全部持ってる。だけどライブには興味がなくて、1回もライブハウスに行ったことがない人がいたり。
三浦 えーっ!
平井 今はCDが売れない時代と言われてますし、僕らもやっぱりライブが活動の中心ですよね。でもファンの中にはそんな人もいるんだなって驚きました。
──クラウドファンディングで出資を募ることで、作る音楽の方向性は変わってきましたか?
平井 ものすごく心が動かされることが多かったので、圧倒的に歌詞が変わりましたね。賛否あることを承知で、失敗するリスクがあることもわかったうえで、あえてクラウドファンディングを選択しましたし。自分にとって大きな決断だったし、心を動かされているできごとがあったからホットな曲になっていきました。
──お客さんのことを今まで以上に考えるようになったと。
平井 はい。お客さんのための歌が歌いたい、と改めて、心底思いましたね。
音源が先か、ライブが先か
──アルバムの制作期間中、お客さんの声を聞く機会はあったんですか。
平井 今作の収録曲は発売前だけどライブではもうやりまくってるんですよ。だから新曲に対するお客さんの反応を知ることができました。今年はかなり未音源化曲の割合が多いライブがほとんどでしたね。
──それって新人なら当たり前だけど、何枚かCD出してるバンドがそういう状態でライブやるのって珍しくないですか。
三浦 うん、珍しい!(笑)
平井 新曲中心のセトリにしたのは「今、歌いたいことはこの曲じゃなくて、今の気持ちがこもってるこの曲だ」っていう思いが強かったから。
──新しい、今の自分を表した曲のほうが「今、歌いたい曲」なのは自然なことですよね。それだけ本作を作り始めてからの意識の変化が大きかったってことですね。
平井 でも最近になってようやく、昔からある曲もフラットにセトリに入れられるようになってきたんです。お客さんはもちろん昔の曲をやると喜んでくれるし。そこはやっぱりバランスですよね。
三浦 そうだね。
平井 音源化されていない新曲を演奏する中、お客さんの表情とかノリが1番2番3番と曲が進むたびに全然変わってくるって曲がいくつもあって。
──だんだん曲に込めた思いが響いてる感じがするってことですか。
平井 はい。そういう曲はQOOLANDでは今までなかったです。初めて聴いてもらったその場で、その1曲の中で心が動かせてるんじゃないかなって。それが自信になりました。
──そういう曲が書けるようになった理由は?
平井 やっぱり「届かせる」という気持ちで書いたことだと思います。そういう気持ちで「Shining Sherry」を書いてから、新たに書く曲に関しては、「届かせられているのかいないのか」という基準に重きを置くことが増えました。実際そうして書いた曲は届いてますね、ライブ会場で初めて歌ったとしても。
──なるほど。そういった過程を経て、「COME TOGETHER」が完成したわけですね。
平井 もちろん、僕たちだけでCDができるわけじゃない。CDってブックレットにスタッフクレジットが載ってますよね。過去の作品の中には知らない人の名前も載ってたんですよ。メンバーと直接やり取りしてないスタッフもいて、いろいろ協力してくれてたっていうことはわかるんです。でもなんかしっくりこなくて……。今回は自主制作なので当然、全員知ってる人ばかりのクレジットになった。テクニシャンもそうだしエンジニアもデザイナーもスタッフも。本気出してない奴は誰1人としていないっていうのをQOOLAND自体が知ってますし、全員の力が結集したものになってる。それがCDにすべてパッケージしてある。
次のページ » 自己満足から“曲を届ける喜び”へと変化した心境
収録曲
- Come Together
- Shining Sherry
- セレクト(うーっはーっ!!)
- ある事無い事
- 一つの法則
- ループは止まった
- 言えない人が言えてたら
- 叫んでよ新宿
- ラストセンサー
- ゆとり教育概論
- Today Today Today & Yesterday
収録曲
- 僕が雪を嫌うわけ
- 私が雪を待つ理由
QOOLAND(クーランド)
2011年10月14日に新宿で結成。平井拓郎(Vo, G)、菅ひであき(B, Cho)、タカギ皓平(Dr)、川﨑純(G)からなる4人組ロックバンド。2013年5月に初の全国流通盤となるフルアルバム「それでも弾こうテレキャスター」を自主レーベル・下高井戸レコードからリリースした。同年、アマチュアバンドコンテスト「RO69JACK 2013」でグランプリを獲得。2015年の夏にはクラウドファンディングを使用した「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を実施。目標額を大きく上回る200万円の資金調達に成功し、フリーライブを行うなどしてファンを喜ばせた。また全国各地で自主企画「大平和祭り」を開催し、Suck a Stew Dry、ircle、LEGO BIG MORL、空想委員会、cinema staff、オワリカラといったバンドを招いての対バンライブを展開。2015年12月9日にクラウドファンディングの資金をもとに制作したファン参加型の2ndフルアルバム「COME TOGETHER」をリリースする。
空想委員会(クウソウイインカイ)
三浦隆一(Vo, G)、佐々木直也(G)、岡田典之(B)からなる3人組ロックバンド。ときに儚く、ときに毒々しい、リアルな歌詞が高い共感を呼んでいる。2011年にリリースしたインディーズデビュー作「恋愛下手の作り方」がタワレコメンに選ばれ、一気に知名度を上げた。その後もハイペースでCDをリリースし、各地のイベントやフェスに出演。2014年2月にはゲスの極み乙女。との共同ツアーを開催して話題を集めた。2014年6月にキングレコードから「種の起源」をリリースし、メジャーデビュー。2015年2月に東京・Zepp DiverCity TOKYOでバンド史上最大規模のワンマンライブを行い、7月にはミニアルバム「GPS」を発表した。その後多数の夏フェス出演を経て、9月には東京・日本武道館でPerfume主催のライブイベント「Perfume FES!! 2015 ~三人祭~」に参加。12月6日に両A面シングル「僕が雪を嫌うわけ / 私が雪を待つ理由<完全限定生産>」を発売する。