音楽ナタリー PowerPush - QOOLAND
幕末から現代まで 日常歌った最新作
緩急がついてサウンド面で変化した
──シリアス路線の今作を聴いたファンがギャップを感じることもあるかなと思うんですが。
平井 バンドから気持ちが離れてしまうっていうのはメロディと歌詞の根本が変わってしまった場合だと思うんです。このアルバムは全体の雰囲気はこれまでと違うかもしれませんが、これまでにもシリアスな曲はありましたし、新旧どの曲をとっても大きく作曲のアプローチが違うってことはないんですよ。
──サウンド面ではどのような変化があったんですか?
平井 今回マスタリングはロンドンのメトロポリスマスタリングでマーゼン・ミュラドさんにやっていただきました。
菅 今までと全然違う仕上がりになってますんで。
平井 これまでは音数がけっこう多かったし、コンプレッションしてたんで波形がびっしり広がってたんです。今回は抜く部分もしっかりあるというか。
川崎 ダイナミクスがはっきり出せたんですよね。今までは常にフルだったところ、今回はアクセルとブレーキを上手に使うみたいな緩急がついて、よりエモーショナルになったと思います。
平井 「反吐と悪口」だとAメロのキーが極端に低くて、サビで上げるとか、「区民」もAメロはギター1本だけでそこから増やしていくとか。前までだと「勝つまでが戦争」みたいにいきなりフルドライブさせてることが多かったんですよね。音を抜いて導かれる場所へ進んでいくっていうアプローチを加えてます。
曲に優劣が生まれるのは悪いことではない
──落ち着いた部分がありつつも、「区民」の途中には菅さんの「アーン!」というかけ声が入ってますね。
菅 あれは拓郎が持ってきた最初のデモの段階から俺の声を加工したやつが入ってて。
平井 かけ声は入れておこうっていうのが自分の中であったんですよね。
菅 ここはライブでお客さんと一緒に何かやろうって思ってます。とりあえずEm一発でドーンってヘビーに鳴らして両手自由にできるので。
平井 「区民」が一番情報量多いんですけど、作品において正直不要な部分も入ってるんですよ。
──なぜ不要だと思うパートを入れたんですか。
平井 例えばThe Beatlesの話ですけど、ポール・マッカートニーが「なんとなく作った」っていう「What You're Doing」みたいな曲があるから、「Yesterday」「Let It Be」「Blackbird」っていうのがほんまにすごいなって思える側面もあるし。なんとなく作った曲をアルバムに入れちゃうような“無駄な部分”って大切だなって思うんですよね。
川崎 やりたかったことやっただけみたいなこともあるだろうしね。
──「区民」が捨て曲ってことじゃないですよね?
平井 ではないです(笑)。やんちゃな感じを詰め込んだってことです。でもリスナーの中で曲に対して優劣が生まれるのは悪いことだと思わないんですよ。
菅 ファン同士でも「あの曲が好き」「わたしはこっちが好き」「えーマジでー!?」って会話に花が咲くといいなって。
平井 その反響が芸風の幅を広げるきっかけになったりもしますしね。
「反吐と悪口」は前向きな歌
──1曲目の「反吐と悪口」はすごいタイトルですね。
平井 「反吐と悪口」を書いたときはありがたいことにSHIBUYA-AXのイベントや(参照:くるり、赤公、キュウソ、QOOLANDが魅せたAX最後の日曜)、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」とかに出演して、新しい挑戦ができて、一段一段みんなで上っていってるなって感じてたんです。でもいろんな人が聴いてくれるようになってきたんですけど、そうなるとよくも悪くもいろんな意見をいただく機会が増えて、それがたまらなく嫌だったときもあった。
──嫌というのはバンドに対する否定的な意見ですか?
平井 まあ「何がええんかわからん!」ってのが一番多いんですけどね(笑)。同業者と言わずとも僕らのこと嫌いなリスナーもたくさんいるとは思うんです。でも当然、好きでいてくれる人たちのパワーのほうが大きいので、そういう人たちに会えなくなったり、目の前でやれなくなってしまうことのほうが嫌だし、そう考えたら悪口を浴びるのも別に悪くないんじゃないかなという内容にしました。
川崎 タイトルのわりには前向きなんだよね。
平井 そうだね、昔だったら歌詞の中で前を向けないまま曲が終わってたかもしれない。この曲には「いざ目に映る人のため」ってフレーズがあって、ここではメンバーと過ごした時間が長かったり、スタッフとの結びつきも強くなったりしてることとか、どんどん周りが大事になってきた最近のことを歌ってます。たくさん曲を書いていかないと活動を続けることができないし、それが周りとか自分を守ることにつながると思って。感謝の気持ちを正面切って歌うのもなんか違うんで、とがった切り口になりました。
──現時点での心情がこめられた1曲になってるんですね。
平井 そうですね。直前で書くやつがよかったりするんですよ、ストックはたくさんあるんですけど、たまに「昨日書いたやつをとにかく入れたい」みたいな欲が湧くんです。アルバム6曲分できあがって、あと1曲何入れようってなったときに、その6曲を聴いてから作った1曲が入るみたいな。あとですね、アルバムまとめる直前で腹立つことがあって……。
菅 偶然ですけど、前作も今作も収録曲がそろったってタイミングで拓郎の周りで何か嫌なことが起こるらしく。それで、「反吐と悪口」だったり、「風邪を引かないうちに」(2014年2月発売「教室、千切る.ep」収録曲)ができあがったんです。
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- ミニアルバム「街と大都市」/ 2014年10月1日発売 / 1728円 / BLUE ALBUM / QFCS-1009
- ミニアルバム「街と大都市」
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収録曲
- 反吐と悪口
- 区民
- 片道4,100円
- 街灯の街
- フレンドシップさようなら
- ブギーサウンド
- 志士雄
QOOLAND(クーランド)
2011年9月結成。平井拓郎(Vo, G)、菅ひであき(B, Cho)、タカギ皓平(Dr)、川崎純(G)からなる4人組ロックバンド。平井と川崎によるタッピング奏法を駆使したギターサウンドや、マンガ、アニメなどのフィクション作品、日常生活をモチーフにした歌詞を特徴とする。2013年5月に初の全国流通盤となるフルアルバム「それでも弾こうテレキャスター」を自主レーベル・下高井戸レコードからリリース。同年アマチュアバンドコンテスト「RO69JACK 2013」で優勝し、8月に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」への出演を果たす。精力的なライブ活動を続け、2013年は115本のライブを敢行した。2014年2月に6曲入りCD「教室、千切る.ep」を発売し、3月に大阪と東京で初のワンマンライブを実施。4月にミニアルバム「毎日弾こうテレキャスターagain」を発表した。8月に1004枚限定シングル「片道4,100円」を、10月に最新ミニアルバム「街と大都市」をリリースし、12月に行う東京・UNITでのワンマンライブをもって、4月末より行ってきたレコ発ツアーのファイナルを迎える。