音楽ナタリー PowerPush - 平井拓郎(QOOLAND)×ニコ・ニコルソン
どん底からの上京物語とそれぞれのマンガ道
QOOLANDが8月6日にタワーレコード限定シングル「片道4,100円」をリリースする。今作は彼らにとって初のシングル作品で、1004枚限定生産、1枚1枚に直筆サインが入るというこだわりの仕様に加え、ジャケットには人気イラストレーター兼マンガ家のニコ・ニコルソンによる描き下ろしイラストが採用されている。
今回ナタリーでは、バンドのフロントマンである平井拓郎(Vo, G)とニコ・ニコルソンの対談を実施。はっきりとした目的がないまま上京してきたという共通点を持つ2人の上京物語などに加え、マンガ家を志したこともあるという平井画伯による衝撃のイラストも紹介する。
取材・文 / 田中和宏 撮影 / 小坂茂雄
QOOLANDはリア充じゃなかった
──今回QOOLANDとニコ・ニコルソンさんが「片道4,100円」のジャケットでコラボすることになったきっかけを教えてください。
平井拓郎 マンガ家の人にお願いしたいと思っていて、「片道4,100円」のデザインをやってもらったデザイナーさんから「ガツンと描ける人を紹介するよ」って話があってお願いすることになりました。
──ニコさんは元々QOOLANDをご存知でした?
ニコ・ニコルソン いや、不勉強ながら今回音源や資料をいただいて初めて知りました。QOOLANDはリア充な方々なんじゃないかと思ってたんですけど、よくよく曲を聴いたら鬱屈したものを溜め込んでたり、意外と感情をこじらせたりしてて「あれ、仲間かな?」って印象を受けました。
平井 僕はニコさんが描いたものだと知らずに、WEBマンガ「でんぐばんぐ」を以前から読んでました。単行本にもなってる「ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り」も読んだんですけど、僕はミュージシャンをスタジオに呼んで、その人と対談やら弾き語りをする「平井と誰々」ってイベントをやってるんで、これは芸風近いなと思いました。
ニコ 「マンガ道場破り」は大御所先生たちの懐に飛び込んでいろいろ聞いてくるっていう取材マンガなんで、確かに近いですね。
挫折感味わった上京したての半年間
──今回のシングル「片道4,100円」は「大阪から片道4100円の夜行バスで上京した若者」をテーマにしてるそうですが、これは平井さん自身の上京エピソードですか?
平井 かなり近いですね。実際4100円で上京してきましたし。4年くらい前に大学を出て、音楽やるって決めて「卒業するし行こう」みたいな感じで東京に来ました。当時はThe DARARSってバンドやってたんですけど、なんの計画もなく見切り発車で出てきたんで半年くらいでダメになったんです。
ニコ 自信満々で「東京つかめるっしょ!」みたいな感じではなかったんですね。
平井 行けばなんとかなるって思ってたんですけど、実際はそうもいかず。東京のバイトは関西より時給が全然よかったし、いい待遇で働いていたけど、バンドがうまくいってなかった。つまり「片道4,100円」の冒頭にあるような「生活水準はクソ 金や職の話ではなく」って状態だったんですね。でも周りにはがんばってる人がいるんですよ。例えば僕らと同じ時期に出てきたcinema staffとかはバリバリ音楽活動をがんばってるのに、かたや僕らはええ感じのシフトの時給高いバイトをやるだけの生活みたいな。ニコさんの場合はどうでした?
ニコ 近いものはありますね。私は東京に行ったら何かあるに違いないっていうふわっとした感じで親に「就職が決まった」と嘘を言って出てきたんです。当時付き合ってた人の家に転がり込み、働きもせず、ブックオフで古本を買って家に帰るだけっていうような生活を続けてました。ほんとに野良猫とか見かけても謝りたくなるんですよ。「お前は食いぶちを自分で稼いでるけど私は何もしてない」なんて(笑)。私は半年過ぎたあたりで、東京に来ても何もできないから実家に帰ろうって思ってました。でも、その頃最後の望みじゃないですけど、とある出版社に履歴書を送ってみたら、編集スタッフとして働けることになったんです。そこから今につながってるんですけど、野良猫に謝ってた時期みたいなどん底を経験してるからこそ、今なんとか踏ん張れてる気もします。
楽曲とWEBマンガの無料配信「心意気は大事」
──平井さんはどのタイミングで気持ちを切り変えたんですか?
平井 東京で出会ったベースの菅(ひであき)さんがThe DARARSに加入してから「なんだお前らは!」って喝を入れてくれて、その結果The DARARS自体は解散してQOOLANDを結成することになった。QOOLANDでは「ライブを年間に110本はやる」「無料で曲を配るときは2曲じゃなくて10曲にする」とか数字を大事にしてきました。
ニコ 無料で10曲? 大サービスじゃないですか。
平井 「Download」っていう10曲入りの作品を、QOOLANDの結成発表後すぐに無料配信したんです。「無料だし、30秒だけ聴かせればいいや」っていう姿勢は嫌だったし、とにかくたくさんの人に聴いてもらいたくて。WEBマンガの無料配信もそんな感じしません?
ニコ あー、確かにタダで配信して、単行本で回収みたいなところはありますね。目的は「まず、知ってもらうこと」みたいな。「ナガサレール イエタテール」というマンガはWEBで全話公開してから急に認知度が上がったんで、全部さらけ出してわかってもらおうっていう心意気は大事だなって思います。もともと最新話と1話だけ無料配信ってことはやってたんですけどね。12話完結のマンガだったんですが、10話くらい出た時点で編集部から「知ってもらうために全部タダで公開したらいいんじゃないですかね」って話が出て、やってみたら面白さをわかってくれる人が一気に増えたんです。
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収録曲
- 片道4,100円
- TABATA
- 蟻の街
- 片道4,100円(Acoustic ver)
QOOLAND(クーランド)
2011年9月結成。平井拓郎(Vo, G)、菅ひであき(B, Cho)、タカギ皓平(Dr)、川崎純(G)からなる4人組ロックバンド。平井と川崎によるタッピング奏法を駆使したギターサウンドや、マンガ、アニメなどのフィクション作品、日常生活をモチーフにした歌詞を特徴とする。2013年5月に初の全国流通盤となるフルアルバム「それでも弾こうテレキャスター」を自主レーベル・下高井戸レコードからリリース。同年アマチュアバンドコンテスト「RO69JACK 2013」で優勝し、8月に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」への出演を果たす。精力的なライブ活動を続け、2013年は115本のライブを敢行した。2014年2月に6曲入りCD「教室、千切る.ep」を発売し、3月に大阪と東京で初のワンマンライブを実施した。4月にミニアルバム「毎日弾こうテレキャスターagain」を発表。8月に1004枚限定シングル「片道4,100円」をリリースし、同月以降「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」など多くのライブイベントに出演する。
ニコ・ニコルソン
宮城県亘理郡山元町出身のマンガ家兼イラストレーター。専門学校卒業後「東京で就職が決まった」と嘘をついて実家を飛び出し、東京で半年間のニート生活を送る。バイトとして出版社で働いていたところ、ひょんなことからイラスト制作を任されるようになり、やがてフリーイラストレーターとして本格的に活動を開始。2009年にイラストエッセイ「上京さん」をエムオン・エンタテインメントから発表する。その後、月刊誌・デジモノステーション(エムオン・エンタテインメント)で「ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画」、ヤングアニマル(白泉社)で「ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り」、デジキス(講談社)で「ニコニコ妖画」、ぽこぽこ(太田出版)で「ナガサレール イエタテール」を連載。2014年4月からは、ぽこぽこで「でんぐばんぐ」のWEB連載も行っている。