ナタリー PowerPush - プリシラ・アーン×村松崇継
ジブリ最新作「思い出のマーニー」音楽対談
スタジオジブリの最新作「思い出のマーニー」が7月19日から全国の劇場で公開される。映画の公開に先駆け、主題歌「Fine On The Outside」を歌うプリシラ・アーンが歌集アルバム「あなたのことが大すき。」を、村松崇継が映画のサウンドトラック「思い出のマーニー サントラ音楽集」をリリースした。
ナタリーではこれらのリリースを記念して、プリシラと村松の対談を企画。ジブリ作品の熱心なファンでもある2人に、今作で流れる音楽へのこだわりやジブリ作品への思い、また映画「思い出のマーニー」の見どころなどを語り合ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 小坂茂雄
「Fine On The Outside」は映画にばっちりハマった曲
──映画「思い出のマーニー」の主題歌に選ばれた「Fine On The Outside」は、プリシラさんが過去に作った楽曲だと伺いました。映画のための書き下ろしかと思うくらい、曲の雰囲気や歌詞が主人公の杏奈とマーニーに寄り添っている印象を受けたのですが、この曲を作った背景を教えていただけますか?
プリシラ・アーン この曲を書いたのは9年くらい前で、ちょうど実家を出てロサンゼルスに移ったときに昔のことを思い出しながら書いたものなんです。中高生の頃、実は私はいろいろと寂しい思いをしたことがあって。小さな街からロサンゼルスに1人で出て行って自立するときに、孤独や寂しさを乗り越えられる自分になりたいというのと、そういうものも含めた自分を受け入れたいなっていう思いで書いた曲なんです。
──今回プリシラさんは映画の主題歌用にいくつか候補曲を書き下ろしていますが、それらの曲は選ばれず「Fine On The Outside」が主題歌に選ばれたんですよね。
プリシラ 「Fine On The Outside」は“外でも大丈夫”という意味のタイトルなんですけど、原作小説の「思い出のマーニー」の3ページ目くらいで主人公のアンナが「私は外の人」みたいなことを言うんです。そのときにもう「あっ」と思って。さらに読めば読むほど曲との共通点が出てきて、この曲しかないって思ってました。それでプロデューサーの西村(義明)さんに主題歌の候補を送るとき、古い曲ですがすごく作品にぴったりなんでどうでしょうかっていうメモを添えてこの曲も一緒に送ったんです。
──それで、今回の主題歌が決まったと。しかも「Fine On The Outside」はジブリの映画作品の中で唯一の英詞の主題歌だそうです。
プリシラ 英語のままでいいと言われて私も驚いたんです。日本語に訳したバージョンも作ろうか提案してみたんですが、西村さんに「訳してしまうと、どうしてもニュアンスが変わってしまう。同じものが伝えられないから」と言われて。そのときはまだ英語の主題歌が初めてだってことは全然意識してなくて、あとでそれを知ったときには“COOL”、うれしいって思いました。
村松崇継 僕がこの曲を聴いたのが今年の2月か3月くらいで、「Fine On The Outside」のほかに2曲くらい候補があったんです。それらの曲をちょっとできている絵とエンドロールに当てはめて観ていたんですけど、この「Fine On The Outside」がもうばっちり絵にハマっていて。そこにいたスタッフたちとも「これだよね」って言ってたのを覚えてますね。
──村松さんが手がけている劇伴とのマッチはどうでしたか?
村松 ちょうどこの曲が流れる前にフランシスコ・タルレガの「アルハンブラの思い出」を僕が編曲した「思い出のマーニー」という曲が流れるんですよ。その曲からの流れもすごいよかった。それと絵や物語のテンポ感がプリシラの曲に合わせて作ったかのように合っていて、本当にミラクルだと思いました。だから運命的に出会ったんだって感じです。
プリシラ (笑)。
村松 ホントホント。
音楽が作品を1つにつなげている
──プリシラさんは村松さんの音楽を聴いてどうでしたか?
プリシラ 昨日、完成した映画を初めて観たんです。本当に映像もストーリーも素晴らしくて。それらをつないでいるのが村松さんの音楽なんだなって思いました。いろんなシーンがあって、いろんな感情が描かれていて、音楽がそれらを1つにつなげている。しかも最後には私の曲もそこにつながるんです。映画のテーマ自体が個人的にとても共感できる内容だった上に、大好きなジブリ作品で自分の曲が使われるっていう夢が叶ったので、涙が出そうでした。
──村松さんのサウンドトラックを聴かせていただきましたが、今作の劇伴は楽曲がそれぞれ独立していて1つひとつ丁寧に作られているという印象でした。これらの楽曲はどのように作られたのでしょうか?
村松 最初は米林(宏昌)監督からマーニーはこういう娘で杏奈はこういう娘、みたいな説明のメモ書きをいただきました。そこには登場人物だけじゃなくて、湿地というのはこう、“しめっち屋敷”はこういう感じ、といった場所の説明もあって。もらったメモ書きをまず1つずつ曲にしていったんです。
──最初は絵も見ないで楽曲を作るんですね。
村松 そうです。アトリエにお邪魔させてもらって、描いている最中の絵を見させてもらったりはしていましたけど、まだ絵が完成していない状態で曲を書いていきました。その後、絵ができたらシーンごとにタイム合わせをしていくっていう手順です。ドラマとかってメインテーマを書いてそれをいろんなところで使うって形が多いんですが、今回はそうではなくてシーンごとに僕が感じたことを1つずつ丁寧に曲にしていきました。
Fine On The Outside / プリシラ・アーン スタジオジブリ映画『思い出のマーニー』主題歌
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- プリシラ・アーン ニューシングル「Fine On The Outside」 / 2014年7月2日発売 / 1000円 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ / YCCW-30040
- 「Fine On The Outside」
収録曲
- Fine On The Outside
- This Old House
- Fine On The Outside (original karaoke)
- プリシラ・アーン 歌集アルバム「あなたのことが大すき。」 / 2014年7月16日発売 / 2500円 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ / YCCW-10235
- 「あなたのことが大すき。」
収録曲
- Fine On The Outside
- Deep Inside My Heart
- Pretty Dress
- I See You
- Marnie
- This Old House
- With You
- You're A Star
- Waltzing Memories
- I Am Not Alone
- 村松崇継 サウンドトラック「思い出のマーニー サントラ音楽集」 / 2014年7月16日発売 / 3024円 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ / TKCA-74120
- 「思い出のマーニー サントラ音楽集」
DISC 1(イメージアルバム)
- 大岩さんの家
- 潮の満ち引き
- 杏奈
- マーニー
- 彩香の夢
- 杏奈(ピアノバージョン)
DISC 2(サウンドトラック)
- 「普通の顔」
- 杏奈の旅立ち
- ハガキを出しに
- しめっち屋敷
- 「明かりがついてる!」
- 青い窓の中の少女
- ボートの上でスケッチ
- 少女は立ち上がった!
- 「わたしはわたしのとおり」
- 人形を抱いていた頃
- 「夢じゃないわ!」
- ボートの上の2人
- 質問は3つずつ
- パーティ会場
- 和彦とマーニーのダンス
- 「わたしたちも踊りましょう!」
- トマトを切りながら
- 久子の絵
- 青い日記
- キノコの森
- 2人の告白
- 「入れ変わっちゃったみたい!」
- 杏奈、嵐の中を走る
- 最後のお願い
- 久子の話1
- 久子の話2
- 思い出のマーニー
- Fine On The Outside(歌:プリシラ・アーン)
プリシラ・アーン
アメリカ・ロサンゼルス在住のシンガーソングライター。14歳の頃にギターを手にし、作曲活動を始める。2008年にブルーノートレコードからアルバム「A Good Day」をリリースし、メジャーデビューを果たす。2012年には安田成美の「風の谷のナウシカ」や、くるりの「ばらの花」など日本語曲のカバーを数多く収録したアルバム「ナチュラル・カラーズ」を発表。日本のみならず韓国、台湾、中国といったアジア圏で広くリリースされ、大ヒットを記録した。2014年7月公開のジブリ映画「思い出のマーニー」に主題歌として「Fine On The Outside」を提供。同年7月、映画の歌集アルバム「あなたのことが大すき。」をリリースした。
村松崇継(ムラマツタカツグ)
高校在学中、オリジナルのピアノソロアルバムでデビュー。大学4年時には映画「狗神」の音楽を手がけ、作曲家としても注目を集める。2004年のNHK連続テレビ小説「天花」、2008年公開の映画「クライマーズ・ハイ」の音楽など、これまでに50タイトル以上の映画、テレビドラマ、舞台の音楽を担当している。2014年公開のジブリ映画「思い出のマーニー」の劇伴を担当。同年7月に映画のイメージ曲やサウンドトラックを収録した「思い出のマーニー サントラ音楽集」をリリースした。