スクウェア・エニックスの人気オンラインRPG「ファイナルファンタジーXIV」の公式バンドTHE PRIMALSが、11月17日に7inchアナログ「ENDWALKER」をリリースした。
表題曲は「ファイナルファンタジーXIV」の最新拡張パッケージ「暁月のフィナーレ」の主題歌としてTHE PRIMALSが書き下ろしたナンバー。手練れのメンバーが奏でるロックサウンドが、ゲームへの期待感を煽る1曲だ。
拡張パッケージの発売を控える中、THE PRIMALSのメンバーである「ファイナルファンタジーXIV」サウンドディレクターの祖堅正慶(G, Vo)、GUNN(G)、チリヌルヲワカのイワイエイキチ(B)、SPARKS GO GOのたちばなテツヤ(Dr)、スクウェア・エニックス社員であるマイケル・クリストファー・コージ・フォックスにインタビュー。結成の経緯、メンバー自身も手応えを感じている海外での評価、「ENDWALKER」の制作にまつわるエピソードを語ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 山崎玲士
選りすぐりのおじさんを集めました
──すでに結成から7年が経つバンドではありますが、音楽ナタリーの特集に登場するのは今回が初めてなので、結成の経緯から伺います。どういう経緯で「ファイナルファンタジーXIV」(以下「FFXIV」)の公式バンドTHE PRIMALSが生まれたんでしょうか?
祖堅正慶(G, Vo) 2014年に「ファイナルファンタジーXIV」のファンフェスティバルが初めて海外で開催されることになって、イベントチームからその一環で音楽コンサートを開催したいという打診があったんです。正直なことを言うと、「FFXIV」で使われている楽器構成ならばオーケストラを呼んで生演奏をしてもらうのが最適解なんですが、会場のことなどを考えるとオーケストラによる生演奏は無理がある。イベント側の条件を満たすアプローチとしてロックバンドという選択肢があって、「FFXIV」で使われているロックな曲を集めてバンド構成で実際に演奏したらどうなるかなと思い、声をかけて結成したのがこのTHE PRIMALSなんです。ありがたいことにメンバーチェンジすることなく続いています。まず最初に声をかけたのはGUNNさんでしたよね?
GUNN(G) はい。祖堅くんと僕の共通の知り合いを介してまずお声がかかって。「ゲームの音楽をバンドでやりたいんだ」というのと、「メンバーは全員おじさんでいきたい」と伝えられました(笑)。
祖堅 そうでしたね(笑)。最初からそう言ってたかも。
GUNN それはスキルや経験値も含めて、「ベテランの人でいきたい」という意味だと捉えて。僕以外のメンバーにはまだ声をかけていなかったようなので、人選に関しては任せてもらったんです。諸々の要望を聞いて、「ロックバンドで、技巧派で、おじさんね。いっぱいいるよ!」と思って集めたのがこの面々ですね。
祖堅 選りすぐりのおじさんを集めてもらいました(笑)。
たちばなテツヤ(Dr) 若手の人のような勢いではなくて、シンプルな演奏だけどしっかり表現できる人を求めているのかなと思って、僕は好意的に受け止めました。恐らく普段の演奏を知ってくれてるから声がかかったわけで、やれることをやればオーダーに合うだろうなと。
イワイエイキチ(B) 最初、レコーディングスタジオに行くまで、祖堅くんのことを知らなかったんだよね。ただ「おじさんのバンドマンを集めているらしいから試しに1曲やってみよう」ということで行ってみて、よくよく説明を聞いて「ああ、なるほどこういうことなのね」って。
──最初に声がかかったとき、ここまで長く続くバンドプロジェクトだとは思っていなかったですよね。
たちばな 全然考えてなかったよね。
イワイ バンド単体でZeppツアーをするなんて思いもしなかったよ。
祖堅 最初はそこまで考えていなかったんですけど、何度目かのレコーディングのとき、意見をぶつけ合う瞬間があって。確か「忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~」(2014年発表の楽曲)のレコーディングだったかな。そのとき初めて、メンバー全員が同じ方向を向いてレコーディングすることができたんですよね。僕は高校時代にしかバンドを組んだことがなくて本格的にバンド活動をしたことがない、いわゆるゲーム会社の一社員に過ぎないんですけど、目指しているロックのサウンドとか、自分の好みみたいなものは絶対的に持っていて。最初はお互い様子見してたところに僕が自分の思いをぶつけてみたら、ベテランの方々がちゃんと音でそれを返してくれた。そのときのパワーが半端なくて、「THE PRIMALSというバンドが固まったな」と実感したんです。
英語チェック、作詞、ボーカル担当
──メンバーのうち、コージさんはスクウェア・エニックスの社員でもありますし、どちらかというと祖堅さんに近い立ち位置ですよね。
マイケル・クリストファー・コージ・フォックス(Vo) 今はバンドで歌わせてもらっていますけど、学生時代に組んでいたバンドではボーカルじゃなくてずっとドラマーだったんですよ。それも学生の頃だけで、会社に入ってからは音楽から離れた人生を歩んでいました。「FFXIV」の仕事でも祖堅さんのようなサウンドクリエイトの業務ではなく、テキストの翻訳業務が主なものだから、まさか自分が歌うことになるなんて思いもよらなくて。
祖堅 僕の仕事で最初にコージに歌ってもらったのは「FFXIV」とは別の仕事で。そのときは初めにボーカルの英語チェックを彼にしてもらってたんですよ。
コージ 英語チェックのためにスタジオに行って、業務を終えたら「コージも歌ってみない?」と言われたんです(笑)。「え? 歌なんて全然歌ったことないですよ」と言ったら「大丈夫。機械の力でなんとかするから!」と言われて、参加したのが祖堅さんと初めてした歌の仕事ですね。そこからズルズルと祖堅さんの仕事を請け負うようになって……。
祖堅 コージには英語の発音チェックのような業務だけではなくて、ボーカル付きの楽曲の歌詞を書いてもらっていたんです。制作中のまだ歌う人が決まっていない楽曲をコージに歌ってもらうこともあって、気付いたらライブのステージに立ってもらうことになってた(笑)。
コージ ステージに立ったことなんてなくて、人前で歌うのもカラオケぐらいだから最初は本当に緊張しました。歌い方とかノリ方とか、「本当にこれで大丈夫ですか?」みたいな感じだったんですが、GUNNさんをはじめとしたバンドメンバーの方がちゃんとステージで締まるように導いてくれるんです。それを繰り返しているうちに、いつの間にかシンガーみたいな立ち位置になっていました。
祖堅 ステージに立ったことがないというのは僕も同じで、まさか1万人以上の前で演奏するようなことになるとは僕も思ってなかったよ。いまだに戸惑いがあるよね?
コージ ありますね。
──バンドメンバーを探すにあたって、GUNNさん、イワイさん、たちばなさんという外部の方に声をかけているわけですから、ボーカルもどこかのバンドの方に声をかけてもよかったわけですよね。そこでコージさんに白羽の矢が立ったのはなぜだったんですか?
祖堅 昔から息が合うというか、細かい説明をしなくてもイメージ通りの歌詞を書いてくれるところに、彼の天性のものを感じていたんです。韻の踏み方とか、言葉選びのセンスに彼がこれまで聴いてきたロックの歴史がにじみ出ていたし、こちらが求めていたニュアンスを汲み取った歌詞を書いてくれるものだから、これなら本人に歌ってもらうのが一番いいなと思って。歌詞を書くのも歌うのも同じスタッフだとけっこうな速さで作業が進むんですよ。なので、悪い言い方をすると、めちゃくちゃ便利な男なんですよね(笑)。
コージ (笑)。
──翻訳担当のスタッフであるコージさんに、音楽的な歌詞を作る才能が備わっているといち早く目を付けていたということですよね。
祖堅 本当にその通りなんですよ。日本の文化も、海外の文化も知っていて、なおかつゲームとロックの文化を知っているスタッフなんてなかなかいない。本人を目の前にして言うのは恥ずかしいけど、彼はローカライズスタッフとしてだけじゃなくて、アーティスト的な才能を持った天才だと思います。
コージ ありがとうございます!
同じ体験をしているからこその一体感
──海外で行われたファンフェスティバルでの演奏やZeppツアーなど、THE PRIMALSとしてさまざまな活動がこの7年の間にありましたが、印象に残っていることはなんですか?
たちばな 「FFXIV」のプレイヤーやTHE PRIMALSのファンが日本だけじゃなくて世界中にいるということに驚いたし、ファンの熱量の高さには驚かされたかな。ライブが始まる前に地鳴りがするんですよ。
祖堅 よく「この曲を聴くと当時のことを思い出す」みたいなことがあるじゃないですか。音楽を聴いて思い出す記憶や風景って、たいていはそれぞれのリスナーのものに紐付いていると思うんです。でもゲーム音楽の場合、ある一定のシチュエーションで必ずその音楽が鳴るわけなので、それぞれが思い出すゲーム体験がほぼ同じなんです。ようやくたどり着いたボス戦のBGMだったり、特定の曲が鳴っているときに繰り出される強力な技だったり、皆さん同じ景色を共有しているからこそ、ライブのときの一体感がすさまじくて。しかもこの体験において言語は関係ないですから、海外の方も日本の方も一緒になって同じく盛り上がれるんです。これはゲーム音楽ならではのことだと思います。
GUNN 最初に祖堅くんに言われたのが、「THE PRIMALSのライブは僕らが主役ではなくて、ゲームを体験してきたみんなが主役」ということだったんですよね。最初はどういうことかわからなかったけど、実際にライブをやってみたら「なるほど」と思いました。僕らはみんなの記憶やゲームへの思いに、もう一度火を点ける役割なんです。それをバンドでやるということが新鮮でした。
たちばな それとプレイヤーの中には、ロックのライブを観に来たことがない人が多いみたいで。そこはびっくりしたかな。すごく盛り上がってるのに、実は「初めてライブに参加しました」みたいな人がいて。海外でもそういうケースはあるみたいです。
GUNN 僕らも最初はライブハウスでツアーをやるのがちょっと不安だったんですよ。「棒立ちだったらどうしよう」とか。でも演奏が始まってみたらなんの心配もいらなかった(笑)。
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原曲では弾くことを考えていない