ナタリー PowerPush - Prague
本領発揮の2ndアルバム「明け方のメタファー」
腹の奥で静かに沸き起こる力で作った
──鈴木さんの書く歌詞は、情景描写の言葉になっているわけですよね。そして演奏もそれを伝えるようなものになっている。そういう楽曲を書こうと思った動機は?
鈴木 ひとつひとつの楽曲をより濃くしたいと思ってたんです。雰囲気や風景が、音を聴いただけでもわかるような作りにしたいと思っていたので。だから曲と歌詞も同時進行だったし。1曲1曲を大切に作るというのが最初ですね。
──僕が思ったのは、このアルバムの歌詞は、歌謡曲の歌詞だと思うんですよ。
鈴木 ああ、言われます。最近。
──自分の思いを綴るのではなく、メッセージを伝えるわけでなく、そこから感情を引き出すための情景描写であるという。
鈴木 そのことは意識してました。説明するのが下手くそな、不器用な人間だし、自分の感情を理屈で言葉にするのが苦手だったので。自分の見える環境とか、自分を囲む世の中で表現したくなってしまうんですよね。それによってわかる感情のほうがより深いと思うし。僕が「明け方」をモチーフにして曲を作っても、聴く側は僕とは違う「明け方」を感じるじゃないですか。僕が1つの感情を決めつけてそれを言うよりも、そのほうが素直な感情に気付いてもらえると思うので。
──で、興味深いのは「花束」と「バランスドール」とこのアルバムでは、描かれている感情の主題が違うことなんです。このアルバムにも「花束」に収められた「サーカスライフ」と「バランスドール」は収録されていて。その2曲には同じものを感じるんですよね。それはいわば「どうやってバランスをとるか」というような、ある種の不安感や焦燥感。でも、このアルバムはそのトーンでまとまってはいない。そこから「夜明け」への飛距離がある。そういう意味でアルバムの世界観を引き寄せた何かがあったんじゃないかと思ったんですけど。
鈴木 「バランスドール」を歌ったことによって、そこまでのPragueは完結したと思います。そこから新たな扉をいくつか開けたんですよね。それによって見えてくる景色も違うし、自分たちの持っている力をどう表現するのかという考え方も変わっていったと思うんです。アルバム曲を作っていく過程も、静かな力というか。何かにあがいたりもがいたりするのではなく、落ち着いた、腹の奥で静かに沸き起こる力で作っていったような感じがあった。ぶつかり合うとかではなく、ちゃんと、いいものにしようと詰めていったという。
──その感覚は共有してます?
伊東 力んでなかったのは確かですね。無理矢理にでもいいものを作ろうというところから、いい塩梅で力が抜けていった。3人でディスカッションできたし。3人で曲を作ってる感覚が強かったですね。この3人でPragueなんだと。
金野 歌詞に関して変わったとは感じます。それはバンドの姿勢として一番変わったところだと思っていて。今までは自信がなかったと思うんです。「こう思っている」と言い切る自信と責任感がなかったというか。でも、その責任をちゃんととろうと思えるようになったんじゃないかな。「時の鐘」の「どこまでも行けそうだよ 君となら」とか、誰かと結びつこうとしている感覚も出てきたし。きっかけはよくわからないですけれど、何かの危機感があったのか、「今やんなきゃ」って思ったのか……。まあ「明日死ぬかもわかんない」って思ったのは確かですね。そこのきっかけに関して話し始めると重くなりそうなんですけど……。
──「太陽と少年」という曲は、今語ってもらったようなことがそのまま曲になってると思うんです。今の自分が感じている感覚は自分以外のたくさんの人に当てはまるものだし、通じ合えるものだという。
鈴木 いや、逆に僕には今の時代の人達が僕と同じ気持ちでいるという自信は全くないですね。もしそう思ったとしたら、それは自信じゃなくて、驕りとか勘違いになってしまう。「バランスドール」で歌ってるようなことになってしまうし、それは嫌だなと思うんです。誰かの気持ちを代弁するんじゃなくて、あくまで自分は自分の思ったことを主張する。その姿勢を感じ取ってもらうことによって、新たな道が開けばいいと思っているので。「みんなの気持ちはわからん!」という(笑)。だからこそ、それがわかるように努力した書き方になってると思うんです。できた歌詞は結果論だったんですけど、ちゃんと意義のあるものを作らないと、Pragueとしてもったいないと思ったのは確かですね。
何も迷う必要はなかった
──そもそもPragueというバンドって、いきなりメジャーデビューしているんですよね。インディーズでこういうシーンから出てきたとか、こういう同世代バンドとのつながりがあったというわけではなく、いきなりメジャーの土台に乗った。それはいいことでもあったけれど、逆に言うと、このバンドのアイデンティティはなんなのか、意義はなんなのかということを、衆人環視の元で探ってきたんじゃないかと思うんです。そういう実感はありますか?
金野 それはありますよ、大いに(笑)。それこそインディーズでチケットをソールドアウトさせたとか、自主制作盤で何千枚売ったとか、そういう実績は何もなくて。事務所に所属したこともなかったし、土台がなかった分、なんでも言われることを信じてた。何かを言われるたびにそれをやろうと思ってたんですよね。デビューしてからバンドが始まったようなものだったんで、特殊な経験をいろいろできたと思います。でも今は、最初に持っていたアイデンティティが間違っていなかったというのを、一周して気付くことができた。自信を持って胸を張って言い続けることが一番だし、何も迷う必要はなかったと思う。それをいい形で作品にできたと思うんです。だから今はすごく充実してますね。
──このバンドはカテゴライズできないですからね。「○○系」と言えない。
鈴木 昔っからそうですね。
金野 意義とか意味って、そういうことだと思うんです。2011年現在に音楽をやる意味ってこれしかないと思う。カテゴライズできないということが正当な意味のあることだと思ってる人が集まってるバンドなので。
──そしてアルバムをリリースした後には、ようやく初のツアー「鳴らせ時の鐘」を実施するわけですけれども。むしろ、今までツアーをやってなかったことが意外でした。
鈴木 それ、よく言われるんですよ。今まではライブができればよかったんです。単純に演奏できる場があればうれしかった。でも、「明け方のメタファー」という作品ができて、初めてみんなに伝えるものができたから、ツアーを回るしかないと思った。今までが本当に無邪気だったのかな。「何かを届けにいこう」と思える作品ができたんで、今は、全国に演奏を届けにいくのを楽しみですね。
Prague(ぷらは)
鈴木雄太(Vo, G)、伊東賢佑(Dr)、金野倫仁(B)による関東出身のスリーピースバンド。同じ高校で3年間同じクラス、軽音楽部、プライベートも一緒にいた腐れ縁の鈴木雄太と伊東賢佑の2人が、同じ音楽専門学校に進み、2006年に金野倫仁と出会って結成。自主制作盤を2枚出したところでレコード会社の目にとまる。2009年9月9日シングル「Slow Down」でキューンレコードよりメジャーデビュー。2010年7月には1stアルバム「Perspective」をリリースし、2011年5月には初のミニアルバム「花束」を発表した。同年8月リリースのシングル「バランスドール」はTVアニメ「銀魂」のエンディングテーマに起用され、大きな話題を集めた。10月には2ndアルバム「明け方のメタファー」を発売し、11月より初の全国ツアーを開催する。